強制性交等罪事件の示談を成立させるポイントと示談金相場を解説
強制性交等罪事件は示談成立が難しい事件の一つですが、示談が成立した場合には不起訴で終わる可能性が高い事件でもあります。
強制性交等罪事件を犯してしまった場合の示談の重要性および示談を成立させるポイント等について解説します。
示談を成立させるべき理由については以下記事でご紹介いたします。
強制性交等罪事件の示談の傾向
強制性交等罪事件は性犯罪の中でも罰則の重い罪の一つで、法定刑は5年以上20年以下の懲役です。執行猶予を付けるためには、宣告される刑が3年以下の懲役である必要があるため、何も手を打たないままでいると実刑判決が下り、刑務所に収監されます。
一方で強制性交等罪は、法律上減軽が認められる場合があります。
刑法第68条(法律上の減軽の方法)法律上刑を減刑すべき1個又は2個以上の事由があるときは、次の例による。
3 有期の懲役または禁錮を減軽するときは、その長期及び短期の2分の1を減ずる。
(刑法第68条抜粋)
この条文によって5年の懲役刑が減軽により半分の2年6月になる可能性が出てきます。強制性交等罪事件でも、減軽が認められると執行猶予が付く可能性があります。
減軽が認められる場合は次の3つです。
- 自首減軽(刑法第42条第1項 罪を犯した者が捜査機関に発覚する前に自首したときは、その刑を減軽することができる)
- 未遂減軽(刑法第43条 犯罪の実行に着手してこれを遂げなかった者は、その刑を減軽することができる。ただし、自己の意思により犯罪を中止したときは、その刑を減軽し、又は免除する)
- 酌量減軽(刑法第66条 犯罪の情状に酌量すべきものがあるときは、その刑を減軽することができる)
引用:e-Gov法令検索
強制性交等罪事件で減軽が認められる可能性の1つが、示談による情状酌量減軽です。示談の成立はその後の手続きに大きく影響を与えます。
強制性交等罪事件で和解を得るために重要なポイント
強制性交等罪事件で被害者との間で和解を得るために重要なポイントをお伝えします。
加害者の謝罪
強制性交等罪事件は被害者の心身に大きなダメージを与えます。加害者が真摯に謝罪し被害者対して可能な限り誠意をみせることができれば、示談交渉に応じてもらえる可能性がでてきます。
被害者の心情に配慮した示談交渉をする
被害者は事件によって大きなダメージを受けています。加害者に連絡先を知られることに大きな抵抗を感じています。そもそも被害者からすれば、事件のことを思い出したくなく、ましてや事件に関する話をすることすら拒絶したい心情をもつことが多いです。加害者本人が、無理に連絡を取ろうとすると被害者の心情はより悪化することが考えられます。
被害者の心情に配慮した示談交渉をするためにも示談は弁護士に任せるべきです。弁護士に依頼することで被害者も連絡に応じ、示談交渉を受け入れてくれる可能性が高くなります。
高額な示談金を即時一括で支払う
強制性交等罪事件の被害者は精神的被害を受け処罰感情が大きい場合が多く、示談金は高額になる傾向にあります。示談を成立させるためには、高額な示談金を即時一括払いする必要があります。
強制性交等罪の示談が難しくなるケース
強制性交等罪事件において、被害者との間で示談が難しくなるケースをお伝えします。
弁護士にも連絡先を教えてもらえない場合
強制性交等罪事件の被害者は絶対に示談をしないと思っている方も多く、その場合には弁護士にも連絡先を教えないという方もいます。この場合は謝罪すらお伝えできないため示談の成立は困難です。
謝罪を受け入れてもらえない場合
弁護士からの連絡には応じるけれど、加害者からの謝罪は受けないという方もいます。被害を受けたことに対する弁償は受領するけれど許すつもりはない、という方もいます。被害者によっては絶対に処罰して欲しいと捜査機関に伝える方もいます。このような場合も示談の成立は難しくなります。
被害者に重度の精神的被害を与えた場合
強制性交等罪事件は、強制的に被害者の性的自由を侵害する罪であるため、被害者に重大な精神的被害を与えます。
被害者は生きている限りずっと被害に悩まされることになります。場合によっては重度のPTSD(心的外傷後ストレス障害)に罹患する方もいらっしゃいます。この場合には被害者の処罰感情は強く、加害者を許すことも困難です。このような場合も示談の成立は難しくなります。
