刑事事件の示談を弁護士に依頼するメリットや示談の重要性を解説
犯罪に関与してしまい、被害者とトラブルになっている場合は、早急に示談することが重要です。
示談が成立すれば、被害者から許しを得て刑事処分が軽くなる可能性があるなど、大きなメリットがあります。
ただし、示談交渉は弁護士に依頼すべきです。この記事では、以下の点を解説します。
- 刑事事件の示談の重要性
- 弁護士なしで示談を行う問題点と弁護士依頼のメリット
- 示談金と弁護士費用の相場
- 実際に示談交渉が成立した事例
目次
刑事事件の示談の重要性
示談とは、個人間で生じたトラブルを裁判を行わずに、当事者同士の合意によって解決することです。
具体的には、加害者が被害者に謝罪をし、被害者が受けた損害に対して示談金を支払います。
民法では、故意や過失により他人の権利や保護される利益を侵害した人が、被害者の損害を賠償する責任を負います(民法第709条)。
示談が成立することで、民法上の責任を果たしたと判断され、刑事事件上でも処分が軽くなる可能性があります。
ここでは、被害者との示談が成立することで刑事事件に与えるメリットを紹介します。
事件化前の示談で周囲に知られずに解決できる可能性がある
刑事事件では、主に被害者の被害届や刑事告訴、第三者からの通報などによって警察が捜査を行います。
しかし、被害者が被害届を提出する前や刑事告訴を行う前に示談が成立すれば、事件として捜査される前にトラブルを解決できる可能性があります。
示談書には以下の内容を盛り込むことが可能です。
- 被害届を提出しない・刑事告訴をしない
- 被害届を取り下げる
特に、被害者が刑事告訴をしなければ検察が起訴できない親告罪の場合、刑事告訴をしない、あるいは告訴を取り下げてもらえることで、捜査が終了となり前科がつく心配もなくなります。
被害届の提出や取り下げなどにより警察が捜査を終了した場合は、家族の目の前で逮捕されたり、勾留により会社に事件を知られたりするリスクも回避できます。
起訴前であれば不起訴処分となる可能性がある
刑事事件では、逮捕後に検察が事件を刑事裁判で訴え(起訴)、裁判で有罪となると刑務所に収容されたり、前科がついたりします。
特に日本の刑事裁判の有罪率は99%と非常に高いため、起訴されるまでに適切な対処を行うことが重要です。
起訴前に示談が成立した場合、被害が回復され被害者が許したと判断されます。
そのため、不起訴処分となり事件が終了する可能性が高まります。不起訴となれば前科もつきません。
逮捕後の拘束期間は13日から23日間にも及びますが、早期に不起訴処分となれば、すぐに身柄を釈放してもらうことも可能です。
起訴後でも執行猶予がつく可能性がある
起訴されてしまった後でも、示談の成立には大きな意味があります。
示談が成立することで、刑務所に収容される実刑判決に執行猶予がついたり、罰金刑になり処分が軽減されたりする可能性が高まります。
執行猶予がつけば、言い渡された期間中に再犯で有罪とならない限り、刑が執行されずに済みます。
被害者も被害の弁済が受けられる
示談は加害者だけでなく被害者にとってもメリットがあります。
示談を行うことで、被害者は裁判を申し立てることなく賠償金を受け取ることができます。
公開の刑事裁判で被害の詳細を知られたくない場合、示談を選択することでそのリスクを回避できます。
刑事事件の示談を弁護士なしで行う問題点
示談は、弁護士に依頼せずご自身で行うことも可能です。
ただし、弁護士に任せるより時間がかかり、以下のような問題点により難航するケースがあります。
- 捜査機関が被害者の連絡先を教えてくれない
- 被害者が示談に応じない
- 示談金が不当に高額となる
- 適切な内容の示談書が作成できない
捜査機関が被害者の連絡先を教えてくれない
示談交渉を始めるには、被害者の連絡先を知る必要があります。被害者が知人でない限り、加害者は被害者の連絡先を知りません。
警察や検察から連絡先を確認しようとしても、加害者が被害者に接触し危害を加えることを避けるため、捜査機関は加害者に被害者の個人情報を提供したり、示談を仲介したりすることはありません。
相手の連絡先がわからなければ、示談交渉は進められません。
加害者が逮捕・勾留されている場合は、そもそも自身で示談交渉を申し入れることもできないでしょう。
