不倫相手に対して、不貞慰謝料を請求するための訴訟を起こすには、裁判所に訴状を提出する必要があります。
訴状とは、訴訟による紛争の解決を求める者(原告)が、誰(被告)との間で、どのような権利義務について争いがあり、それについてどのような内容の裁判を求めるのかを記載した書面です。
この記事では、訴状を初めて作成する人にもわかりやすい訴状の書き方と作成時の注意点について解説しています。ご自身で訴状を書く際には、ぜひ参考にしてください。
目次
不貞慰謝料請求の訴状の書き方と記載例
不貞慰謝料請求の訴状の記載例は次のとおりです。
各事項の書き方を以下で詳しく説明します。記載例と照らし合わせてご確認ください。
①表題
表題は訴状とし、用紙の一番上に記載します。
【記入例】 訴 状 |
②作成日
作成年月日を以下のとおり元号で記載します。
【記入例】 令和〇年〇月〇日 |
③訴状の提出先の裁判所名
訴状の提出先の裁判所名を記載します。
【記入例】 ○○地方裁判所 御中 |
なお、訴訟物の価額(あなたが裁判で求める慰謝料の金額)が140万円以下の場合には、簡易裁判所に申し立てる必要があることから、この部分の記載は○○簡易裁判所 御中となります。
訴状の提出先については、3章で詳しく解説しています。
④原告(あなた)の氏名・住所・郵便番号・電話番号・FAX番号
原告(あなた)の氏名・住所・郵便番号・電話番号・FAX番号を記載し、名前の横に押印(認印可)します。
なお、FAX番号がない場合は記載不要です。
【記入例】 〒〇〇〇―〇〇〇〇 東京都○○区○○二丁目3番4号 原 告 〇 〇 〇 〇 ㊞ 電 話 〇〇〇-〇〇〇―〇〇〇〇 FAX 〇〇〇-〇〇〇―〇〇〇〇 |
⑤送達場所
送達場所を記載します。
送達場所とは、あなたが裁判所からの書類の受け取りを希望する場所です。
住所と同じ場合であれば、住所の右横に(送達場所)と記載するだけで構いません。
【記入例】 〒〇〇〇―〇〇〇〇 東京都○○区○○二丁目3番4号(送達場所) 原 告 〇 〇 〇 〇 ㊞ 電 話 〇〇〇-〇〇〇―〇〇〇〇 FAX 〇〇〇-〇〇〇―〇〇〇〇 |
住所以外の場所で書類を受け取る場合には、送達場所としてその場所を記載し、あなたとその場所との関係(実家、就業先等)も記載します。
上記送達場所が、あなた自身が通常いない場所である場合には、あなたに代わって書類を受け取る人(送達受取人)を記載し、あなたとその人との関係(母等)も記載します。
【記入例・実家】 (送達場所) 〒〇〇〇―〇〇〇〇 東京都○○区○○八丁目9番10号 (送達受取人・母) 〇 〇 〇 〇 電 話 〇〇〇-〇〇〇―〇〇〇〇 FAX 〇〇〇-〇〇〇―〇〇〇〇 |
⑥被告(不倫相手)の氏名・住所・郵便番号
被告(不倫相手)の氏名・住所・郵便番号を記載します。
【記入例】 〒〇〇〇―〇〇〇〇 東京都○○区○○五丁目6番7号 被 告 〇 〇 〇 〇 |
⑦事件名
事件名を記載します。
不貞慰謝料請求の場合には、損害賠償事件または慰謝料請求事件と記載します。
【記入例】 損害賠償請求事件 |
⑧訴訟物の価額
訴訟物の価額を記載します。
訴訟物の価額とは、請求の内容を金額に換算したものです。
不貞慰謝料請求の場合には、請求の内容は通常金銭の請求になるため、請求している金額そのものが訴訟物の価格となります。
【記入例・請求金額が300万円のケース】 訴訟物の価額 300万円 |
なお、遅延損害金を請求する場合でも、遅延損害金の額は訴訟物の価額に含みません。
⑨貼用印紙額
貼用印紙額を記載します。
訴訟を提起するためには、訴え手数料が必要です。
訴え手数料は、訴訟物の価額により異なります。
訴え手数料は、訴状に収入印紙を貼る形で納めるため、その金額を記載します。
【記入例・請求金額が300万円のケース】 貼用印紙額 2万円 |
訴えの手数料について、詳しくは裁判所のホームページをご参照ください。
