傷害致死罪とは|量刑の平均や執行猶予はつく?殺人との違い

傷害致死罪とは、人を負傷させ、その結果として相手を死亡させた場合に成立する犯罪です。

自分から積極的に暴行を加えたケースから、正当防衛などやむを得ずにした行為で相手が亡くなったようなケースなどさまざまな状況が考えられます。

また、人を死亡させる結果だけ見ると、殺人とどう違うのだろうかと疑問に思う人もいるでしょう。

この記事では次の点について解説します。

  • 傷害致死罪の概要や時効、傷害致死罪になるケース
  • 傷害致死と殺人、過失致死傷との違い
  • 傷害致死の判例や量刑、執行猶予について

もし家族が傷害致死罪などで逮捕されてしまった場合は、状況や供述などから重い処分が下される可能性もあるため、迷わず弁護士に相談してください。

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傷害致死罪とは

ここでは、傷害致死罪の法定刑や時効を解説します。

傷害致死罪の法定刑

傷害致死罪の法定刑は3年以上の有期懲役です。有期懲役の上限は20年なので、最長で20年刑務所に収容されることになります。

(傷害致死)
第二百五条 身体を傷害し、よって人を死亡させた者は、三年以上の有期懲役に処する。
引用:刑法第205条 – e-Gov

傷害致死罪の時効

傷害致死罪の時効は犯罪行為、つまり被害者が亡くなった時点から20年です。

第二百五十条 時効は、人を死亡させた罪であつて禁錮以上の刑に当たるもの(死刑に当たるものを除く。)については、次に掲げる期間を経過することによつて完成する。
一 無期の懲役又は禁錮に当たる罪については三十年
二 長期二十年の懲役又は禁錮に当たる罪については二十年
三 前二号に掲げる罪以外の罪については十年
引用:刑事訴訟法第250条 – e-Gov

この時効とは、検察が加害者を刑事裁判にかけることができる公訴時効のことを言います。

傷害致死の構成要件

傷害致死罪の構成要件は次のとおりです。

  • 人に傷害を与えたこと
  • 相手の死亡原因と暴行に因果関係があること

ここでは、傷害致死罪の構成要件をわかりやすく解説します。

人に傷害を与えたこと

傷害致死罪が成立する要件の1つは、相手に暴行や傷害を与えたことです。

この傷害とは、人の生理機能に障害を与え、健康状態を悪くさせることを意味します。

例えば、殴った結果、相手を負傷させるなどが当てはまります。

また、犯罪の成立には、罪を犯す意思(故意)が必要です。

では、傷害致死罪の場合は、相手を死に至らしめようとする意思がないと成立しないのかと思うかもしれません。

傷害致死罪は、傷害の末、相手が亡くなったという結果があるため、相手を死に至らしめようという意思がなくても、相手を傷つけてやろうという意思を持って暴行や傷害を与えるだけで成立します。

