サマリー
配偶者やパートナーからの暴言や長期間の無視、過度な束縛などに悩み、「これは精神的DVなのではないか」と不安を抱えていませんか。精神的暴力は外傷が残らないため周囲に気づかれにくく、被害を受けている側も自責の念に囚われてしまいがちです。精神的DVは法的な離婚事由や慰謝料請求の対象になり得る行為です。この記事では、精神的DVの定義や具体例、判断基準となるチェックポイントに加え、法的判断で考慮される証拠の集め方や離婚・慰謝料請求のポイントについて解説します。
精神的DVとは|モラハラとの違いと関連する法律
精神的DVとは、殴る・蹴るといった身体的な暴力を用いず、暴言や無視、人格否定などの言葉や態度によって相手の尊厳を傷つけ、精神的な苦痛を与える行為を指します。

外傷が残らないため周囲から被害が見えにくく、受けている側も「自分が悪いのではないか」と心理的支配に陥りやすい特徴があります。
精神的DVとモラハラ(モラルハラスメント)の違い
日常会話において「精神的DV」と「モラハラ」は同義で使われることが少なくありませんが、用語としての使われ方や性質には違いがあります。
| 項目 | 精神的DV | モラハラ(モラルハラスメント) |
|---|---|---|
| 主な意味 | 暴言や無視などで精神的苦痛を与えるDVの一類型 | 道徳や倫理に反する精神的な嫌がらせ全般 |
| 用語の性質 | 法的な問題として扱われるDVの分類概念 | 社会通念上の用語であり、法律上の正式用語ではない |
| 問題となる関係性 | 夫婦や恋人など親密な関係性が主 | 家庭・職場・学校など幅広い人間関係 |
| 法的な位置づけ | 継続性等により離婚事由や不法行為になり得る | 行為態様に応じて精神的DVや不法行為として評価 |
精神的DVに関連する法律上の位置づけ
精神的DVは、主にDV防止法(配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律)や民法との関係で法的責任が検討されます。
2024年4月1日施行の改正DV防止法では、保護命令の対象が拡大されました。従来の身体的暴力や生命・身体への脅迫に加え、自由・名誉・財産に害を加える旨の脅迫があり、心身に重大な危害を受けるおそれが大きい場合にも保護命令の発令が認められ得るようになりました。あわせて接近禁止命令の期間も6か月から1年に延長されています。
また、民法上は第770条1項5号の「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当する可能性があり、夫婦関係が修復困難な程度に破綻していると判断されれば、裁判離婚の事由として認められることがあります。
態様によって成立し得る刑事罰
精神的暴力であっても、具体的な行為の内容や結果によっては刑法上の犯罪に該当する場合があります。
- 脅迫罪(刑法222条):生命・身体・名誉・財産等に害を加える旨を告知して相手を畏怖させた場合
- 名誉毀損罪(刑法230条)/侮辱罪(刑法231条):公然と事実を摘示して社会的評価を低下させた場合や、公然と侮辱した場合
- 傷害罪(刑法204条):精神的DVにより抑うつやPTSD等の精神疾患を発症させ、因果関係が認められた場合
- 不同意わいせつ罪(刑法176条)/不同意性交等罪(刑法177条):恐怖や心理的支配により同意しない意思表明が困難な状態に乗じて性的行為に及んだ場合
相談統計から見る精神的DVの実態
内閣府が公表した「DV相談プラス」の利用状況(令和6年度公表)によると、対応件数は令和4年度が41,276件、令和5年度が41,160件となっており、相談内容の約7割に精神的DVが含まれていると報告されています。
身体的暴力が伴わない精神的DVであっても、多くの人が深刻な被害として公的機関に相談を寄せています。
どこから精神的DVになる?具体例・判断基準とチェックリスト
精神的DVは身体的な暴力と異なり、日常的な言動の積み重ねによって相手を心理的に追い詰める点に特徴があります。具体的にどのような行為が該当するのか、代表的なパターンや判断の目安を把握しておくことが大切です。
精神的DVの代表的な具体例
精神的DVでは、相手の自尊心を傷つけたり行動を過度にコントロールしたりする言動が見られます。これらは単独で行われるだけでなく、複合的に組み合わさって被害者を孤立させる傾向があります。
- 暴言・人格否定:「バカ」「生きている価値がない」などの直接的な罵倒や、「誰のおかげで生活できているのか」といった尊厳を傷つける発言
