口座売買とは|口座を売ると逮捕?口座売買をした場合の対処法
近年SNS上で、口座を契約して売却するバイトや、口座を高額で買い取るといった募集が行われています。しかし、口座の売買は犯罪行為です。
知らずに口座を売却すると、罪に問われたり、口座の凍結や新規の開設ができなくなったりするリスクがあります。
この記事では、口座の売買について以下の点を解説します。
- 口座売買とは・口座売買で問われる罪と時効
- 口座売買で逮捕される流れや口座売買の末路
- 口座売買をした場合にすべきこと
口座売買とは
口座を第三者に利用させること
口座売買とは、銀行口座を売買し、第三者に利用させることです。
具体的には、以下のような行為が、口座を第三者に利用させる行為として禁止されてます。
- 銀行口座の売却や購入、他人への譲渡、銀行口座のレンタル
- 自分や他人名義のキャッシュカードや通帳を売買、譲受する行為
- ネットバンキングのログインIDやパスワードの情報を売買、譲受する行為
- 他人に利用させる目的で口座を開設する
- 他人や架空の名義で口座を開設する
- 他人名義の口座から、現金を引き出す
参考:口座の売買・譲渡し(譲受け)は犯罪です。 – 大阪府警察
全国銀行協会の調査によると、口座の不正利用による利用停止や強制解約の件数は、2016年の5万5,838件から2022年には7万5,621件と増加しています。
口座売買が行われる目的
口座を買い取る側の目的は、犯罪行為への利用です。
例えば、振り込め詐欺の振込先や、犯罪行為で得たお金を、一度口座に入れて犯罪の痕跡を消す(マネーロンダリング)ために利用されます。
犯罪者は、高額で口座を買い取り、詐欺などを行った後、他人名義の口座にお金を振り込ませることで、自身の足取りを隠しながら利益を得ます。
口座売買の手口
近年よくある口座売買の手口は、以下のとおりです。
- SNSなどで簡単なアルバイトとして口座売買を持ちかける
- 月〇万円など口座レンタルとして、貸したい人を募集する
- 闇金の借金の担保として口座の受け渡しを要求される
こうした内容に応募すると、以下の流れで口座が悪用されます。
- SNSなどのDMで口座の開設、指定住所に通帳とキャッシュカードを送るように指示
- 指定住所に通帳とキャッシュカードが届くと、売主に代金が送金
- 売却した口座が、振り込め詐欺やマネーロンダリングに利用される
- 売却した口座や自分名義の口座が凍結される
- 口座売買により捜査や逮捕が行われる
口座売買で問われる罪と時効
口座を売買すると、以下の罪に問われる可能性があります。
犯罪収益移転防止法違反 | 自分や他人名義の通帳・キャッシュカードを譲受する行為 |
ネットバンキングのログインID・パスワードを譲受する行為 | |
詐欺罪 | 他人に利用させる目的で口座を開設する行為 |
他人や架空の名義で口座を開設する行為 | |
窃盗罪 | 他人名義の口座から、現金を引き出す行為 |
詳しく解説します。
犯罪収益移転防止法違反
犯罪収益移転防止法違反とは、マネーロンダリングなどにより、反社会的勢力や犯罪組織、テロリストに資金が流入することを防止するための法律です。
犯罪で得たお金を、金融機関を利用して別の犯罪者に譲渡できないようにするために定められました。
口座の譲受については、以下の行為が禁止されています。
行為 | 罰則 | 公訴時効 |
口座売買 | 1年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金、または併科 | 3年 |
口座売買の勧誘や広告などの方法で人を誘引した場合 | ||
口座売買を生業として行っている場合 | 3年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金、または併科 |
前述のとおり、口座売買は、以下の行為が当てはまります。
- 犯罪によって得られるお金の振り込みや差し替えを目的として、他人名義の口座を購入する
- 購入者の犯罪目的を知りながら、自分や他人名義の口座を売る
口座の売買として、預貯金通帳やキャッシュカードを送ったり、暗証番号やネットバンキングにログインできる情報を渡す行為が禁止されています。
なお、公訴時効とは、検挙された人物を、刑事裁判に訴えることができる期限のことです。
詐欺罪
詐欺罪は、人を騙して財物を交付させた場合に成立する犯罪です(刑法第246条)。
銀行側は、開設者本人が利用することを前提に契約を結びます。
これに対して、給料の振込先として使う、公共料金の引き落としに使うなど、虚偽の理由で口座を開設し、キャッシュカードを受け取ると、詐欺罪が成立します。
詐欺罪の罰則は10年以下の懲役です。罰金刑はないため、非常に重い処分が下される可能性があります。詐欺罪の公訴時効は7年です。

窃盗罪