被害者を死に至らしめた場合は、傷害致死罪が成立し、被害者が負傷した場合は、傷害罪が成立します。

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死亡原因と暴行に因果関係がある

傷害致死罪では、暴行や傷害行為と被害者の死亡原因に因果関係が必要です。

例えば、相手を殴ってケガをさせれば傷害罪が成立します。

そして、殴ったことで相手が転倒して、頭部を強打して死亡したような場合は、暴行と死因に因果関係があるため、傷害致死罪が成立すると考えられます。

一方で、暴行でケガをした相手が、末期がんで死亡したような場合は、暴行と死亡に因果関係は認められません。

傷害致死と殺人の違い

傷害致死は、暴行や傷害の結果、人を死に至らしめた場合に成立しますが、被害者が亡くなったという結果は、殺人罪によく似ています。

結果だけ見ると殺人なのではと考える人もいるかもしれません。

ここでは、傷害致死と殺人の違いをわかりやすく解説します。

殺意の有無

傷害致死と殺人の大きな違いは、殺意があるかどうかです。

傷害致死では、相手をケガさせてやろういう意思を持って暴行をするだけで成立します。

一方で、殺人は殺意を持って、人を死に至らしめる行為をしなければ成立しません。

ここで言う殺意とは、相手を殺してやろうというものだけでなく、相手が死んでも構わないという認識です。

また、殺意を持って犯行に及んだ場合、相手が死亡しなくても殺人未遂罪が成立します。

殺意があるかどうかは主観的な問題であるため、裁判所は次のような客観的な事実を踏まえて、総合的に判断を下します。

  • 凶器を使用したかどうか、凶器の種類や使い方
  • 創傷(身体の表面にできた損傷のこと)の箇所や個数、程度
  • 犯行前後の加害者の言動、犯行時の加害者と被害者の行動
  • 救護措置の有無
  • 加害者の動機

例えば、刃渡りの長い刃物で、胸部や頭部など急所を狙って、執拗に刺したり、刃物を深く突き立てていたりすれば殺意があると判断されやすくなります。

一方で、カッターナイフなどで腕や足を切りつけたような場合は、殺意が認められない可能性があるでしょう。

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法定刑

同様に、人を死亡させた結果は同じですが、傷害致死と殺人では法定刑も全く異なります。

罪名 法定刑
傷害致死罪 3年以上の有期懲役
殺人罪 死刑もしくは無期もしくは5年以上の有期懲役

執行猶予の有無

また、執行猶予がつくかどうかも、傷害致死罪と殺人罪の違いです。

執行猶予がつく条件の1つとして、言い渡された量刑が3年以下の懲役や禁固、または50万円以下の罰金でなければなりません。

そのため、傷害致死罪で3年の懲役を言い渡された場合は、執行猶予がつく可能性があります。

一方で、殺人罪の法定刑は、死刑、無期、有期懲役は5年以上であるため、大幅に減刑されない限り、基本的に執行猶予はつきません。

参考:刑法第25条 – e-Gov

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傷害致死罪と過失致死罪の違い

傷害致死罪とよく似ているのが、過失致死罪です。

ここでは、傷害致死罪と過失致死罪の違いを解説します。

暴行や傷害の故意

傷害致死罪と過失致死罪は名前が似ているように感じるかもしれませんが、全く別の犯罪です。

人が死亡したという結果は同じですが、故意か過失かによって異なります

罪名 成立するケース
傷害致死罪 人を傷害し、その結果相手を死亡させた
過失致死罪 過失により人を死亡させた

相手を傷つけてやろうなどの意思を持って、暴行を働き、結果相手を死亡させた場合に、傷害致死罪が成立します。

一方で、誤ってぶつかった相手が階段から落ちて、頭部を強打して死んでしまったというようなケースが過失致死罪です。

過失致死罪は、悪い結果が起こる可能性を考え、その結果を回避するための義務を怠り、不注意で人を死亡させた場合に成立します。

法定刑

傷害致死罪と過失致死罪の法定刑は次のとおりです。

罪名 法定刑
傷害致死罪 3年以上の有期懲役
過失致死罪 50万円以下の罰金刑

人を死亡させてしまった結果は同じですが、傷害致死罪の場合は、意図的に相手に暴行を加えた末に、死に至らしめているため、重い法定刑が定められています。

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傷害致死罪の判例

ここでは、傷害致死罪の判例を紹介します。

暴行から1か月後に被害者が亡くなり傷害致死罪が認定された事例

借金の返済を巡り、被害者に暴行を働き、1か月後に被害者が死亡した事件では、暴行と死亡の因果関係が争点となりました。

裁判所は次の医学的な判断から、傷害致死罪が成立すると認定しました。

  • 被害者の司法解剖の結果、頭部に血腫が存在し、脳の硬膜と癒着しており、2週間ないし2か月程前に発生したもの
  • 死因となった硬膜下血腫は、左前頭部か右後頭部のいずれかに転倒や殴打による外力が発生したことが考えられるが、統計的に後頭部を損傷した場合の方が多いこと(被害者は後頭部を強打している)
  • 頭部を強打してから日常生活をおくっていたが、硬膜下血腫の症状と矛盾していない など
裁判年月日 昭和58年 4月25日 裁判所名 福岡高裁 裁判区分 判決
事件番号 昭57(う)642号
事件名 傷害致死被告事件
裁判結果 控訴棄却(上告) 文献番号 1983WLJPCA04251007