被害者が示談に応じない
被害者は、加害者と直接連絡を取る事には警戒します。
加害者側から無理に示談を迫れば、被害者が恐怖を覚えて、脅迫や強要として警察に通報するリスクがあります。
時間をかけたとしても、双方ともに冷静に対応するのは難しいでしょう。
被害者が知人であり、犯罪も軽微なものであれば、直接示談できるケースもありますが、多くの場合は、加害者と直接示談交渉をしてくれるケースは稀です。
示談金が不当に高額となる
刑事事件における示談金の額に明確な基準はありません。被害者と加害者の合意により決定します。
金額を構成する要素には、以下のようなものがあります。特に被害者の処罰感情により、弁護士を介するより高くなる傾向があります。
- 犯罪の種類
- 被害の程度
- 被害者の処罰感情
- 加害者の資力
示談においては、加害者は弱い立場にあります。被害者から不当に高額な示談金を請求されることも考えられます。
弁護士なしで直接示談交渉を行えば、被害者が脅迫されたと訴えて、他のトラブルに発展するおそれもあります。
適切な内容の示談書が作成できない
示談成立後は、示談内容を明確にするために示談書を作成します。示談書は示談が成立した証拠となり、後のトラブルを防ぐ役割を果たします。
しかし、適切な内容の示談書が作成できないと、以下のような問題が発生する可能性があります。
- 示談が成立したのに被害届を提出されたり、刑事告訴されたりした
- 清算条項がないために、示談金支払い後に追加で示談金を請求される
- 宥恕条項がないために、示談が成立したのに被害者が許してないと判断される
- 守秘義務条項がないために示談内容が外部に漏れた など
法的に有効な示談書を作成し、検察や裁判官に提出することで、示談が適切に評価されます。
刑事事件の示談を弁護士に依頼するメリット
一方で、弁護士を通じて示談交渉を行えば以下のようなさまざまなメリットがあります。
- 迅速な解決が目指せる
- 適切な金額で示談できる
- 被害者の心情に配慮した交渉ができる
- 示談後のトラブルを回避できる
- 示談が成立しない場合の対応も任せられる
迅速な解決が目指せる
弁護士は、捜査機関に問い合わせを行い、被害者から承諾が得られれば、氏名や住所、連絡先といった個人情報を取得することが可能です。
その後、被害者と直接接触し、示談を申し入れることができます。
示談交渉で重要なのは交渉のタイミングです。示談交渉が早すぎると反省していない、遅いと誠意が感じられないと思われることも考えられます。
示談交渉を多く経験している弁護士に依頼することで、犯罪の種類や被害状況を踏まえ、示談交渉のタイミングを見極め迅速な解決を目指せます。
結果、起訴される前に示談が成立し、前科を避けられる可能性があります。
適切な金額で示談できる
弁護士なしで示談交渉を行うと、被害者から提示された金額が適切かどうか判断するのは難しいでしょう。
弁護士ならば、これまでの経験から、適切な金額で示談交渉をまとめられます。
建設的な交渉を行うことができ、高額な示談金で示談してしまうこともありません。
被害者の心情に配慮した交渉ができる
示談交渉を行う際には、被害者の心情に十分配慮することが不可欠です。
誠意ある謝罪を示さずに示談を申し入れると、被害者を傷つけ、お金で事件をもみ消そうとしていると思われかねません。
特に、性犯罪や大けがを負った事件では、被害者が怒りから示談に応じないこともあります。
弁護士であれば、被害者の心情に十分配慮を行い、粘り強く交渉を行ってくれます。
示談後のトラブルを回避できる
弁護士は、民事や刑事の訴訟リスクも把握しています。
適切な示談書を作成し、事件について今後一切の関係を清算することを明記することで、示談後の紛争の蒸し返しなどのトラブルを回避できます。
示談が成立しない場合の対応も任せられる
被害者への謝罪を尽くしても示談が成立しないことはあります。しかし、弁護士であれば、示談が成立しない場合の対応も熟知しています。
例えば、以下のような対応を行うことも考えられます。
- 供託制度を利用して、示談が成立したように扱ってもらう
- 示談の経緯をまとめて、示談に努めたことがわかる報告書を検察に提出する