示談成立までにかかる期間
強制性交等罪事件の場合には、被害者の被害感情も処罰感情も強い場合がほとんどです。連絡を取れるようになるのにも、謝罪を受け入れてくれるのにも時間がかかることが多いため、起訴前に示談が成立することは難しい傾向にあります。逮捕直後に弁護士に依頼すれば早期に示談活動ができ、勾留中に示談が成立する可能性もあります。
強制性交等罪の示談金について
強制性交等罪事件の示談金がいくらくらいになるか、どのような時に高額になるか等について解説します。
強制性交等罪の示談金相場
刑事事件の示談金に相場はありませんが、それぞれの事件で経験則上示談が成立する金額があり、それを便宜上相場と呼んでいます。強制性交等罪事件の相場は100~200万円と言われています。
強制性交等罪の示談金が高額になるケース
強制性交等罪事件の相場は100~200万円と言われてはいますが、個々の事案によって高額になる場合があります。どのような場合に高額になるか、以下お伝えします。
被害者が入院・通院した場合
強制性交等罪事件により被害者が入院や通院せざるを得なくなった場合等では、入院治療費などの実費に加えて、慰謝料も支払うことになるため、示談金が高額になります。
暴行・脅迫の態様が酷い場合
強制性交等罪事件は、加害者が暴行・脅迫を用いて性交等を行ったことにより成立しますが、その暴行・脅迫の程度や態様が著しく酷い場合は示談金が高額になります。
例えば以下のような場合です。
- 被害者の行動を把握し、計画的に被害者宅に押し入って行為に及ぶ
- 凶器を持って脅して行為に及ぶ など
精神的苦痛が大きい場合
強制性交等罪事件によって負う被害者の精神的苦痛は大きいですが、事件によってPTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症したようなケースでは、後遺症による逸失利益も問題となり、示談金が高額になります。
強制性交等罪の示談書に記入するべきポイント
強制性交等罪事件の示談書に記入すべきポイントについて解説します。
謝罪条項
強制性交等罪事件によって被害者は精神的苦痛を受けています。精神的苦痛を与えた事を心から謝罪する旨を記載します。
示談金の支払いに関する条項
示談金の金額、支払い方法、支払い期限等について記載します。
誓約条項
被害者は今後も同じような被害に遭わないかを非常に恐れています。加害者が今後同じような事件を犯さないこと、被害者の自宅や職場等、その他被害者の立ち寄り先に近づかないこと等を誓約する文言を記載します。
清算条項
強制性交等罪事件の加害者は、被害者に対して慰謝料等の支払い義務がありますが、これらを示談金という名目で支払い、損害賠償等の支払いが終了したことを示す清算条項を記載します。これを記載することで、今後さらに請求されるのを防止できます。
宥恕条項
合意に基づき謝罪を受け入れ示談金を受領したことにより、加害者の行為を許すという宥恕文言を記載します。この文言により、被害者の処罰感情が消滅したことを捜査機関に証明できます。強制性交等罪の場合、宥恕文言を記載できるかどうかが重要です。
秘密保持条項
今回の傷害事件について、一切口外しないこと、LINEやSNS等に書き込まないことを明記します。
具体的な示談書の書き方については以下記事をご参照ください。
強制性交等罪の示談の流れ
強制性交等罪事件の示談の流れについて簡単に解説します。
被害者の連絡先を捜査機関から取得
被害者の連絡先不明の場合には、加害者から依頼を受けた弁護士が捜査機関に示談の意向を伝え、被害者の連絡先を教えてもらえるか確認します。
被害者が連絡先を教えても良いと回答した場合、捜査機関から被害者が連絡先を入手します。
被害者へ謝罪
被害者に謝罪し、示談に応じてもらえるか確認します。
示談交渉
被害者が示談に応じてくれれば示談交渉を開始します。
示談成立後示談書作成
示談金の金額、支払い方法、被害届の取下げその他、全ての内容で合意ができたら、示談書を作成します。示談書は同じものを2通作成し、双方が署名押印し、被害者と加害者から依頼を受けた弁護士が各々1通保管します。
示談金支払い
示談書に署名押印し、示談書が完成したら、示談内容に従い示談金を振り込みます。加害者が弁護士の口座に振り込み、振り込まれた示談金を被害者の口座に振り込むのが一般的です。
