被疑者とは?|被疑者になったらやるべきことをわかりやすく解説
被疑者という言葉を聞いたことはあっても、実際に被疑者になったらどうなるのか?何をやるべきか?等、知らないことが沢山あると思います。
この記事では被疑者が置かれる状況や被疑者になったらなにをすべきか等を解説します。
被疑者とは
被疑者とは、警察や検察などの捜査機関から犯罪を行ったと疑惑を掛けられている人のことです。
以下で被疑者についてより詳細を解説します。
被疑者と容疑者の違い
テレビのニュース等で、「容疑者は・・・」という言葉を聞いたことがあると思います。容疑者と被疑者は何が違うのだろう?と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
容疑者と被疑者は両方共罪を犯した疑いがある人です。同じ意味なのに何故異なる言葉があるのでしょう?諸説ありますが、被疑者と被害者の(目で見た)字面、(耳に入る)音が似ているから間違えないように、容疑者という言葉を作ったとの説が有力です。
被疑者と被告人の違い
被疑者と被告人は立場が全く異なります。
被疑者は、罪を犯した疑いがある人として捜査機関の取り調べを受ける人です。
被告人は、罪を犯した疑いが濃厚であると検察官が判断したため裁判所に告発(起訴)された人のことです。裁判所に起訴されると被疑者は被告人と呼ばれます。
日本の場合、起訴されるとほぼ99.9%が有罪になります。そのため、起訴されて被告人になってしまうとほとんどの人は有罪判決が言い渡され、執行猶予が付かない限り刑務所に収容されます。
被疑者になったら前歴は付く?
被疑者になったら前歴は付くのでしょうか?前歴とは、被疑者として捜査機関による取り調べを受けた事があることです。被疑者は捜査機関による取り調べを受けるため、前歴がつきます。参考人で終わった場合でも、犯罪の嫌疑をかけられ捜査対象になった場合には前歴がつきます。
被疑者になったら前科は付く?
被疑者になったら前科は付くのでしょうか?前科とは、前に有罪判決を言い渡されたことがあることです。1000円の科料であっても無期懲役であっても、有罪判決を言い渡されると前科となります。
被疑者のまま不起訴となり事件が終了すると前科は付きません。被疑者が起訴され被告人になると前科が付く可能性が高くなります。
前科については以下の記事をご参照ください。
被疑者になったら何が起きる?
被疑者になったら何が起きるのでしょうか?被疑者になった時に自分の身に降りかかる可能性があることを解説します。
捜査機関から取り調べを受ける
被疑者になったら捜査機関からの取り調べを受けます。犯罪との関係、被害者との関係等の事情を聴かれます。
取り調べについては以下の記事をご参照ください。
取り調べの結果により逮捕される可能性がある
捜査機関が取り調べた結果、罪を犯した疑いが濃厚で、逮捕の必要性があると考えた場合には逮捕されます。
逮捕するためには逮捕の要件(逃亡のおそれ、罪証隠滅のおそれ)が必要です。
逮捕されると実名報道される可能性があります。
逮捕については以下の記事をご参照ください。
逮捕されない場合は在宅事件になる可能性がある
警察の取り調べにより、罪を犯した疑いが濃厚であると判断されても、逮捕の要件を満たしていない場合には逮捕されません。
身元引受人に来てもらい、帰宅できます。
在宅事件については以下の記事をご参照ください。

被疑者になったら何をすべきか?