- 贖罪寄付を行い反省を示す など
弁護士に依頼した場合の示談交渉の流れ
示談交渉を弁護士に依頼した場合の流れは以下のとおりです。
- 被害者の連絡先を捜査機関に確認する
- 謝罪の申し入れ
- 示談の申し入れ
- 示談書を作成する
- 示談金を被害者に支払う
- 示談書を検察・裁判所に提出
示談は捜査機関を通じて、被害者の許可を得て申し入れを行います。
まず、被害者に誠意ある謝罪をし、示談の意味や弁護士の役割を説明して、被害者が恐怖を感じないよう配慮します。
その後、示談の条件や内容、示談金について話し合いを行います。
合意した内容で示談書を作成し署名・押印後、弁護士を通じて被害者に示談金を支払います。そして、示談書のコピーを検察や裁判所に提出して、示談は終了です。
示談を依頼する際にかかる費用
示談を依頼した場合の弁護士費用相場
示談を弁護士に依頼した場合、被害者に支払う示談金とは別に、弁護士費用がかかります。
一般的には、着手金30~50万円、成功報酬30~50万円の合計60~100万円が多いです。
費用は、被疑者が罪を認めている自白事件か、否認事件かによっても異なります。
刑事事件の弁護士費用に明確な基準はなく、法律事務所ごとに事件の内容に応じて決まります。
中には示談交渉のみを受ける法律事務所もありますが、刑事事件の解決まで依頼した方が、示談が不成立となった場合でも安心です。
事件として逮捕された場合は、勾留段階で国選弁護人を選任してもらうこともできます。
ただし、国選弁護人が選任されるのは逮捕から72時間後のため、早急に状況を把握し示談を申し入れたい場合は、家族が弁護士を探して依頼した方が早いでしょう。
示談金の相場
犯罪ごとのおおよその示談金の相場は以下のとおりです。
- 暴行事件:10~30万円
- 傷害事件:10~100万円
- 痴漢事件:20~100万円
- 不同意わいせつ:30~200万円
- 不同意性交:100~200万円
- 盗撮事件:10~50万円
- 窃盗や詐欺:被害額+20万円
- 強盗事件:被害額+50万円
実際の示談金は治療費や休業補償、精神的苦痛に対する慰謝料などを含むため、上記の相場で一律に決まるわけではありません。
各事件の内容や被害者の処罰感情、加害者の社会的地位や経済状況によっても大きく異なります。
【ネクスパート法律事務所】示談交渉の成功事例
当事務所がこれまでに示談交渉を行い、示談を獲得した例をご紹介します。
準強姦事件で不起訴となった事例
過去に準強制性交で逮捕された事案の示談のご依頼を受けました。依頼者は以前、飲酒による痴漢でご依頼されており、アルコール依存症の治療中でした。
依頼者からは、現在の職場での継続勤務や前科の回避を希望されました。
まず、勤務先の上司と連絡を取り、刑事処分が決定するまで解雇などの懲戒処分をしないよう丁寧にお願いしました。
被害者との示談が難しく、示談が成立しても起訴される可能性がある事案でした。
しかし、依頼者が更生に努めていたことや家族の協力、示談成立が功を奏し、不起訴となりました。
勤務先の上司にも解雇しないようお願いしていたため、逮捕後も同じ会社で働くことができました。
盗撮事件で不起訴処分となった事例
通勤中の電車内で未成年者のスカート内を盗撮した事案です。被害者が未成年者であったため、親権者に連絡を取りましたが、親権者の怒りは非常に強い状況でした。
そのため、少し時間をおいてから示談を申し入れ、粘り強く交渉を重ねた結果、親権者と示談を交わすことができました。
依頼者は以前にも同様の盗撮事件を起こしており、起訴される可能性があったため、性犯罪治療の専門クリニックを紹介しました。
受診の結果、のぞき見などの衝動を抑えられない窃視症と診断されたため、通院治療を継続することになり、医師の意見書を提出したことで不起訴となりました。
暴行事件(建造物等侵入・東京都迷惑防止条例違反被疑事件)で執行猶予
依頼者は、被害者の自宅に侵入し、6万円を奪った罪で逮捕されました。
弁護士は勾留請求却下を求める意見書を提出し、開示請求を行いましたが、認められませんでした。
その後の調査で被害者の連絡先が判明したため、弁護士が示談交渉を開始しました。
勾留満期前に示談が成立しましたが、不起訴処分には至らず起訴されました。しかし、起訴後に示談成立が重視され、執行猶予判決を獲得しました。
