期限の利益の喪失とは?喪失するケースや例文・対処法を解説 - 債務整理は弁護士に相談【ネクスパート法律事務所】

期限の利益の喪失とは?喪失するケースや例文・対処法を解説

貸金業者などから届く手紙に、期限の利益を喪失したと記載されていることがあります。

期限の利益を喪失すると、分割払いができなくなり、一括返済を求められるおそれがあるため、放置するのは危険です。

この記事では、期限の利益の喪失について次の点を、わかりやすく解説します。

  • 期限の利益の喪失とは?
  • 期限の利益が喪失するケース
  • 期限の利益を喪失するリスクと対処法

期限の利益の喪失とは

分割払いの権利を失うこと

期限の利益の喪失とは、支払い期日が来るまで全額を返済しなくてもよいという権利を喪失することです。

そもそも期限の利益とは、支払い期日が来るまで全額を返済しなくてよいという、お金を借りた側(債務者)の権利です。

この期限の利益があることで、借金をしても分割払いが認められています。

(期限の到来の効果)
第百三十五条 法律行為に始期を付したときは、その法律行為の履行は、期限が到来するまで、これを請求することができない。

引用:民法第135条|e-Gov

期限の利益は、民法や金融機関などの契約に定められており、一定の条件が満たされると、期限の利益が喪失します。

期限の利益を喪失すると、分割払いの権利を失うため、借り入れていた借金や、未払いだったものを全額一括で支払わなければなりません

期限の利益の喪失条項の例文

消費者金融や金融機関では、契約書に期限の利益喪失に関する条項を盛り込むことが一般的です。

例えば、楽天カードの場合、会員規約には期限の利益について次の通りに記載されています。

第21条(期限の利益喪失)

1. 会員は、次のいずれかに該当する場合には、何らの通知、催告を受けることなく当社に対する一切の未払債務について当然に期限の利益を喪失し、その債務全額を直ちに支払うものとします。

一部引用:カード会員規約|楽天カード

民法上期限の利益が喪失するケース

期限の利益が喪失するケースは、民法で定められたものと、各業者で契約書に自由に定めるものがあります。

民法で定められた期限の利益が喪失するケースは次の通りです。

(期限の利益の喪失)
第百三十七条 次に掲げる場合には、債務者は、期限の利益を主張することができない。

一 債務者が破産手続開始の決定を受けたとき。

二 債務者が担保を滅失させ、損傷させ、又は減少させたとき。

三 債務者が担保を供する義務を負う場合において、これを供しないとき。

引用:民法第137条|e-Gov

3つ目の、お金を借りる人が担保を提供しない場合については、実際は担保がないと借金できないことがあるため、このケースによって期限の利益を喪失することは少ないでしょう。

民法で期限の利益が喪失するケースは主に、お金を借りた人の自己破産の手続きが開始されたときと、担保を壊して価値を下げたときです。

貸主は、お金を借りた人の財産を担保にすることで、支払いがされなかった場合に、担保を売却して、貸したお金を補填します。例えば、住宅ローンは購入した自宅が担保になっています。

このように、自己破産の手続きが開始されたり、担保の価値を下げられたりして、借金が回収困難になった場合は、お金を貸した側が一括返済を求めることができるように定められています。

契約上期限の利益が喪失するケース

期限の利益の喪失は、民法のほか、各消費者金融や金融機関、信販会社などで、借金の回収が困難とならないよう、それぞれ契約上で期限の利益の喪失条項を定めていることが一般的です。

契約上は、次のケースで期限の利益が喪失することが多いです。

  • 支払いが遅れた
  • 債務整理をした
  • 規約違反や契約時の虚偽申告が発覚した など

支払いが遅れた

契約上、期限の利益を喪失するケースとして多く定められているのが、借金を滞納した場合です。例えば、消費者金融のアコムでは次の通り定めています。

第12条(期限の利益の喪失)
2.会員は、次のいずれかの事由に該当したときは、当社の請求により本規約に基づく債務について期限の利益を失い、残債務全額をただちに支払うものとします。

(1)商品の購入が会員にとって商行為となる場合で、会員が弁済金の支払を1回でも遅滞したとき。

引用:AC会員規約|アコム

契約書には、支払いを一回でも延滞した場合に、期限の利益を喪失すると記載されるケースが多いです。

しかし、実際は滞納期間が2~3か月になると、期限の利益を喪失したとして、一括返済を求められることがほとんどです。

債務整理をした

契約書には、債務整理(さいむせいり)も期限の利益を喪失すると記載されていることが多いです。

債務整理とは、法律にもとづいて、借金を減額したり、免除したりできる手続きのことです(関連:債務整理とは)。

例えば、楽天カードには次の通り記載されています。

第21条(期限の利益喪失)
1. 会員は、次のいずれかに該当する場合には、何らの通知、催告を受けることなく当社に対する一切の未払債務について当然に期限の利益を喪失し、その債務全額を直ちに支払うものとします。

