前科や前歴は消える?略式起訴や罰金刑で前科はつく?
前科とは、過去に刑事裁判で有罪判決を受けた記録のことです。
前科がついてしまうと、一部の職業に就けないなどのデメリットがあり、生活にも影響します。
一度前科がつくと、消えることはありません。しかし、一定期間経過すると前科の効力は消滅します。
この記事では、前科が消えるかどうかについて、次の点をわかりやすく解説します。
- 前科がつくケースとつかないケース
- 前科がつくデメリット
- 前科の効力が消滅するタイミング
前科は他人が見られるのか、前歴との違いはといった点も解説しますので、参考にしてみてください。
目次
一度ついた前科が消えることはない
刑事裁判で、有罪判決を受けると、執行猶予や罰金刑でも前科がつきます。
一度前科がついてしまうと、前科がついた事実は消えることはありません。
前科の記録は、検察庁と、本籍地のある市区町村の犯罪人名簿に記録されます。
犯罪人名簿は、住民の選挙権・被選挙権や、資格の欠格事由に該当しているかどうか照会のために使用されます。
前科がつくと、一定期間選挙への投票と出馬、一部の資格取得などができなくなるためです。
検察庁でも同様に、職務上前科照会が必要であるため前科の記録が管理されています。
前科の記録は重大な個人情報であるため、刑事確定訴訟記録法、犯罪事務規程、各自治体の条例などにもとづいて厳重に管理されており、一般人は見ることができません。
前科がつくケースとつかないケース
ここでは、前科がつくケースとつかないケース、前歴との違いにも触れて解説します。
前科がつくタイミングは有罪判決が確定したとき
前科がつくタイミングは、刑事裁判で有罪判決が確定したときです。
刑事事件の流れは次のとおりです。
- 警察が逮捕する
- 検察が刑事裁判で裁いてもらうかどうか判断する
- 検察が起訴すると刑事裁判で裁かれる
- 刑事裁判で有罪が確定すると前科がつく
- 刑事裁判で有罪となると刑罰が科される(刑務所に収容されるなど)
逮捕されただけでは前科はつきません。ただし、起訴されれば有罪となり前科がつく可能性が高いです。
司法統計によると、2023年の地方裁判所で行われた第一審の有罪率は99.8%でした(棄却等除く)。
不起訴処分になった場合は前歴が残る
起訴されない場合は、不起訴処分という処分になり、事件は終了します。刑事裁判で有罪となっていないので前科はつきませんが、前歴は残ることになります。
前歴とは、警察や検察の捜査の対象となった経歴のことです。前歴は、次のように、捜査の対象となった場合につきます。
- 逮捕された
- 少年事件として警察に捜査された
- 微罪処分で釈放された
- 逮捕されていないが書類送検された
- 書類送検後に検察などに呼び出される在宅事件になった
前歴はその後不起訴処分になっても、裁判で有罪・無罪どちらになっても残ります。
前科のように一部の資格が制限されるなどはありませんが、検察や警察のデータベースに残り、再び罪を犯した際に、不利な事情として扱われる可能性があります。
少年事件では基本的に前科はつかない
少年事件で、家庭裁判所に送致された事件については、前科はつきません。
少年事件は、20歳未満の少年が事件を起こした際に適用される法律です(成人年齢とは異なる)。
逮捕や捜査は行われますが、最終的な処分は、通常の裁判所ではなく、家庭裁判所が非公開の少年審判で行います。
少年審判では、少年院や児童自立支援施設への送致や、保護観察処分として更正を目指すことになります。
ただし、次のケースに当てはまると、事件が家庭裁判所から検察に戻され(逆送)、成人と同様に刑事裁判となるため、前科がつく可能性があります。
- 16歳以上の少年が故意に被害者を死亡させたとき
- 18歳以上の少年が死刑、無期、短期1年以上の懲役・禁錮に該当する罪を犯したとき(強盗、不同意性交、組織的詐欺など)
前科がつくとできないことやデメリット
一部の職業に就けない
