盗撮は時効で逃げ切れる?現行犯以外で逮捕するのは難しい?
刑事事件には、犯罪行為から一定期間経過すると、刑事裁判で裁くことができなくなる公訴時効があります。
盗撮の時効は適用される罪名によって異なりますが、多くの場合、3年となっています。
時効を待って何とか逃げ切れないかと不安を抱く人もいるでしょう。
しかし、盗撮行為を繰り返せば逮捕のリスクは増大し、発覚した場合には深刻な結果を招きます。
さらに、時効を迎えるまでの間は、警察が自宅を訪ねて家族の前で逮捕されるのではないか、あるいは会社に知られるのではないかという不安にさいなまれながら過ごすことになります。
盗撮の時効について不安がある場合は、弁護士に相談し、適切な対応をとります。不安な日常から早く抜け出すことができます。
この記事では、盗撮の時効について解説します。
目次
盗撮行為で適用される罪と時効
刑事事件における時効とは、検察が裁判所に対して被疑者を裁くように訴えることができる期限のことです。
これは公訴時効と呼ばれ、刑法にもとづき罪名ごとに期間が定められています。
盗撮行為の場合、時効は3年であるケースが多いです。
第二百五十条
中略
②時効は、人を死亡させた罪であつて禁錮以上の刑に当たるもの以外の罪については、次に掲げる期間を経過することによつて完成する。
中略
五長期十年未満の懲役又は禁錮に当たる罪については五年
六長期五年未満の懲役若しくは禁錮又は罰金に当たる罪については三年
七拘留又は科料に当たる罪については一年
ここでは、盗撮行為で適用された罪別の時効と罰則を解説します。
撮影罪|時効3年
盗撮行為で適用される可能性があるのは、2023年から施行された撮影罪(性的姿態撮影等処罰法)です。
撮影罪では、以下の行為を禁止しており、罰則もそれぞれ異なります。
禁止行為 | 罰則 | 時効 |
撮影罪・提供罪・記録罪 | 3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金 | 3年 |
提供罪・送信罪 | 不特定多数に対する提供・送信:5年以下の拘禁刑または500万円以下の罰金 | 5年 |
保管罪 | 2年以下の拘禁刑または200万円以下の罰金 | 3年 |
撮影、提供、記録、保管の時効は3年ですが、不特定多数への提供や送信の時効は5年です。
迷惑防止条例違反|時効3年
迷惑防止条例でも盗撮行為を禁止しています。ただし、各都道府県によって条例内容や罰則に若干の違いがあります。
例えば、東京都では以下の行為を禁止しています。
禁止行為 | 罰則 | 時効 |
盗撮 | 1年以下の懲役または100万円以下の罰金 | 3年 |
常習的な盗撮 | 2年以下の懲役または100万円以下の罰金 | |
カメラの差し向けや設置・卑わいな言動 | 6か月以下の懲役または50万円以下の罰金 |
東京都の場合は以下の公共の場所での盗撮を対象としています。
- 住居、トイレ、浴場、更衣室、または人が通常衣服を着けない状態でいるような場所
- 公共の場所、公共の乗物、学校、事務所、タクシー、その他不特定または多数の者が利用する場所や乗物
参考:公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例 – 東京都例規集
盗撮といえばスカート内の盗撮を連想するかもしれません。
しかし、判例では衣類越しに女性の臀部を至近距離で撮影した事案について、条例の卑わいな言動に該当するとして有罪判決が下されています。
東京都の迷惑防止条例違反の時効は、いずれも3年です。
住居侵入・建造物侵入罪|時効3年
盗撮を目的として建物のトイレ(公園、会社、学校など)に侵入しカメラを設置した場合、盗撮罪に加えて建造物侵入罪が成立する可能性があります。
(住居侵入等)
