自己破産したら何を失う?処分される財産と残せる財産を解説
自己破産すると、全ての財産が処分されるのではないかと不安を抱く方も少なくありません。
自己破産では、借金の返済義務が免除される代わりに、一定の財産を処分(換金)して債権者に配当します。しかし、すべての財産を処分しなければならないわけではありません。生活に不可欠な財産は手元に残せます。
この記事では、自己破産における財産の取り扱いについて、次のとおり解説します。
- 自己破産しても残せる財産
- 自己破産における自由財産拡張申立て
- 自己破産で差し押さえられる財産は?
- 仮想通貨も自己破産で財産として取り扱われる?
- 自己破産中に財産を処分したらどうなる?
- 自己破産で財産隠しがバレるとどうなる?
- 自己破産で過去の財産分与が取り消されることがある?
- 財産がない場合は自己破産で同時廃止になる?
自己破産を検討中の方は、ぜひご参考になさってください。
目次
自己破産しても残せる財産
自己破産では、どのような財産を手元に残せるのでしょうか?
ここでは、自己破産しても残せる財産について解説します。
自由財産
管財事件の場合、破産開始決定時に破産者が有している財産は破産財団となり、破産管財人に処分権限が移ります。ただし、破産者の財産のうち破産財団に属しない財産は、破産者が自由に管理・処分できます。破産財団に属しない財産を、自由財産と呼びます。
破産法上、以下の財産は破産財団に属しません。
- 99万円以下の現金
- 差し押さえが禁止されている財産
ひとつずつ説明します。
99万円以下の現金
99万円以下の現金は、自由財産として手元に残せます。破産法34条第3項第1号は、この99万円をあくまで現金と規定しているので、預貯金は含まれません。
預貯金を引き出して現金にすれば処分を免れますが、出金時期や出金額によっては、引き出したお金は現金ではなく預貯金として取り扱われる可能性があります。出金の使途や理由が明らかにできない場合、裁判所に財産隠しとみなされる可能性もあります。
預貯金からの引き出しは独断で行わず弁護士に相談することをおすすめします。
差し押さえが禁止されている財産
法律上、差し押さえを禁止されている財産があります。
差し押さえが禁止されている財産の代表例は、以下のとおりです。
- 生活必需品(家具、家電、台所用品、衣類、寝具等)※1
- 仏壇、位牌等
- 実印その他の印
- 国民年金、厚生年金などの各種年金受給権※2
- 生活保護受給権※2
- 児童手当受給権※2
これらの財産は処分されることなく手元に残すことができます。
※1 家電等が複数台ある場合は、原則としてそのうち1台が差押禁止財産となります。
※2 年金、生活保護、児童手当の受給権は差押禁止債権に該当しても、口座に振り込まれると預貯金として取り扱われるため、差し押さえされる可能性があります。
新得財産
新得財産とは、破産手続開始決定後に取得した財産です。
破産手続開始決定後に振り込まれた給与などは、処分されません。
破産管財人によって放棄された財産
破産管財人によって放棄された財産も手元に残すことができます。
具体的には、次のようなケースで破産管財人が破産財団を放棄することがあります。
- 市場価値がないものまたは市場価値が極めて低い場合
- 市場価値があっても買い手が見つからない場合
- 売却までに相当の時間を要する場合
- 管理に多額の費用がかかる場合
破産管財人は裁判所の許可を得て、その財産を放棄します。放棄された財産は、破産者に帰属します。
自己破産における自由財産拡張申立て
ここでは、自己破産における自由財産拡張申立てについて解説します。
自由財産の拡張とは?