前科がつくと、人の命、財産などを扱う仕事や、国家機関の仕事に就けなくなります。
例えば、以下の仕事は、前科がつくと資格取得などが制限されます。
- 裁判官、検察官、弁護士
- 国家公務員、地方公務員
- 医師、歯科医師、助産師
- 公認会計士、司法書士、行政書士、税理士
- 取締役、監査役、執行役
- 警備員、保育士、建築士など
これは、弁護士法などそれぞれの法律に定められているためです。
海外への渡航が制限される
前科がつくと、パスポートの発行やビザの取得などが難しくなり、海外渡航が制限される可能性があります。
旅券法第13条では、次のいずれかに該当する場合、パスポートの発給を制限することがあると定めています。
- 渡航先の法律により、その国への入国が認められない場合
- 一定の罪で裁判中や逮捕状などが発布されていて身柄拘束を受ける場合
- 執行猶予や仮釈放中で行動が制限されている場合
- 虚偽の内容でパスポートの交付を受けたり、不正使用したりするなど旅券法で処罰された場合
- 公文書偽造などの前科がある場合 など
あくまでもパスポートの発給を制限することがあると定められているため、パスポートが発給される場合もあります。
しかし、パスポートが発給されても、前科があることで渡航先の国のビザ(入国許可証)が発行されないことや、ビザが不要な国でも入国審査によって拒否されることがあります。
選挙に参加できない
前述のとおり、前科がついて犯罪者名簿に記録が残っていると、選挙での投票や立候補ができません。
公職選挙法では、投票(選挙権)や立候補(被選挙権)ができない人として、次のとおりに定めています。
- 禁錮以上の刑に処されて、その執行を終わるまでの人
- 公職中に収賄罪により刑に処せられ、刑の執行から5年を経過しない人(被選挙権は10年)、または刑の執行猶予中の人
- 選挙に関する犯罪で禁錮以上の刑に処せられ、その刑の執行猶予中の人
- 公職選挙法に定められた選挙に関する犯罪や政治資金規正法に定める犯罪により、選挙権、被選挙権が停止されている人
場合によっては仕事ができない
前述のとおり、一部の資格においては、一定の刑を受けると資格の欠格事由となります。
そのため、公務員や弁護士、医師など法律で欠格事由が定められている資格は、仕事を続けられません。
再就職の際も、履歴書に賞罰欄がある場合は、前科の事実を記入する必要があります。
記入しなければ、経歴詐称となり、発覚した際に解雇となる可能性があります。
ただし、前科は自己申告する義務はありません。履歴書に賞罰欄がなく、面接でも特に聞かれなければ、申告は不要ですし、知られる可能性は低いでしょう。
会社員が刑事裁判で有罪となって前科がついた場合は、会社の就業規則によって処分が決定されます。
もっとも、有罪となったからといって直ちに解雇が認められるわけではありません。
逮捕報道で会社の信用が失墜するほど大きな損害を受けた場合や、犯罪行為自体が会社に関する場合などの事情がなければ、解雇が無効となる可能性があります。
会社側も、不当解雇とならないように慎重な判断を下すでしょう。
前科は消えなくても効力は消滅する
前科がついた事実は消えることはありませんが、前科の効力は消滅します。
もっとわかりやすく言えば、一定の要件を満たすことで、刑の言い渡しの効力が消滅し、前科による資格制限を受けなくなります。
例えば、地方公務員法には、公務員の欠格事由として次のとおり定められています。
(欠格条項)
第十六条次の各号のいずれかに該当する者は、条例で定める場合を除くほか、職員となり、又は競争試験若しくは選考を受けることができない。
一禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わるまで又はその執行を受けることがなくなるまでの者
そのため、刑が消滅すれば、地方公務員の仕事に就いたり、公務員試験を受けたりできます。
