サマリー
刑事事件の捜査対象となり、検察官から略式起訴の手続きを打診された場合、正式裁判や不起訴と何が違うのか不安に感じる方も少なくありません。
略式起訴は、被疑者の同意を得たうえで書面審理のみにより罰金などを科す簡易な手続きですが、有罪判決であるため前科がつきます。
迅速に事件を処理できる利点がある一方、書面のみで進むため慎重な判断が求められます。
この記事では、略式起訴の仕組みや手続きの流れ、罰金の目安、前科や公務員資格への影響について分かりやすく解説します。
略式起訴とは|正式裁判や不起訴との違い

刑事事件において、検察官が裁判所に公訴を提起する手続きには、法廷で公開裁判を求める正式起訴(公判請求)と、簡易な審理を求める略式起訴(略式手続の請求)の2種類があります。
略式起訴とは、簡易裁判所の管轄に属する事件のうち、100万円以下の罰金または科料に相当する事件について行われる裁判手続きです。
略式手続を適用するには、事案が比較的軽微で罰金等に相当するだけでなく、被疑者本人が手続きに異議がないこと、つまり事前に略式手続に同意していることが法律上の必須要件とされています。
争いのない明白な事件を迅速に処理し、裁判所や関係者の負担を軽減する目的で整備された制度です。
正式起訴(公判請求)との違い
正式起訴と略式起訴の最大の違いは、法廷を開いて公開の審理を行うかどうかにあります。
正式起訴された場合は裁判所の法廷で審理期日が開かれ、起訴状の朗読や証拠調べ、被告人質問などの手続きが傍聴人の入場できる公開法廷で行われます。
これに対して略式起訴では法廷が開かれません。検察官が提出した捜査記録などの証拠書類をもとに裁判官が書面のみで審査を行い、略式命令によって罰金などの刑を言い渡します。
被告人として法廷に出頭したり、尋問を受けたりする必要がない点が大きな特徴です。
また、手続きの完了にかかる時間にも大きな開きがあります。正式起訴された場合は起訴から初公判、判決確定までに早くても数カ月程度を要することが一般的ですが、略式起訴は書面審査のみで進むため、比較的短期間で事件の手続きが終了します。
不起訴処分との違い
事件が検察官に送致された後の終局処分としては、起訴のほかに「不起訴処分」があります。
不起訴処分とは、証拠が不十分で犯罪の証明が難しい場合や、諸般の事情を考慮して起訴を見送る起訴猶予と判断された場合などに、検察官が裁判を行わない決定を下す処分です。
不起訴処分となった場合は刑事裁判そのものが開かれないため、刑罰が科されることはなく前科もつきません。
被疑者の立場にとって不利益を回避して事件の終結を迎えることができます。
一方で略式起訴は、法廷での審理が省略される簡易な形式をとるものの、法的には「有罪を前提とした裁判手続き」です。
裁判所から略式命令が発付され、定められた罰金や科料が確定すると、通常の裁判と同様に有罪判決としての前科が記録されることになります。
略式起訴は法廷へ出廷する負担がない簡易な手続きですが、不起訴処分とは決定的に異なり、有罪判決として前科が記録されます。
| 比較項目 | 正式起訴(通常裁判) | 略式起訴(略式手続) | 不起訴処分 |
|---|---|---|---|
| 法廷での審理 | あり(原則として公開) | なし(書面審理のみ) | なし(裁判を行わない) |
| 被疑者の同意 | 不要 | 必要(不同意なら不可) | 不要 |
| 科される刑罰 | 拘禁刑・罰金等 | 100万円以下の罰金または科料 | なし |
| 前科の有無 | 有罪判決が確定するとつく | 有罪判決として前科がつく | つかない |
このように略式起訴は、正式起訴と不起訴処分の中間に位置付けられる制度といえます。
身柄拘束からの早期解放や手続きの迅速化といった側面がある反面、有罪となって前科が残る点には留意が必要です。
略式起訴の対象となる犯罪
略式起訴はすべての刑事事件に適用できるわけではなく、法令によって対象となる事件の要件が明確に定められています。
大前提として、その事件が簡易裁判所の管轄に属し、法定刑に罰金または科料の定めがある犯罪であることが必要です。