破産法は、破産者の再起更生を充実させることを目的として、自由財産の範囲を拡張することを認めています。これを自由財産の拡張と言います。
本来は破産財団に属する財産も、裁判所が相当と認めれば自由財産として手元に残せることがあります。
自由財産拡張の申立て
自由財産の拡張は、裁判所の職権または破産者の自由財産の拡張申立てによって認められます。
はじめから管財事件の場合
管財事件として申立てた場合は、実務上、破産申立てと同時に自由財産拡張を申立てます。
同時廃止として申立て管財事件となった場合
同時廃止として申立後、裁判所の判断により管財事件となった場合は、破産手続開始決定日から同確定日以後1ヶ月を経過するまでの間に、自由財産拡張を申立てます。
自由財産拡張の範囲
自由財産拡張の範囲は、裁判所が以下の事情を考慮して、破産管財人の意見を聴いた上で決定します。
- 破産者の生活の状況
- 破産手続開始の時において破産者が有していた財産の種類及び額
- 破産者が収入を得る見込み
- その他の拡張を求める特段の事情の有無
自由財産拡張の範囲は、各裁判所によって運用基準が異なります。
自己破産したら何を失う?
自己破産において、具体的にはどのような財産が処分されるのでしょうか。
ここでは、自己破産で処分される財産について解説します。
処分の対象となる財産
自己破産において処分の対象となる財産は、破産者が破産手続開始の時において有する一切の財産です(破産法第34条)。つまり以下の財産を除くすべての財産が処分の対象となります。
- 自由財産(拡張が認められた財産を含む)
- 破産管財人によって放棄された財産
破産者が有する一切の財産には、不動産・動産などの形のあるものだけではなく、債権や著作権などの無形の権利も含まれます。
換価処分される具体的な基準
換価価値が20万円を超える財産は原則として処分の対象となります。
換価処分される具体的な基準は、各裁判所の運用によって異なりますが、ここではその一例として東京地方裁判所の財産換価基準を紹介します。
東京地方裁判所の運用では、以下の財産は原則として換価処分が不要です。
- 残高(複数ある場合は合計額)が20万円以下の預貯金
- 見込額(数口ある場合は合計額)が20万円以下の生命保険解約返戻金
- 処分見込額が20万円以下の自動車
- 支給見込額の8分の1相当額が20万円以下の退職金債権
- 支給見込額の8分の1相当額が20万円を超える退職金債権の8分の7相当額
- 居住用家屋の敷金債権
- 電話加入権
- 家財道具
上記換価基準を超える財産は、処分の対象となります。
失うことになる財産の例
自己破産時に処分される可能性のある財産の例を紹介します。以下で紹介するものがすべてとは限りませんので、心配な人は弁護士などの専門家に確認してください。
【自宅】
自宅は売却した際に高値が付く可能性が高いので、自己破産時に処分される可能性が高いです。ただし、処分されるのは破産者名義の自宅だけで、他の家族や第三者名義の財産であれば住み続けることができます。
【自動車】
自動車も自宅同様、価値が高いため、自己破産時に処分される可能性が高いです。使用年数が非常に長いものに関しては、売却しても値が付かない場合もあり、そのようなケースでは処分を免れます。
【貴金属や骨とう品】
生活必需品ではない、かつ、高価であるものは処分の対象になり得ます。具体的にはネックレスやリングなどの貴金属、壺や古い楽器、レトロなおもちゃなどの骨董品は対象となる可能性があるでしょう。
【有価証券】
株や社債なども、売却することで一定以上のお金になるのであれば、換価処分の対象になります。
【生命保険の解約金】
生命保険を解約した際の返戻金も、金額が一定以上になるのであれば、解約のうえ、没収の対象となります。
【退職金】
すでに受け取っている退職金や、今後受け取る予定の退職金も、条件に応じた金額を失うことになります。
自己破産したら失う財産以外のもの
自己破産した際に失うものは財産だけではありません。ここでは、自己破産したら失う財産以外のものを紹介します。
信用情報
自己破産をすると、信用情報機関に事故情報として登録され、いわゆるブラックリスト入りとなります。
この情報は金融機関やクレジットカード会社が共有し、新たな借入やクレジットカードの発行ができなくなります。
また、ローン審査も通らなくなるため、車や住宅の購入が難しくなる可能性があります。この影響は一般的に5~10年続きます。
社会的信用