第百三十条正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入し、又は要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった者は、三年以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。
住居侵入罪の罰則は3年以下の懲役または10万円以下の罰金であり、時効は3年です。
児童ポルノ禁止法違反|時効3年
18歳未満の児童の裸や性器を盗撮した場合、児童ポルノ規制法違反が適用される可能性があります。
児童ポルノ規制法で禁止している行為と罰則、時効は以下のとおりです。
禁止行為 | 罰則 | 時効 |
所持・保管 | 1年以下の懲役または100万円以下の罰金 | 3年 |
提供・提供目的の製造・保管 | 3年以下の懲役または300万円以下の罰金 | |
不特定多数への提供・陳列 | 5年以下の懲役または500万円以下の罰金 | 5年 |
所持、保管、提供目的の製造や保管の時効は3年ですが、不特定多数への提供や公然と陳列する行為の時効は5年です。
軽犯罪法違反|時効1年
軽犯罪法とは、社会秩序維持のため、軽微な違法行為を取り締まる法律です。
この法律では、正当な理由なく、人の住居や浴場、更衣室、トイレ、その他衣服をつけない場所での盗撮やのぞき見を禁止しています。
迷惑防止条例の対処となる公共の場での盗撮や他人が管理する建物へ侵入に加えて、他人の家を覗き見て盗撮を行った場合にも、軽犯罪法違反が適用される可能性があります。
罰則は拘留(1日以上30日未満の拘束)または科料(1,000円以上1万円未満の罰金)で、時効は1年です。
盗撮の時効とは
ここまで盗撮行為の時効を解説しましたが、時効のカウントが開始される起算点はいつになるのでしょうか。
他にも、時効が停止する場合や、刑法上の時効とは別に、民法上の時効も存在します。
ここでは時効そのものについて解説します。
盗撮の時効の起算点
時効のカウントが開始される時点を起算点と言います。公訴時効の起算点は刑事訴訟法によって、犯罪行為が終わった時から進行すると定められています。
第二百五十三条時効は、犯罪行為が終つた時から進行する。
したがって、盗撮の時効の起算点は、盗撮行為が終了した時点と考えられます。
盗撮の公訴時効が停止するケース
公訴時効は、特定の条件下で時効が停止することがあります。以下のケースが該当します。
- 起訴された場合
- 共犯者を起訴した場合
- 犯人が国外にいた場合
- 犯人が逃亡しており、起訴状の謄本の送達や告知ができない場合
公訴時効が成立する前に検察が起訴すれば、その時点で公訴時効の進行は停止します。
同様に、犯人が海外赴任や旅行などで海外にいた期間も、公訴時効は進行しません。
盗撮の民事事件の時効
生活をする上でのトラブルを規定している民法では、故意や過失により、他人の権利を侵害した場合、加害者は生じた損害の賠償責任を負います(民法709条、710条)。
人の性的な姿を盗撮する行為は、民法上の不法行為に該当します。被害者は精神的苦痛に対する損害賠償請求が可能です。
この請求権の時効は、損害及び加害者を知った時から3年で、刑事事件と起算点が異なります。
例えば、盗撮行為の現行犯逮捕があれば、その時点で被害者は損害や加害者を認識するため、そこから3年間は損害賠償請求が可能です。
一方、被害者が被害や加害者を認識しなかった場合でも、逮捕や警察の捜査によって被害や加害者が判明した時点から時効が進行します。
なお、盗撮行為に適用される罪の種類に関わらず、民法上の時効は3年です。
刑事事件で無罪判決が下された場合でも、民事裁判で賠償命令が下されるケースがあります。
盗撮は現行犯以外で逮捕するのは難しい?