殺意が否定され傷害致死罪が認定された事例

同居している息子と揉み合いになり、包丁で息子を刺し心臓刺創により死亡させた事件では、殺意が否認され、傷害致死が認定されました。

検察は、身体の枢要部を2度にわたり、相当強い力で鋭利な刃物を突き刺して攻撃したことから、殺意があるとしていました。

裁判所は、次の事実から殺意を否定し、傷害致死を認定しています。

  • 被害者と被告人の体格差や、直前に被告人が被害者から一方的に暴行を受けていたにも関わらず、刃先を向けて攻撃をしなかったこと
  • 暴行の後被害者を追いかけるも、被害者が階段を下りて行ったため、ひとまず自室に戻ったこと
  • これまでの喧嘩でも、包丁を持ち出して被害者を部屋から追い出すなどし、被害者も包丁を持ち出すと怖がって逃げ出すのが通例であったこと
  • 被害者に対して顔面を殴打した傷があり、殺意があるなら凶器を使用していないのが不自然 など
裁判年月日 平成元年10月25日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平元(合わ)54号
事件名 殺人被告事件
文献番号 1989WLJPCA10250005

傷害致死罪に問われた場合

ここでは、傷害致死罪に問われた場合の量刑や執行猶予の傾向などを解説します。

状況などにより罪名が異なる

暴行により、被害者を死亡させたような場合、状況によっては殺人だと判断される可能性があります。

例えば、凶器の種類や使い方、被害者の傷の個数や場所、その前後の行動によって、傷害致死罪から殺人罪に切り替わってしまう可能性もあるのです。

また、取り調べの供述によっては、殺意があったと判断されるおそれもあります。

傷害致死罪であっても重い処分が科されますが、殺人罪では死刑や無期懲役などさらに重い処分が科されることになります。

もし傷害致死に問われた場合は迷わず弁護士に相談して、供述の段階からアドバイスを受けるようにしてください。

量刑の平均は懲役3~10年以下

傷害致死罪の法定刑は3年以上の有期懲役ですが、全ての傷害致死事件で3年以上の懲役と決まるわけではありません。

2020年の司法統計によると、2019年に傷害致死で行われた裁判員裁判で有罪判決を受けたのは41名でした。そのうち言い渡された量刑は次のとおりです。

刑期 人数
20年以下 2名
15年以下 1名
10年以下 9名
7年以下 9名
5年以下 11名
3年 全部執行猶予 8名
実刑 1名

参考:47  通常第一審事件のうち裁判員裁判による有罪(懲役・禁錮)人員  罪名別刑期区分別  全地方裁判所 – 司法統計

2019年のデータをもとにすると傷害致死の量刑は3~10年以下が多いことがわかります。

量刑は次の事情を考慮して決定されます。

  • 凶器の有無や暴行の回数、計画性
  • 被害者との示談
  • 被告人の反省の有無
  • 被告人の前科前歴の有無 など

執行猶予がつく可能性がある

傷害致死罪の場合は、法定刑が3年以上の有期懲役であるため、執行猶予がつく可能性があります。

執行猶予がつく条件は次のとおりです。

  • 前に禁固以上の刑に処されたことがない
  • 前に禁固以上の刑に処された場合、服役期間や執行猶予の期間から5年以上経過しているとき
  • 言い渡された量刑が3年以下の懲役や禁固、または50万円以下の罰金であるとき
  • 前に禁固以上の刑に処され、その刑の全部の執行を猶予された者が1年以下の懲役、禁固刑を言い渡されたとき