窃盗罪は、他人の財物を盗んだ場合に成立する犯罪です(刑法第235条)。
銀行口座の売買を行い、他人の口座に振り込まれたお金を引き出せば、窃盗罪が成立する可能性があります。
窃盗罪の罰則は、10年以下の懲役、または50万円以下の罰金です。公訴時効は7年です。
口座売買で逮捕される場合の流れ
口座売買で逮捕されるまでと、された後の流れを解説します。
銀行口座が凍結される
売却した銀行口座が振込詐欺などの犯罪に利用された場合、その銀行口座は凍結されます。
これは、口座の利用を止め、被害者が振り込んだお金を返還するためです(振り込め詐欺救済法第3条)。
オレオレ詐欺などの特殊詐欺や、架空請求詐欺、還付金詐欺、闇金被害などで振込先となった口座が対象となります。
なお、金融庁によれば、資金が移された疑いがあると金融機関が判断した口座も、凍結される可能性があります。
他の金融機関にも情報が共有されるため、売却した口座以外の自分が生活に使用している別の銀行口座も凍結されるおそれがあります。
金融機関から連絡が来る
口座が凍結されると、金融機関から連絡がきます。これは、口座凍結の連絡と、口座の名義人が、口座を犯罪に利用したか、確認するためです。
心当たりがなければ、凍結解除される可能性もありますが、実際には警察の捜査が終わるまで、凍結が解除されることはありません。
前述のとおり、犯罪に利用された口座はもちろん、それ以外の銀行口座も凍結されて、利用できなくなる可能性が高いです。
警察から連絡が来る・逮捕される
口座凍結の連絡が来る前後で、警察から連絡が来ることがあります。
これは、警察が金融機関や犯罪被害者からの通報により、捜査を進めているためです。
警察は逃亡や証拠隠滅のおそれがあると判断すれば、疑わしい人物を逮捕します(刑事訴訟法第199条、刑事訴訟規則第143条の3)。
以下のような場合は、逃亡や証拠隠滅のおそれがあると判断され、突然逮捕される可能性があります。
- 無職・職業不詳などでいつでも逃亡ができる
- 前科前歴がある、過去に同種(口座売買)などを行っていた
- 警察からの連絡を無視、出頭要請を拒否している
- 口座売買以外にも、犯罪に関与していることが発覚した
- 売却した口座が、巨額の詐欺事件に使用された
- 第三者にも口座売買を勧誘していた など
一方、定職に就いており、警察の事情聴取に協力的であれば、逮捕されないことも考えられます。
逮捕後最大23日間勾留される
口座売買で逮捕されると、逮捕から最大で23日間身柄拘束を受ける場合があります(勾留)。
逮捕された容疑者(被疑者)は取り調べを受け、事件は検察に引き継がれます。
その後、逃亡や証拠隠滅のおそれがあると判断されれば、10~20日間、警察の留置場に勾留されることになります。
逮捕から数えれば、13~12日勾留されることになります。
この間、会社や学校に通うことはできないため、逮捕の事実が明るみになる可能性もあります。
この勾留の間に、検察は刑事裁判で訴える(起訴)かどうか判断します。
刑事裁判で有罪となり前科がつく
捜査の結果、口座売買が事実で、刑罰を科すべきだと判断されれば、起訴されて公開の裁判で裁かれることになります。
なお、2023年の司法統計によると、地方裁判所で行われた第一審の有罪率は99.8%です。
そのため、起訴されれば高確率で有罪判決が下され、前科がつきます。
口座売買をした人の末路
お金がほしいからと、気軽に口座を売買してしまうと、以下のような末路を辿ることになります。
- 報酬が振り込まれない可能性がある
- 犯罪組織に個人情報が漏れて脅迫される
- 刑事処分により退学や解雇になる
- 口座が作れなくなる
- 損害賠償請求を受ける
ここでは、口座売買をした人の末路やリスクについて解説します。
報酬が受け取れない可能性がある
口座売買を持ちかけてくる相手は犯罪組織です。
そのため、高額な報酬に釣られて、通帳やキャッシュカードを渡しても、相手が報酬を振り込む確証はありません。
報酬が振り込まれないことも十分考えられます。
売却した口座が犯罪に使用されれば、売却した口座と共に自分が生活で利用している口座も凍結されて、報酬が引き出せなくなる可能性があります。
犯罪組織に個人情報が漏れて脅迫される
同様に、犯罪組織に口座を売却するということは、相手に自分の個人情報を知られることになります。
売買の際に、氏名や住所が知られれば、自分の家族や口座売買という犯罪に加担したことをもとに脅迫されて、他の犯罪行為を強要される危険性があります。
これは闇バイトで強盗に加担するケースと同じです。闇バイトで個人情報を知られた人は、家族に危害を加えるなど脅迫を受けて、犯罪から抜け出せなくなります。
刑事処分により退学や解雇になる
口座売買をすると、口座売買だけでなく、特殊詐欺などの犯罪の共犯者としても、刑事的な責任を追及される可能性があります。
