離婚をする際には、養育費や財産分与に関することなどを決めた上で手続きを終える必要があります。しかし、口論の末に何も決めずに離婚をしてしまうケースもあります。また、何度も話し合いを重ねて協議離婚をしたにも関わらず、約束が守られずに泣き寝入りをしている方も少なくありません。

そこで、協議離婚を行う際には「公正証書」が役立っています。公正証書とは公証人と呼ばれる方が約束した事柄を証明してくれる書類(証書)です。遺言状の際に活用されるイメージが強いですが、実は離婚時にも役立てられています。今回の記事では離婚時に作る公正証書について、どのようなことを決めて残すべきか、作り方などの視点も踏まえながら詳しく解説します。

ネクスパート法律事務所が
問題解決に向けて全力でサポートいたします

離婚における公正証書とは

冒頭に解説のように、公正証書とは公証人が作る書類のことを意味します。離婚には協議離婚・調停離婚・裁判離婚という3つの方法がありますが、調停離婚と裁判離婚は裁判所での手続きを経るため離婚成立時には裁判所が調停証書などを作り、合意内容を書類にしてくれます。

しかし、協議離婚は当事者間での話し合いで終わるため、双方が納得していれば合意内容を書類にする必要はありません。しかし、離婚後に合意内容が守られないことも多くトラブルの温床となっているのです。そこで、協議離婚で決めた内容を「公正証書」にすることが推奨されています。

公正証書の効力とは

公正証書はただ約束事をメモに書いたようなものではありません。メモのような私文書ではなく、公正証書は公文書であり、万が一書かれた内容が履行されず訴訟に発展する場合、有力な証拠として活用できます。

公正証書は当事者間の「言った・言わない」を防ぐ効果があり、日付や書かれている内容の信ぴょう性が私文書よりも極めて高いのです。強制執行が必要なケース(例・養育費など)では、訴訟を経ることなく手続きを進めることもできます。

執行力があることが公正証書を作る大きなメリットと言っても良いでしょう。公正証書の作成には費用もかかりますが、その分効力は強いのです。

公正証書と離婚届はどちらが先?

協議離婚で公正証書を作る場合、離婚届の提出と公正証書はどちらを先にすれば良いのでしょうか。結論から言うと、「離婚より前に公正証書を作ること」がおすすめです。離婚後であっても公正証書を作ることはできますが、離婚をしている以上、離婚前に話した内容に元夫や元妻が合意するとは限りません。

公正証書を作ること自体拒否してくる可能性もあり、「やっぱり合意しない」と言われてしまうリスクがあるのです。協議離婚で公正証書を作る場合は、双方が離婚内容に合意をした段階で公正証書を作成し、その後離婚届の提出に臨むようにしましょう。

離婚の公正証書で決めること・記載する内容

離婚する際に公正証書を作る場合、実際にはどんなことを決めて、どんな内容を記載するのでしょうか。この項では離婚公正証書の内容に迫ります。

財産分与や慰謝料など夫婦のお金に関すること

離婚時に作る公正証書において一般的に良く記載されているのは「お金」に関することです。夫婦関係を終えて別々の暮らしへと歩みを進める以上、生活に大きく影響するお金に関しては丁寧に議論を重ねて合意し、公正証書へ残すことが大切です。

お金に関する項目一覧
・財産分与
・年金分割
・養育費
・婚姻費用の清算
・DVや不貞行為にともなう慰謝料
・住宅ローンなど借金に関する事柄 など

親権や養育費など子どもに関すること

夫婦の間に子どもがいる場合には、子どもに関することも決めていく必要があります。日本においては共同親権が認められていないため、離婚をする場合は夫婦のうちどちらか片方が親権者となります(単独親権)。

また、面会交流などについても細かく決めていきます。親権者は監護者を兼ねることが一般的ですが、親権者と監護者を分けておくことも可能です。

その他

賃貸契約の取り扱いや夫婦間の今後の連絡(電話や住所など)に関しても公正証書に記すことができます。現在の住まいの退去については住宅ローンの今後の清算などと合わせて考えておきましょう。

