自己破産しても起業できる?|破産後の会社設立や資金調達方法も解説
「自己破産後も、起業・再起業できる?」
「自己破産後の起業・再起業でも融資は受けられる?」
自己破産後、起業・再起業できるかどうか不安に感じる方も少なくありません。
この記事では、自己破産後の起業・再起業について次のとおり解説します。
- 自己破産すると起業・再起業できない?
- 自己破産後に起業・会社設立する方法
- 自己破産後の起業・再起業のための資金調達の方法
- 起業している人が自己破産する場合の注意点
自己破産後に起業・再起業をご検討中の方、起業していて自己破産を検討中の方は、是非ご参考になさってください。
自己破産すると起業・再起業できない?
自己破産しても起業・再起業できます。ただし、法律上いくつかの制限を受けます。
ここでは、法的な制限や自己破産による起業・再起業への影響を解説します。
現行の会社法では自己破産しても取締役の欠格事由に該当しない
旧商法では、取締役の欠格事由に破産者が含まれていたので、自己破産手続中は取締役になれませんでした。2006年の改正により現行の会社法が施行され、このような制限はなくなりました。現行法では破産者も取締役に就任できます。
・金融事業を営む会社の取締役に関しては特別の規制がある
会社法以外の法律で、自己破産手続中は取締役になれないことがあります。代表例は次のとおりです。
- 証券金融会社の取締役(金融商品取引法第156条の31)
- 保険会社の取締役(保険業法第8条の2)
- 特定目的会社の取締役(資産の流動化に関する法律70条3号)
委任契約の終了による取締役の退任
民法では、委任契約は当事者である委任者または受任者のどちらかについて破産手続が開始された場合、その委任契約は当然に終了すると規定されています。
つまり、取締役が自己破産すると会社との委任契約は終了しますので、取締役はいったん退任しなければなりません。
現行の会社法では破産者は取締役の欠格事由に該当しないため、再度会社から取締役として選任されれば取締役に就任できます。
破産手続中は一部の資格・職業の制限がある
自己破産手続中は、一部の資格・職業に制限を受けます。
次に例をあげる資格や業種で起業する場合、自己破産手続中は、その資格を使用した仕事に就けません。
- 士業(弁護士・司法書士・行政書士・税理士・公認会計士・社会保険労務士等)
- 警備員・警備業
- 生命保険募集人・損害保険の代理人
- 宅地建物取引主任・宅地建物取引業
- 卸売業者
免責許可決定の確定により復権すれば、これらの資格・職業に関する制限は解除されます。
破産手続後も一定の制限がある
資金繰りが難しい
法律上は破産者も起業・再起業が可能ですが、現実に起業・再起業するのが難しい理由は次のとおりです。
- 自己破産で一定の財産が処分され貯蓄がない状態からスタートする
- 資金調達の手段が限られている
自己破産すると、信用情報機関に事故情報が登録されます。いわゆるブラックリストに載ることです。ブラックリストに載ると5~10年間は新規借入・ローン契約・クレジットカードの作成が困難になります。
事業用物件を借りられない可能性がある
ブラックリストに載ると、事務所や店舗を借りる際の保証会社の審査が通らない可能性があります。信販系保証会社は信用情報機関(CIC)に加盟しているからです。
なお、信販系以外の保証会社であれば、原則として独自の審査基準を定めていますので、審査に通る可能性があります。
自己破産後に事業用物件を探すときは、次の点に注意しましょう。
- 保証会社ではなく連帯保証人を設定する
- 信販系以外の保証会社を選ぶ
2022年3月10日現在の保証機関の種類と加盟会員の一例を次のとおり紹介します。
保証機関 | 加盟会員(抜粋) | |
信販系 | 株式会社シー・アイ・シー(CIC)
に加盟している保証会社 |
株式会社アプラス
株式会社ジャックス 株式会社エポスカード 株式会社セゾン 株式会社セディナ 株式会社ライフ 株式会社オリエントコーポレーション |
独立系 | 一般社団法人全国賃貸保証業協会(LICC)に加盟している保証会社 | 株式会社近畿保証サービス
全保連株式会社 エルズサポート株式会社 ジェイリース株式会社 ナップ賃貸保証株式会社 ホームネット株式会社 |
一般社団法人全国保証機構(CGO)に加盟している保証会社 | フォーシーズ株式会社
日本セーフティー株式会社 日本賃貸保証株式会社(JID) 株式会社Casa ニッポンインシュア株式会社 有限会社トラスト・コーポレーション 株式会社ラクーンレント |
オフィス用品のリース契約ができない
ブラックリストの登録期間はリース契約もできません。ブラックリストの登録が抹消されるまでの間は、次のようなオフィス用品を自己資金で準備しなければなりません。
- コピー機・複合機
- パソコン等OA機器
- デスク・チェア
- ビジネスホン
- 什器
自己破産後に起業・会社設立する方法
自己破産後に起業・会社設立するためには、どうすればよいでしょうか?