(7)会員が破産手続開始、民事再生手続開始、特別清算開始、会社更生開始の申立を受けた場合、又は自らこれらの申立をした場合。

(8)会員が債務整理のための和解、調停等の申立を受けた場合、又は自らこれらの申立をした場合。

(9)当社が会員について債務整理のため弁護士等に依頼した旨の通知を受けとった場合。

一部引用:カード会員規約|楽天カード

債務整理は弁護士に依頼するのが一般的です。弁護士に依頼して受任通知という文書が貸主に送られると、債務整理が開始されたと判断されて、一括返済を求められます。

規約違反や契約時の虚偽申告が発覚した

規約違反や契約時の虚偽申告が発覚した場合も、期限の利益を喪失すると定められていることがほとんどです。例えば、アコムの場合は次のように定めています。

第12条(期限の利益の喪失)
1.会員が次のいずれかに該当する場合には、当社からの通知、催告がなくても当然に当社に対する債務について期限の利益を失い、残債務全額をただちに支払うものとします。

(6)第11条第1項各号のいずれかに該当し、または第11条第1項の規定に基づく表明・確約に関して虚偽の申告をしたことが判明し、当社との取引を継続することが不適切であると当社が判断したとき。

(7)第11条第2項各号のいずれかに該当する行為をし、当社との取引を継続することが不適切であると当社が判断したとき。

(8)マネー・ローンダリング、テロ資金供与、経済制裁関係法令等に抵触する取引に使用し、またはそのおそれがあると当社が判断したとき。

引用:AC会員規約|アコム

規約違反とは、暴力団との関わりや不法行為、その他契約時に行った虚偽の申告などが挙げられます。

また、契約書によっては、住所や勤務先の変更を怠った場合も、期限の利益を喪失すると定められていることもあるため、注意が必要です。

期限の利益を喪失するとどうなる?

ここでは、期限の利益を喪失するとどのようなリスクがあるのか解説します。

期限の利益喪失通知が届く

借金を滞納して、貸金業者からの請求を無視し続けると、期限の利益喪失通知や一括返済催告状などの書面が届きます。内容は次の通りです。

  • 支払いが延滞しており、〇年〇月〇日をもって期限の利益を喪失しました
  • 下記の金額を一括返済してください
  • 保証人に請求が及ぶ可能性があります
  • 支払いがされない場合、法的措置をします
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遅延損害金を含む一括返済を求められる

期限の利益が喪失する際は、借り入れた金額だけでなく、遅延損害金(ちえんそんがいきん)も含む金額の一括返済を求められることになります。

遅延損害金とは、支払いが遅れたことに対する賠償金のことで、年率は14.6~20%で設定されていることがほとんどです。

支払いが遅れている金額×遅延損害金の利率×支払いが遅れている日数で計算されます。

支払い遅れが1回なら、支払いが遅れた金額に対して、支払いが遅れた日数に応じて遅延損害金が加算されます。

ただし、期限の利益を喪失すると、借り入れ額全額に対して遅延損害金が請求されることになります。

住宅ローンの場合家が競売にかけられる

住宅ローンの場合は、一括返済が求められるだけでなく、持ち家が競売(裁判所主導のオークション)にかけられて売却されることになります。

高額な住宅ローンを組む際は、金融機関が損をしないように、購入した住宅を担保として抵当権を設定します。

期限の利益を喪失した時点で、金融機関や保証会社が抵当権を行使して、持ち家を競売にかけ、ローンを回収します。

住宅ローンの場合は、おおよそ3~6か月の滞納で期限の利益を喪失して、半年から10か月ほどで競売が申し立てられます

競売で持ち家が売却されると、立ち退かなければなりません。

連帯保証人にも請求が行く

借金に連帯保証人や保証人がついている場合は、連帯保証人や保証人に請求が行くことになります。

連帯保証人や保証人は、借り入れた人が返済できない際に、代わりに返済を行う契約だからです。

民法では、期限の利益喪失後2か月以内に、保証人などに期限の利益の喪失を通知しなければならないと定められています(民法第458条の3)。

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裁判で訴えられる

期限の利益喪失後、一括返済を放置すると、貸金業者としても最終的に裁判で訴えて、差し押さえをせざるを得なくなります。そのため、今度は裁判で訴えられることになります。

