給料の差し押さえは会社に迷惑?クビになる可能性や会社の対応
給料の差し押さえが行われると、勤務先の会社にも一定の負担が生じます。
差し押さえを受けてクビになるのではと不安になる人も少なくありません。本記事では、給料の差し押さえが会社に与える影響や、企業側が行う対応について解説します。
目次
給料の差し押さえは会社に迷惑がかかる?
給料の差し押さえにより、会社側には一定の事務負担や社内対応が発生します。
事務作業が増える
借金や税金を滞納すると、裁判所や税務署から給与差し押さえの通知が届きます。この通知を受けた会社は、従業員に支払う給与の一部を差し引き、債務者に直接送金するよう求められます。
このとき会社は第三債務者として対応する立場になります。
第三債務者とは、債務者(従業員)にお金を払う側の人や会社が、そのお金を差し押さえの対象として取り扱い、債務者に支払う役割を担うものです。
これに伴い、以下のような事務処理が発生します。
- 差押禁止額を考慮したうえで、差押可能額の正確な算出
- 差押命令書に基づく金額の毎月の控除および振込手続
- 裁判所または債権者に対する“陳述書”の作成および提出 など
差し押さえは一度きりでなく、完済するまで毎月の給与から一定額が引かれ続けます。
そのため、差し押さえが続く間は、毎月の給与計算のたびに控除額を確認し、送金処理を行う必要があります。
このように、通常の給与計算に加えて個別の対応が発生するため、事務担当には継続的な負担がかかります。
社内や本人への対応が必要になる
給与の差し押さえが発生すると、勤務先の会社にも対応が求められます。差し押さえの対応には、給与からの控除処理のほか、社内での情報管理や従業員への説明なども含まれます。
差し押さえは個人的な事情によるものですが、情報の取り扱いを誤るとまわりに知られてしまうおそれがあります。
プライバシーの侵害や職場での噂につながる可能性もあるため、会社では情報を最小限の担当者のみに共有し、慎重に扱われます。
そして、差し押さえの通知を受けた会社からは、なぜ給与から引かれるのかなど理由や今後の手続きについて説明を受けることがあります。
このように、差し押さえには事務手続きだけでなく、社内の対応や気配りも求められます。
給与の差し押さえが会社にバレる理由
裁判所から会社に直接通知されるから
債権者(お金を貸した業者など)から差し押さえの手続きを受けた裁判所は、お金を借りた人の勤務先に差押命令を送ります。
会社はこの命令に従い、給与から差押対象額を控除し、定められた送付先に支払う義務を負います。
命令書には債務者の氏名・差押額・支払先等が記載されており、勤務先が手続きを通じてその内容を把握することになります。
このため、差し押さえの事実が会社に通知されることになります。
会社が本人の給料から差し引くから
差し押さえの命令を受けた会社は、従業員の給与から一定の金額を差し引きます。そして、その金額を貸金業者などに支払うことになります。
このように、会社が給与の差し押さえに直接関わるため、差し押さえの事実を会社に知られずに済ませることはできません。
給料を差し押さえられると会社から連絡がある?
給与の差し押さえが発生した場合、会社が従業員本人に連絡を行うのが一般的です。ただし、法律上の明確な義務はありません。
会社は従業員に通知するのが一般的
裁判所から会社宛に債権差押命令が送られると、会社はその従業員の給与のうち差押可能な金額を控除し、債権者に送金する手続きに入ります。
このような重要な給与変更がある場合、従業員本人に内容を説明するのが通常です。
もっとも、民事執行法その他の関連法令において、会社が従業員に通知を行う義務までは明記されていません。
そのため、通知の有無やその方法は会社の就業規則や内部方針に委ねられているのが実情です。
会社から従業員に通知する方法
通知の方法について法令上の定めはなく、各企業の判断によりさまざまな対応がとられています。具体的には、以下のような方法が実務上採用されています。
- 口頭または対面での説明(例:人事担当者との面談)
- 差押命令書の写しを交付
- 給与明細に差押控除額を明記し、備考欄に簡潔な説明を記載
- 社内メール等での文書連絡
いずれの方法も、従業員の理解と納得を得ることを目的としたものであり、企業の業種や社内体制に応じて選択されています。
会社が他の従業員に広めるのは禁止
給与の差し押さえに関する情報は、個人のプライバシーに関わる重要な情報です。
そのため、会社が関係のない社員にこの情報を伝えることは、個人情報保護法に違反することになります。
通常は、人事や経理など、必要な業務を担当する限られた社員だけで情報が共有され、社内に広まらないように管理されています。
差し押さえがあったことが、まわりに知られてしまうのでは…と不安に感じるかもしれませんが、こうした情報は会社の中でも慎重に扱われるのが一般的です。
給料の差し押さえに対する会社の対応
給与差し押さえが発生しても、それだけを理由に解雇されることは基本的にありません。
ただし、例外的に就労に重大な支障があると判断された場合には、会社から懲戒処分や解雇が検討されるケースもあります。
差し押さえを理由にクビになることはない
給料の差し押さえは、従業員の私生活上の問題であり、会社に直接関係しません。
そのため、単に差し押さえを受けたという事実のみで解雇するのは違法となる可能性があります。
過去の裁判の判例においても、給料の差し押さえが直ちに懲戒処分や解雇理由とはならないと示されています。
たとえば、東京地方裁判所平成22年9月10日判決(労判1018号64頁)では、大学教授が給与を繰り返し差し押さえられたことを理由に懲戒解雇されましたが、裁判所は、差し押さえが職務遂行に具体的な支障を与えたとは認められず、学校法人の信用毀損も確認されなかったとして、懲戒解雇を無効と判断しました。
このように、給与差し押さえは従業員の信用問題ではあるものの、労働上の義務違反となるわけではなく、差し押さえの事実のみで解雇されることは原則ありません。
例外的にクビになるケース
給料の差し押さえがあったとしても、それだけでクビになることは通常ありません。
ただし、差し押さえに至った原因やその影響によっては、懲戒処分や解雇につながるケースもあります。
以下のような場合がそれに該当します。
- 貸金業者などと大きなトラブルになり、その影響が社内にも広がって業務に支障が出た場合
- 横領や着服など、会社のお金を不正に使ったことが原因で借金を抱えた場合
- 経理や財務など、お金を直接扱う仕事をしている人が、返済できない借金を繰り返している場合
とくに、会社の資金を扱う立場にある人がたびたび借金を返せなくなると、この人にお金を任せて大丈夫なのかと会社が不安を感じる可能性があります。
給料の差し押さえを会社は拒否できる?