刑事訴訟法において、略式命令によって科すことができる刑罰は「100万円以下の罰金または科料」に限られています。
そのため、法定刑に罰金刑が規定されていても、事案が重く100万円を超える罰金や拘禁刑が相当と判断される場合には、略式手続を選択することはできません。
法定刑に懲役や禁錮などの拘禁刑しか定められていない犯罪は、略式起訴の対象外となります。
略式起訴の対象となる主な犯罪類型
略式起訴の対象となることが多いのは、日常生活の中で比較的発生頻度が高い軽微な犯罪です。法定刑に罰金刑が規定されており、事案の悪質性や被害の程度が過大でない事件が該当します。
代表的な類型としては、速度超過や酒気帯び運転、無免許運転などの道路交通法違反が挙げられます。
これらは定型的に処理されることが多く、略式命令による罰金刑が科される典型的な例とされています。
また、他人に有形力を行使したものの怪我を負わせるに至らなかった暴行罪や、怪我の程度が比較的軽い傷害罪、万引きや自転車盗などの軽微な窃盗罪も罰金刑が規定されているため、略式起訴の対象となります。
さらに、痴漢や盗撮などの各都道府県の迷惑防止条例違反、公衆の面前で不適切な露出を行う公然わいせつ罪、他人を公然と侮辱する侮辱罪なども、略式起訴で処理されることがある事案に含まれます。
| 犯罪名 | 法定刑における罰金・科料の有無 | 略式起訴の可否 |
|---|---|---|
| 道路交通法違反(酒気帯び等) | あり | 対象となり得る |
| 窃盗罪・暴行罪 | あり | 対象となり得る |
| 迷惑防止条例違反(痴漢・盗撮等) | あり | 対象となり得る |
| 傷害罪(軽微な事案) | あり | 対象となり得る |
| 詐欺罪・恐喝罪 | なし(拘禁刑等のみ) | 対象外 |
| 強盗罪・殺人罪 | なし(拘禁刑等のみ) | 対象外 |
略式起訴の対象外となる犯罪
法律上の刑罰として拘禁刑(懲役刑や禁錮刑)しか規定されていない犯罪については、どれほど被疑者が反省していても略式起訴にすることはできません。
具体的には、殺人罪や強盗罪、放火罪などの重大犯罪には罰金刑の選択肢が存在しないため、必ず正式裁判での審理を経る必要があります。
これらの罪名で起訴される場合は、法廷での公判手続きが行われます。
また、人を欺いて財物を交付させる詐欺罪や、脅迫等により金品を脅し取る恐喝罪なども、法定刑に罰金刑が設けられていないため、略式起訴の対象にはなり得ない犯罪です。
被害弁償や示談の有無による判断の違い
法定刑に罰金刑が定められている犯罪であっても、機械的に略式起訴が行われるわけではありません。
前科の有無や犯行態様の悪質性、被害額の大きさなどを考慮し、検察官が正式起訴を求めることもあります。
一方で、本来であれば正式起訴が検討されるような事案であっても、被疑者が事実を認めて真摯に反省し、被害者との間で示談が成立して被害弁償が行われている場合には、情状が酌量されて略式起訴にとどめられるケースがあります。
略式起訴の手続きの流れ
略式起訴は、検察官の判断のみで一方的に進められるものではなく、法律上定められた厳格な手順に沿って進行します。
捜査段階から略式命令の発付、そして罰金の納付に至る一連の流れを把握しておくことは、今後の見通しを立てるうえで重要です。
検察官による説明と同意書の提出
警察や検察による捜査が進み、証拠が揃った段階で、担当検察官が事案の内容を踏まえて略式手続が相当であると判断した場合、被疑者に対して制度の説明が行われます。
説明では、通常の公開裁判を受けずに書面のみで審理が行われることや、科される刑罰が100万円以下の罰金または科料に限られることなどが具体的に告げられます。
被疑者がこの手続きに異議なく応じる場合には、略式手続に同意する旨を記載した書面に署名および押印を行います。
この同意は被疑者の自由な意思に基づく必要があり、強制されるものではありません。
略式手続には被疑者の明確な同意が必要であり、同意書への署名・押印が請求の必須要件となります。
簡易裁判所への請求と書面審査
同意書が作成されると、検察官は内部での決裁を経たうえで、管轄の簡易裁判所に対して公訴の提起と同時に略式命令の請求を行います。