ここでは、もしも被疑者になったら何をすべきかについて解説します。
弁護士に相談・依頼する
身に覚えがある、無いに関わらず、すぐに弁護士に相談しましょう。
被疑者になると捜査機関から取り調べを受けます。捜査機関による取り調べにおいては、被疑者は圧倒的に弱者です。日本では取り調べ中の弁護士の立ち合いや録音・録画は認められず、密室でおこなわれます。
無実を主張する被疑者に対して威圧的な取り調べをし、なんとかして自白の供述をさせようとする取調官もいます。
取り調べに適切に対応するには、弁護人の援助が必要不可欠です。
被疑者ノートを使う
取り調べには弁護人の立ち合いが認められていないためどのような取り調べが行われたか、被疑者と取調官にしかわかりません。
そこで、弁護人から被疑者ノートを差し入れてもらい、毎日の様子をなるべく細かく記録します。
弁護士が被疑者ノートを確認し、違法な取り調べがおこなわれていることが明らかになった場合には、署長や検察官等に対して抗議することで不当な取り調べの抑制になります。
取り調べの様子を細かく記録した被疑者ノートは、後に裁判になったときに、不当な取り調べがあった事実を立証できるケースもあります。
被疑者ノートについては以下の記事をご参照ください。
逃亡・証拠隠滅を疑われる行動をしない
逃亡・罪証隠滅のおそれも無い被疑者は逮捕できません。捜査機関から呼び出しがあった場合には出頭し取り調べを受け、携帯電話やPC等の提出を求められた場合には素直に提出し、逮捕されないようにしましょう。
出頭要請を受け不安な場合には、弁護士への同行の依頼をお勧めします。
警察から呼び出された場合の対応については以下の記事をご参照ください。
被害者と示談交渉をする
実際に罪を犯し、被害者がいる場合には早期な被害者との示談成立が重要です。加害者本人による示談は困難なので、弁護士に依頼して示談交渉してもらいましょう。
被害者との間で示談が成立した場合には、不起訴で終了する可能性があります。
示談については以下の記事をご参照ください。
被疑者の権利義務について
被疑者には憲法等で保障された権利があり、身柄拘束中の被疑者には義務もあります。ここでは、被疑者の権利義務についてお伝えします。
黙秘権(憲法第38条第1項、刑事訴訟法第198条第2項、同法第311条第1項)
被疑者には憲法で保障されている黙秘権があります。
憲法第38条第1項 何人も、自己に不利益な供述を強要されない。
刑事訴訟法第198条第2項 前項の取調に際しては、被疑者に対し、あらかじめ、自己の意思に反して供述をする必要がない旨を告げなければならない。
刑事訴訟法第311条第1項 被告人は、終始沈黙し、又は個々の質問に対し、供述を拒むことができる。
黙秘権とは、自分が言いたくないことを言わなくてもよい権利です。ずっと黙っていられますし、個々の質問に対し言いたくありませんとも言えます。
捜査機関からの取り調べに対し、何をどのように答えるべきか、答えた内容が後々自分の不利に働かないか等は、被疑者にはわかりません。
そもそも何を疑われているかさえ分からないこともあります。捜査機関からの質問に答え、雑談に応じていたらいつの間にか犯行に関する内容を自供した供述調書が作成されていたなんてこともありえます。
黙秘権の対象外といわれているものに、被疑者の氏名があります。氏名の黙秘は認められないといわれますが、氏名を伝えると前科が判明することがあります。その場合には自己に不利益な供述に該当するのではないか?という意見もあります。
氏名を黙秘した被告に対して、「氏名は原則として、不利益な事項ということはできず、それにつき黙秘する権利があるとはいえない」とした最高裁判例(刑集第11巻2号802頁)があります。
何を黙秘すべきか判断に迷うときは弁護士への相談をおすすめします。
弁護人選任権(刑事訴訟法第30条第1項)
被疑者・被告人はいつでも弁護人を選任できます。
刑事訴訟法第30条第1項 被告人又は被疑者は、何時でも弁護人を選任することができる。
引用:e-GOV法令検索
捜査機関は取り調べのプロです。被疑者・被告人がそれに対抗できることはほぼありません。被疑者・被告人が少しでも対抗できるように弁護人選任権があります。
被疑者は勾留されるまで国選弁護人を選任できず、起訴前に釈放されると国選弁護人は解任されます。事件後勾留されるまでの間や、勾留されずに在宅事件のまま捜査が続いている場合には、取り調べ期間という重要な時期に国選弁護人の選任ができません。
事件後すぐに私選弁護人への依頼をおすすめします。
刑事事件で弁護人に依頼する理由は以下の記事をご参照ください。
接見交通権(刑事訴訟法第39条第1項)
身柄拘束されている被疑者・被告人には、弁護人といつでも立会人なくして接見することができます。
刑事訴訟法第39条第1項 身体の拘束を受けている被告人又は被疑者は、弁護人又は弁護人を選任することができる者の依頼により弁護人となろうとする者(弁護士でない者にあっては、第31条第2項の許可があった後に限る。)と立会人なくして接見し、または書類若しくは物の授受をすることができる。
引用:e-GOV法令検索
身柄を拘束され、取り調べを受ける被疑者は弁護人以外の外部の人との連絡はほぼ遮断され孤立した状態です。
取り調べ中であっても聞きたいことがでてきた場合には依頼した弁護人と接見したいと伝えると、接見が可能です。
弁護人に依頼すると家族からの差し入れを渡してもらえます。
身柄を拘束されている被疑者にとって弁護人は唯一外部と接触ができる窓口です。身柄を拘束された場合には早期に弁護士に依頼しましょう。