- 無視行為:数日から数週間にわたり挨拶や会話を拒絶する、用意した食事に手をつけないなど、存在を否定するような態度
- 過度な干渉・ダメ出し:家事や育児、仕事の手順などを執拗に責め立て、相手のやり方を否定し続ける行為
- 行動監視・制限:スマートフォンの通信履歴やSNSを監視する、外出先や帰宅時間を細かく報告させる、交友関係を断たせるなどの束縛
精神的DVと単なる夫婦喧嘩の違い
夫婦喧嘩と精神的DVを見分ける大きな基準は、夫婦関係に対等性があるか、あるいは一方的な支配・服従の関係が生じているかという点にあります。
| 比較項目 | 単なる夫婦喧嘩 | 精神的DV(支配・服従) |
|---|---|---|
| 立場のバランス | 対等であり、お互いに意見や感情を言い合える | 明確な上下関係があり、一方が常に服従を強いられる |
| 感情と継続性 | 一時的な怒りであり、時間が経てば冷静さを取り戻す | 日常的に恐怖感や緊張感が続き、攻撃が繰り返される |
| 問題の解決方法 | 話し合いによって歩み寄りや妥協点を見いだせる | 一方が屈服したり謝罪したりするまで攻撃が終わらない |
| 日常生活への影響 | 喧嘩以外の時間はお互いに自由な日常を送れる | 常に相手の顔色や機嫌を伺い、行動が制限される |
相手に対して「怒らせるのが怖い」「何を言われるか分からない」と日常的に恐怖を感じ、自分の意見を言えない状態にある場合は、精神的DVが生じている可能性があります。
精神的DVに該当するかを総合考慮する判断基準
精神的DVに該当するかどうかは、単一の言動のみで判断されるわけではありません。言動の内容や頻度、継続期間、相手に与えている精神的苦痛の程度などを踏まえ、家庭裁判所や実務上も総合的に判断されます。
具体的には、暴言や無視などの行為が数か月から数年単位で慢性的に繰り返されているか、外出制限などにより相手の自由を奪っているか、婚姻関係が修復困難なほど破綻しているかといった事情が考慮されます。
精神的DVセルフチェックリスト
精神的DVを受けている当事者は、心理的支配によって「自分が悪いのではないか」と考え、被害に気づきにくい傾向があります。ご自身の置かれている状況を整理するためのチェックリストとしてご活用ください。
態度の支配に関するチェック
- 相手が帰宅する物音や声を聞くだけで強い緊張や恐怖を感じる
- 相手の機嫌を損ねないよう、常に言葉や態度を選んで生活している
- 意見を伝えると長時間の説教や人格否定を受けるため、反論を諦めて黙ってしまう
- 気に入らないことがあると何日も無視され、家庭内で孤立させられる
行動制限に関するチェック
- スマートフォン内のメッセージや通話履歴、SNSのチェックを強要される
- 実家の家族や友人との連絡・面会を嫌がられ、関係を制限されている
- 誰とどこにいるか、何時に帰るかを逐一報告させられ、自由な外出ができない
心理的追い込みに関するチェック
- 問題が起きると「すべてお前のせいだ」と一方的に責任転嫁される
- 「何の役にも立たない」「生きている価値がない」などの言葉を日常的に浴びせられる
精神的DVを我慢し続けるリスク
精神的暴力を受けながら我慢を重ねてしまうと、深刻な心身の健康被害や周囲への悪影響を招くおそれがあります。
慢性的なストレスや恐怖に長期間さらされることで、うつ病や適応障害、PTSD(心的外傷後ストレス障害)といった精神疾患を発症するリスクが高まります。また、心理的支配が深まると「相手には自分が必要だ」と思い込む共依存関係に陥り、自力での現状打開が難しくなるケースも少なくありません。
さらに、子どもの前で配偶者に暴言を吐く行為は「面前DV」と呼ばれ、児童虐待(心理的虐待)に該当する可能性があります。子どもの健やかな成長環境を守る観点からも、被害を放置せず適切な対応を検討することが重要です。
精神的DVの証拠の集め方|法的判断で考慮される記録とは
精神的DVは身体的暴力と異なり目に見える外傷が残らないため、相手が言動を否定した場合に被害を立証することが難しくなりがちです。
そのため、離婚手続きや慰謝料請求、保護命令の申し立てなどを見据える際には、客観的な証拠資料を計画的に記録・保存しておくことが重要となります。
客観的な証拠として評価されやすい資料
法的な手続きにおいて、精神的DVの事実を裏付ける客観的な証拠として主に以下のようなものが考慮されます。