ここでは、自己破産後にスムーズに起業・会社設立する方法を紹介します。
自己資金を貯める
自己破産後5~10年は融資を受けるのが難しくなります。
そのため、起業に必要なお金を貯蓄する必要があります。時間はかかりますが、借入に頼らずに済みますので少ないリスクで起業できます。
家族・親族を代表者にする
ブラックリストの登録が抹消されるまでの間、家族・親族を代表者にする方法があります。
家族・親族の個人信用情報に傷がなければ、融資を受けられる可能性があります。
共同経営者がいれば、その共同経営者を代表取締役とする方法もあります。
初期費用がかからない業種を選択する
店舗や設備が必要な業種は、多額の初期費用がかかります。自己破産後に起業・再起業する場合は、初期費用がかからない業種を検討するのも一つの手段です。
在庫を持たない
商品を作る・商品を仕入れるためには、最初にその代金を支払う必要があります。商品が売れるまで収支はマイナスの状態となります。在庫を保管するためのコストもかかります。
自己破産後の起業・再起業では、資金調達が難しくなります。在庫を抱えることは経営上負債を抱えるリスクが伴います。
在庫を持たない低リスクの業種を選びましょう。
従業員を雇わない
雇用する従業員が多ければ多いほど人件費がかさみ、会社が負担する従業員の社会保険料額も増えます。
まずは自分ひとりで業務をスタートし、経営が安定してから従業員を雇うことを考えましょう
入金サイクルが早い
売掛金(売上代金)の回収を早く、買掛金の支払いを遅くすれば資金繰りが楽になります。入金サイクルが遅いと手元資金が不足して支払いができなくなるおそれがあります。資金繰りの不安を解消するために、入金サイクルが早いビジネスを選びましょう。
融資を受けるために実績を作る
融資を受けるためには、事業実績が必要です。個人信用情報が回復して融資を受けられるようになるまで、以下のとおり準備しましょう。
- 手元資金を増やす
- 売上の実績を上げる
- 実効性のある事業計画書を作る
自己破産後の起業・再起業のための資金調達の方法
ここでは、自己破産後の起業・再起業のための資金調達の方法を紹介します。
再チャレンジ支援融資
再挑戦支援資金(再チャレンジ支援融資)とは、日本政策金融公庫が提供する融資制度です。
対象者は、新たに開業する人または開業後おおむね7年以内の人で、次の全てに該当する場合です。
- 廃業歴等を有する個人または廃業歴等を有する経営者が営む法人であること
- 廃業時の負債が新たな事業に影響を与えない程度に整理される見込み等であること
- 廃業の理由・事情がやむを得ないもの等であること
上記廃業歴等には、自己破産による廃業も含むため、自己破産した人も条件に当てはまります。なお、廃業歴がある人(再起業する人)を対象としているため、事業経験が無い人は利用できません。
クラウドファンディング
クラウドファンディングとは、インターネット上で不特定多数の人から資金を調達するサービスです。クラウドファンディングはブラックリスト登録期間でも利用できます。
サービスのメリット・デメリットを考慮して利用を検討しましょう。
クラウドファンディングのメリット
クラウドファンディングの主なメリットは次のとおりです。
- 資金調達だけでなくマーケティングとしても活用できる
- 調達資金のリターンは自由に設定できる
- 事業実績がなくても資金調達が可能
クラウドファンディングのデメリット
クラウドファンディングの主なデメリットは次のとおりです。
- 目標金額が調達できるとは限らない
- 資金調達に時間もかかる
- 支援者に対するリターンや返金などの対応が必要
出資者を募る
親族や友人・知人に資金援助を求めるのも一つの方法です。
近年ではエンジェル投資家から資金を調達する方法もあります。エンジェル投資家とは、起業間もない企業に資金を出資して、企業が成長したときに株式や配当で利益を得る投資家です。
起業している人が自己破産する場合の注意点
ここでは、起業している人が自己破産する場合の注意点を解説します。
法人も代表者個人も自己破産する(法人の場合)
代表者が法人の債務の連帯保証人になっている場合、法人が破産すれば代表者個人に残債務が一括請求されます。
代表者が払えない場合は、代表者個人も自己破産しなければならないことがあります。
原則管財事件になるので予納金が多くかかる
法人の代表者や個人事業主が自己破産すると、管財事件として取り扱われる可能性が高いです。このため、非事業者の破産と比べて予納金が高くなる傾向があります。
在庫や備品を勝手に処分しない
在庫や備品その他事業用財産は、原則として破産手続内で管財人が換価処分して債権者に配当します。
申立前に在庫や備品を勝手に処分すると、免責不許可事由に該当し、免責を受けられなくなる可能性があります。在庫や備品は勝手に処分せず、破産管財人に引継ぎましょう。
なお、次のような場合は弁護士に相談してどのように対応すればよいか相談しましょう。
- 在庫商品の引渡期日が決まっている場合
- 在庫商品や備品の保管に多額の費用がかかる場合
- 在庫商品の賞味期限が迫っている場合
まとめ
現在の会社法では破産者でも取締役に就任できます。破産手続開始決定により取締役と会社との委任関係は当然に終了しますが、会社から選任されれば再就任が可能です。
法律上、自己破産しても起業できますが、資金調達が難しくなるため早期の起業・再起業は現実的ではないでしょう。
しかし、廃業歴のある方を対象とした再挑戦支援資金やクラウドファンディングを利用した資金調達の方法もあります。自己破産後に起業・再起業したい場合は、自己資金を貯めつつ、これらの制度の利用を検討すると良いでしょう。