配偶者の定年退職や子どもの独立など、ライフステージの変化をきっかけに熟年離婚を考える方がいらっしゃるかもしれません。婚姻期間が長い夫婦の離婚においては、財産分与や年金分割など、老後資金を確保するための適切な準備が実務上重要になります。
この記事では、「熟年離婚に向けて何から始めるべきか」と不安を抱える方に向けて、事前に準備すべきことや、法律上よくある疑問点を実務の観点から取り上げます。
熟年離婚を考えたら準備すべき5つのことは?
熟年離婚を考えた際に、法的な不利益を避けて離婚後の生活を安定させるために準備すべきことは、一般的に以下の5つが挙げられます。
なぜ離婚をしたいのか考えをまとめる
まずは、なぜ離婚をしたいのか、ご自身の考えを整理することが重要です。なぜ離婚したいのかという理由を箇条書きで可視化し、いつ頃からその感情を抱き始めたのかを客観的に振り返ってみることをおすすめします。婚姻生活が長期にわたると、配偶者に対して不満を抱いたり、意見の食い違いが生じたりすることは珍しくありません。離婚したいという思いが一時的な感情ではないかを確認するとともに、その理由が民法上の法定離婚事由(不貞行為や悪意の遺棄など)に該当するかどうかも、その後の協議や調停において重要なポイントとなります。
離婚後の生活設計を立てる
熟年離婚において最も懸念される老後の困窮を防ぐため、離婚後の生活設計を具体的に立てることが不可欠です。具体的には、以下の4つの観点から検討を進めるのが一般的です。
離婚後に住む場所を決める
離婚が成立した後、どこを生活の拠点とするかを事前に決めておく必要があります。持ち家などの現在住んでいる自宅に住み続けられる見通しはあるか、実家へ戻るのか、あるいは新たに賃貸物件を借りるのか、生活の実態を具体的にイメージすることが大切です。
例えば、新たに賃貸物件を借りる場合、入居審査において継続して家賃の支払いができる能力を証明することが求められる傾向にあります。安定した収入や一定の貯蓄がない場合、離婚を切り出す前や別居期間に入る前に仕事を確保しておくことが、実務上望ましいケースもあります。
仕事や収入源を考える
離婚後の自立した生活に向けて、仕事や定期的な収入源をどのように確保するかを検討します。預貯金や不動産などの財産分与で一定の資産を取得できる見込みがある場合でも、老後の生活を長期的に安定させるためには、定期的な収入基盤を構築することが非常に重要です。長く専業主婦または専業主夫であったために、すぐに仕事が見つかるか不安を感じている方は、まずはパートタイムやアルバイトから就労経験を積むことも一つの選択肢となります。
年金受給や退職金の見通しを確認する
老後資金の要となる、公的年金の受給額や配偶者の退職金の見通しを正確に把握することが求められます。財産分与の対象となる可能性がある企業型の確定拠出年金があるか確認するとともに、配偶者の退職金についても、将来支給される蓋然性が高い場合には財産分与の対象に含まれる可能性があるため、就業規則等で支給見通しをチェックすることが推奨されます。
公的支援の利用も視野に入れる
離婚後の経済的な不安を軽減するため、国や自治体が提供する公的支援制度の利用も視野に入れておくことが大切です。代表的な制度として、生活福祉資金貸付制度が挙げられます。これは、高齢者世帯や低所得者世帯などの生活を支える制度であり、生活再建までに必要な生活費、住宅を賃借する際の敷金や礼金、就職・転職に向けた技能習得費用などの貸付を受けられる場合があります。あくまで貸付制度であるため将来的な返済義務は生じますが、一般的に民間の金融機関よりも低い金利、あるいは無利子で借り入れができる傾向にあります。
本制度の主な対象となるのは、以下の世帯です。
- 必要な資金を他から借り受けることが困難な低所得者世帯
- 身体障害者手帳などの交付を受けた方が属する障害者世帯
- 65歳以上の高齢者が属する高齢者世帯
貸付条件の審査や申請方法などの詳細については、個別の状況によって異なるため、お住まいの市区町村に設置されている社会福祉協議会へご相談されることを推奨します。
参考:福祉の貸付制度|全国社会福祉協議会
財産分与の対象になるものをまとめる
