執行猶予とは?執行猶予獲得に必要な知識をわかりやすく解説

ニュースなどで、懲役〇年執行猶予△年という判決を聞くことがあると思います。懲役とは違い、執行猶予のイメージがわかないのではないでしょうか?

この記事では、執行猶予とはどのようなものなのか、言い渡されるとどのような効果があるのかについてわかりやすく解説します。

執行猶予とは?意味をわかりやすく解説

執行猶予とは、わかりやすく解説すると以下のとおりです。

  • 判決で〇年の懲役刑を言い渡される
  • △年の間は懲役刑の執行を猶予する(刑務所に行かないで済む)
  • △年の間に再び罪を犯して懲役や禁錮処分を受けることが無ければ、〇年の懲役刑は無かったことにする

執行猶予になると、懲役や禁固処分で実際に刑務所に収監されることなく日常生活が可能です。

執行猶予制度の目的

執行猶予制度の目的は、加害者の自覚に基づく改善・更生を図り、加害者に社会復帰する機会を与えることです。

軽微な罪を犯したが、加害者が十分に反省し今後は罪を犯さないことを心に誓っているような場合には、刑の執行をする必要がありません。

また、このような加害者まで一律に刑務所に入れてしまい、出所後の社会復帰が困難になった場合、再度犯罪を行う可能性も考えられます。

執行猶予制度は、このような事態の回避を目的としています。

実刑判決との違い

実刑判決を受けるとただちに刑務所に収監されますが、有罪判決であっても執行猶予が付された場合、刑務所に行くことなく釈放されます。

執行猶予期間中に別の犯罪を起こさないまま期間を満了できれば、刑の執行が免除されます。

有罪ではあっても刑務所に行かなくて済むため、執行猶予期間中も通常の日常生活を送れます。住居の変更や旅行も自由にできます。

全部執行猶予と一部執行猶予の違い

執行猶予には、刑の全部の執行猶予と、刑の一部の執行猶予があります。以下、説明します。

全部執行猶予とは

全部執行猶予とは、執行猶予期間を満了すれば刑の全部について免除される制度です。執行猶予期間は1年から5年の範囲で、裁判所が決定します。

例えば、「懲役3年執行猶予5年」の場合には、犯罪を行わずに5年間が経過すれば、懲役3年という刑が全部免除されます。

一部執行猶予とは

一部執行猶予とは、2016年6月1日に施行された改正刑法によって新たに設けられた制度です。刑期の一部だけの執行の猶予を可能とする制度であり、刑法第27条の2に規定されています。

一部執行猶予判決の場合、主文は例えば、次のようになります。

被告人を懲役2年に処する。その刑の一部である懲役6月の執行を2年間猶予する。

この場合には1年半の懲役刑を受けた後で、残りの6カ月の懲役刑に対しては2年間刑の執行が猶予されます。

実刑相当とされる事案で、一定の期間(執行猶予期間)社会内処遇をすることにより、今までの仮釈放制度では成しえなかった再犯防止、改善更生を図る新しい制度です。

仮釈放制度で釈放された場合には、残りの刑期の間だけ保護観察に付することが出来ますが、保護観察に付する期間が短いため、社会内処遇の実が十分にあがらないことが指摘されていました。

今まで全部実刑相当だった被告人のうち、一部執行猶予にしたほうが更生に資すると裁判所が判断した場合に一部執行猶予の言い渡しがされます。

執行猶予の期間

執行猶予の期間は、1年~5年と定められています。過去の裁判例から、執行猶予の期間は懲役刑の1.5倍~2倍でつけられることが多いです。

執行猶予になっても前科は残る

執行猶予は有罪であることが前提として言い渡される刑です。従って、執行猶予になっても前科はつきます

執行猶予になった場合のメリット

執行猶予が付された場合のメリットについてお伝えします。

釈放される

被告人が保釈されずに勾留が続いていた場合、裁判所で執行猶予付き判決が言い渡されるとその場で釈放されます。刑務所に入る必要はありません。

通常の日常生活を送れる

執行猶予付き判決が言い渡された場合、その日のうちに釈放されるので、通常の日常生活を送れます。基本的に普段通りの生活をしてかまいません。引越しや旅行なども行えます。

刑罰権が消滅する

罪を犯すことなく猶予期間を経過した場合には刑罰権が消滅し、その事件で刑務所に入ることはなくなります。

執行猶予中に就職はできる

執行猶予中に再犯をしない限りは通常の生活を送れるので、就職も問題なくできます。

また、執行猶予によって、取締役等の資格や職種の制限を受けなくて済む場合が出てきます。

ただし、国家公務員などの一部の職業は猶予期間が満了するまでは就職できません。

執行猶予が認められる条件とは

どのような犯罪であっても執行猶予が認められるわけではありません。執行猶予が認められる条件は刑法第25条から第27条に規定されています。

  • 最初の執行猶予
  • 再度の執行猶予

それぞれみていきましょう。

最初の執行猶予

最初の執行猶予を受けるための条件は、以下3つです。

  • 言渡しを受ける刑(宣告刑)が3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金であること
  • 判決前に禁錮以上(死刑、懲役)の刑に処せられたことがない、あるいは処せられたことがあっても服役が終わった日から5年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがないこと
  • 情状に酌量すべき点があること