盗撮は現行犯以外で逮捕されないと考える人もいるかもしれません。
確かに、盗撮で逮捕されるケースは現行犯逮捕が多いです。後日逮捕される確率については統計が公表されていないため、実態は不明です。
しかし、後日逮捕される可能性はゼロではありません。実際以下のようなケースで後日逮捕が行われることがあります。
- 被害者が被害を訴えたり、同じ場所で同様の盗撮被害の訴えがあったりした場合に、盗撮現場周辺の防犯カメラから盗撮が発覚する、もしくは盗撮機器が発見される
- 別の事件で逮捕された犯人のスマホやPCから盗撮データが見つかる
- 被害者や第三者の目撃証言をもとに捜査が行われ、身元が特定される など
以上のように、盗撮が後日発覚するケースもあるため、現行犯以外での逮捕も十分にあり得ます。
盗撮の時効で逃げ切れない理由
同様に、盗撮の時効で逃げ切るのは、以下の理由で難しいと言えます。
- 盗撮を繰り返せば逮捕される
- 防犯カメラや盗撮機器から後日逮捕される
- 前科前歴から特定される
- 警察は削除したデータの復元ができる
盗撮を繰り返せば逮捕される
盗撮の時効で逃げ切れない理由は、盗撮を繰り返せばその分逮捕される可能性が高まるためです。
一度の盗撮であれば逃げ切れる場合もあるかもしれません。しかし、盗撮などの犯罪は、一度成功するとそれに味を占め、繰り返す傾向があります。
盗撮でもっとも発覚しやすいのは現行犯逮捕です。そのため、盗撮行為を繰り返すほど被害者に気づかれる確率が上がり、逮捕のリスクも高まります。
さらに、盗撮を繰り返す場合、一度目の盗撮が時効を迎えても、別の盗撮の時効が新たに始まります。
結果として、繰り返し行うほど罪が増え、逮捕される可能性がより高くなるでしょう。
防犯カメラや盗撮機器から後日逮捕される
被害届が受理され、警察が捜査を進めることで、防犯カメラや盗撮機器の映像を元に後日逮捕されるケースもあります。
駅構内やショッピングモール、公共施設などの多くに防犯カメラが設置されており、近年はその解像度も大幅に向上しています。
このため、防犯カメラの映像から犯人の特定が可能です。
さらに、トイレや更衣室などに盗撮機器を設置した場合、利用者に気づかれることもあります。
盗撮機器には犯人の姿が記録されていることが多く、その映像が証拠となり逮捕に繋がることもあります。
前科前歴から特定される
警察の捜査対象となった前歴や有罪を受けた前科は、警察の記録に残されています。
盗撮機器から指紋が検出された場合、DNAや前科者リストを照合することで犯人が特定されることになるでしょう。
警察は削除したデータの復元ができる
事件に関与した疑いがある場合、警察に携帯電話やPCを押収し、データの分析を行うことがあります。
警察は、最新技術を持つ民間企業や研究機関と連携して、デジタル・フォレンジックという手法で電子機器から削除された記録を復元できます。
過去には、水没したハードディスクからデータを抽出した例もあります。
たとえ時効直前の犯罪行為でも、削除した画像や動画が復元されれば、それをもとに捜査や起訴される可能性があります。
このように、防犯カメラや盗撮機器、前科前歴の記録、デジタルデータの復元技術などを活用する警察の捜査手法によって、盗撮の時効で逃げ切ることは非常に困難だと言えるでしょう。
盗撮が発覚した場合のリスク
盗撮が発覚すると、想像しているようなリスクが生じます。以下では、盗撮発覚による具体的なリスクについて解説します。
実名報道で社会的な信用を失う
盗撮が発覚し、逮捕や捜査対象となった場合、メディアの実名報道により社会的信用を失うおそれがあります。
実名報道の基準は公表されていませんが、以下のケースで実名報道される可能性があります。
- 殺人・殺傷などの重大な事件
- 詐欺など社会的な関心が高い事件
- 有名企業在籍や公務員、著名人など社会的地位の高い人の事件
盗撮の場合、軽微な事案であっても、加害者が有名企業の社員や公務員であれば実名報道されるリスクがあります。
一度報道されると、ネットニュースで拡散される可能性もあります。

逮捕されて10~20日間拘束される
盗撮で逮捕された場合、逃亡や証拠隠滅のおそれがあると判断されると、10~20日間にわたり警察の留置場に身柄を拘束されます(勾留)。
勾留期間中に、検察が起訴か不起訴か判断しますが、その間は出社や登校ができません。
携帯電話も没収され、外部との連絡は完全に断たれるため、会社や学校に隠し通すのは難しいでしょう。
逮捕された段階では推定無罪であるため、基本的には即座に解雇されることはありません。
ただし、会社内での盗撮行為であれば、懲戒解雇される可能性があります。会社への信用が失墜して損害が発生した場合も同様です。