自分が直接他人を騙してお金を巻き上げたわけではないのに、身に覚えのない犯罪に関しても罪を問われることがあります。
有罪判決が下されることで、校則などによっては退学、会社によっては解雇されることも考えられます。
お金がほしいと軽い気持ちで口座売買をすると、前科がつき、退学や解雇のリスクまで生じます。
口座の利用や開設ができなくなる
前述のとおり、売買した口座が犯罪に使用されると、犯罪に使用された口座だけでなく、自分が今利用している口座も凍結される可能性があります。
さらに、警察が管理している凍結口座名義人リストというものに名前が載り、それが全国銀行協会を通じて、各金融機関に共有されます。
それにより、今利用している口座だけでなく、今後も口座の新規開設ができない可能性が高いです。
実際に、口座売買をしたり、勝手に自分名義の口座が利用されたりした人が、新規の口座開設ができないことで、就職できない、年金が受け取れないといった問題が生じています。
凍結口座名義人リストは、公表されていませんが、おおよそ7年ほど記録が残るとされています。
このように、一度口座売買を行うと、罪に問われるだけでなく、長期間口座が利用できず、それに伴い就職や年金の受け取りにも影響が生じます。
参考:振り込め詐欺の口座被害者、救済法が裏目に 別口座も凍結 生活に支障「就職できぬ」「年金入らない」… – 産経ニュース
損害賠償請求を受ける
さらに、口座売買を行うと、損害賠償請求を受けるおそれもあります。
実際に以下のケースでは、口座を売却した人に、損害賠償金の支払いが命じられています。
- 投資詐欺に利用された口座を売却した名義人に対して、詐欺を手助けしたとして口座に振り込まれた金額の範囲で賠償命令が下される
- 生活苦で6つの口座を売却した男性に、被害者から1,000万円の賠償をもとめる請求書が届いた など
賠償命令が下された裁判では、被告は詐欺の関与を否定しましたが、詐欺を手助けしたとして、被害額の賠償が命じられています。
刑事事件とは別に、民事事件では、相手に損害を与えた場合に賠償義務を負います(民法第709条)。
そのため、単にお金がほしくて口座を売却したとしても、その口座が詐欺に利用されれば、被害者が負った損害の賠償が命じられる可能性があります。
参考:著名人かたるSNS投資詐欺、口座売却した名義人に賠償命令相次ぐ…「犯行に加担した」と認定も – 読売新聞オンライン
口座売買をしてしまった場合にすべきこと
口座売買に関与すると、刑事的な責任を問われるだけでなく、仕事や私生活に大きな影響が生じます。
口座が利用できなくなるほか、場合によっては損害賠償を負うこともあります。
もし口座売買をしてしまったら、すぐに以下の対応をとりましょう。
金融機関に連絡して口座を停止する
もし口座売買をしてしまったら、速やかに売却した口座の金融機関に連絡し、口座が利用できないように入出金を停止してもらってください。
口座が利用できなくなれば、犯罪被害の拡大を防ぐことができます。
被害が生じなければ、犯罪の共犯に問われたり、賠償義務を負ったりするリスクを軽減できる可能性があります。
警察に相談する
口座売買は犯罪であるため、関与した場合はすぐに警察に相談しましょう。
警察が犯罪や被害を把握する前に自首すれば、以下のようなメリットがあります。
- 自首は法律上の減軽事由となるため、処分が軽くなる可能性がある
- 自首することで、逃亡や証拠隠滅がないと判断され、逮捕が回避できる可能性がある
被害発覚後に出頭した場合でも、刑事処分において考慮される可能性があります。
自分だけで自首するのが不安であれば、弁護士に相談し、同行してもらうことも可能です。
弁護士に相談する
売買した口座が犯罪に利用されれば、警察の捜査対象となります。
当然、犯罪に加担してないと説明する必要がありますが、口座売買の事実は隠せません。
重い処分を回避するためにも、口座を売買してしまったり、警察から連絡があったりした場合は、迷わず弁護士に相談してください。
弁護士に相談することで、少しでも罪が軽くなるように方針を決めた上で、対処してもらうことができます。
例えば、自分が犯罪組織と関係がないことや、逮捕や勾留が不要だと訴えることも可能です。
今後口座の利用ができない、被害者から賠償を求められるなど、あらゆる不利益が生じるおそれがあるため、早期の相談が重要です。
まとめ
近年SNSなどで口座売買の募集が行われていますが、報酬目的で口座の売買をすると、以下のリスクが生じることになります。
- 口座売買で逮捕されて刑事処分が科される
- 被害者から損害賠償請求を受ける可能性がある
- 口座が利用できないことで仕事に就けなくなる
口座売買は犯罪です。もし口座を売ってしまったら、すぐに金融機関に連絡して口座を停止してもらいましょう。
早急に弁護士や警察に相談し、適切な対応を取ることが重要です。