熟年離婚において最も争点になりやすい、財産分与の対象となる共有財産を正確に調査・把握しておくことが重要です。婚姻期間中に夫婦が協力して形成した財産(共有財産)は、実務上、清算的財産分与として原則的に2分の1ずつ分割されるのが一般的です。
これを財産分与制度と呼びますが、熟年離婚のように同居・婚姻期間が長期に及ぶほど、預貯金や不動産、有価証券、生命保険の解約返戻金など、対象となる財産が多岐にわたり高額になる傾向があります。適切な財産分与を受けることは離婚後の生活基盤を安定させるために不可欠であるため、相手方の特有財産(結婚前からの資産や相続財産など)と区別しつつ、共有財産をもれなくリストアップすることが大切です。
年金分割について調べる
老後の収入源に直結する、年金分割の仕組みや具体的な手続きの流れをあらかじめ理解しておく必要があります。年金分割とは、配偶者が会社員や公務員として厚生年金(または旧共済年金)に加入していた場合、婚姻期間中の保険料納付記録を夫婦間で分割できる制度を指します。
年金分割の手続きには、大きく分けて合意分割と3号分割の2種類が存在します。合意分割は、夫婦間の協議(話し合い)のほか、合意に至らない場合は家庭裁判所での調停や審判、あるいは離婚訴訟(裁判)において按分割合を決定する手続きです。3号分割は、国民年金の第3号被保険者(専業主婦など)であった方からの単独の請求手続きによって、相手方の合意なしに婚姻期間中の厚生年金記録を2分の1に分割できる制度です。ただし、3号分割の対象となるのは、制度が開始された2008年(平成20年)4月1日以降の第3号被保険者期間に係る納付記録に限定される点に注意が必要です。
社会との繋がりを作る
孤立を防ぐために、社会との繋がりを意識的に築くことも、離婚準備の重要な側面です。積極的に周囲の人と交流する機会を持ち、趣味や生きがいを見つけることは、離婚後の孤独感や精神的な不安を和らげることに繋がります。外出してさまざまな活動に参加することは、心身の健康を維持し、前向きな生活を送るためにも推奨されます。
熟年離婚の準備中にやってはいけないことは?
熟年離婚に向けて別居等の準備を進める中で、法的に不利になる可能性があるため避けるべき行動は、主に以下のとおりです。
無断で夫婦の共有財産を処分する
相手方の同意なく、無断で夫婦の共有財産を処分・隠匿する行為は厳に慎むべきです。
例えば、夫婦の共有財産である預貯金を無断で引き出して費消した場合、のちの財産分与の算定において、その持ち出し分がご自身の取得分から差し引かれたり、不法行為として損害賠償を請求されたりするリスクが存在します。
相手に対して軽率な行動をとる
感情的になり、相手に対して法的に不利益を被るような軽率な行動をとることは避けてください。離婚が成立する前や、婚姻関係の破綻が客観的に認められる前に配偶者以外と肉体関係を伴う交際をした場合、自らが有責配偶者とみなされるおそれがあります。有責配偶者からの離婚請求は裁判所の裁量により原則として認められにくくなるため、不貞行為を疑われるような無断外泊などは、離婚協議において極めて不利な状況を招く原因となります。
熟年離婚を準備している方が気になる3つの質問
「熟年離婚が認められるのか」「慰謝料はどうなるのか」といった、熟年離婚を準備している方が抱きやすい法的な疑問について、実務上の観点から解説します。
長年我慢してきたことも離婚理由になる?
協議離婚の場合、当事者双方が離婚に合意して離婚届を提出すれば、その理由を問わず離婚は成立します。 ただし、相手方が離婚を拒否した場合は、家庭裁判所での離婚調停を申し立て、それでも合意に至らなければ離婚訴訟(裁判)において争うことになります。
長年我慢してきた理由が、単なる性格の不一致や価値観の相違、家事分担への不満などにとどまる場合、それ単独では民法で定められた法定離婚事由(婚姻を継続し難い重大な事由など)に該当しないと判断されやすく、裁判では離婚請求が棄却される傾向にあります。老後は一緒に暮らしたくないという個人的な感情のみでは、裁判で離婚が認められる可能性は一般的に低いと言わざるを得ません。ただし、相当期間の別居実績があるなど、客観的に婚姻関係の破綻が立証できれば離婚が認められるケースもあるため、個別の状況については弁護士等の専門家へ相談することが重要です。
熟年離婚で慰謝料をもらえるのはどんなとき?