請求を受けた簡易裁判所の裁判官は、検察官から提出された捜査記録や証拠書類一式をもとに審査を行います。
法廷での口頭弁論や証人尋問などは行われず、純粋に書面のみを対象とした審理が進められます。
裁判官は提出された書面を精査し、略式手続によって科刑することが妥当であるかどうかを判断します。
もし事案の内容から略式手続が不相当であると判断された場合には、通常の公判請求の手続きに移行することになります。
略式命令の発付と罰金の納付
裁判所が略式手続を相当と認めた場合、裁判官によって「略式命令」が発付されます。
略式命令書には、有罪の認定とともに科される罰金の金額や納付期日などが明記されます。
逮捕や勾留によって身柄が拘束されている事件では、勾留満期日などに検察庁に赴き、裁判所から発付された略式命令の告知を受けることが一般的です。
その場で罰金を納付することにより、手続きが完了して即日釈放されます。
身柄拘束事件では、あらかじめ検察官から伝えられた罰金額を家族が準備しておき、当日に検察庁の窓口で納付して身柄の引き取りを行うケースも多くみられます。
一方、身柄拘束を伴わない在宅事件の場合には、後日自宅に略式命令の謄本とあわせて納付告知書や振込用紙が郵送で送られてきます。
指定された金融機関の窓口や口座振込、あるいは検察庁の徴収窓口に出向いて納付期日までに支払うことで手続きが完了します。
略式起訴のメリットと注意点(デメリット)
略式起訴は、被疑者にとって迅速な事件解決や負担軽減につながる利点がある一方で、簡易な手続きゆえの注意点や不利益も存在します。
検察官から略式起訴への同意を求められた際は、双方の性質を正しく理解したうえで慎重に判断することが大切です。
略式起訴を選択する主なメリット
略式起訴の大きな利点のひとつは、裁判所へ出廷する負担が大幅に軽減される点です。
正式裁判が開かれる場合は、指定された期日に法廷へ出廷し、証拠調べや被告人質問、最終陳述などの手続きを経る必要があります。
略式起訴では法廷が開かれないため、日程調整や出廷に伴う精神的な負担を回避できます。
また、審理が非公開の書面審査で行われるため、プライバシーが保護されやすい点も挙げられます。
正式裁判は原則として公開法廷で行われるため、第三者による傍聴が可能です。これに対して略式手続では法廷でのやり取りがないため、審理の内容が周囲に知られるリスクを抑えられます。
さらに、手続きが迅速に進み、早期の解決を図れる点もメリットです。
正式裁判では起訴から判決までに数か月以上を要することが通例ですが、略式起訴であれば書面審査のみのため、短期間で手続きが完結します。
逮捕・勾留によって身柄を拘束されている事件においては、略式命令の発付後に罰金を納付することでその日のうちに釈放されるため、身体拘束から早期に解放される利点があります。
略式起訴における注意点とデメリット
一方で、略式起訴には重大な不利益も存在します。
略式命令は裁判所による有罪の言渡しであるため、科される刑罰が罰金や科料であっても前科がつきます。
不起訴処分のように前科がつかずに事件が終了するわけではないため、資格や経歴に影響を及ぼす可能性があります。
加えて、自身の言い分や事実関係を裁判官の前で直接主張できない点にも注意が必要です。
略式手続は検察官から提出された書面のみに基づいて審査が行われます。法廷で証拠を提出して争ったり、証人尋問を通じて事実関係を明らかにしたりする機会は設けられていません。
そのため、被疑事実について否認している場合や、違法性・責任の有無を争いたい事案であっても、略式起訴に同意してしまうと、捜査機関側の作成した記録を前提として有罪の判断が下されることになります。
身柄拘束が長期化することへの不安や、早く事件を終わらせたいという焦りから、事実と異なる容疑を受け入れて同意書に署名してしまうと、後から無実を主張することが極めて困難になります。
事実関係に争いがある場合は、安易な同意を避ける姿勢が求められます。
略式起訴における罰金の目安と支払えない場合の対応