ただし、刑が消滅したからといって、元居た自治体の職員に戻れるわけではありません。仕事に就く資格が回復するということです。
検察にある前科の記録は残ったままとなりますが、刑の言い渡しの効力が失われることで、資格の再取得や再登録、再就職が可能となります。
前科の効力が消滅するタイミング
前科の効力の消滅(刑の消滅)は刑法に定められています。刑罰によって異なるため、それぞれ前科の効力が消滅するタイミングを解説します。
執行猶予の場合|執行猶予期間の経過後
執行猶予は、言い渡された執行猶予の期間中に、再度罪を犯さなければ、刑が執行されない制度です。
執行猶予がついても、有罪であることには変わりがないため、前科の記録は残ります。
しかし、執行猶予が取り消されずに猶予期間が経過すれば、刑の言い渡しは効力を失います。刑も執行されずに済みます。
(刑の全部の執行猶予の猶予期間経過の効果)
第二十七条刑の全部の執行猶予の言渡しを取り消されることなくその猶予の期間を経過したときは、刑の言渡しは、効力を失う。
懲役・禁錮刑の場合|刑期終了から10年経過後
懲役や禁錮刑が科された場合は、刑期終了から10年以上罰金刑以上の刑が確定しなければ、刑は消滅します。
刑期終了とは、懲役や禁錮刑で、刑期の満了として出所したときや、仮釈放で出所している仮釈放の満了日のことです。
罰金刑の場合|執行から5年経過後
罰金刑の場合は、罰金の納付から5年以上罰金刑が確定しなければ、刑は消滅します。罰金だけでなく、拘留(1日以上30日未満の拘束)や科料(1,000円以上1万円未満の罰金)の場合も同様です。
(刑の消滅)
第三十四条の二禁錮以上の刑の執行を終わり又はその執行の免除を得た者が罰金以上の刑に処せられないで十年を経過したときは、刑の言渡しは、効力を失う。罰金以下の刑の執行を終わり又はその執行の免除を得た者が罰金以上の刑に処せられないで五年を経過したときも、同様とする。
前科が消えるか心配な人からのよくある質問
前科は10年で消えるって本当?
前科の経歴は生涯消えることはなく、検察の記録に残ることになります。
ただし、執行猶予期間の経過や、刑の執行から5~10年以上、罰金刑が確定しなければ、刑の言い渡しの効力が消滅して、欠格となった資格取得や仕事ができるようになります。
略式起訴などの罰金刑の前科は消える?
略式起訴などで罰金刑になった場合でも、前科が消えることはありません。
ただし、罰金の納付から5年以上、罰金刑が確定しなければ、刑の言い渡しの効力が消滅します。
執行猶予が終わったら前科は消える?
刑事裁判では、一定の条件を満たすことで、刑の執行が猶予されることがあります。
罪を犯さずに執行猶予期間が経過すれば、刑は執行されず、刑の言い渡しの効力も失うことになります。
前科の事実は消えませんが、欠格となった資格を取得や仕事ができるようになります。
前歴があるとなれない職業は?
前歴は、警察や検察の捜査対象となった経歴のことなので、前歴を調べられるのも警察や検察だけです。
一般企業で就職する際は、前歴など調べようがないですから、前歴によって就けない職業はないと考えられます。
ただし、ニュース報道やネット記事により逮捕の事実が知られていると、採用されないということも考えられます。
なお、警察の採用試験では、身辺調査が行われるため、前歴がバレると採用されないという話がありますが、事実かどうかは明確ではありません。
まとめ
一定期間経過すると、刑の言い渡しの効力は消滅するため、欠格となった資格の取得や再登録が可能です。
前科により生涯制限を受ける生活をおくることで、罪を犯した人の社会復帰が阻害されないように、このような制度が設けられていると考えられます。
ただし、前科がついてしまうと、前科となった事実は生涯消えることがありません。
前科だけでなく、長期間服役することで、再就職が難しく社会復帰できないなどのおそれもあります。
犯罪に関与した場合は、起訴される前に弁護士に相談してください。