自己破産をした理由によっては、社会的信用を失う可能性があります。たとえば、ギャンブルによる多額の借金が原因だと知られると、周囲から良い印象を持たれない場合があるでしょう。
破産手続き中は特定の資格や職業に制限がかかり、その間は該当する仕事ができなくなるため、会社や周囲に迷惑をかける可能性もあります。
自己破産が周囲に知られるケースは限定的ですが、こうしたリスクが完全にゼロとはいえません。手続きの影響を事前に理解し、慎重に対応することが重要です。
自己破産しても失わないものの具体例
自己破産は借金の返済義務から解放される救済措置ですが、すべてを失うわけではありません。
生活基盤を守りながら再出発するため、法律によって保護されているものも多くあります。以下に、自己破産しても失わない代表的なものを紹介します。
仕事や給料・資格
自己破産をしても、多くの場合、現在の仕事を続けることができます。給与そのものが差し押さえられることはないので、必要な生活費を維持できます。
ただし、生活費を大きく超える部分がある場合には、一部が債権者への返済に充てられる可能性があります。
破産手続き中に一部の士業資格(弁護士、公認会計士など)や特定の職業に制限がかかることがありますが、手続き終了後には制限が解除され、再び従事することが可能です。
一般的なほとんどの職業には影響がないため、安定した収入を維持しながら生活を立て直すことができます。
年金や社会保障の給付
年金や生活保護、障害者手当などの社会保障の給付は、自己破産をしても差し押さえの対象にはなりません。
これは、公的な支援を受ける権利が法律で保護されているためです。
自己破産が原因で年金受給資格を失うこともないため、高齢者や病気を抱える方でも、最低限の生活保障が守られる仕組みになっています。
選挙権・被選挙権
自己破産をしても、選挙権や被選挙権といった公民権を失うことはありません。
これは、日本国憲法によって保障されている国民の基本的な権利であり、自己破産を理由に制限されることはないためです。
自己破産後も国政選挙や地方選挙に参加し、政治に意見を反映する権利は維持されます。
保証人や第三者の資産
自己破産をしても、保証人や第三者の所有する財産には影響を与えません。ただし、借金に保証人がついている場合は注意が必要です。
自己破産により、借金の返済義務が保証人に移るため、保証人が新たな負担を抱える可能性があります。
保証人に返済能力がある場合には問題ありませんが、保証人まで自己破産とならないように注意が必要です。
事前に保証人に事情を説明し、理解を得ることが大切です。一方で、家族や親しい人が所有する財産については自己破産の影響が及ぶことはなく、財産権が守られます。
家族の信用情報
自己破産をしても、家族や親しい人の信用情報に影響を与えることはありません。
信用情報は個人ごとに管理されているため、破産者本人のみが影響を受けます。
ただし、家族が連帯保証人になっている場合は、その保証人としての責任が生じる可能性があるため、注意が必要です。
自己破産後の生活の変化は?
自己破産は借金返済の負担を軽減し、新たなスタートを切るための制度です。自己破産後の生活が不安な人もいると思いますので、具体的な生活の変化について説明します。
最低限の財産を残して再スタートを切る
自己破産をしても一文無しになるわけではありません。記事の序盤でも説明した通り、自由財産の範囲内で、生活に最低限必要な財産を残した状態で生活がはじまります。
- 衣類、家具、家電、調理器具などの日常生活用品
- 一定額の現金(通常は99万円以下)
- 通勤用の自動車や自転車(必要性が認められる場合)
上記のような、生活に必要な基盤を維持しながら再スタートを切ることができます。
現金メインでの生活を送る
自己破産後、信用情報機関に登録されることで、クレジットカードやローンが利用できなくなります。
これにより、支払い手段が制限され、現金中心の生活を送ることになります。具体例は以下の通りです。
- 高額な買い物をするときは、現金を計画的に貯める必要がある
- 公共料金や携帯電話代の支払いも、口座引き落としや現金払いが基本になる
クレジットカードがないとネットショッピングの際に不便になりますが、デビットカードやプリペイドカードで代用することもできます。
現金メインの生活は、自身の収入と支出をより直接的に把握する機会となり、家計管理のスキルを高めるきっかけともなるでしょう。
仮想通貨(暗号資産)も自己破産で財産として取り扱われる?