まず、そもそも「3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金」の判決を受けることができない殺人罪、放火罪などの重大犯罪では、動機によほどの酌量すべき事由がない限り執行猶予が認められません。

「禁錮以上(死刑、懲役)の刑に処せられたことがない、あるいは処せられたことがあっても服役が終わった日から5年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない」に該当するのは、以下の人です。

  • 初犯の人
  • 判決前の前科が罰金刑以下である人
  • 前科を有しているものの執行猶予期間が経過した人
  • 服役した(禁固刑の執行を受けた)ものの、服役が終わった日から5年が経過し、その間禁錮以上の刑に処せられたことがない人(刑務所に服役してない人、執行猶予付き判決を受けたことがない人)

これらに該当すれば執行猶予が認められます。

再度の執行猶予(執行猶予中の再犯)

再度の執行猶予を受けるための条件は、以下の通りです。

  • 言渡しを受ける刑(宣告刑)が1年以下の懲役又は禁錮であること
  • 前刑の全部の執行猶予を受けたこと
  • 情状に「特に」酌量すべき点があること
  • 前の罪の執行猶予で保護観察に付されていなかったこと

再度の執行猶予は判決時に執行猶予中ある方が、再び判決で執行猶予を受けることがポイントです。

今回の判決時に執行猶予中ではない場合には、再度の執行猶予ではなく、最初の執行猶予の適用を受けます。

再度の執行猶予のハードルは最初の執行猶予に比べて高いです。

まず、最初の執行猶予では3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金だったのが、1年以下の懲役又は禁錮となっています。

また、情状に特に酌量すべき点があることとされています。

情状には、犯罪そのものに関する情状(犯情)と、犯情以外の一般情状があります。

犯情

  • 犯行態様
  • 犯行の計画性
  • 犯行の動機
  • 犯行の結果

一般情状

  • 被告人の年齢、性格
  • 被告人の反省の程度
  • 被害弁償、示談成立の有無
  • 更生可能性
  • 再犯可能性

再度の執行猶予を獲得するには、一般情状の立証において、証拠の提出および尋問をし、社会内更生が許されていながら罪を犯してしまったにもかかわらず、なぜまた社会内更生が適当なのか、裁判官を納得させる効果的なアピールをする必要があります。

特に、更生可能性の有無、再犯可能性の有無に関する立証は極めて重要です。

なお、再度の執行猶予の場合は、必ず保護観察に付され、再度の執行猶予期間中に罪を犯した場合は必ず実刑になります。

執行猶予が取り消されてしまう行為とは?

執行猶予が付されて社会復帰したとしても、執行猶予が取り消されてしまうことがあります。どのようなことをすると執行猶予が取り消されてしまうのか、解説します。

執行猶予の必要的取消し

刑法第26条および第27条の4には、執行猶予の必要的取消しについて規定されています。必要的取消とは、執行猶予が必ず取り消される場合をいいます。

(刑の全部の執行猶予の必要的取消し)

第二十六条 次に掲げる場合においては、刑の全部の執行猶予の言渡しを取り消さなければならない。ただし、第三号の場合において、猶予の言渡しを受けた者が第二十五条第一項第二号に掲げる者であるとき、又は次条第三号に該当するときは、この限りでない。

一 猶予の期間内に更に罪を犯して禁錮以上の刑に処せられ、その刑の全部について執行猶予の言渡しがないとき。

二 猶予の言渡し前に犯した他の罪について禁錮以上の刑に処せられ、その刑の全部について執行猶予の言渡しがないとき。

三 猶予の言渡し前に他の罪について禁錮以上の刑に処せられたことが発覚したとき。

第二十七条の四 次に掲げる場合においては、刑の一部の執行猶予の言渡しを取り消さなければならない。ただし、第三号の場合において、猶予の言渡しを受けた者が第二十七条の二第一項第三号に掲げる者であるときは、この限りでない。

一 猶予の言渡し後に更に罪を犯し、禁錮以上の刑に処せられたとき。

二 猶予の言渡し前に犯した他の罪について禁錮以上の刑に処せられたとき。

三 猶予の言渡し前に他の罪について禁錮以上の刑に処せられ、その刑の全部について執行猶予の言渡しがないことが発覚したとき。

引用元:e-GOV法令検索

 

