更新日:2026年3月11日 (水)
公開日:2023年8月2日 (水)
裁判で不倫慰謝料を請求する前に確認すべき点と手続きの流れ
サマリー
配偶者の不倫相手に対して慰謝料を請求したいと考えたとき、裁判(訴訟)を起こすべきか悩む方は少なくありません。裁判を行えば法的な判断を得られますが、請求が認められる要件や客観的な証拠、相手方の支払い能力などを事前に確認しておくことが大切です。また、手続きにかかる費用や期間、裁判ならではの注意点も把握しておく必要があります。この記事では、不倫慰謝料請求の裁判を起こす前に確認すべきポイントや手続きの流れ、費用、メリット・デメリットについて分かりやすく解説します。
裁判で不倫慰謝料を請求する前に確認すべき4つのポイント
不倫相手に対して裁判で慰謝料を請求する場合、提訴する前に法的な要件や証拠の状況などを整理しておく必要があります。事前の準備が不十分なまま手続きを進めると、請求が認められなかったり、判決が出ても回収できなかったりする可能性があるためです。

1. 不貞慰謝料請求が法的に認められる要件を満たしているか
裁判で不貞行為による慰謝料請求が認められるためには、一般的に以下の4つの要件を満たしている必要があります。
- 不貞行為の開始時点で夫婦関係(婚姻関係)が存在していたこと
- 不倫相手と配偶者との間に肉体関係があったこと
- 不貞行為によって婚姻関係が破綻したこと(行為前から完全に破綻していた場合は除く)
- 不倫相手が、配偶者が既婚者であることを知っていた、または過失により知らなかったこと
これらの要件を欠いている場合、裁判所によって請求が退けられる可能性が高くなります。まずは法的な請求要件を満たしているかを確認することが基本となります。
2. 相手方の氏名や住所が把握できているか
裁判を起こすためには、訴状に被告となる相手方の氏名および住所を正確に記載しなければなりません。裁判所が相手方を特定し、訴状などの書類を送達するために必須となるためです。
もし相手方の電話番号しか把握できていない場合でも、弁護士会照会(弁護士法23条の2に基づく照会制度)を利用することで、携帯電話会社などを通じて氏名や住所を特定できるケースがあります。
3. 不貞行為を客観的に立証できる証拠があるか
裁判では、請求を行う側(原告)が不貞行為の存在を客観的な証拠によって立証する責任を負います。相手方が関係を否定した場合、証拠の有無が判決を大きく左右します。
有力な証拠としては、肉体関係があったことを明確に示すメッセージのやり取り、宿泊施設へ出入りする写真や動画、領収書などが挙げられます。一方で、親密なメッセージや通話履歴単体では直接的な証明力が弱いため、複数の状況証拠を組み合わせた立証が必要となる場合もあります。
4. 相手方に慰謝料の支払い能力(資力)があるか
裁判で慰謝料の支払いを命じる判決を得たとしても、相手方に支払い能力がなければ実際の回収は困難になります。
相手方に安定した収入や差し押さえ可能な財産(預貯金、不動産、給与など)がない場合、回収不能となるリスクがある点もあらかじめ考慮しておく必要があります。
不倫慰謝料請求訴訟の流れと期間の目安
不倫相手に対する慰謝料請求訴訟は、裁判所に対して訴状を提出することから始まります。裁判所が訴状を受理すると内容の形式的な審査が行われ、不備がなければ第1回口頭弁論期日が指定されます。
期日が決定すると、裁判所から相手方(被告)へ訴状と期日呼出状が送達されます。被告側は送達を受けた後、指定された期日までに自身の主張や反論を記載した答弁書を提出することが求められます。
裁判の具体的な進行手順
- 訴状の作成と管轄裁判所への提出・第1回口頭弁論期日の指定
- 被告への訴状送達と被告側からの答弁書の提出
- 口頭弁論期日や弁論準備期日での主張・証拠の整理と和解の検討
- 必要に応じた本人尋問・証人尋問の実施
- 判決の言渡しおよび確定(控訴がない場合)
第1回期日の後は、おおむね1か月から1か月半に1回のペースで期日が開かれます。双方が準備書面や証拠を提出しながら争点を整理し、裁判官から和解案が提示されることもあります。双方が合意すれば和解成立によって裁判は終了します。
和解がまとまらない場合や事実関係に争いがある場合は、当事者や証人が法廷で証言する本人尋問・証人尋問が行われることがあります。尋問を経て裁判所の審理が終了すると、最終的な判断として判決が言い渡されます。
判決書が送達された日の翌日から2週間以内に控訴がなされなければ、判決が確定します。
解決までに要する期間の目安
訴訟にかかる期間は、争点の多さや相手方の対応によって異なります。争いが少なく途中で和解が成立する場合は半年程度で終了することもありますが、判決まで進む場合は1年以上の期間を要することも一般的です。
| 解決の形式 | 期間の目安 | 主な進行内容 |
|---|---|---|
| 和解による解決 | 約半年〜1年程度 | 数回の期日で争点を整理し、裁判所の和解案に合意する |
| 判決による解決 | 約1年〜1年半程度 | 主張立証や尋問手続きを経て裁判官の判決言渡しを受ける |
期日への出廷や書面作成など長期的な対応が必要になるため、あらかじめ全体の流れと期間の目安を把握しておくことが大切です。
裁判を起こす際にかかる主な費用
不倫相手に対して慰謝料請求訴訟を起こす際には、裁判所に納める申立手数料や書類送達のための郵便料など、一定の実費が発生します。
裁判の申立てに必要な実費は、請求する金額や手続きの内容によって異なるため、事前に内訳や目安を確認しておくことが大切です。
