強制執行とは?種類や流れ・期間・費用などをわかりやすく解説
強制執行とは、わかりやすく言うと、借金を返さない人から強制的にお金を取り戻すための手続きです。強制執行をされると、家や土地、預貯金などが差し押さえられ、債権者に配当されます。
強制執行は借金を回収するための最終手段です。期日を守って返済をしていれば、強制執行されることはありません。
この記事では、強制執行とは何かをできるだけわかりやすく説明し、その影響や手続きの流れを解説します。
目次
強制執行とは
強制執行とは、借金を返さない人の財産を差し押さえ、強制的にお金を回収する手続きのことです。差し押さえの対象となる財産には、債権、動産、不動産などがあります。
具体的には、債務者が所有する土地や家、車、銀行口座の預金、会社から支払われる給与などが差し押さえの対象となります。これらの財産を必要に応じて現金化し、債権者はお金を回収します。
強制執行は、裁判所の命令に基づいて行われる手続きです。債権者が強制執行を行う場合には、裁判所に申し立てを行い、債務者に差し押さえられる財産があるかも調査しなければなりません。
また、執行文が記載された債務名義も必要です。債務名義とは、債務者に対して強制執行を許可する内容が記載された、裁判所などの公的機関が作成した公文書です。具体的には、次のようなものが債務名義に該当します。
- 判決:裁判所の確定判決
- 調停調書:裁判所での調停が成立した際の調書
- 公正証書:公証人が作成した、債務者が支払いを約束する公文書
- 和解調書:裁判所での和解が成立した際の調書
これらの文書があれば、債権者は裁判所に強制執行を申し立てることができます。強制執行の手続きには時間も手間もかかるため、借金を回収するための最終手段として行われます。
強制執行と差し押さえの違い
強制執行は、債務者からお金を強制的に回収する一連の手続きを指します。一方、差し押さえとは、強制執行の一部であり、債務者が財産を自由に処分できなくするための手続きです。そのため、流れとしては次のようになります。
- 財産を勝手に処分されないように差し押さえる
- 差し押さえた財産を取り立てる
差し押さえをする際は、まず債務者の財産を調べることから始まります。債務名義を持っていれば、裁判所の情報取得手続や財産開示手続を利用し、債務者の銀行口座の残高や勤務先、所有している不動産などの情報を得ることができます。
参考:財産開示手続を利用する方へ|裁判所
参考:裁判所の新しい手続|第三者からの情報取得手続がはじまります(PDF)
消費者金融の借金を滞納して強制執行される場合では、主に給料や預貯金が差し押さえの対象になることが多いです。ただし、給料は全額を差し押さえできるわけではありません。次の限度額があります。
- 手取り額が44万円以下の場合:手取り額の4分の1にあたる金額
- 手取り額が44万円以上の場合:手取り額のうち33万円を超えた金額
差し押さえは法的にも正当な行為で、債務者は拒否することができません。給料を差し押さえられてしまうと、勤務先にも借金の滞納がバレてしまうので注意しましょう。
強制執行の種類
不動産執行
不動産執行とは、債務者が所有している住宅や土地などの不動産を強制的に売却し、その代金で債権を回収する手続きのことです。不動産執行で差し押さえられた不動産は、競売を通して売却されるのが一般的です。
消費者金融などの借金では、給与や預貯金の差し押さえで十分に回収可能なため、不動産執行が行われることは少ないです。
不動産執行が行われるケース例としては、住宅ローンを滞納したときや不動産を担保に借金をしたときなどが挙げられます。
不動産執行で住宅が競売にかけられると、当然そこに住み続けることはできません。さらに、強制執行された人はブラックリストに載っている可能性が高いため、賃貸物件の審査も通りにくくなります。
不動産執行をされると、日常生活に大きな影響を与えるため、可能な限り迅速に対処していく必要があります。
動産執行
動産執行は、債務者が所有する車や貴金属を差し押さえる手続きです。動産とは、住宅や土地などの動かせない財産以外を指し、車や家具、貴金属などの動かせる財産のことを言います。
動産執行では、裁判所の執行官が自宅などを調べ、売却できそうな動産を持ち帰り保管します。差し押さえた動産はその後売却され、その現金が債権者に配当されます。
執行官が自宅に来て財産を持ち帰るため、債務者にとっては心理的な負担も大きいでしょう。なお、差し押さえの対象は、本人の財産のみです。家族の私物が差し押さえられることはありません。
債権執行
債権執行とは、債務者が第三者から受け取るべき債権を差し押さえる手続きのことです。第三者から受け取るべき債権とは、給与や預金、売掛金などです。債権者は、それらの債権を持つ第三者(勤務先の会社や銀行など)から直接支払いを受けることができます。
例えば、債権執行で給与が差し押さえられると、裁判所から会社に差押命令が届き、債権者への支払い義務を会社が負うことになります。そのため、会社は差押え分の金額を債務者の給与から天引きし、天引きした分を債権者に支払います。
ただし、差し押さえできる給与は、手取り額の4分の1までなどの限度があります。債権執行は、債権者が請求額を回収できるまで続きます。
当然、会社に強制執行されたことがバレるので、職場の人から事情を聞かれることもあるでしょう。借金は個人的な問題なので、解雇されることは原則ありませんが、会社での居心地は悪くなってしまう可能性があります。
強制執行の流れ
強制執行の流れは、不動産執行、動産執行、債権執行によって異なります。ここでは、消費者金融の借金滞納で給料を差し押さえられる場合を例に、債権執行の流れを紹介します。
①債務名義の取得 | 消費者金融が滞納された借金の支払いを求めて裁判を起こし、勝訴判決を得る |
②強制執行の申し立て | 判決を基に、消費者金融が裁判所に強制執行を申し立てる |
③裁判所の差し押さえ命令 | 裁判所が債務者と勤務先の会社に債権差押命令を送付する |
④給料の差し押さえ | 会社は裁判所の命令に従い、債務者の給料の一部を差し押さえる |
⑤差し押さえた給料の配当 | 差し押さえた給料を会社から債権者に支払う |
債権者にとっては、第三者である会社から直接お金を回収できるメリットがあります。
差し押さえできる給料の金額は、原則として手取り額の4分の1までです。これは、給料を全額差し押さえてしまうと、債務者が生活を維持できなくなるため、範囲が定められています。
借金が完済されるまで、差し押さえは続きます。会社が裁判所の命令に従わない場合、債権者は会社に対して支払いを求める裁判を起こすことができます。
給料の差し押さえはあくまで一例ですが、このように会社を巻き込む問題にも発展する可能性があるため、強制執行をされる前に早めの対処をすることが重要です。
不動産執行や動産執行の流れについては、以下の記事を参考にしてください。
判決から強制執行までの期間
判決から強制執行までの期間は、通常1〜2ヵ月程度はかかるでしょう。
この期間には、債務名義の取得や強制執行の申し立て、裁判所による審査と差押命令の発令などの手続きが含まれます。債権者の対応スピードや裁判所の状況などによって、かかる期間は異なります。
また、強制執行の際は、債務者にも通知が届きます。何も予告がないまま、突然強制執行されるわけではないので、それまでに弁護士に相談するなどの対応を検討すべきでしょう。
強制執行で差し押さえる財産がない場合は?