罰金刑でも前科がつく
盗撮の場合、起訴されても罰金刑となる場合があります。しかし、罰金刑であっても有罪判決が下れば前科がつきます。
前科がつくと、海外渡航の制限で海外出張ができなくなったり、再度罪を犯した場合に重い処分が下されたりするデメリットがあります。
仕事を失う
公務員などは禁錮刑以上に処されると、執行猶予がついても欠格事由となり失職します。
医師など資格職の場合、資格によっては一定期間その仕事に就けなくなります。
家族の信用を失う
盗撮で逮捕された事実が家族に知られると、家族の信用まで失うおそれがあります。
場合によっては、パートナーから離婚を突きつけられる可能性もあります。
盗撮や痴漢の場合は、逮捕された事実だけで離婚が認められるわけではありません。
しかし、犯行の内容が悪質であったり、繰り返し盗撮を行っていたりする場合、離婚が認められるケースもあります。
パートナーだけでなく、子どもを傷つけることにもなります。
盗撮で弁護士に相談するメリット
盗撮の時効は多くの場合3年とされています。盗撮行為に悩んでいる人ややめられない人は、罪が発覚する恐怖に苛まれているかもしれません。
何度も盗撮を行えば、いずれ罪が発覚し、逮捕されるおそれがあります。
盗撮が明るみに出る日を恐れ、警察が突然自宅を訪れるかもしれないという不安を抱えた生活を送り続けることになります。
逮捕の恐怖に怯える毎日を過ごすのであれば、一度弁護士に相談してみませんか。ここでは、盗撮で弁護士に相談するメリットを紹介します。
精神的な負担が軽減できる
盗撮について誰にも話せず、一人で抱え込むことは非常に不安で苦しい状況です。
弁護士に正直に打ち明けることで、精神的な負担が軽減できるでしょう。弁護士には守秘義務があるため、相談内容を漏らすことはありません。
弁護士と話すことで量刑の見通しを確認でき、重い処分を避けるための具体的なアドバイスを受けることができます。
刑事事件の実績がある弁護士に相談することで、的確な見通しや対策を講じられる点も大きなメリットです。
適切なサポートを受ければ前科が避けられる
逮捕を免れたとしても、在宅で捜査が継続し、最終的に在宅起訴されることもあります。
しかし、適切なサポートを受けることで不起訴を得て、前科を避けられる可能性があります。
例えば、警察が捜査を開始する前に示談が成立すれば、被害届の提出や刑事告訴が行われず、事件化せずに済むこともあります。
早期に弁護士のサポートを受けることで、不起訴の獲得や前科回避につながります。

自首することで突然の逮捕が回避できることも
場合によっては、自首することで突然の逮捕を避けられる可能性があります。
自首とは、犯行が発覚する前に自ら警察などに出向き、罪を申告することです。
自首することで、量刑判断に考慮され、罪が減軽される可能性があります。
(自首等)
第四十二条罪を犯した者が捜査機関に発覚する前に自首したときは、その刑を減軽することができる。
さらに、自ら罪を申告することで、逃亡や証拠隠滅のおそれがないと判断され、家族の目の前で逮捕されて家族に知られることや、会社に知られるリスクも軽減できます。
弁護士に相談することで、自首に同行してもらえます。他にも、取り調べへのアドバイス、不当な取り調べの防止、その後のサポートまで安心して任せることができます。
盗撮行為をやめるキッカケになる
弁護士に相談することで、盗撮行為をやめるキッカケになることもあります。
自分の力だけでは盗撮がやめられない場合でも、弁護士と共に自首や示談を行うことで、事件の重大性を認識し、盗撮をやめようとする意思が働くことが期待できます。
盗撮行為がやめられない背景に依存症があるケースもあります。
弁護士の紹介で依存症の治療を受けられる可能性もあります。専門的なサポートを受けることで、根本的な問題の解決につながるでしょう。
まとめ
盗撮行為の時効は3年である場合が多いです。静かに日常を過ごせば、発覚しないだろうと考える人もいるかもしれません。
しかし、街中には多くの防犯カメラが設置されており、どのような経緯で盗撮が発覚するかは予測できません。
時効を待つ間に不安が募り、精神的に不安定になる可能性もあります。
盗撮行為を継続した先にあるのは、社会的な信用の失墜、解雇、家族の信頼を失うといった深刻な結果です。
すべてを失ってから後悔をしても、取り返しがつきません。
自分では対処できないと感じた場合は、信頼できる弁護士に相談し、一緒に解決方法を探りましょう。
当事務所では盗撮のご相談を多数いただき、豊富な実績があります。一人で悩んでいても不安は解消されません。
どうか一人で抱え込まずに、ぜひご相談ください。