支払不能とは?破産法による判断基準や定義・対処法を紹介
支払不能とは、自己破産に関連する用語です。簡単にいうと、支払不能の状態になっていないと、自己破産をすることができません。
とはいえ、「私はもう支払不能の状態です」と自己申告すればいいわけでもありません。
破産法によって、支払不能の定義は明確に定義されています。
ここでは、支払不能の定義や勘違いされやすい用語との違い、支払不能のときにしてはいけない行動などを紹介します。
目次
支払不能とは
まずは、支払不能がどんなものなのか、いつ使われるかなどの概念を理解しましょう。
破産法で定められた法律用語
支払不能とは、破産法で定められた法律用語です。これは、借金を負った人がその本来の支払い能力を超えて、債務を完全に支払うことができない状況を指します。
破産法の条文(2条の11)にはこのように記載されています。
この法律において「支払不能」とは、債務者が、支払能力を欠くために、その債務のうち弁済期にあるものにつき、一般的かつ継続的に弁済することができない状態をいう。
【引用:破産法- e-gov】
条文の具体的な意味はこのあと説明します。
自己破産が認められるために必要
支払不能であることは、自己破産が認められるために必要な条件です。裁判所が申立人を支払不能と判断した場合にのみ、自己破産が認められます。
例えば、収入や資産を大幅に見直しても、借金の返済が継続的に行えない状態が該当します。
申立人が支払不能であるときに自己破産を認める旨が記されている条文は以下の通りです。
(破産手続開始の原因)
第十五条 債務者が支払不能にあるときは、裁判所は、第三十条第一項の規定に基づき、申立てにより、決定で、破産手続を開始する。
【引用:破産法- e-gov】
つまり、支払不能は、単なる金欠などの状態を示す言葉ではなく、破産手続きに関連する重要な法律用語なのです。
支払不能の具体的な判断基準
次に、支払不能がどのような状態のことを指すのか、具体的に説明します。
下記で説明する①②③をすべて満たしている場合のみ、裁判所は、支払不能であることを認めます。
①支払い能力を欠いていること
こちらはそのままの意味で、債務者が借金を返済するほどのお金を持っていないことを指しています。
支払能力とは、現金や資産だけでなく、収入の有無なども考慮されます。
②支払期日が到来している借金を弁済できないこと
支払不能は、すでに支払期日が到来している借金を弁済できない状況も含みます。
例えば、クレジットカードの請求額やローンの返済日が過ぎても支払いが行えない場合が該当します。
例えば弁済が明らかに無理な状況でも、まだ支払期日が到来していない場合には、支払不能には認められません。
例えば、収入も貯金もゼロ、借金が1000万ある人でも、支払期日が一か月後であれば、その段階では支払不能とは認められません。
あくまで、支払期日が到来していることが条件です。
③債務を一般的かつ継続的に弁済できないこと
3つ目は、債務を一般的かつ継続的に返済できないことです。一般性と継続性について、分けて説明します。
【弁済の一般性を欠くこととは】
弁済の一般性とは、特定の債権者にのみ支払いを行うのではなく、すべての債権者に対して公平に弁済する能力があるかを指します。
例えば、住宅ローンと自動車ローンと消費者金融の3社から借入があった場合、3社とも毎月返済していくのが普通です。
それができないということは、弁済の一般性を欠いていることになります。
【弁済の継続性を欠くこととは】
弁済の継続性とは、今後ずっと返済が不可能なのかを意味します。
例えば、これから2か月間は収入がなく、返済が困難だけれど、3か月目からは安定した収入がある場合には、弁済の継続性を欠くとはいえません。
現在も、これからも継続的に借金返済が困難な状態である場合に限り、弁済の継続性を欠いていると認められます。
支払不能は誰が判断する?