参照:裁判所
⑩請求の趣旨
請求の趣旨を記載します。
請求の趣旨とは、あなたが被告に求める請求の内容です。通常は、請求が認容された場合の判決主文に対応する文言を用いて記載します。
不貞慰謝料請求の場合には、通常金銭の請求になるため、被告に求める金額を記載します。
遅延損害金を請求する場合には、その旨も記載します。
【記入例】 第1 請求の趣旨 1 被告は、原告に対し、○○○万円を支払え。 2 訴訟費用は、被告の負担とする。 との判決並びに仮執行の宣言を求める。 |
⑪請求の原因
請求の原因を記載します。
請求の原因とは、請求の理由となる事実です。
紛争の内容やあなたの主張を、順序立てて具体的に記載します。
不倫相手に対する不貞慰謝料請求では、次の5つについて記載する必要があります。
- ①あなたと配偶者が婚姻関係にあったこと
- ②不倫相手があなたの配偶者と肉体関係を持ったこと
- ③上記②によって婚姻関係が破綻したこと
- ④上記③について不倫相手に故意過失があったこと
- ⑤精神的損害が発生したこと
請求の原因には、請求が認められるために必要な事実を記載する必要があり、判決の内容を左右する部分でもあります。
事案によって記載する内容も大きく異なることから、ご自身で書くのが難しいと感じた場合には、弁護士への依頼を一度検討してみることをおすすめします。
⑫証拠方法
証拠方法を記載します。
あなたの主張を裏付ける証拠がある場合には、証拠ごとに証拠番号を付し、その書類名を記載します。
あなたは原告側ですので、甲第〇号証と記載します。なお、被告側は乙を用います。
【記入例】 証 拠 方 法 甲第1号証 LINEのスクリーンショット 甲第2号証 ホテルAの領収書 |
⑬附属書類
附属書類を記載します。
訴状正本のほかに、一緒に提出する書類名とその部数を記載します。
裁判所に提出する書類は、原則裁判所用(正本)と被告用(副本)が必要です。
被告が1名の場合には、1つの書類につき正本・副本各1通合計2通を提出する必要があります。
【記入例】 附 属 書 類 1 訴状副本 1通 2 証拠説明書正本・副本 各1通 3 甲第1・2号証の写し 各2通 |
不貞慰謝料請求を提起する際に準備するもの
不貞慰謝料請求を提起する際に準備するものは次のとおりです。
- 訴状
- 収入印紙
- 郵便切手
- その他(証拠書類、証拠説明書)
以下、詳しく見ていきましょう。
訴状
訴状は、裁判所用(正本)1通と、被告用(副本)が被告の人数分必要です。
それぞれに押印を忘れないようにしましょう。なお、自分用として手元に1部残しておくことをおすすめします。
収入印紙
訴えの手数料は、収入印紙で納める必要があります。
訴訟物の価額に応じた訴えの手数料を訴状に貼りましょう。
郵便切手
裁判所からあなたや被告に対して書類を送るための郵便切手を納める必要があります。
必要な郵便切手については、管轄の裁判所にお問い合わせください。
その他
訴状を提出する際に必ず提出しなければいけないものではありませんが、あなたの主張を裏付ける証拠がある場合には証拠書類の写しと証拠説明書も合わせて提出することで、訴訟がスムーズに進みます。
証拠書類の写し
あなたの主張を裏付ける証拠がある場合には、証拠書類のコピーを訴状と同じ数提出しましょう。証拠書類ごとに番号を付し、書類の右上に甲第〇号証と記載します。
なお、証拠書類の原本を提出した場合には、原則として返還がされません。
証拠説明書
証拠説明書とは、あなたが提出した書類の一覧表で、証拠の標目や作成日、作成者、証拠によって何を証明するのか(立証趣旨)等を記載します。
証拠説明書は、証拠の目次のような役割を果たします。
証拠説明書の書式と作成要領について、詳しくは裁判所のホームページをご参照ください。
参照:裁判所
不貞慰謝料請求の訴状を提出する前のチェックポイント!
