10年以上経った過払金が請求できるケースはあるのか?
過払金には請求できる期間に限りがあって、10年経つと請求できなくなると言われているようです。
このことは一部正しいですが、一部間違っています。
確かに過払い金の請求権は最終取引日から10年間で消滅時効にかかりますが、10年経っていても過払い金が請求できるケースは存在します。
ここでは10年以上たった過払金の請求が可能なケースについて、わかりやすく解説します。
目次
過払金の消滅時効の基礎
過払金の返還請求権は、払い過ぎた利息を返してもらう権利です。
貸金業者が利息制限法で定める上限金利を超えた利率で受け取った利息を返してもらう権利です。
この権利のことを「不当利得返還請求権」といい、民法では10年間で消滅するとしています。
(なお、2020年4月に施行される改正民法では、権利を行使することができると知った時から5年行使しないとき、権利を行使することができる時から10年行使しない時の早い方とされました。ただしこの規定は2020年4月以降に完済された場合に適用されますので、それより以前の過払金を請求する件には該当しません。)
10年間の期間を算定する始期は一つ一つの返済日ではなく、最終取引日です。
つまり最終取引日から10年経つと消滅時効にかかり、過払金は請求できなくなるのが原則です。
10年以上たった過払金が請求できるケース
原則は上記の通りですが、ある取引が10年以上前の返済で完済したとされている場合でも、過払金が請求できるケースがあります。
同じ会社と取引が続いている場合
同じ貸金業者に対して借りたり返したりを繰り返して取引が継続している場合、一連の取引について発生した過払金は最終取引日から時効が進行するとされました(最高裁判所第一小法廷平成21年1月22日判決)。
従って貸金業者から10年前にある取引が完済したと通知を受けていても、その後も取引が継続していれば一連の取引が続いているとみなされます。
そして最終取引日から10年が経過していなければ、一連の取引全体で発生した過払金の請求が可能となります。
「一連の取引」の判断ポイント
一連の取引とみなせることができれば最終取引日から時効が進行すると考えることができますが、一連の取引とみなせなければどのようになるのでしょう。
取引が一連のものとみなせなければ取引が分断されたとして、分断された時点より時効が進行するとの主張が可能となります。
例えば一度契約を解約した後に再度契約するまでの期間や完済してから再度借入するまでの期間を空白期間といいますが、この空白期間が1年を超えるケースが考えられます。
2008年10月1日に完済した後に2009年10月1日に再度借入し、以降借りたり返したりを繰り返し最終取引日(完済日)が2018年10月1日である例で解説します。
一連の取引とみなせれば、時効の始期は2018年10月1日です。
一方空白期間が1年あるため取引が分断されたと考えれば、時効の始期は2008年以前の取引については2008年10月1日となり、2010年以降の取引については2018年10月1日と二つに分かれてしまいます。
しかも2008年10月1日が始期であれば、2018年9月30日の終了をもって消滅時効が完成し2009年以前の取引についての過払金請求はできなくなります。
このように一連の取引とみなせるか分断されたと考えるかで、過払金の額と時効の完成日が大きく変わります。
この判断を行う上でポイントとなる6点が最高裁平成20年1月18日判決で示されました。
- ①第1の基本契約に基づく貸付け及び弁済が反復継続して行われた期間の長さ
- ②第1の基本契約に基づく最終の弁済から第2の基本契約に基づく最初の貸付けまでの期間(空白期間)
- ③第1の基本契約についての契約書の返還の有無
- ④借入れ等に際し使用されるカードが発行されている場合にはその失効手続の有無
- ⑤第1の基本契約に基づく最終の弁済から第2の基本契約が締結されるまでの間における貸主と借主との接触の状況(年会費を払っていた等)
- ⑥第2の基本契約が締結されるに至る経緯、各基本契約における利率等の契約条件の違い等
これらのポイントから一連の取引とみなすか分断されていると判断するか、当事者の間で決着がつかなければ最終的には裁判所に判断してもらうことになります。
不法行為による損害賠償の場合
不法行為による損害賠償請求権の時効の始期は、損害を知ったときから3年ないし不法行為の時から20年です(民法724条)。
過払であることを知りながら貸付を行い返済を受け入れたことが不法行為となるかは判断が分かれますが、取立の際暴行や強迫を伴っていれば不法行為として認められる余地があります。
この場合損害を知ったときとは、取引開示を受けた時と考えるのが妥当でしょう。
取引開示から3年が経過していなければ、損害賠償請求が可能です。
借金の相殺が主張できるケース
過払金の請求ではなく、当時あった借金との相殺(差し引き)の主張を行う方法もあります。
新たに借入をした時点で当時は存在を知らなかった過払金を、後から借入と相殺すると主張することは可能です。
1回目の取引で発生した過払金の消滅時効が完成していても、その完済日から10年以内に2回目の借入が発生していればその借入と相殺が可能です。
ただしこの相殺は相手方に意思表示を行うことが必要ですので、過払金請求の時にでも予備的に主張しておいたほうがいいでしょう。
まとめ
過払金の返還請求は10年で消滅時効にかかりますが、どこから10年とできるかで完済から10年経ったときでも請求が可能なケースがあります。
過払金問題を数多く取り扱ってきた当事務所では、解決事例が豊富で過払金請求の可能性を追求しています。