支払不能かどうかを最終的に判断するのは裁判所です。裁判所は債務者の財産状況や収入、支出を基に、客観的に支払不能の有無を判断します。
自分がすでに支払不能かどうかを客観的に評価することには意味がありますが、「私はもう支払不能だ…」と自虐的になっても、現状はよくならないことを覚えておきましょう。
支払不能=今後も状況が良くなることはないわけですから、速やかに弁護士に相談しましょう。
支払不能状態になった人がしてはいけないこと
支払不能の状態になってしまった場合、今後も状況が変わることは望めないので、自己破産をすることになる可能性が高いです。
客観的にみて自分が支払不能の状態だと感じた場合には、これから説明する行為は絶対にしないようにしてください。
もし以下の行為をしてしまうと、自己破産が認められなくなる可能性があるからです。
さらに借入を増やす
支払不能の状態で新たに借金をすると、返済負担がさらに重くなり、問題を深刻化させます。
特に、自転車操業的に新しい借入で既存の借金を返済する行為は、解決を遠ざけるだけでなく、債権者や裁判所からの信頼を失う原因にもなります。
自分に返済能力がないことを隠したり、嘘をついたりしてお金を借りていたことが発覚すると、自己破産が認められなくなるかもしれないので注意してください。
借金を放置する
借金問題を放置すると、債権者からの取り立てが強化されるほか、法的措置が取られる可能性があります。
問題を先延ばしにするメリットがありませんので、放置するくらいであれば、早々に弁護士に相談すべきです。
特定の債権者のみに返済する
一部の債権者にだけ返済を行うことは、他の債権者に対して不公平な状況を作り出し、法的なトラブルを引き起こすことがあります。
このような偏った返済は、偏頗弁済(へんぱべんさい)と呼ばれ、自己破産が認められなくなる原因となります。
財産を隠す・処分する
自己破産をすると、自分が所有している財産のうち、価値のあるものが指し押さられてしまいます(家や車などが代表的)。
それを見越して、自己破産をする前に財産を売却したり、隠したり、処分したりする人がいます。
売却して得たお金を借金返済に充てるのであれば問題はありません。
しかし、そうでない場合、債権者に損害を与える行為をしたとして、自己破産が認められなくなる可能性があります。
自己破産時に債務者から差押えて換金した財産は、債権者に配当されるはずですが、それができなくなってしまうからです。
ギャンブルや浪費をする
支払不能の状態でギャンブルや浪費を続ける行為は、経済状況をさらに悪化させるだけでなく、裁判所からの信用を失う原因となります。
株やギャンブル、投資などで作った借金は、原則、自己破産が認められません。
例外的に認められることもありますが、支払不能になってからもギャンブルなどをしていた場合、裁判所の心証が悪くなるので注意してください。
支払不能・支払停止・債務超過の違いは?
借金問題や経済的な困難を表す言葉として、支払不能、支払停止、債務超過という用語がありますが、それぞれ意味や適用される状況が異なります。以下で詳しく解説します。
支払不能は支払いたくても支払えない状態
支払不能は、ここまで説明してきた通り、破産法で定められた法律用語です。支払不能であると裁判所に認められないと、自己破産はできません。
簡単に説明すると、現実的にみて借金返済が不可能な状態であり、かつこの状況が改善する見込みがない状態のことをいいます。
支払停止は意図的に支払いを止める状態
支払停止とは、債務者が意図的に債務の返済を中断することを指します。
これは支払不能とは異なり、実際に返済能力があるにもかかわらず、何らかの理由で返済を停止する行為を意味します。
例えば、取引先とのトラブルや資金の流動性の確保を目的として、意図的に支払いを止める場合が挙げられます。
債務超過は事業でのマイナスを表す言葉
債務超過とは、主に法人や企業の財務状況を指す言葉で、総資産よりも総負債が上回っている状態を意味します。
これは事業運営上の経済的困難を示す指標であり、法人が破産や再建を検討する際に重要な判断基準となります。個人の借金問題ではなく、主に法人に適用される概念です。
支払不能だと感じたら弁護士に相談すべき
支払不能になると、毎月の収入では明らかに借金を支払えない状態になります。
この状態で、何も行動を起こさずにいると、状況は悪化することはあっても、好転することはまずありません。
精神的ストレスも大きいですので、なるべく早く弁護士に相談して、借金問題を解決してしまったほうがいいでしょう。
支払不能に関するよくある質問
個人再生と支払不能の関係は?
支払不能は、自己破産が認められるために必要な条件(法律用語)で、個人再生とは直接の関係はありません。
ただし、法律用語とは関係なしに、毎月の支払いが不可能になっている人であれば、個人再生が認められる可能性はあります。
支払不能とは無資力のこと?
支払不能は必ずしも無資力を意味するわけではありません。例えば資力がある(収入や財産がある)人でも、収支のバランスが破綻してしまえば、支払不能となります。
まとめ
支払不能とは、債務者が支払い能力を欠き、債務の返済が継続的に不可能な状態を指します。
具体的には、収入や資産が不足しており、支払期日が到来した借金を返済できない状況が該当します。
この状態になると、自己破産を申請するための条件を満たすことになります。
支払不能になった場合は、放置せずに弁護士に相談し、適切な法的手続きを進めることが重要です。適切な対策を取らないと、状況は悪化する可能性があります。
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