フランチャイズ契約の類型の中で、飲食店や小売業の形態をとる契約については、中小小売商業振興法(以下「小振法」といいます。)が適用されます。
小振法は、フランチャイズ本部に対して、本部が加盟者を募集するに際して、加盟希望者に対して当該フランチャイズ契約の重要な点について説明するための書面の作成を義務付けています。この書面に記載するべき重要事項については、小振法において法定されています。このように小振法で作成が義務付けられている書面を「法定開示書面」または「情報開示書面」といいます。(以下「法定開示書面」といいます。)
本稿では、法定開示書面の記載事項や作成上の注意点等をまとめていきます。
法定開示書面を定めている小振法自体の解説や、フランチャイズ契約と関連する独禁法との関係は、他の記事にまとめていますので参考にしてください。



中小小売商業振興法とは
小振法は、「商店街の整備、店舗の集団化、共同店舗等の整備等の事業の実施を円滑にし、中小小売商業者の経営の近代化を促進すること等により、中小小売商業の振興を図る」ことを目的とする法律です(小振法第1条)。
小振法は、高度化事業の一例として「連鎖化事業」を掲げており、その連鎖化事業のうち、「当該連鎖化事業に係る約款に、加盟者に特定の商標、商号その他の表示を使用させる旨及び加盟者から加盟に際し加盟金、保証金その他の金銭を徴収する旨の定めがあるもの」を「特定連鎖化事業」として定めています(第11条)。
フランチャイズシステムは、小振法11条に定める特定連鎖化事業に含まれるため、特定連鎖化事業の規制に服することになります。
もっとも、以下のとおり、連鎖化事業に含まれる事業は、商品の販売・販売のあっせんを行う事業に限られており、そのため、小売業及び飲食業についての小振法の適用を受けることになります。サービス業は小振法の規制対象外となっています。
「連鎖化事業(主として中小小売商業者に対し、定型的な約款による契約に基づき継続的に、商品を販売し、又は販売をあっせんし、かつ、経営に関する指導を行う事業をいう。以下同じ。)」
中小小売商業振興法第4条第5項
法定開示書面とは
小振法の規制で特に重要な点が、「法定開示書面」の作成・交付義務です。これは、特定連鎖化事業に加盟しようとする中小小売業者を保護するため、特定連鎖化事業を行うものは、加盟希望者に対し契約内容の重要事項を記載した書面(法定開示書面)を事前に交付し、その記載事項について説明することが義務付けられています(小振法11条、小振法施行規則10条)。
フランチャイズ契約を締結した加盟者は、本部が使用する商標等を利用することができ、また、本部から経営ノウハウ等の共有を受けられます。そして、これらの対価として、加盟金やロイヤリティ等を支払うことになります。
他方、契約の概要や、加盟金やロイヤリティの内訳等が不明確であれば、契約後加盟者が不利益を被ることになりかねません。
そこで、小振法11条は、加盟者の保護を図るため、フランチャイズ契約の重要な事項について記載した書面を作成し、契約の締結の前に、加盟希望者に交付して説明することを義務付けています。この書面が、法定開示書面です。
法定開示書面に記載する事項
法定開示書面に記載する事項は、以下のとおりです。
①加盟に際し徴収する加盟金、保証金その他の金銭に関する事項
②加盟者に対する商品の販売条件に関する事項
③経営の指導に関する事項
④使用させる商標、商号その他の表示に関する事項
⑤契約の期間並びに契約の更新及び解除に関する事項
⑥前各号に掲げるもののほか、経済産業省令で定める事項
(小振法11条1項)
⑥に掲げる経産省令とは、小振法施行規則をいい、10条に記載事項が定められています。
規則10条の定めは以下のとおりです。
①当該特定連鎖化事業を行う者の氏名又は名称、住所及び常時使用する従業員の数並びに法人にあつては役員の役職名及び氏名
②当該特定連鎖化事業を行う者の資本金の額又は出資の総額及び主要株主(発行済株式の総数又は出資の総額の百分の十以上の株式又は出資を自己又は他人の名義をもつて所有している者をいう。)の氏名又は名称並びに他に事業を行つているときは、その種類
③当該特定連鎖化事業を行う者が、その総株主又は総社員の議決権の過半に相当する議決権を自己又は他人の名義をもつて有している者の名称及び事業の種類
④当該特定連鎖化事業を行う者の直近の三事業年度の貸借対照表及び損益計算書又はこれらに代わる書類
⑤当該特定連鎖化事業を行う者の当該事業の開始時期
⑥直近の三事業年度における加盟者の店舗の数の推移に関する事項