財産事件(横領罪)
依頼者は勤務先から1回につき数千円から1万円くらいの金額を約5年にわたり横領していました。
勤務先には、弁護士が依頼をうけた経緯や詳しい状況をお伝えしたい旨を書面にて送付し、被害金額が確定した段階で勤務先と示談を交わしました。結果として被害届は出されず、刑事処分手続を免れました。
当事務所が示談交渉をする際に心がけている3つのこと
被害者は、事件発生によってこれまでの平穏な日常が奪われたのですから、ご不安やお怒りの気持ちになるのは当然です。
当事務所が示談交渉をまとめるために心がけている点は以下の3つです。
- 被害者の心情を推し量り真摯に対応する
- 依頼者に寄り添い、再犯防止についても一緒に考える
- 被害者の要望を踏まえ、依頼者の要望に近づけるよう交渉する
被害者の心情を推し量り真摯に対応する
被害者側からすれば、示談はお金による解決のため、加害者側にとって都合の良い話を持ち掛けられていると感じる方もいらっしゃいます。
被害者の心情を推し量り、弁護士から押し付けられていると感じないように、真摯に対応します。
依頼者に寄り添い、再犯防止についても一緒に考える
被害者が示談を受け入れ、被害届を取り下げても、それによって犯した罪がなくなるわけではありません。
加害者の反省を一過性のものにしないよう、以下のことを心がけています。
- 加害者に内省を促す
- 具体的な再犯防止策を提案する
- 法的なアドバイスをする
被害者の要望を踏まえ、依頼者の要望に近づけるよう交渉する
被害者、および加害者両方の要望を聞き、それぞれの要望に近づけるように検討します。
被害者の中には、弁護士を介しても被害届は取り下げない方もいらっしゃいます。その場合は、宥恕文言を入れていただけるよう、誠実に対応します。
一方で、加害者がやっていない事、本来責任を負うべきでない事柄については、法律家として被害者の感情を害さないように説明し、交渉します。
弁護士に示談を依頼する際によくある質問
被害者から示談を持ちかけられたが応じるべき?
被害者と面識がある場合、被害者から示談を持ちかけられることもあります。
ただし、被害者との示談交渉は、弁護士を通じて行う方が安心です。
被害者と加害者が直接示談交渉を行うと、適切な示談金や示談内容で合意ができなかったり、他のトラブルに発展して不利な状況となったりするおそれがあります。
被害者から示談を持ちかけられた場合は、弁護士に相談してください。
加害者本人から示談を持ちかけられたがどうしたらいい?
加害者本人から示談を持ちかけられた場合も、トラブル防止のために弁護士に相談してから判断すべきです。
場合によっては、示談に応じるよう、あるいは被害届を取り下げるように、加害者から脅迫されることもあるかもしれません。
加害者が弁護士を通じて示談を申し入れた場合は、弁護士の話を聞いた上で判断すれば問題ありません。
被害者にとって、示談をするメリットとデメリットは以下の通りです。
メリット | 裁判をせずに治療費や慰謝料を支払ってもらえる
交渉の場合は相場に縛られずに示談できる 接触禁止など柔軟な示談条件を設定できる |
デメリット | 加害者の刑事処分が軽くなる |
被害者には、示談に応じる、あるいは拒否をする自由があります。自分の気持ちや弁護士の提案などを考慮して検討しましょう。
弁護士が示談交渉に失敗することはある?
示談は当事者間の交渉であるため、双方が納得して了承しなければ成立しません。
そのため、弁護士が交渉を行っても、被害者が示談を拒否すれば成立しないこともあります。
しかし、刑事事件の実績や示談の経験が豊富な弁護士であれば、他の対処を行いサポートしてくれます。
まとめ
示談交渉を進めるには、被害者の心情を十分に思いやることが不可欠です。弁護士が間に入ることで、被害者に警戒心を与えずに、誠意ある謝罪を伝えられます。
示談が成立したからといって、犯罪の事実がなくなるわけではありませんが、刑罰を軽減できる可能性があります。
刑事事件は処分が決定するまで時間との戦いです。弁護士ならば、事案ごとの交渉のタイミングも適切に見極めることができます。
示談交渉の経験や実績のある弁護士をお探しの方は、ネクスパート法律事務所にご相談ください。