略式起訴によって科される罰金は、法令上1万円以上と定められており、略式手続の枠組みにより上限は100万円となっています。
実際の具体的な金額は、事件の態様や結果の重大性、被疑者側の事情などを総合的に考慮して検察官が求刑し、裁判所が判断を下します。
実務上の傾向としては、多くの事件において10万円から60万円程度の範囲で罰金が命じられています。
犯罪の種類ごとに一定の相場が存在し、交通違反や軽微な財産犯、粗暴犯などでそれぞれ金額の目安が形成されています。
主な犯罪における罰金額の相場と算定要素
略式起訴の対象となることが多い主な犯罪について、言い渡される罰金額の一般的な目安は以下のとおりです。
| 犯罪の種類・類型 | 罰金額の一般的な目安 |
|---|---|
| 速度超過(スピード違反) | 10万円程度 |
| 無免許運転 | 25万円程度 |
| 酒気帯び運転 | 35万円程度 |
| 窃盗(万引きなど) | 30万円程度 |
| 暴行罪 | 20万円程度 |
| 傷害罪(比較的軽微な事案) | 30万円程度 |
| 迷惑防止条例違反(痴漢・盗撮など) | 30万円程度 |
| 児童ポルノ法違反(買春など) | 50万円程度 |
上記の金額はあくまで一般的な傾向であり、実際の金額は個別の事情によって変動します。
被害額の多寡や相手方の怪我の程度、同種の前科や前歴の有無、被害者との示談や被害弁償の有無などが、罰金額を決める重要な要素となります。
罰金が支払えない場合の労役場留置と換算基準
略式命令によって命じられた罰金は、原則として一括での納付が求められます。
資力があるにもかかわらず正当な理由なく納付に応じない場合には、財産に対する強制執行(差し押さえ)の手続きが取られることがあります。
一方で、資力が不足しているなどの事情により罰金を完納できない場合には、法令に基づき「労役場留置」という処分が下されます。
これは刑事施設に付設された労役場に留置され、所定の作業を行うことで未納の罰金額に充当させる制度です。
労役場での作業は、実務上1日あたり5,000円相当として換算される例が多く見られます。
例えば30万円の罰金を支払えない場合には、計算上は約60日間の留置作業が必要となる見込みとなります。
留置期間には作業が行われない休日の扱いなども影響するため、実際の収容期間が計算日数以上になる場合もあります。
また、刑法第18条の規定により、罰金に関する労役場留置の期間は原則として1日以上2年以下とされ、罰金を併科された場合などの最長期間は3年までと定められています。
納付が困難な場合の対応と留意点
略式起訴は公判手続きを経ずに早期に手続きを終えられる利点がありますが、罰金を納付できずに労役場留置となった場合、結果として長期間の身体拘束を受けることになります。
罰金を完納できない場合は労役場留置によって事実上の身柄拘束を受けることになるため、事前に納付の見通しを立てておくことが極めて重要です。
罰金の納付において法令上の分割払いや猶予が認められるケースは極めて限られています。
手持ちの現金で支払うことが難しい場合には、親族や知人から支援を受けて一括納付を行い、労役場への収容を回避することが一般的な対処法となります。
公務員が略式起訴された場合の影響
公務員が刑事事件を起こしてしまった場合、刑事罰そのものだけでなく、職を失うのではないかという点や職場での処分について強い懸念を抱くことが一般的です。
略式起訴による処分は、正式裁判に比べると手続きが簡易で早期に終了しますが、公務員の身分や処遇に対して特有の影響を及ぼす側面があります。
法令上の欠格事由(当然失職)との関係
公務員法には、一定の刑事罰を受けた場合に公務員としての資格を失い、自動的に職を失う「当然失職(欠格事由)」の規定が設けられています。
国家公務員法や地方公務員法における欠格事由は、原則として「拘禁刑以上の刑に処せられた者」と定められています。
執行猶予が付いた場合であっても拘禁刑以上であれば対象となります。
これに対し、略式起訴で科される刑罰は100万円以下の罰金または科料に限られています。
そのため、略式命令による罰金刑を受けたことのみをもって、法令上当然に失職することはありません。