訴状の準備が整ったら、訴状を提出する前に次の5つを確認しましょう。
- 訴状の体裁が整っているか
- 印鑑を押したか
- 提出する裁判所があっているか
- 被告の住所に間違いがないか
- 訴状と証拠書類は被告の人数分コピーしたか
以下、詳しく見ていきましょう。
訴状の体裁が整っているか
訴状の体裁が整っているか確認しましょう。
訴状は、手書きで作成しても、パソコンで作成しても構いませんが、裁判所に提出する文書には、サイズや書式・体裁に推奨されているルールがあります。
推奨されているルールを守れていないからといって、訴状を受け付けてもらえないことはありませんが、最低限、次の4点を満たした体裁で作成することをおすすめします。
- A4サイズの用紙(縦置き)に横書きで記載する
- 用紙の左端より3cm程度の余白(綴じ代)を設ける
- 用紙の片面のみを使用し、両面使用はしない
- 用紙が複数枚にわたる場合は、用紙の左端2か所をホチキス止めし、割印をするか各用紙の下に頁番号を記載する
せっかく苦労して書いた文書を、裁判官にしっかり読んでもらうためにも、なるべく書式・体裁のルールを守るようにしましょう。
印鑑を押したか
印鑑を押したか確認しましょう。
訴状には、押印(認印可)が必要です。押印がない場合には、裁判所から補正の連絡が来ます。
訴状を提出する前に、訴状の正本・副本の両方に印鑑を押したか必ず確認しましょう。
提出する裁判所があっているか
提出する裁判所があっているか確認しましょう。
不貞慰謝料請求は、不法行為に基づく損害賠償請求に該当することから、原則として、次の3つのいずれかの裁判所に訴状を提出する必要があります。
- 被告の住所地を管轄する裁判所(民事訴訟法第4条1項)
- 原告の住所地を管轄する裁判所(同法第5条1号)
- 不法行為地(不貞行為を行った場所)を管轄する裁判所(同条9号)
請求する慰謝料額が140万円以下の場合には簡易裁判所に、140万円を超える場合には地方裁判所に提出します。
提出する裁判所があっているか確認しましょう。
被告の住所に間違いがないか
被告の住所に間違いがないか確認しましょう。
被告の住所に間違いがあると、訴状が届かず、裁判を開始できません。被告の訴状に誤記があり、再度訴状を送る場合には、追加の郵便切手も必要になります。
訴状を提出する前に、再度被告の住所に間違いがないか確認しましょう。
訴状と証拠書類は被告の人数分+1コピーしたか
訴状と証拠書類は被告の人数分+1コピーしたか確認しましょう。
訴状と証拠書類は裁判所用と被告用が必要です。
被告が1名の場合には、訴状と証拠書類はそれぞれ2部ずつ必要ですから、必要な部数入っているか確認しましょう。
なお、手元に自分用に1部コピーをしておきましょう。
訴状を提出した後の不貞慰謝料請求訴訟の流れ
訴状を提出した後の訴訟の流れについて見ていきましょう。
【訴状の記載に不備がある場合】裁判所からの補正連絡
訴状の記載に不備がある場合は、裁判所から補正の連絡が来ます。
補正は、裁判所の窓口に直接出向くか訂正書面を郵送する方法で行います。
裁判所からの補正に従わない場合には、訴状却下され、裁判が終了してしまうこともありますから、裁判所からの補正の指示には必ず従うようにしましょう。
【訴状の記載に不備がない場合】裁判所から期日調整の連絡
訴状の記載に不備がない場合は、裁判所から第1回目の裁判の日(第1回口頭弁論期日)を決めるための連絡が来ます。
裁判は平日の日中に行われますから、事前に仕事の予定等を把握しておきましょう。
裁判所が被告に対し訴状送達
第1回口頭弁論期日が決まったら、第1回口頭弁論期日の呼出状と訴状が被告に送達されます。
被告が答弁書を提出
訴状を受け取った被告は、自分の言い分がある場合には、原則として答弁書を提出する必要があります。
裁判所に被告の答弁書が提出された場合には、裁判所からあなたに対して、被告の答弁書が郵送されます。
第1回口頭弁論期日までに、被告の答弁書に目を通しておきましょう。
第1回口頭弁論期日
第1回口頭弁論期日は、代理人弁護士を付けない限り、あなた(原告)自身が出席する必要があります。
第1回口頭弁論期日は、裁判所とあなたの都合のみで決めているため、被告は第1回口頭弁論期日に限り、答弁書を提出していれば、欠席が可能です。