借金を返済しない場合は、簡易裁判所から支払督促が送られることが多いです。支払督促は、無視し続けると、最終的に裁判を行わずとも、差し押さえが可能となります。

支払督促が届いた場合は、同封されている督促異議申立書を記載して、2週間以内に裁判所に返送して、裁判に出席するようにしてください。

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差し押さえを受ける

支払督促や訴状が届いて、さらに無視をし続けると、最終的に借り入れ先の主張が認められ、支払いをしないと、財産を差し押さえられることになります。

差し押さえの対象となる財産は、預貯金、給料、持ち家などの不動産、車や貴金属などの動産です。

消費者金融などからの借り入れの場合は、換金の手間がない預貯金、給料から優先的に差し押さえられます。

差し押さえは、全額の完済まで続きます。給料の差し押さえは、裁判所から勤務先に通知が行くため、会社に知られることになります。

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期限の利益を喪失した場合の対処法

一括で返済できない場合には、次の対処法が考えられます。

借入先と交渉する

期限の利益を喪失して一括返済を求められた場合は、借り入れ先と再度分割払いを交渉することが考えられます。

例えば、支払いが難しくなってしまった事情や、月々いくらなら返済可能なのか伝え、支払い期日の変更や分割回数を交渉することが考えられます。

これまで誠実な対応をしていれば、借り入れ先が交渉に応じてくれることもあり得ます。

債務整理をする

借り入れ先が分割交渉に応じてくれず、支払いができない場合は債務整理をするのがおすすめです。

債務整理には次の3つの種類があり、借金額や月々返済可能な金額、所有している財産などによって、適した手続きが異なります。

任意整理 弁護士が借り入れ先と交渉することで、今後発生する利息などをカットする方法
個人再生 裁判所の許可のもと、借金を最大10分の1まで減額できる手続き
自己破産 裁判所の許可により、借金の返済義務をなくせる手続き

任意整理や個人再生をすることで、借金を分割払いに戻すことができます。

また、住宅ローンの返済が苦しい人には、個人再生がおすすめです。

個人再生の住宅ローン特則を利用することで、持ち家を競売にかけられずに、分割払いや返済期間の延長、一部返済を減額するなどできる可能性があります。

ただし、滞納による保証会社の代位弁済から、6か月以内に個人再生の手続きが開始されていないと利用できません。

個人再生の手続きには時間がかかるため、滞納していたり、滞納しそうだったりする場合は、すぐに弁護士に相談してください。

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時効援用をする

借金を5~10年以上支払っていないなど、次に当てはまる場合は、借金が時効を迎えている可能性があります。

  • 期限の利益を喪失してから一度も支払っておらず5年以上経過している
  • 裁判で訴えられてから10年以上経過していて、差し押さえも受けていない
  • 最後に支払ったときから5年以上経過している
  • 借り入れ先に対して、5年以上支払いの相談や返済をしていない

上記条件に当てはまり、時効が成立している場合は、時効援用の手続きをすることで、請求を受けることがなくなります

時効のカウントがスタートするのは、期限の利益喪失日か、最後に支払った日、または裁判で判決が確定した日の翌日からです。

請求書には、最後の請求日について、約定返済日や最終約定返済日などと記載されています。

ただし、時効は更新されるケースもあり、成立しているかどうかの判断が難しいため、弁護士に相談するのがおすすめです。

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期限の利益喪失に関するよくある質問

期限の利益喪失を防ぐ方法はある?

期限の利益の喪失を防ぐには、毎月計画的に返済することが重要です。

返済を銀行振込みにしている場合は、支払いを忘れないように、口座振替にしてもらいましょう。

引き落とし日に口座にお金がなくならないように、給料が振り込まれた段階で、先に返済するか、日頃からしっかり家計管理をすることも考えられます。

支払いが遅れる場合も、事前に支払いについて相談をしておくことで、返済日を遅らせてもらえる可能性もあります。

契約者が死亡したら期限の利益は喪失する?

期限の利益喪失事由の一つとして、相続の開始(契約者の死亡)と定めている金融機関もあります。

しかし、2022年6月には、金融庁がこの規定に対して削除要請を実施しました。

亡くなった契約者の家族に一括返済を求めることは、相続人に大きな負担を強いることになるからです。

今後は、金融機関の契約から、相続の開始による期限の利益喪失事由は削除される可能性があります。

ただし、亡くなった契約者の借金を相続した人に、借金の返済義務が生じるため、相続するか放棄するかなどの判断が必要です。

参考:相続の開始を期限の利益喪失事由とするカードローン契約等における規定の検証について(要請)|金融庁

期限の利益が喪失した後すぐ入金しても一括請求される?

期限の利益喪失通知には、〇月〇日までに弁済がない場合は、期限の利益を喪失しますと記載されていることがあります。

この指定の日までに、支払いが遅れている分を入金すれば、期限の利益を喪失して一括返済を求められることはありません。

この期日までに入金できない場合は、一括返済を求められることになります。

支払いが難しい場合は、すぐに弁護士に相談してください。

契約書に期限の利益喪失条項がなければ一括請求されない?

契約書に期限の利益喪失条項がなければ、民法が適用されることになります。

ただし、一般的な貸金業者や金融機関では、契約書に期限の利益喪失条項を定めていないことは基本的に考えにくいです。

まとめ

期限の利益の喪失とは、支払い期日が来るまで全額を返済しなくてもよいという分割払いの権利を失うことです。

期限の利益を喪失すると、一括返済を求められるだけでなく、裁判や差し押さえのリスクなどがあります。

一括返済を求められたら、差し押さえを受ける前に、弁護士に相談して、債務整理を検討しましょう。

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