参考:刑法第25条 – e-Gov

もっとも、これに当てはまったからといって必ず執行猶予がつくわけではありません。

他にも、被害者に日常的に暴力を受けており、反撃したことで被害者が死亡したなどの事情(情状)を考慮して執行猶予をつけるべきかどうか判断されます。

これらは一例ですが、傷害致死に至る過程や状況などが考慮されれば、執行猶予がつく可能性があります。

被害者遺族との示談は困難

被害者のいる犯罪では、示談をすることが重要です。

示談をすると、被害者に謝罪をし、被害の回復に努めたとして、刑事処分に有利に働く可能性が高いからです。

また、被害者からしても、被害に対して慰謝料などを受け取れるメリットがあります。

ただし、傷害致死罪の場合、被害者遺族の処罰感情は大きいものがあり、当然ながら示談交渉が困難であることがほとんどです。

加害者側から直接交渉すること自体が難しいため、弁護士に相談してください。

第三者である弁護士から、被害者の感情に配慮しつつ、謝罪を伝えてもらうことができます。

仮に示談ができなかった場合でも、真摯に対応したことを検察や裁判所に伝える、あるいは、示談金を法務局に預けることで示談と同じ効果を得る方法もあります。

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民事的な責任を問われる可能性がある

民法には、人の権利を侵害して損害を与えた場合、加害者はその被害を回復する責任を負うと定められています(民法709条)。

人を死に至らしめる結果になってしまった場合、民法上でも金銭を支払うことでしか償うことができません。

そのため、示談が成立すれば、民事的な責任も果たしたと判断されます。

もし遺族が示談を拒否して、賠償ができなかった場合は、遺族側から民事訴訟で損害賠償請求を受ける可能性があります。

傷害致死でよくある質問

ここでは、傷害致死でよくある質問に回答します。

傷害致死で懲役になることはある?

執行猶予がつくには、言い渡された量刑が3年以下の懲役や禁固、または50万円以下の罰金であるときでなければなりません。

傷害致死罪の法定刑は3年以上の有期懲役であるため、言い渡された量刑が3年であれば執行猶予がつく可能性があります。

2020年の司法統計によると、傷害致死の裁判員裁判で、執行猶予が付いた割合は19%でした。

参考:47  通常第一審事件のうち裁判員裁判による有罪(懲役・禁錮)人員  罪名別刑期区分別  全地方裁判所 – 司法統計

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喧嘩で傷害致死になった場合正当防衛になる?

喧嘩の末に、相手が亡くなった場合、正当防衛かどうかはその状況によって判断されます。

正当防衛が成立するには、次の要件を全て満たさなければなりません。

急迫性 身体や財産など守るべきものが侵害される危険が間近に迫っている状態であったこと
不正の侵害に対する防御 法律で保護されるべき生命、身体、財産などに対して相手が行った侵害行為に対する防御であること
防衛の意思 客観的状況から、防御の意思があった
防衛行為の必要性 自己や他人を守るためにやむを得ず行ったこと

他にとれる手段がなかったこと

相当性 防衛の範囲がやり過ぎていないこと。自己や他人の権利を守るにとどめる程度であった

例えば危険が差し迫り、他に助けを呼ぶ手段などがなく、やむを得ず相手の暴行に対して反撃をしたような場合は正当防衛と判断されるかもしれません。

一方で、相手が暴行をやめたのに殴りかかったり、素手の相手に対して凶器を持って執拗に殴りかかったりすれば、正当防衛という主張は通らない可能性があるでしょう。

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傷害致死で勾留、保釈してもらえる?

刑事裁判になる段階でも勾留されている場合、保釈金を払うことで身柄を解放してもらえるのが保釈制度です。

保釈が認められるには、犯した罪の法定刑が死刑または無期、もしくは1年以上の懲役もしくは禁固にあたらないときなどの条件があります。

傷害致死の場合は法定刑が最低でも3年以上であり、保釈が認められる罪名ではないため、起訴後に勾留された場合、保釈を認めてもらうことはできません

早い段階で弁護士に相談して、身柄を解放してもらうか、刑事裁判にならないよう不起訴を目指すことが大切です。

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まとめ

傷害致死罪は、懲役刑しか定められておらず、重い処分が下される可能性があります。

理由はどうであれ、人を死に至らしめてしまった結果は重大であるため、可能な限り謝罪を尽くし反省することが重要です。

しかし、状況によっては殺人だと判断されるケースもあるため、家族が逮捕されてしまった場合は迷わず弁護士に相談してください。

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