飲食店を経営するにあたっては、募集要項を告知したうえ、従業員を募集することがあると思います。その際、募集要項で告知した条件(賃金)と異なる条件で雇用することができるのでしょうか?
本稿では、募集要項と異なる条件(賃金)で従業員を雇用する際の問題点をまとめます。

従業員の性質
従業員を募集する際には、正社員、パートタイマー、アルバイト等様々な形態で募集する場合があり得ます。それでは、これらの形態は法律上どのように区分されるのでしょうか。
労働基準法9条によれば、労働者について、以下のように定義づけられています。
「この法律で『労働者』とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。」
労働基準法9条
この定義からすると、形態を問わず、雇用契約に基づいて働く者は労働者に該当することになります。したがって、どのような形態の労働者との関係でも、労働基準法や労働契約法といった法律を遵守する必要があります。
募集要項と異なる条件(賃金)で従業員を雇用する際の問題点
労働条件等の明示
労働者の採用に際しては、まず、労働条件の明示が必要とされています。また、労働条件が明示された場合であっても、明示された条件が実際の条件と異なる場合には、労働者側が一方的に労働契約を解除することができるとされているため、実際の条件を誇張・虚偽等行わず明示しなければなりません。
労働条件として明示する必要がある事項については、別稿「【弁護士解説】飲食店で従業員を募集する際の留意事項」で詳細にまとめておりますのでこちらをご参照ください。
募集要項と異なる条件(賃金)で従業員を雇用する際の問題点
使用者が労働者を採用するに際して、労働条件を明示しなければならないことは上記のとおりですが、では、例えば求人票等において「時給1200円」と告知していたにもかかわらず、募集要項より低い賃金である「時給1000円」で従業員を雇用することは可能でしょうか。
この点、東京高等裁判所の裁判例で、以下のように判断されたものがあります。
本件求人票に記載された基本給額は「見込額」であり、文言上も、また次に判示するところからみても、最低額の支給を保障したわけではなく、将来入社時までに確定されることが予定された目標としての額であると解すべきである
裁判所|裁判例検索(2024年4月8日現在)より
新規学卒者の求人、採用が入社(入職)の数か月も前からいち早く行われ、また例年四月ころには賃金改訂が一斉に行われるわが国の労働事情のもとでは、求人票に入社時の賃金を確定的なものとして記載することを要求するのは無理が多く、かえつて実情に即しないものがあると考えられ、…労働行政上の取扱いも、右のような記載を要求していないことが認められる。更に、求人は労働契約申込みの誘引であり、求人票はそのための文書であるから、労働法上の規制(職業安定法一八条)はあつても、本来そのまま最終の契約条項になることを予定するものでない。本件においても、以上のような背景から、見込額としての賃金が、前記のような不統一の様式、内容で記載されたものといえる。そうすると、本件採用内定時に賃金額が求人票記載のとおり当然確定したと解することはできないといわざるをえない
裁判所|裁判例検索(2024年4月8日現在)より
(※中略は筆者による。)
上記の裁判例からすれば、使用者は求人票等に記載された募集要項に拘束されることはなく、採用時に改めて正式な賃金を雇用しようとする者に提示することは可能でしょう。
もっとも、そのような場合には、雇用しようする者において不満を抱く可能性もあり、後にトラブルが生じかねません。
そのため、求人票に「見込額」であることを明示し、あるいは採用面接の際にその旨を説明することが望ましく、最終的な賃金についてはしっかり書面で合意する必要があります。
おわりに
本稿では、募集要項で告知していた条件(賃金)と異なる条件で雇用することの問題点について解説しました。
求人票に記載の賃金は見込額に過ぎず、改めて合意をすれば求人票記載の賃金より低い金額での設定も可能ですが、後のトラブル防止の観点から、あらかじめ応募者に分かりやすくしておくことが望ましいでしょう。
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