お金に関する取り決めがある場合には「強制執行認諾条項」を付けることを検討しましょう。この条項があると養育費などの支払いが滞った時に、裁判所に訴えを起こさなくても強制執行の手続きに移行することができます。逆に言えばこの文言が無ければ公正証書のみで強制執行をすることはできません。(関連:養育費の強制執行とは|デメリットとお金がとれない場合の対処法

また、財産分与で不満なく合意ができた場合には「清算条項」も検討してみましょう。清算条項を入れると一度合意できた財産分与を再度争うという無用な事態を避けることができます。

離婚の公正証書に書けないこと

執行力もあり、万が一の際には証拠としても強力に使える便利な公正証書ですが、何でも記載して良いわけではありません。公文書である以上、書き残すことができないものもあります。以下の5つのポイントを踏まえておきましょう。

法律上無効であることは公正証書には書けない

公正証書は公文書である以上、夫婦間の口約束では合意できていても書けない内容があります。例えば、養育費の支払いを強く拒否し、合意ができていても養育費は子どもの権利として法律で認められているものであり、拒否できるものではありません。

そのため公正証書には残せないため注意しましょう。同じように、面会交流を拒否することもできません。以下のような内容は削除されると知っておきましょう。

  • 養育費の拒否
  • 面会交流の拒否
  • 親権者の変更予定や変更の禁止
  • 慰謝料や養育費に関して利息制限法を超える金利の記載
  • 慰謝料などの長期分割払

公序良俗に問題がある

公序良俗に反するような内容は公正証書には書けません。例えば夫婦どちらかからの謝罪を載せる、罵倒や悪口などを残すことはできません。

離婚の公正証書の作り方・手続きの流れ

離婚で公正証書を作る場合には、どのように作り、どのように手続きを完了すれば良いでしょうか。ここからは作り方と手続きの流れをまとめて解説します。

1. 公正証書に記載する内容を夫婦で話し合う

まずは夫婦間で協議を行い、財産分与や親権、養育費などに関して合意を目指して話し合いを重ねます。場合によっては有責配偶者(DVや不貞行為を行った側の配偶者)に対して慰謝料を求め、金額を確定させます。

公正証書はネット上にひな型も多く公開されていますが、夫婦間の個別事情にマッチしているとは限りません。離婚後に後悔しないためにも、当事者間で必要な話し合いを尽くしましょう。

2. 内容確定後、必要書類を持って公証役場に申し込む

合意内容が決まったら、公正証書を作る際に必要な書類を整えて「公証役場」に申し込みを行います。

【1】本人確認のために必要なもの ※下記より1つを夫婦それぞれが用意
・印鑑登録証明書(発行から3ヶ月以内のもの)と実印
・運転免許証と認印
・マイナンバーカードと認印
・パスポートと認印

【2】代理人が公正証書を提出する場合
・委任する本人の実印が押された委任状と印鑑証明書(発効から3か月以内)
・代理人の本人確認書類(1を参考にご用意ください)

【3】戸籍謄本 (家族全員のもの、離婚後なら離婚後の双方の戸籍謄本)
【4】財産分与などがある場合にはその資料(不動産登記や年金手帳などを適宜用意します)

3. 夫婦で公証役場に出向き契約の手続き

予約した日時に夫婦で公証役場へ行き、契約の手続きを済ませて公正証書を作ります。なお、事前に公証人に伝えておけば、代理人による提出も可能です。代理人による手続きの場合は上記で紹介した必要書類を忘れず持参ください。公正証書は双方の同意の下で作られるため、同意なく一方的に作ることはできません。

4. 公正証書の受け取り

公正証書が完成したら手数料を支払い、離婚公正証書を受け取ります。公正証書は均一料金ではなく目的の価額によって手数料が異なるので注意してください。下記リンクに手数料が公開されています。

参考URL:日本公証人連合会 公証事務 手数料

まとめ

この記事では協議離婚の際に役立つ公正証書に関して、手続きの流れや必要なこと、作り方などを中心に詳しく解説しました。公正証書は協議離婚を円満に進めるために役立つほか、離婚後の養育費未払いなどのトラブルにも役立つアイテムです。協議離婚や公正証書、夫婦間で決めるべきことにお悩みがある場合には、離婚の専門家である弁護士にご相談ください。