更新日:2021年5月28日 (金)
公開日:2020年10月23日 (金)
正当防衛の成立要件とは?法律上の定義や注意点を解説
サマリー
日常生活の中で「正当防衛」という言葉を耳にする機会は多いですが、法律上で認められる要件には厳格な基準が設けられています。
身を守るための行為であっても、どのような状況であれば罪に問われないのか、気になる方も多いのではないでしょうか。
法律上の正当防衛は、相手からの違法な加害行為に対してやむを得ず行われた反撃であるかなどが慎重に判断されます。
この記事では、正当防衛が認められるための法律上の要件や判断基準、主張する際の手続き上の注意点について解説します。
正当防衛とは?法律上の基本的な定義

「正当防衛」という言葉は、普段の会話やニュースなどでも耳にすることが多い身近な表現です。
日常会話の中では、からかいに対するちょっとした言い返しや軽い抵抗など、冗談交じりに使われるケースも珍しくありません。
しかし、法律上で扱われる正当防衛は、日常用語としてのニュアンスとは大きく異なり、厳格な条件のもとで適用される法的な概念です。
どのような行為であっても身を守るためであれば許されるわけではなく、法律に基づいた客観的な基準によって判断されます。
刑法第36条第1項において、正当防衛は「急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為」と定義されています。
現在進行形または直前に迫った違法な攻撃から権利を守るための行為を指します。
正当防衛が法的に認められた場合、その行為は処罰の対象となりません。
通常、他人に暴行を加えたり怪我を負わせたりした場合は、暴行罪や傷害罪などの犯罪が成立します。
しかし、正当防衛に該当する行為は、法秩序全体から見て正当なものとして扱われ、違法性が否定されます。
このように、形式的には犯罪の構成要件に当てはまる行為であっても、例外的にその違法性をなくす事由のことを法律上「違法性阻却事由(いほうせいそきゃくじゆう)」と呼びます。
正当防衛は、この違法性阻却事由の代表的な類型の一つです。
正当防衛が認められるための主な要件
正当防衛が成立するためには、法律上定められた複数の条件を満たす必要があります。
その中でも根幹となるのが「急迫不正の侵害」が存在することと、「自己又は他人の権利を防衛するため」という防衛の意思です。
急迫不正の侵害とは
「急迫」とは、権利に対する侵害が現在まさに発生しているか、あるいは間近に迫っている状態を指します。
したがって、過去に暴行を受けたことへの仕返しとして後から殴り返すような行為は、侵害が過去のものとなっているため急迫性が認められません。
また、将来受けるかもしれない攻撃に備えて先制攻撃を行うような場合も、差し迫った侵害とはみなされないのが一般的です。
一方、「不正の侵害」とは違法な加害行為を意味します。
生命、身体、財産などに対する違法な侵害が対象となり、相手の行動に対して単に不快感を覚えたという程度では不正の侵害には該当しません。
自己又は他人の権利を防衛するための意思
正当防衛は、自分自身の身や権利を守る場合だけでなく、他人の権利を防衛するために反撃を行った場合にも成立する余地があります。
たとえば、見知らぬ第三者が不当な暴力を受けている現場に居合わせ、その人を助けるために介入するケースなどが挙げられます。
さらに、行為の際に「防衛の意思」があったかどうかも重要な判断要素です。
防衛の意思は、本人の主観的な主張のみで決まるのではなく、当時の客観的な状況や言動などを総合的に考慮して判断されます。
相手から攻撃を受けたことを口実として、専ら相手に危害を加える意図で反撃を行った場合には、防衛の意思が認められない可能性があります。
「やむを得ずにした行為」における必要性と相当性の判断
刑法上の正当防衛が成立するためには、行われた反撃が「やむを得ずにした行為」であると評価される必要があります。
この要件は、単に相手から攻撃されたから反撃したというだけでは足りず、状況に応じた客観的な判断が求められます。
法律の実務上、「やむを得ずにした行為」といえるかどうかは、主に「防衛行為の必要性」と「防衛行為の相当性」という2つの観点から検討されるのが一般的です。
防衛行為の必要性
防衛行為の必要性とは、迫りくる違法な侵害を回避または排除するために、その行為を行うことが不可欠であったかという点です。
その場から逃走して安全を確保できる明確な手段があったにもかかわらず、あえて相手に立ち向かって反撃を加えた場合などは、防衛の必要性に欠けていたと評価される要因になり得ます。