略式起訴による罰金刑であれば法令上の当然失職には該当しませんが、公務員としての身分がそのまま無条件で守られるわけではない点に注意が必要です。
起訴休職処分と略式手続き
公務員が刑事事件で起訴された場合、任命権者は当該公務員を休職させる「起訴休職」の処分を行うことができると規定されています。
起訴休職は、刑事裁判が開かれている間に職務に従事させることが公務の信用を害するおそれがある場合などに、判決確定までの間執られる措置です。
略式起訴の場合は、公開の法廷で審理が行われるわけではなく、起訴とほぼ同時に略式命令が発付されて速やかに手続きが完結します。
そのため、正式裁判のように判決が出るまで長期間にわたり起訴休職の処分を受けるといった事態は、略式起訴においては通常想定されにくいといえます。
所属組織による懲戒処分の可能性
法令上の欠格事由に該当せず、当然失職を免れた場合であっても、所属する官公庁や自治体から内部的な懲戒処分を受ける可能性は十分にあります。
公務員には全体の奉仕者として高い倫理観や信用保持が求められるため、私生活上の非行であっても信用失墜行為として懲戒の対象となります。
懲戒処分には重い順に「免職」「停職」「減給」「戒告」の4種類が定められており、事案の悪質性や社会的影響などを総合的に考慮して判断されます。
たとえ略式起訴による罰金刑で事件が処理されたとしても、行為の内容が重大であると判断されれば、懲戒免職処分が下されて職を失う事態も生じ得ます。
特に飲酒運転や人身事故、窃盗や横領などの財産犯、あるいは公然わいせつや迷惑防止条例違反といった性犯罪などは、各組織の懲戒基準において重い処分が定められている傾向があります。
略式起訴に納得できない場合|正式裁判の請求
簡易裁判所から発付された略式命令の内容に納得がいかない場合には、一定の期間内に手続きを行うことで、通常の公開法廷による正式裁判での審理を求める制度が設けられています。
略式手続きは書面審理のみで迅速に終了する簡易な裁判であるため、当事者の防御権や裁判を受ける権利を保護する観点から、不服を申し立てて通常の裁判を受け直す道が法律上保障されています。
刑事訴訟法第465条では、略式命令を受けた者または検察官は、その告知を受けた日から14日以内に正式裁判の請求をすることができると規定されています。
この14日という期間は厳格に運用されます。
略式命令の告知を受けた日から14日を経過すると正式裁判を請求する権利が失われ、略式命令の内容が確定判決と同じ効力を持つため、期限の把握には十分な注意が必要です。
正式裁判の請求が検討される主な状況
正式裁判の請求が検討される典型的な状況としては、そもそも犯罪事実自体に身に覚えがなく、無実を主張しているケースが挙げられます。
取り調べの負担などから意に反して略式手続きに同意してしまった場合などがこれに該当します。
また、行為自体は認めているものの、検察官の主張する犯行態様や被害金額、過失の程度などの事実認定に食い違いがある場合や、適用された罪名に異議がある場合にも正式裁判の請求が検討されます。
書面審理のみで進む略式手続きでは、被告人側の詳細な言い分や情状酌量の事情を直接裁判官へ伝える機会がありません。
そのため、自らの主張や反証を法廷で示したいと考える際に利用されます。
正式裁判へ移行した場合の手続きと留意点
適法に正式裁判の請求が受理されると、通常の公判手続きへと移行し、公開の法廷において審理が行われます。
刑事訴訟法第469条の定めにより、正式裁判の請求に基づく判決があったときは、それまでの略式命令はその効力を失います。
法廷では検察官による立証が行われるとともに、被告人側も証拠調べの請求や被告人質問を通じて、自らの主張や反論を直接裁判官に訴えることができます。
もっとも、正式裁判を請求したからといって、必ずしも略式命令よりも有利な判断が下されるとは限りません。
公判での審理の結果、略式命令と同等の罰金刑にとどまらず、より重い刑が科される可能性もあるため、事案に応じた慎重な検討が求められます。
略式起訴を巡る対応と弁護士への相談