接見については以下の記事をご参照ください。
取り調べ受忍義務
刑事訴訟法第198条の規定から、逮捕または勾留されている被疑者には取り調べ受忍義務があるとされます。
刑事訴訟法第198条 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、被疑者の出頭を求め、これを取り調べることができる。但し、被疑者は、逮捕又は勾留されている場合を除いては、出頭を拒み、又は出頭後、何時でも退去することができる。
引用:e-GOV法令検索
逮捕または勾留されている間は、ほぼ毎日取り調べがあり、被疑者はそれに応じなければならず、勝手な退去も認められていません。
逮捕または勾留されていない場合、在宅事件の場合には捜査機関からの呼び出しに応じずに出頭を拒否できます。出頭した場合にも退去したくなったら退去してよいと記載されています。
取り調べについては以下の記事をご参照ください。
被疑者が弁護士に依頼した際の弁護活動の内容
被疑者となった場合に、弁護士に依頼するとどのようなことをしてくれるかについて、解説します。
被害者と示談交渉をする
被害者がいる犯罪では、被害者との示談成立が重要です。被害者に真摯に謝罪のうえ被害弁償をし、被害者に許してもらうことが示談です。
被害者は加害者本人からの連絡を望まない場合が多く、加害者本人が被害者と示談しようとしても応じてくれない可能性が高いです。そもそも被害者の連絡先がわからないこともあります。
被疑者・被告人から依頼を受けた弁護士が被害者の許可を得て連絡し、被害者との間で示談が成立すれば、不起訴で事件が終了する可能性があります。不起訴で終われば前科はつきません。
示談交渉については以下の記事をご参照ください。
早期釈放を目指す
被疑者は逮捕されると取り調べを受け、48時間以内に検察官に送致されます。検察官は被疑者を勾留する場合には24時間以内に裁判所に勾留請求をします。勾留されると通常10日間、延長されるとさらに10日間、勾留が続きます。
被疑者が釈放されるタイミングは以下4つです。
- 逮捕後の取り調べの後、検察官に送致される前まで
- 検察官に送致された後から勾留請求される前まで
- 勾留請求後、勾留決定される前
- 勾留決定後起訴されるまで
逮捕後すぐに被疑者は取り調べを受けます。取り調べにより証拠も十分揃い、被疑者の逃亡のおそれも無いと判断されると、捜査機関は身元引受人を呼び、被疑者を釈放します。
逮捕後すぐにご依頼いただくと弁護士は、最初の取り調べ終了後の早期釈放を目指します。
逮捕後すぐに釈放してもらえなかった場合には、身柄拘束されたまま検察官に送致される可能性が高いです。検察官送致された場合には勾留請求される前に検察官に対し、勾留請求後は裁判官に対し、勾留の必要性がないことを主張し早期釈放を目指します。
裁判官が勾留決定した場合には、勾留の要件を満たしていないとして準抗告を申し立てます。検察官が勾留延長を請求し、それが認められた場合にも準抗告を申し立てます。
早期の身柄解放を望む場合には逮捕後なるべく早い段階で弁護士に依頼しましょう。
早期釈放され在宅事件になると、警察あるいは検察からの呼び出しが数回あり、捜査の結果起訴不起訴が決定します。在宅事件になった場合に何もせずそのまま放置していると起訴される可能性が高くなるため弁護士に依頼し、被害者と示談交渉してもらいましょう。被害者との間で示談が成立すれば起訴されずに事件が終了する可能性が高くなります。
勾留されないように活動する
逮捕後すぐの取り調べの結果、そのまま身柄が拘束されてしまうと、検察官送致後勾留の必要性があるとされ勾留請求される可能性が高いです。
刑事訴訟法第60条第1項 裁判所は、被告人が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある場合で、左の各号の一にあたるときは、これを勾留することができる。
- 被告人が定まった住居を有しないとき。
- 被告人が罪障を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
- 被告人が逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
引用:e-GOV法令検索
勾留されると最大で20日間身柄拘束されます。弁護士は、検察官が勾留請求する前には検察官に、勾留請求後は裁判官に対し以下のことを主張し、勾留されないように活動します。
- 捜査を行うにあたり、身柄拘束する必要が無いこと
- 在宅事件でも捜査できること
- 被疑者に逃亡のおそれや証拠隠滅のおそれが無いこと など
勾留については以下の記事をご参照ください。
不起訴の獲得を目指す
日本の刑事裁判では、起訴されてしまうと99.9%が有罪になります。有罪になると前科がつきます。
前科を付けないためには起訴される前に事件を終わらせることが重要です。そのためには早期に弁護士に依頼し、被害者と示談交渉してもらう、取り調べに関してサポートしてもらう、再犯防止に向けてサポート等をしてもらいましょう。
不起訴については以下の記事をご参照ください。
まとめ
何らかのきっかけで突然被疑者になってしまうことは誰にでも起こりうることです。被疑者になった場合には慌てずに弁護士に相談しましょう。
精神的にも肉体的にも厳しい刑事手続きを乗り切るためには刑事事件に精通している弁護士のサポートを受けることをおすすめします。