- LINE・メール・SNSのメッセージ履歴:暴言や人格否定の文面、執拗な行動報告の要求、返信の遅れに対する過度な叱責などの画面保存
- 録音データ・音声記録:罵倒や長時間の説教、威圧的な発言を記録した音声ファイル
- 詳細な日記・被害メモ:日時、場所、発言・行為の内容、前後の状況、自身の心身の反応などを継続して記した手帳やノート
- 医師の診断書・診療記録:精神的ストレスに伴い発症した抑うつ状態、不眠、適応障害、PTSDなどの通院歴や診断書
特にメッセージ履歴や録音データは、相手の発言内容や威圧的な語気を直接示す客観的資料として裁判所の判断において重視される傾向があります。
また、心療内科や精神科などの診断書は、加害行為と被害者の健康被害との因果関係を推認するための有力な資料として扱われることがあります。
証拠として評価されにくい記録の特徴
何らかの記録を残していても、その内容や形式によっては単独での立証力が不十分と判断される場合があります。
例えば、一度きりの口論を切り取っただけの断片的な記録や、前後の文脈が分からない短い録音などは、日常的な精神的暴力の証明としては弱く評価されやすいとされています。
また、「いつ」「どこで」起きた出来事なのかが不明確なメモや、主観的な感情のみが書かれていて具体的な加害行為の記載がない記録も、信用性が低く評価される要因となります。
さらに、「友人が夫のことを怖そうだと言っていた」といった第三者の伝聞や推測は、裁判上の直接的な事実立証としては力不足とみなされるのが一般的です。
継続性を立証するための記録・保存のポイント
不貞行為などの単発の不法行為と異なり、精神的DVでは一つひとつの出来事が長期間にわたって反復・継続しているかどうかが判断の大きな分かれ目となります。
単発のトラブルではなく、日々の記録を積み重ねて時系列で整理することが継続性の立証において極めて重要です。
日記やメモをつける際は、後から改ざんを疑われないよう、出来事が発生した都度リアルタイムで書き残すことが望ましいとされています。
スマートフォンで集めた画像や音声データは、相手に気づかれて消去されるリスクを防ぐため、外部のクラウドストレージや別の記録媒体へ定期的にバックアップを取っておくなどの対策が有効です。
精神的DVを理由とする離婚・慰謝料請求のポイント
精神的DVを理由として離婚や慰謝料請求を検討する場合、法的な位置づけや手続きの流れを正しく理解しておくことが大切です。
身体的な暴力がない場合でも、精神的苦痛により婚姻関係が修復困難な状態に至っていれば、法的な離婚事由や慰謝料請求の根拠として認められる可能性があります。
離婚手続きの流れと法的な離婚事由
日本における離婚手続きは、原則として協議離婚、調停離婚、裁判離婚という段階を踏んで進められます。
協議離婚では、当事者同士の合意があれば法的な離婚原因の有無にかかわらず離婚が成立します。しかし、相手が話し合いに応じない場合や合意に至らない場合は、家庭裁判所に離婚調停を申し立てることになります。
調停でも合意ができない場合には離婚訴訟(裁判離婚)へ移行します。裁判で離婚が認められるためには、民法770条1項各号に定められた法定離婚事由が必要です。
精神的DVにおいては、同条1項5号の「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当する可能性があり、執拗な暴言や無視、心理的支配によって夫婦関係が破綻し、共同生活の回復が見込めないと判断されれば、判決により離婚が認められることがあります。
裁判で精神的DVが認められる判断基準
単なる一時的な夫婦喧嘩や性格の不一致と、法的に離婚原因となり得る精神的DVとの境界線は、言動の態様や影響を総合的に考慮して判断されます。裁判実務では主に以下の要素が重視されます。
- 継続性:一時的な感情の爆発ではなく、数か月や数年といった単位で慢性的に繰り返されているか
- 悪質性:人格を著しく否定する暴言や過度な行動制限など、社会通念上許容される範囲を逸脱しているか
- 結果の重大性:被害者が抑うつ状態やPTSDなどの精神疾患を発症するなど、心身に深刻な健康被害が生じているか
裁判所はこれらの要素を客観的な証拠に基づいて総合的に判断し、婚姻関係が修復不可能なほど破綻しているかを審理します。
精神的DVによる慰謝料の相場と算定要素
精神的DVによって受けた精神的苦痛に対しては、不法行為(民法709条)に基づき配偶者へ損害賠償(慰謝料)を請求できる場合があります。