裁判所に納める手数料(収入印紙代)
裁判を起こす際には、申立手数料として訴状に収入印紙を貼付して裁判所に納める必要があります。
手数料の額は法律によって定められており、相手方に請求する慰謝料の金額(訴訟物の価額)に応じて段階的に高くなる仕組みです。一般的な請求金額と手数料の目安は以下のとおりです。
| 請求する慰謝料の金額 | 申立手数料(収入印紙代) |
|---|---|
| 10万円まで | 1,000円 |
| 50万円 | 5,000円 |
| 100万円 | 10,000円 |
| 160万円 | 13,000円 |
| 200万円 | 15,000円 |
| 300万円 | 20,000円 |
| 400万円 | 25,000円 |
| 500万円 | 30,000円 |
書類送達のための郵便料(予納郵券)
裁判所から相手方に訴状や期日呼出状を送達したり、各種書類を郵送したりするための郵便料(予納郵券)も必要となります。
納める郵便料の金額や納付方法(指定された組み合わせの郵便切手または現金)は、申し立てを行う裁判所によって異なります。
例えば、東京地方裁判所の場合、原告と被告がそれぞれ1名であれば6,000円程度が納付の目安となります。当事者の人数が増える場合には追加の費用が必要となるため、訴状を提出する裁判所の案内に従って準備します。
証人尋問等を実施する場合の旅費・日当
裁判の審理において証人尋問を実施する場合、出廷する証人の旅費や日当などの実費を申請側があらかじめ予納する必要があります。
証人の費用に関する基準は法律で定められており、旅費は1キロメートルあたり37円以内、日当は1日あたり8,200円以内となっています。
遠方からの出廷などで宿泊が必要となる場合には宿泊料も発生し、東京都特別区や大阪市などの特定地域では8,700円以内、その他の地域では7,800円以内が規定されています。
裁判で慰謝料を請求するメリットとデメリット
不倫相手に対する慰謝料請求を裁判で行うかどうかを判断する際には、裁判手続き特有の利点だけでなく、生じ得る負担やリスクについても正しく把握しておくことが重要です。
裁判で慰謝料を請求するメリット
裁判を起こす大きなメリットのひとつは、相手方が話し合いに応じない場合や無視を続けている場合でも、法的な手続きに沿って決着をつけられる点です。
相手方が訴状を受け取りながら答弁書を提出せず、第1回口頭弁論期日にも出廷しなかった場合、相手方は請求原因事実を自白したものとみなされ(擬制自白)、請求を認める判決が言い渡されることがあります。
また、確定判決や裁判上の和解が成立した場合は、債務名義を取得できるため、相手方が任意に支払わない場合に預貯金や給与などを差し押さえる強制執行の手続きへ移行することが可能になります。
裁判で慰謝料を請求するデメリット
一方で、裁判には一定の時間や労力がかかるというデメリットが存在します。裁判期日はおおむね1か月から1か月半に1回のペースで指定されるため、和解で早期に解決する場合でも半年程度、判決まで争う場合は1年以上の期間を要することも少なくありません。
また、期日ごとに主張書面や証拠書類を適切に準備して裁判所に提出する必要があり、手続きに伴う精神的・時間的な負担が生じやすい点も考慮すべき要素です。
さらに、民事裁判の口頭弁論は原則として公開された法廷で行われるため、誰でも傍聴することが可能です。
そのため、法廷での審理を通じて、配偶者の不倫や裁判を起こしている事実が知人や職場などの周囲に知られてしまうリスクがある点には注意が必要です。
裁判提起前の示談交渉と弁護士への相談
訴訟手続きの負担を軽減する示談・交渉の選択肢
不倫相手に対する慰謝料請求では、直ちに裁判(訴訟)を起こすのではなく、まずは裁判外での示談交渉による解決を検討することが一般的です。
示談交渉で双方が合意に至れば、裁判期日への継続的な出廷や複雑な主張書面の作成といった手続き上の負担を大幅に軽減できます。また、合意内容に応じた柔軟な支払い方法や取り決めを設定しやすい点も交渉による解決の利点といえます。
当事者同士の直接の話し合いでは感情的な対立が生じて話し合いが進まない場合であっても、弁護士などの代理人を通じて交渉を行うことで、相手方が真摯な対応に応じるケースも見られます。
精神的・時間的な負担を抑えて早期の解決を目指すためにも、まずは示談交渉による解決の余地があるかどうかを慎重に検討することが大切です。
個別の状況に応じた証拠の確認と弁護士への相談
不倫慰謝料請求を進めるにあたっては、手元にある証拠が客観的な立証に足るものであるかどうかの判断や、相手方の支払い能力を踏まえた現実的な回収可能性の見極めが欠かせません。
どのような証拠が裁判実務において重視されるか、あるいは示談と裁判のどちらを選択すべきかといった点は事案の背景によって異なります。判断に迷う場合は、法律の専門家である弁護士に相談し、客観的な助言を受けることが選択肢となります。
弁護士に相談することで、手続きにかかる費用やリスク、交渉や訴訟の見通しを整理したうえで、納得のいく解決方法を検討しやすくなります。ご自身の状況に合わせて、段階的に手続きを進めることをおすすめします。
コラム監修者
SHIZU ISHIDA
所属:東京オフィス
広島県広島市出身。青山学院大学心理学科、東海大学法科大学院卒業後、新司法試験に合格し最高裁判所司法研修所を修了。弁護士として法曹界に入り、刑事、民事、法人案件等幅広い分野の専門知識を習得。弁護士登録10年目にしてネクスパート法律事務所に入所し、現在は主に離婚事件に注力している。