夫の定年退職や子どもの独立など、ライフステージの変化によって熟年離婚を考えている方もいらっしゃるでしょう。では、熟年離婚をするときはどのような準備が必要になるのでしょうか。ここでは、熟年離婚を考えている方に向けて、事前に準備すべきことや注意点をご紹介します。

熟年離婚を切り出す際に注意すべきこと

実際に離婚の準備に入る前に知っておきたいことをご紹介します。

いきなり離婚を切り出さない

離婚したいと考えていても、すぐに離婚を切り出すのは得策ではありません。離婚を突きつけられた側は突然のことに驚き、「なぜ離婚したいのか」「今後の生活費はどうするのか」と反論し、簡単には離婚に同意しないことがほとんどだからです。

「離婚を考えている」とパートナーに話すのは、すべての準備が終わってからでも遅くありません。必要最低限の準備を進めて、離婚を切り出すタイミングを見極めましょう。

離婚理由を論理的にまとめておく

離婚を申し出るときは感情的にならず、冷静さを保ちましょう。感情的になると話し合いが思うように進まず、離婚への道のりが遠のく可能性もあります。話し合いが進まないと離婚は長期化し、身体的にも疲弊してしまいます。

反対に、離婚を切り出すと相手が感情的に怒鳴ったりするかもしれません。そんな時も自分は感情的にならず、冷静さを保つことです。そのためにも、離婚したい理由や今後の生活の目途、離婚の際に希望する条件など、相手から予想される質問や反論に答えられるよう準備しておきましょう。

熟年離婚を決意したら準備すべきこと

慰謝料を請求できるかどうか調べる

離婚する夫婦は、夫から妻に対して慰謝料を支払うと思っている方もいらっしゃるかもしれません。しかし慰謝料は離婚したら必ず発生するものではなく、慰謝料なしで離婚するケースも珍しくありません。

事実、離婚事由で最も多い「性格の不一致」だけでは慰謝料の請求はできないのが現実です。慰謝料が発生するケースとは配偶者の不貞(浮気、不倫)やDV、悪意の遺棄などの不法行為によって相手から精神的苦痛を受けた場合のみです。自分のケースでは慰謝料を請求できるかどうか調べてみましょう。

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財産分与の対象となる財産を調べておく

財産分与とは、夫婦が婚姻中に築き上げた財産を公平に分与することです。対象となる財産は婚姻期間中に築き上げた財産で、例として不動産、車、有価証券、美術品や骨とう品などがあります。

結婚してからできた預貯金や保険金も名義がどちらであっても「共有財産」です。同様に、住宅ローンや借入金も名義がどちらでも婚姻中に契約したローンであれば財産分与の対象になります。

なお、結婚前から保有していた財産は「特有財産」といい、財産分与の対象外です。相続や贈与によって得られた財産はたとえ結婚後であっても特有財産とみなされるので、財産分与から除外されます。

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年金分割について調べておく

熟年離婚で最も気になるのは、離婚後に年金を受給できるかどうかではないでしょうか。年金分割の対象となる期間は婚姻中に限られています。つまり、婚姻前に支払っている年金は分割の対象外です。

年金分割の割合は、2008年4月1日以前は合意分割で、特別な事情がなければ最大で2分の1ずつを限度に自由に割合を決められます。話し合いで合意できない場合、調停を申し立てて分割割合を決めます。2008年4月1日以降は第3号被保険者のみを対象にした3号分割が適用されます。これは夫婦で話し合う必要はなく、配偶者が払った厚生年金または共済年金の2分の1を受け取れるものです。

なお、年金分割の手続きは、年金事務所で「年金分割のための情報通知書」を入手します。これをもとに年金分割について夫婦で合意し、年金分割合意書を作成して年金事務所で手続きをします。ただし、年金分割は離婚後2年を過ぎると請求できなくなるので、離婚成立後、早めに手続きすると良いでしょう。

離婚時の年金分割について|日本年金機構
「年金分割のための情報通知書」が必要となりました。請求方法を教えてください。 | 国家公務員共済組合連合会

熟年離婚後の生活を考えて準備しておくこと

熟年離婚後の生活にあたって必要な準備をご紹介します。

離婚の際にかかるお金を貯めておく

離婚するにはお金がかかります。離婚直後の生活費、引っ越し費用や新居の敷金、家具や家電の購入資金、離婚の話し合いがまとまらなければ弁護士費用などの出費があることも想定しておかなければなりません。

こうした離婚にかかる諸費用も準備しておきましょう。実際には熟年離婚をした場合、婚姻期間中に貯めた財産を原則2分の1受け取れますが、離婚してどれくらいのお金が入ってくるのか、離婚後の生活費にはどれくらいかかるのか、などを事前に計算しておきましょう。

新しい住まいの確保

離婚となれば、当然ながら一方は新たな住まいを確保しなければなりません。財産分与では「購入した家をどうするのか」という点も多くの方が悩むポイントです。家を売却して現金化するのか、売却しない場合どちらが住むのか、住宅ローンはどちらが払うのか、などの問題があります。

現在住んでいる家からご自身が出ていくのであれば、新しい住まいに関しても目途を立てておくべきでしょう。病院やスーパーに近い場所なら生活しやすく、遠出しなくても用事が完結するので便利になります。また、子どもが住んでいる場所に近いところがよければ、電車や車でアクセスしやすいエリアも選択肢に入ります。

そしてあらかじめ計算した生活費に見合った物件があるかどうか調べてみます。可能であれば実際に足を運んでみてどのような場所なのか確認してみてもいいかもしれません。

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新しい職場を確保する

専業主婦で収入がない方は生活費を稼げるだけの仕事を探しておく必要があります。年齢的に再就職が心配という方は、婚姻期間中から資格を取得したり職業訓練校に通ったりするのもひとつの手です。

現在、パートなどですでに働いているという方は勤務先にシフトを増やしてもらうか、あるいは正規雇用に変えてもらえないか相談してみましょう。

熟年離婚がこじれた場合は調停を検討する

離婚するには夫婦で話し合うべきことがたくさんあります。双方ともに譲れない条件があったり、相手の主張に納得がいかなかったりして、話し合いが進まなくなることも考えられます。

そんな時は離婚調停を視野に入れましょう。離婚調停は、家庭裁判所の調停委員が双方の話を聞き、解決策を提案するものです。期間はおおむね4か月から1年ほどかかりますが、夫婦での話し合いで解決できなければ調停での解決を目指します。

なお、離婚調停は裁判所での手続きがあることから、法律に詳しくない人が一から手続きするのは難しいのが現実です。離婚問題に詳しい弁護士に相談した方が調停の申し立てから解決までの手続きがスムーズに進むので、調停を考えている方は弁護士への依頼も併せて検討しましょう。

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熟年離婚で不安な方は弁護士にご相談ください

熟年離婚で準備することをご紹介しました。熟年離婚は婚姻期間が長い分、共有財産も多い可能性があるので、すべての財産を洗い出すのに時間がかかるかもしれません。また、年金分割も計算方法が複雑で、自分がどれくらいの年金を受け取れるのかわからない方もいらっしゃるのではないでしょうか。

離婚するにあたって法的にお困りのことがあれば、離婚に詳しい弁護士にぜひご相談ください。離婚問題を数多く解決してきた弁護士が納得のいく解決方法をご提案いたします。