離婚に伴う慰謝料を請求できるのは、相手方に不貞行為(不倫)やDV(家庭内暴力)など、婚姻関係を破綻させる直接的な原因となった不法行為が認められる場合に限られます。実務上、慰謝料請求が認められやすいケースは主に以下のとおりです。
- 配偶者以外の者と自由な意思で肉体関係を持つ不貞行為
- 正当な理由なく同居を拒否し、生活費(婚姻費用)を渡さないなどの悪意の遺棄
- 身体的な暴力(DV)や、耐えがたい精神的苦痛を与える暴言(モラハラ)
立証責任や証拠の集め方など詳しくは、「離婚で慰謝料請求できる条件や理由」の解説記事をご参照ください。
子どもや周囲に離婚を反対されたら?
成人した子どもや親族など周囲から離婚を反対されたとしても、法的には夫婦間の合意さえあれば協議離婚を成立させることは可能です。しかし、周囲の懸念を無視して強引に離婚を進めた場合、離婚後のサポート体制や親族間関係において、以下のようなトラブルが生じるリスクがあります。
- 子どもや親族との関係が悪化し、精神的なサポートが得られなくなる
- 孫との面会や交流の機会が減少してしまうおそれがある
- 高齢となった親の介護や生活支援の負担が、すべて子どもに重くのしかかる
- 熟年離婚後に新たなパートナーと再婚した場合、将来の相続発生時に実子との間で遺産分割トラブルが生じる可能性がある
離婚後の良好な関係を維持し、孤立を防ぐためにも、子どもをはじめとする親族に対して、なぜ離婚を選択するのか、離婚後の生活設計はどうするのかについて、事前に誠意をもって説明しておくことが望まれます。
熟年離婚の準備で弁護士への相談・依頼をするメリットは?
熟年離婚において、法的な専門知識を持つ弁護士へ早期に相談・依頼することで得られるメリットは、主に以下のとおりです。
離婚準備をスムーズに進めるためのアドバイスが得られる
財産分与や年金分割など、複雑な手続きを漏れなくスムーズに進めるための具体的な法的アドバイスを得ることができます。有利に協議を進めるためには、相手方に離婚を切り出したり別居を開始したりする前の段階で、弁護士へ相談するのが実務上有効です。早期に相談することで、依頼者が置かれている現在の状況や保有資産を客観的に評価し、将来の調停や裁判を見据えて今すべき証拠保全などの的確な助言を受けることが可能です。当事者間では感情的になりやすく、法的に主張すべき正当な権利や重要な証拠を見落としてしまうケースは少なくありません。法律の専門家である弁護士が介入することで、家事事件手続法や実務上の運用に基づいた冷静かつ客観的な視点から、依頼者の権利を保護する戦略を立てられる点が大きなメリットといえます。
相手が離婚に応じない場合に調停・裁判の対応ができる
当事者間の協議が決裂し、相手方が離婚や条件案に応じずに家庭裁判所での調停や訴訟へ移行した場合でも、弁護士が代理人として法的手続きを一貫して対応できます。調停や裁判においては、裁判官や調停委員に対して法的根拠に基づいた書面(申立書や準備書面など)を提出し、心証形成に有利な主張を展開する専門的な対応が求められます。弁護士に依頼することで、煩雑な書類作成や裁判所とのやり取り、期日への出頭など一連の手続きを任せることができ、精神的・時間的な負担を大幅に軽減することが可能です。
まとめ
長年連れ添ってきた配偶者との婚姻関係を解消する熟年離婚を決意することは、精神的にもエネルギーを要する重大な決断です。 熟年離婚への決意が固いのであれば、特有の課題である財産分与や年金分割を適切に行い、老後の生活基盤を安定させるために、法的な観点から十分な準備をして臨むことが極めて重要になります。
ネクスパート法律事務所には、熟年離婚や慰謝料請求、複雑な財産分与など、家事事件・離婚問題全般に精通した弁護士が多数在籍しております。数多くの離婚問題を解決に導いてきた実務経験に基づき、依頼者の方それぞれのご事情に応じた最適な解決プランをご提案いたしますので、一人で抱え込まず、まずはお気軽に当事務所の初回相談をご利用ください。