刑事事件の被疑者となった場合、検察官から略式手続きへの同意を打診されることがあります。
略式起訴は公開裁判を経ずに迅速に手続きが終了する利点がありますが、科される罰金刑は有罪判決であり、前科がつくという重大な効果を伴います。
そのため、検察官から手続きの説明を受けても安易に同意書に署名・押印せず、自身の置かれた法的な状況を冷静に見極めたうえで適切に対応することが重要になります。
略式起訴への同意を巡る慎重な判断
捜査機関から略式起訴を提示された際、早期の身柄解放や公開法廷の負担回避を望むあまり、十分に検討しないまま同意してしまうケースも見られます。
しかし、一度書面で同意し略式命令が発付されると、それを覆すには正式裁判の請求が必要となります。
事実関係に争いがある場合はもちろん、無実を主張している段階で略式起訴に応じてしまうと、裁判で無罪を主張する機会を書面審理のみで放棄することになりかねません。納得がいかない点がある場合には、同意を留保する判断が求められます。
略式手続きへの同意は強制されるものではなく、被疑者自身の自由な意思に基づく必要があります。
不起訴処分を目指すための弁護活動
被疑事実を認めている事件であっても、略式起訴による罰金刑を甘受するだけでなく、起訴そのものを見送る「起訴猶予」による不起訴処分を目指せるケースが存在します。
不起訴処分となれば裁判手続き自体が行われないため、前科がつくことはありません。
窃盗罪や暴行罪、迷惑防止条例違反といった被害者が存在する犯罪では、被害者に対する真摯な謝罪や被害弁償、示談の成立が、検察官による起訴・不起訴の判断において極めて重要な要素となります。
しかし、実務上、捜査機関が被疑者本人やその家族に対して被害者の連絡先を直接開示することはほとんどありません。
弁護士であれば守秘義務のもとで連絡先の開示を受けられる場合があり、適切な条件での示談交渉を進めることが期待できます。
刑事手続きの初期段階で助言を受ける意義
刑事事件の手続きは厳格な時間制限のもとで進行します。
逮捕・勾留されている身柄拘束事件では、勾留満期となる十日から二十日程度の限られた期間内に、検察官が略式起訴や正式起訴、不起訴の終局処分を決定します。
在宅事件であっても、捜査が完了して検察官が処分を決定してしまえば、後から方針を変更することは容易ではありません。
したがって、捜査の初期段階から法的な助言を受けることが不可欠となります。
早い段階で相談を行うことで、取り調べにおける供述調書作成時の注意点を確認できるほか、有利な証拠の収集や示談交渉の着手など、必要な弁護活動を速やかに進めることが可能になります。
略式起訴に応じるべきか正式裁判を求めるべきか、あるいは不起訴を目指すべきかという判断には、注力分野としての法知識と事案に応じた見通しが不可欠です。
刑事手続きについて不明な点や不安がある場合は、早期に弁護士へ相談し、今後の対処法を検討することが推奨されます。
コラム監修者
Shunsuke Teragaki
所属:代表(東京オフィス)
広島県広島市出身。修道中学・高校を経て、慶應義塾大学商学部で経営・会計・商取引を学ぶ。その後、青山学院大学法科大学院を修了して2011年に新司法試験に合格し、最高裁判所司法研修所を修了(65期)。2013年1月に第二東京弁護士会に弁護士登録し、都内法律事務所で個人・法人を問わず幅広い分野の相談・交渉に取り組む。
2016年1月に佐藤塁と共にネクスパート法律事務所を創業し、共同代表として、東京オフィスを拠点に、企業のコーポレート法務、M&A・事業承継、薬事・医事法務を中心に取り扱う。商学部で培った経営の視点を生かし、法的な可否にとどまらず、事業への影響や実行可能性まで含めた選択肢を示すことを重視している。
また、一般社団法人薬機法医療法規格協会の代表理事、一般社団法人日本美容サロン協議会の監事、一般社団法人睡眠ヘルスケア協議会の外部有識者(認証評価委員)を務め、医療・美容・ヘルスケア分野の広告規制や業界の自主的なルールづくりにも関わっている。依頼者に最適な見通しと戦略的な解決策を示すことを信条とし、丁寧かつ粘り強い対応で信頼を築いている。