侵害を避けるための現実的な選択肢が他になかったかどうかが考慮されます。
防衛行為の相当性
防衛行為の相当性とは、行われた反撃行為が侵害を防ぐための手段として社会通念上相当な範囲内であり、必要最小限度にとどまっていたかという基準です。
侵害行為の態様と防衛行為の態様のバランスが重視されます。
たとえば、相手が素手でつかみかかってきた程度であるのに対し、生命を脅かすような凶器を用いて致命傷を与えるような反撃をした場合などは、相当性の限度を超えていると判断される傾向があります。
防衛行為が必要性や相当性の限度を超えたと判断された場合には、正当防衛ではなく「過剰防衛」として扱われ、処罰の対象となる可能性があります。
正当防衛を主張する場合の手続きと注意点
現場で直ちに正当防衛と判断されるとは限らない実情
相手から攻撃を受けて身を守るために反撃した場合であっても、警察などの捜査機関がその場で直ちに正当防衛と認定することは容易ではありません。
特に相手に怪我を負わせたり重大な結果が生じたりしている場合、外形的には傷害罪や暴行罪などの加害行為に見えるためです。
捜査機関としては、双方の言い分や周囲の防犯カメラ映像、目撃者の証言などを慎重に確認する必要があります。
そのため、一方の当事者が正当防衛を主張していても、その場ですぐに事件性がないと判断されるケースは多くありません。
身を守るための反撃行為であっても、現場ですぐに正当防衛と認められて捜査を免れるわけではない点に注意が必要です。
逮捕や取り調べなどの刑事手続きに発展する可能性
正当防衛に該当する行為であったとしても、客観的な証拠が揃っていない段階では、被疑者として逮捕や身柄拘束が行われる可能性があります。
逮捕された後は、警察や検察などの捜査機関による取り調べを受けることになります。
取り調べの過程で正当防衛の成立要件を満たしていることが認められれば、最終的に不起訴処分となることがあります。
しかし、捜査機関側と認識が食い違い、防衛の意思や相当性が認められないと判断された場合には、起訴されて刑事裁判へと進む可能性も考えられます。
裁判による長期化と生活への影響
起訴された場合は、法廷において急迫不正の侵害があったか、行為に相当性があったかなどが審理されます。
裁判を通じて最終的に正当防衛が認められて無罪判決が下されることもありますが、判決確定までには一定の期間を要するのが通常です。
刑事手続きが長期間に及ぶと、身柄拘束や出廷への対応が必要となり、仕事や家庭環境などの日常生活に大きな負担が生じることも少なくありません。
刑事トラブルに巻き込まれた際の弁護士への相談

不意のトラブルや暴力被害に直面した際、法律上の正当防衛に該当する可能性があるとしても、まずはその場から逃げて身の安全を確保することが何よりも最優先となります。
相手に対して反撃を行うと、自身の身体に危険が及ぶだけでなく、相手に怪我を負わせた場合に加害者として捜査対象になってしまうリスクが生じるためです。
不意の攻撃を受けた場合であっても、反撃を考える前に危険を回避し安全を確保することが重要です。
手続きへの対応と弁護士へ相談する意義
身を守るためのやむを得ない行為であったとしても、捜査機関に対して正当防衛の要件を満たしている旨を客観的に主張・立証することは容易ではありません。
万が一、被疑者として取調べを受けることになった場合、当時の緊迫した状況や防衛の意思、行為の必要性を正確に伝えなければ、意図と異なる供述調書が作成されてしまう懸念もあります。
どのような証拠を収集し、取調べに対してどのように対応すべきかは、個々の具体的な事案の状況によって大きく異なります。
刑事手続きにおける不利益を防ぎ、法的に適切な主張を行うためにも、早い段階で弁護士への相談を検討するとよいでしょう。
正当防衛の成否を含む刑事事件への対応には、事実関係の慎重な整理と客観的な法的判断が求められます。
ご自身だけで抱え込まず、法律の専門家である弁護士に相談することをおすすめします。
コラム監修者
RUI SATO
所属:代表(東京オフィス)
明治大学付属中野高校卒業、明治大学法学部・法科大学院修了。2012年弁護士登録(東京弁護士会)、2016年ネクスパート法律事務所を創設。一般民事・企業法務に加え、ブロックチェーン分野にも注力し、海外法人設立支援業務などにも取り組む。AIを活用した弁護士業務の改善・事業開発に取り組み、一般社団法人 イノベーション法務支援機構代表理事就任。公正取引委員会・中小企業庁講師、日弁連代議員、東京弁護士会常議員等を歴任。