精神的DVの慰謝料額は事案によって幅がありますが、裁判例や実務上の傾向としては数十万円から200万円前後で判断される例が多く見られます。
慰謝料の金額を算定するにあたっては、以下のような事情が増額または減額の要素として考慮されます。
- 加害行為が行われていた期間の長さや頻度
- 精神疾患の発症や通院歴など、健康被害の程度
- 子どもの前で暴言を繰り返す面前DVの有無
- 不貞行為や生活費の不払い(経済的DV)など他の有責行為の併存
- 被害者を親族や友人から隔離し、社会的・経済的に孤立させた事情
精神的苦痛に対して慰謝料が認められた裁判例
身体的な暴力がない場合でも、言動の悪質性や頻度などを考慮して慰謝料の支払いが認められた裁判例として、東京地方裁判所令和元年9月10日判決があります。
この事案では、夫が妻に対して「死ね」「バカ」「親の教育が悪すぎる」「子供をおろせ」などの人格否定の暴言を日常的に浴びせていたほか、些細な理由で1時間以上怒鳴り続けるなどの行為が認定されました。
裁判所はこれらの行為を社会通念上許容される範囲を超えるモラルハラスメントと評価し、妻が妊娠中であった事情なども考慮した上で、慰謝料および弁護士費用の支払いを命じました。
このように、暴言の内容や頻度、当時の状況などを客観的に示すことができれば、精神的DVであっても不法行為として法的な賠償責任が認められる可能性があります。
精神的DVを受けたときの対処法と相談先
精神的DVは日々の言動によって徐々に精神的な負担が蓄積し、自力での判断が難しくなることがあります。孤立を防ぎ適切な対処を進めるためには、早い段階で状況を整理し、必要な相談先を把握しておくことが大切です。
精神的DVに気づいたときにまず取るべき行動
まずは自身の置かれている状況を客観的に見つめ直すことが重要です。信頼できる第三者や相談窓口に話を聞いてもらうことで、相手との関係性を冷静に把握するきっかけが得られます。
あわせて、相手から受けた言動の日時や具体的な内容、そのときの心身の状況などをメモや日記として記録し始めることが推奨されます。これらの記録は、後に離婚や慰謝料請求を検討する際の大切な資料となります。
安全確保の手段と公的相談窓口
精神的DVが深刻化し、心身の限界や身の危険を感じる場合には、別居や一時避難など安全を最優先にした対応を検討する必要があります。公的機関では以下のような相談・支援体制が整えられています。
| 相談先 | 主な役割 | 相談の目安 |
|---|---|---|
| 配偶者暴力相談支援センター | DV相談、一時保護施設(シェルター)の案内、自立支援 | 避難先の確保や生活再建の相談をしたいとき |
| 警察(生活安全課・110番) | 緊急時の安全確保、加害者への警告、相談記録の作成 | 身の危険や脅迫行為を受けているとき |
| DV相談ナビ(#8008) | 最寄りの配偶者暴力相談支援センターへの自動転送案内 | どこに相談すればよいか分からないとき |
避難を検討する際は、身分証明書や健康保険証、通帳などの重要書類と証拠資料を事前にまとめておくことが望ましいとされています。また、更なる被害のおそれがある場合には、DV防止法に基づく接近禁止命令などの保護命令を裁判所へ申し立てる選択肢もあります。
法的解決に向けた弁護士への相談
精神的DVを理由とする離婚や慰謝料請求を具体的に進める場合、弁護士へ相談することで法的な見通しや手続きの進め方について助言を得られます。
弁護士に依頼すると、手元にあるメッセージ履歴や録音などの客観的証拠を法的な観点から整理できるほか、財産分与や養育費といった離婚条件の適切な取り決めについての助言が受けられます。
また、相手との直接の協議に恐怖や強いストレスを感じる場合でも、弁護士が代理人として交渉や調停の手続きを行うことで、直接対峙する負担を軽減しながら解決を目指すことが可能です。
精神的DVの問題は一人で抱え込まず、公的機関の支援窓口や離婚問題を取り扱う弁護士などの相談先を活用しながら、安全と今後の生活に向けた適切な選択肢を検討していくことが重要です。
コラム監修者
SHIZU ISHIDA
所属:東京オフィス
広島県広島市出身。青山学院大学心理学科、東海大学法科大学院卒業後、新司法試験に合格し最高裁判所司法研修所を修了。弁護士として法曹界に入り、刑事、民事、法人案件等幅広い分野の専門知識を習得。弁護士登録10年目にしてネクスパート法律事務所に入所し、現在は主に離婚事件に注力している。