複数回の期日を経て和解の提案
第2回口頭弁論期日以降は、原告・被告双方が出席できる日程を調整して、裁判が開かれます。
期日では双方の主張や証拠を提出し、事件の争点を整理していきます。
裁判官から、書面の提出が求められることもありますから、期限までに必要な書面を提出しましょう。
双方の主張や証拠が出揃った段階で、裁判官から和解の提案がされることも多いです。双方が和解に合意した場合には、和解成立により裁判は終了します。
本人尋問・証人尋問
双方の主張・証拠が揃い、争点が整理された段階で、本人尋問・証人尋問が行われる場合があります。
本人尋問・証人尋問は、その供述内容を証拠にする手続きです。
本人尋問では、代理人弁護士が付いている場合であっても、当事者本人が出廷する必要があります。
判決言い渡し
尋問後に、再度裁判官から和解の提案がされることもあります。
ここでも和解が成立しない場合には、判決の言い渡し日が決められ、その日に判決が言い渡されることになります。
なお、判決言い渡し日には原則として裁判所に行く必要はありません。後日、郵送で判決が送られてきます。
不貞慰謝料請求の訴状の書き方は裁判所に教えてもらえる?
当事者の表示等の形式的な記載事項については、裁判所でも教えてもらえます。
しかし、請求の趣旨や請求の原因等の内容面について、「どのように書いたらよいか?」は教えてもらえません。
裁判所は公平・中立な立場で、第三者として判断を行う機関ですから、あなたに有利になるアドバイスはできません。もちろん、被告側にも被告に有利になるようなアドバイスはできません。
不貞慰謝料請求を弁護士に依頼する4つのメリット
不貞慰謝料請求を弁護士に依頼するメリットは、次の4つです。
- あなたに有利な訴状を作成してもらえる
- 基本的に裁判所に行く必要がなくなる
- 裁判所からの書類が自宅に届かなくなる
- 裁判所に提出する書類の準備を全て任せられる
以下、詳しく見ていきましょう。
あなたに有利な訴状を作成してもらえる
あなたに有利な訴状を作成してもらえます。
弁護士に依頼した場合には、弁護士はあなたの代理人として、あなたに有利な判決を得られるよう努めてくれるでしょう。
あなたが有利な事案であっても、訴状できちんと法的に主張できなければ、裁判所には伝わりません。
弁護士であれば、法的な主張はもちろん、今までの経験からあなたに有利な訴状を作成できるでしょう。
基本的に裁判所に行く必要がなくなる
基本的に裁判所に行く必要がなくなります。
裁判は平日の日中に行われ、裁判期間も半年~1年程度かかります。あなた一人で対応する場合には、仕事の調整が必要になるでしょう。
弁護士に依頼することで、基本的に本人尋問以外の期日にはあなたが出廷する必要がありませんから、裁判に出廷する負担を減らせるでしょう。
裁判所からの書類が自宅に届かなくなる
裁判所からの書類が自宅に届かなくなります。
弁護士に依頼することで、裁判所からの書類は弁護士宛に郵送されます。
したがって、自宅に書類が届くことで家族に裁判がバレるリスクを減らせるでしょう。
裁判所に提出する書類の準備を全て任せられる
裁判所に提出する書類の準備を全て任せられます。
訴状を提出すればそれで終わりではありません。今後裁判が進むにつれて、裁判官から主張や証拠の提出を求められ、より法的な知識が必要になるでしょう。
弁護士に依頼することで、裁判所に提出する書類の準備を全て任せられるでしょう。
まとめ
不貞慰謝料の訴状の書き方と作成の注意点について解説しました。
訴状の書き方は、複雑な部分も多く、特に請求の原因に関しては、法的な主張をきちんと記載する必要があります。事案が同じようなケースであっても、訴状や主張書面の書き方、どの証拠をどのタイミングで提出するかによって、判決が左右されることも多々あります。
弁護士に依頼することで、あなたの負担が少なくなるだけでなく、裁判自体も早く終わる可能性もありますから、弁護士に依頼することもぜひ検討してみてください。
ネクスパート法律事務所では、不貞問題に強い弁護士が在籍しています。
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