ここでは、自己破産における仮想通貨の取扱いについて解説します。
仮想通貨も財産として取り扱われる
仮想通貨も自己破産では財産として取り扱われます。仮想通貨を所有している場合、その残高を裁判所に申告しなければなりません。
仮想通貨の評価方法
仮想通貨のレートは日々変化していますので、自己破産では、破産手続開始決定日時点の時価を基準に評価します。
自己破産中に財産を処分したらどうなる?
ここでは、自己破産中の財産処分について解説します。
開始決定後は処分できない
破産者は破産財団に属する財産を自ら管理・処分できません。
管財事件では、破産者が破産手続開始決定時に有する財産(自由財産を除く)は破産財団となり、破産管財人に処分権限が移ります。
管財人に処分を取り消されることがある
破産手続開始決定の前後を問わず、破産者が破産財団に属する財産を不当に処分した場合、破産管財人に処分を取り消されることがあります。
破産管財人には否認権が与えられているからです。否認権とは、不当な財産処分行為を否認し、失われた財産を回復させて債権者に公平に分配する制度です。具体的には、破産財団から流出した財産の返還やこれに相当する金銭の返還を求めます。
免責が得られない可能性がある
自己破産中、勝手に財産を処分すると、免責が得られない可能性があります。
破産財団に属する財産を不当に減少させる行為は、免責不許可事由に該当するからです。
自己破産で財産隠しがバレるとどうなる?
ここでは、自己破産で財産隠しがバレた場合のリスクを解説します。
自由財産の拡張が認められなくなる
財産隠しがバレた後に、当該財産を自由財産の範囲に含めるために拡張を申立てても、自由財産の拡張は認められません。
財産目録に記載のない財産や破産手続開始決定後に発見された財産は、原則として拡張不相当とされるからです。
免責が得られなくなる可能性がある
財産隠しは免責不許可事由にあたるため、免責を得られなくなる可能性があります。
財産隠しを目的とした法律行為も、破産管財人によって取り消されます。
詐欺破産罪に問われる可能性がある
財産隠しが悪質な場合は、詐欺破産罪として処罰されます。
詐欺破産罪は1ヶ月以上10年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金に処せられます。
自己破産で過去の財産分与が取り消されることがある?
ここでは、自己破産前の離婚に伴う財産分与について解説します。
適正な財産分与は問題とならない
破産手続開始決定前の財産分与については、適正な財産分与であれば破産手続きで問題になることはありません。適正な財産分与とは、夫婦共有財産の2分の1相当の財産分与です。この場合は相当性があるものとみなされ、原則として破産管財人の否認対象行為にならないと考えられています。
不当に過大な財産分与は取り消される可能性がある
破産手続開始決定前になされた財産分与が、不当に過大である場合は、破産管財人に否認される可能性があります。
破産管財人による否認権行使が認められると、過去になされた財産分与は、不相応に過大な部分について、債権者を害する行為(詐害行為)として無効となります。分与した財産は、破産管財人に回収され債権者への配当にあてられます。
財産がない場合は自己破産で同時廃止になる?
財産がない場合は自己破産で同時廃止になるのでしょうか?
ここでは、同時廃止・管財事件の振り分け基準について解説します。
免責不許可事由がなければ同時廃止になる可能性が高い
目立った財産がなく免責不許可事由もなければ、同時廃止になる可能性が高いです。
同時廃止になる基準は、原則として次の2点を満たす場合だからです。
- 20万円以上の換価価値のある財産がない
- 免責不許可事由がない
免責不許可事由があれば財産がなくても管財事件になる可能性がある
20万円以上の換価価値のある財産がなくても、管財事件になりうるのは次のようなケースです。
- 免責不許可事由がある場合
- 申立人が個人事業主の場合
- 財産状況の精査が必要な場合
まとめ
自己破産しても、すべての財産が没収されるわけではありません。
次の財産は手元に残せます。
- 99万円以下の現金
- 差し押さえ禁止財産
- 破産管財人によって放棄された財産
- 破産手続開始後に取得した新得財産
ただし、処分の対象となる財産や換価基準は、裁判所によって異なります。
どうしても手放したくない財産がある方は、弁護士に相談しましょう。自由財産の拡張申立てにより財産を可能性があるかもしれません。
自己破産以外の債務整理で借金を解決できることもあります。