つまり、執行猶予中に、あるいは執行猶予の言渡し前に、禁錮以上の犯罪を行い実刑判決の言い渡しがあった時には、当初の執行猶予が取り消されます。

執行猶予が言い渡される前に、他の罪で禁錮以上の刑に処せられたことが発覚したときには執行猶予が取り消されます。ただし、前の禁錮以上の刑の執行が終わった日またはその執行の免除を得た日から5年以内に禁錮以上の刑に処せられたことが無い場合等には、取り消されません。

執行猶予の裁量的取消し

執行猶予の裁量的取消しとは、裁判所の判断によって執行猶予が取り消される可能性がある場合をいいます。刑法第26条の2および第27条の5には、執行猶予の裁量的取消しについて規定しています。

(刑の全部の執行猶予の裁量的取消し)

第二十六条の二 次に掲げる場合においては、刑の全部の執行猶予の言渡しを取り消すことができる。

一 猶予の期間内に更に罪を犯し、罰金に処せられたとき。

二 第二十五条の二第一項の規定により保護観察に付せられた者が遵守すべき事項を遵守せず、その情状が重いとき。

三 猶予の言渡し前に他の罪について禁錮以上の刑に処せられ、その刑の全部の執行を猶予されたことが発覚したとき。

(刑の一部の執行猶予の裁量的取消し)

第二十七条の五 次に掲げる場合においては、刑の一部の執行猶予の言渡しを取り消すことができる。

一 猶予の言渡し後に更に罪を犯し、罰金に処せられたとき。

二 第二十七条の三第一項の規定により保護観察に付せられた者が遵守すべき事項を遵守しなかったとき。

引用元:e-GOV法令検索

罰金刑を科されやすいのは交通違反などです。執行猶予中は交通ルールを守りましょう。

執行猶予が取り消されてしまった場合

執行猶予が取り消されてしまうと、判決で言い渡された刑罰がただちに執行されます。

最初に言い渡しを受けた刑と、新たに犯した犯罪に対する実刑判決がある場合、その両方を足した刑に服さなければなりません。

例えば、懲役1年、執行猶予3年の判決を受け、その執行猶予中に新たな犯罪を行い懲役2年6月の実刑判決を受けた場合には、新たに犯した罪の懲役2年6月の服役に続き執行猶予が取り消された懲役1年の刑に服さなければなりません。

なお、再度の執行猶予期間中に罪を犯した場合は必ず実刑が科されます。

執行猶予を獲得するためにできること

執行猶予を獲得することができるかどうかは、刑務所に入るか、あるいは日常生活を送ることができるかの分かれ目です。

ここでは、執行猶予を獲得するためにできることを解説します。

執行猶予獲得のためのポイント(2つ)

執行猶予を獲得するためのポイントは以下の2つです。

  • 全部執行猶予・一部執行猶予の要件を満たしていること
  • 裁判官に、執行猶予とすべき事情を積極的に主張していくこと

そもそも執行猶予を獲得するためには前提条件があります。それが前述した、全部執行猶予・一部執行猶予の要件を満たしていることです。

それに加えて、執行猶予とすべき事情を裁判官に対して積極的に主張していくことが重要です。執行猶予をつけるかどうかは、裁判官の裁量にゆだねられます。

裁判で主となる情状立証によっていかに裁判官に実社会生活を送る中で更生できると思わせることができるかが執行猶予を獲得するための鍵となります。

執行猶予を獲得するためにできること

執行猶予とすべき事情には、犯行後の事情も含まれます。執行猶予を獲得するために、犯行後に被告ができることについてお伝えします。

深く反省する

執行猶予の獲得を目指すということは、犯した罪を認めるということが前提です。犯した罪を認めた上で、自らが行った罪を深く反省している態度を示すことが必要です。

身内の人に監督をしてもらう

執行猶予判決を得たあとどのような生活を送るか、再犯防止の見通しを伝えて、裁判官に納得してもらうことが必要です。

そこで、家族に監督してもらうこと、つまり、家族と同居している場合には同居の家族の監督の強化を、1人暮らしの場合には、実家に戻って両親に監督してもらいながら生活を送るなど、環境を整え再犯のおそれがないことを主張していくことも重要です。

被害者と示談する

量刑判断には、被害者の処罰感情も影響します。被害者がいる場合には、被害者に謝罪し、被害の弁償をしましょう。示談が成立すれば執行猶予を獲得できる可能性が高くなります。

まとめ

執行猶予は、有罪ではあるものの情状に酌量すべき点があることから刑の執行を一定期間猶予し、一定期間を経過した後はその刑に服さなくてもよいという制度です。

執行猶予を獲得できれば刑務所に行かずに、通常の社会生活を送れます。

有罪であることを認めるため、いかなる立証をしていくか弁護士とよく相談して決める必要があります。

執行猶予を獲得したい場合には、早期に弁護士に依頼し、裁判の準備をすることをお勧めします。

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