⑦加盟者の店舗のうち、周辺の地域の人口、交通量その他の立地条件(次条において単に「立地条件」という。)が類似するものの直近の三事業年度の収支に関する事項
⑧直近の五事業年度において、当該特定連鎖化事業を行う者が契約に関し、加盟者又は加盟者であつた者に対して提起した訴えの件数及び加盟者又は加盟者であつた者から提起された訴えの件数
⑨加盟者の店舗の営業時間並びに営業日及び定期又は不定期の休業日
⑩当該特定連鎖化事業を行う者が、加盟者の店舗の周辺の地域において当該加盟者の店舗における小売業と同一又はそれに類似した小売業を営む店舗を自ら営業し又は当該加盟者以外の者に営業させる旨の規定の有無及びその内容
⑪契約の期間中又は契約の解除若しくは満了の後、他の特定連鎖化事業への加盟禁止、類似事業への就業制限その他加盟者が営業活動を禁止又は制限される規定の有無及びその内容
⑫契約の期間中又は契約の解除若しくは満了の後、加盟者が当該特定連鎖化事業について知り得た情報の開示を禁止又は制限する規定の有無及びその内容
⑬加盟者から定期的に金銭を徴収するときは、当該金銭に関する事項
⑭加盟者から定期的に売上金の全部又は一部を送金させる場合はその時期及び方法
⑮加盟者に対する金銭の貸付け又は貸付けのあつせんを行う場合にあつては、当該貸付け又は貸付けのあつせんに係る利率又は算定方法その他の条件
⑯加盟者との一定期間の取引より生ずる債権債務の相殺によつて発生する残額の全部又は一部に対して利息を附する場合にあつては、当該利息に係る利率又は算定方法その他の条件
⑰加盟者の店舗の構造又は内外装について加盟者に特別の義務を課すときは、その内容
⑱特定連鎖化事業を行う者又は加盟者が契約に違反した場合に生じる金銭の額又は算定方法その他の義務の内容
(小振法施行規則10条)
更に、規則11条では、小振法11条1項の各号についての記載内容の詳細を定めており、これにしたがって記載を行う必要があります。
法定開示書面作成義務に違反した場合
小振法上、法定開示書面の交付義務を負う者が、書面を作成・交付していなかった場合や、記載内容に不備がある場合には、以下のとおり、主務大臣による勧告や、更に勧告に従わない場合には公表がなされることになります。
1 主務大臣は、特定連鎖化事業を行なう者が前条第一項の規定に従つていないと認めるときは、その者に対し、同項の規定に従うべきことを勧告することができる。
2 主務大臣は、前項の規定による勧告をした場合において、特定連鎖化事業を行なう者がその勧告に従つていないと認めるときは、その旨を公表することができる。
小振法第12条
勧告や公表がなされると、企業としては社会的信用を損なうことになり、加盟希望者が減少したり、既存加盟者に対して信用回復を図ったりする必要が生じてくるため、法定開示書面は適切に作成・交付・説明するようにしてください。
他方で、小振法は行政法規であることから、法定開示書面の作成・交付がなされていない場合、加盟者との関係では必ずしも契約違反や債務不履行を構成するわけではありません。
もっとも、福岡高裁平成13年4月10日判決よれば、本部は、加盟希望者に対して、「事業の経営について有する知識及び経験に基づいて合理性のある情報を提供すベき信義則上の義務」(説明義務)があるとされており、法定開示書面の交付がなされていないということは、当該説明義務違反の有無を判断するうえでの重要な要素になると考えられます。
おわりに
本稿では、フランチャイズ契約における、法定開示書面について解説を行いました。法定開示書面は、相対的に情報が乏しい加盟者の利益を保護し、本部と加盟者との間で信頼関係を気づくうえで重要な書面です。
本部としては当該書面を作成・交付していなければ、行政からの勧告や公表といったペナルティを受けかねません。これらのペナルティが生じれば対応にリソースを割かれますし、何より社会的な信用を失い、加盟者の募集も困難になる可能性がありますので、そのような事態は避けたいところですね。
他方、加盟者としても、事後的にそんな話は聞いていない、といった事態にならないよう、法定開示書面の記載内容は自信でよく確認し、場合によっては記載の内容についてより深い説明を求める等を行い、自らの利益を守る必要があります。
ネクスパート法律事務所では、フランチャイズ契約のサポートに特化したチームが、契約書や法定開示書面の作成や、契約内容に関するアドバイス、トラブル対応、加盟に際してのリスクの洗い出しや条件交渉等をお手伝いします。
初回のご相談は無料で対応させていただきますので、フランチャイズ契約についてお悩みの際は是非お気軽にお問合せ下さい。