会社に裁判所から差押命令が届いた場合、原則として従う必要があります。一方的に拒否することはできません。
会社が理由なく、差し押さえを拒否すると、今度は貸金業者が会社に対して、取り立ての訴えを起こし、裁判で争うことになります。
さらに、支払いを拒否した場合でも、会社は差し押さえに応じられない理由をまとめた陳述書を裁判所に提出しなければなりません。
期日までに回答しなければ、会社は損害賠償請求を受けるリスクも負うことになります。
会社が裁判のコストや賠償のリスクを負ってまで、差し押さえを拒否するとは考えにくいでしょう。
給料の差し押さえで勤務先不明だとどうなる?
従業員の勤務先が不明な場合、差し押さえの手続きは進めることができません。
勤務先に差し押さえ命令を出せない
給与の差し押さえは、債務者の勤務先を第三債務者として特定し、そこに対して差押命令を送達することが必要です。勤務先が不明である場合には、裁判所は差押命令を発することができません。
以前の勤務先などからは差し押さえはできない
もし、すでに退職した会社に給料の差し押さえを申し立てたとしても、その差し押さえは実行されません。退職済みの会社はすでにその人に給料を払う立場にはないためです。
すでに給料の支払いが終わっている場合、差し押さえるお金そのものが存在しないため、裁判所の命令も無効になります。
そのため、過去の勤務先に命令を送っても、効果はありません。
勤務先が不明なときに債権者が取る対応
勤務先が不明な場合、債権者がその情報を収集し、正確な勤務先を特定する必要があります。勤務先を調査するために、債権者が用いる代表的な方法には次のようなものがあります。
- 債務名義に基づく情報提供命令の申立て
- 住民票などの公的書類の取得
- 信用情報機関への照会 など
勤務先の調査はあくまで債権者側の責任であり、債務者が任意に勤務先を開示しない限り、手間と時間を要することも少なくありません。
給料の差し押さえで生活できないときはどうする?
給与の差し押さえにより生活が困窮する場合、法的な手段や交渉を通じて救済を図ることが可能です。
裁判所に取り消しや変更を求める
差し押さえによって生活が困難になった場合、裁判所に差押禁止債権の範囲変更の申立てを行うことができます。
たとえば、差し押さえられている金額が高すぎて、家賃や食費すらまかなえない状況であれば、減額を求めることが可能です。
裁判所が事情を認めれば、差し押さえの範囲が縮小される場合もあります。手続きは複雑であるため弁護士に相談しながら進めるとよいでしょう。
ただし、差し押さえの範囲を変更することは根本的な解決にはなりません。差し押さえで生活が苦しい場合は、後述する債務整理を検討するのが望ましいです。
債権者と和解交渉をする
債権者と直接交渉し、差し押さえを取り下げてもらう方法もあります。
債務者が真摯に返済の意思を示し、たとえば分割払いや返済計画の合意を提示することで、債権者が任意に差押命令を取り下げるケースもあります。
ただし、差押命令がすでに発効している場合には、債権者による正式な取消申立てが必要となるため、和解の成立と並行して、債権者に手続対応を依頼する必要があります。
弁護士に債務整理を依頼する
根本的な債務問題の解決を図るのであれば、弁護士に債務整理を依頼することが有効です。
債務整理には、任意整理・個人再生・自己破産といった手段があり、いずれも法的に差し押さえの停止または回避が可能となる制度です。
たとえば、個人再生や自己破産の申立てを行うと、裁判所によって執行停止の効力が生じ、差し押さえは原則として中断されます。
弁護士に依頼することで、適切な手続きを速やかに進め、生活再建のための支援を受けることができます。
まとめ
給与の差し押さえは、借金の整理や取り立ての一環として、法律で認められている制度です。ただ、会社には手続きの手間がかかり、本人も生活に大きな影響を受けることがあります。
とはいえ、会社は差し押さえを断ることはできず、ふつうはこれを理由に解雇されることもありません。
もし差し押さえで生活が苦しくなってしまったら、裁判所への申し立て、債権者との交渉、弁護士への相談を検討し、今の状況を少しでもよくする方法を考えることができます。
正しい手続きを踏みながら、生活を立て直す道を探していくことが大切です。