強制性交等罪事件の示談の場合には、示談成立まで時間がかかる場合があり、起訴直前になってやっと示談内容に合意してもらえることもあります。その場合には合意後速やかに、示談書作成前に示談金を振り込むこともあります。
示談書等を捜査機関あるいは裁判所に提出
示談書および示談金領収証、取り下げ書等を捜査機関あるいは裁判所に提出します。被害の弁償が行われた事、被害者の処罰感情が無くなった事を証明できます。
示談書作成前に示談金を振り込んだ場合には、以下のような示談が成立していることがわかる証拠を提出します。
- 振込明細書
- 示談書の下書き
- 被害者が示談に合意したときの録音 など
強制性交等罪の示談を弁護士に依頼した場合のサポート内容
強制性交等罪の示談を弁護士に依頼した場合にどのようなサポートが得られるか、解説します。
被害者の連絡先を取得
示談交渉は、被害者の連絡先がわからないと始まりません。加害者が被害者の連絡先を知らない場合には、加害者に依頼された弁護士は捜査機関に被害者の連絡先を教えてもらえるか確認します。
捜査機関は被害者に、加害者の弁護士に連絡先を教えてよいか確認します。弁護士になら伝えても良いとの回答を得られれば、捜査機関は加害者の弁護士に連絡先を教えてくれます。
被害者との示談交渉
被害者の連絡先が判明したら、被害者に加害者からの謝罪を伝えます。謝罪を受け入れてくれたら示談交渉に応じてくれるか確認し、示談交渉を開始します。
被害者の被害感情が大きい場合には、謝罪を受け入れてもらえない場合もありますが、時間をおいて何度も謝罪することで、最終的には謝罪を受け入れていただけることが多いです。強制性交等罪事件の場合には、何度も連絡することで被害者の被害感情を悪化させてしまうこともあるので、被害者の心情に配慮しながら連絡します。
謝罪を受け入れていただけたらその後示談交渉に入ります。
強制性交等罪事件の示談交渉においては、被害者の望む示談金の額が高額になることもあり、加害者が支払えないような金額を提示されることもあります。被害者からの請求の根拠を確認し、根拠がない場合には減額交渉するなどします。
示談金には今回の強制性交等罪事件に関する金銭関係を全て清算する意味があるため、後日民事上の損害賠償請求訴訟を起こされなくなります。
示談書作成
示談内容の合意ができたら示談書を2通作成します。被害者・加害者双方が署名押印し、それぞれ1通ずつ保管します。示談書には被害者の情報が記載されているため示談書は、加害者本人やその家族等に見せることは絶対にありません。必ず弁護士が保管します。
前科を回避する
起訴される前に示談が成立すれば、不起訴で終わる可能性が高くなります。不起訴で終われば、前科は付きません。
示談合意が起訴直前の場合には示談書作成前に示談金を振り込み、示談が成立していることがわかる証拠を提出し、起訴されることを阻止する活動をします。
刑事処分を軽くする
起訴後に示談が成立した場合でも、被害者の処罰感情が無くなったことを示せるため、刑が減軽されることにより執行猶予付き判決が下される可能性が高くなります。
強制性交等罪示談の成功事例
弊所に依頼された強制性交等罪等の解決事例をご紹介します。
準強姦事件において不起訴を獲得した事案
迷惑防止条例違反(痴漢)で不起訴を獲得したことのある元依頼者様から再度ご依頼を受けました。今回はお酒に酔った女性をホテルに連れていき性行為をした準強制性交の疑いで逮捕されました。前回同様今回もお酒に酔って自制心が働かなくなり行ってしまった事件でした。前回の事件の後アルコール依存症の治療のため精神科に通院するなどして更生努力をしている最中でした。今回の事件は前回の事件の前に起こしたものであったため、現在更生中であることと、ご家族の方の協力も得ていること、そして起訴直前に示談が成立したこともあり、不起訴になりました。
まとめ
強制性交等罪事件は示談成立がその後の手続きに影響を及ぼしますが、加害者本人が示談交渉をしないほうが良い事件です。
強制性交等罪は示談が成立すると不起訴処分で終了する可能性もある事件です。不起訴で終われば刑務所に行くこともなく、前科も付きません。起訴されても情状酌量による減軽で執行猶予が付く可能性があります。
強制性交等罪で逮捕された場合には早期に弁護士に依頼し、示談交渉を進めてもらうことをお勧めします。