財産がなければ回収はできない
債務者に差し押さえ可能な財産がない場合、強制執行はできません。また、法律上で差し押さえが禁止されている財産もあります。差押禁止財産の例として、次のようなものが挙げられます。
- 生活に欠くことができない衣類・寝具・家具など
- 1ヵ月分の食料および燃料
- 66万円以下の現金
- 仕事に欠くことができない器具など
- 仏壇・位牌等の礼拝や祭祀に欠くことができないもの
- 学習に必要な書籍や学習用品
- 義手、義足その他の補足具
- 手取り給料の4分の3に相当する金額(手取り44万円以上の場合は33万円まで)
- 退職金の4分の3に相当する金額
簡単に言うと、生活に必要最低限のものは、差し押さえが禁止されています。また、裁判所に申し立てを行い、差押禁止財産の範囲を変更することも可能です。
【参考:差押禁止債権の範囲変更申立てQ&A|裁判所 】
回収できるまで繰り返し強制執行を行う
債務者に財産がまったくない、もしくは差押禁止財産しかない場合、強制執行はできません。しかし、債権者は繰り返し強制執行を行うことが可能です。債務者が財産を形成したタイミングで、再度強制執行がされる可能性はあるでしょう。
強制執行を回避する方法
債権者との交渉
強制執行は、あくまでも債権者の判断で行うものです。返済の意思がある場合には、債権者と交渉し、返済計画を立て直すことで強制執行を回避できる可能性があります。
ただし、債権者が必ず応じてくれるとは限りません。強制執行は、約束を守らない債務者に対して行う最終手段ですから、そのような状況で交渉が簡単に成立することはないでしょう。
交渉を成立させるためには、誠意を持って返済の意思を示し、具体的な返済計画を提示する必要があります。
債務整理(自己破産・個人再生)
債務者が自己破産や個人再生をすると、債権者は強制執行ができなくなります。
自己破産とは、裁判所を通して借金を全額免除にする手続きです。自己破産の手続きが開始されると、破産者の財産は破産財団に属することになります。破産財団に属する財産に対して、強制執行をすることはできません。すでに財産を差し押えられてる状態であっても、その効力を失います。
(他の手続の失効等)
第四十二条 破産手続開始の決定があった場合には、破産財団に属する財産に対する強制執行、仮差押え、仮処分、一般の先取特権の実行、企業担保権の実行又は外国租税滞納処分で、破産債権若しくは財団債権に基づくもの又は破産債権若しくは財団債権を被担保債権とするものは、することができない。
2 前項に規定する場合には、同項に規定する強制執行、仮差押え、仮処分、一般の先取特権の実行及び企業担保権の実行の手続並びに外国租税滞納処分で、破産財団に属する財産に対して既にされているものは、破産財団に対してはその効力を失う。
【引用元:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=416AC0000000075 】
一方、個人再生とは、裁判所を通して借金を大幅に減額する手続きです。借金は全額免除になりませんが、家や車などを残せる可能性があります。自己破産と同様に、個人再生の手続きが開始されると、強制執行をすることは法律上できなくなります。
借金の一括返済や借り換え
借り換えなどにより、借金を一括で返済できる場合は、差し押さえを回避できます。ただし、強制執行される状態であるときは、ブラックリストにも載っている可能性が高いため、金融機関から借り換えを行うのは難しいでしょう。
家族や友人からお金を借りて一括返済をする、という選択肢もありますが、自分の返済能力をしっかり考えたうえで借りる必要があります。返済ができない場合、親しい人との関係性が悪化する可能性もあるため、慎重に検討してください。
強制執行でよくある質問
強制執行の差し押さえは家族の財産も対象?
強制執行の差し押さえで対象となるのは、本人の財産のみです。そのため、家族の預金口座などを差し押さえられることはありません。ただし、共有財産の場合は、差し押さえの対象となることがあります。
強制執行ができなかったら泣き寝入りするしかない?
強制執行で差し押さえる財産がない場合、何も回収はできません。その場合、債務者の財産状況が変わるのを待ち、再度強制執行をすることが考えられます。
また、債務者の具体的な財産の内容がわからずに強制執行ができない場合は、財産開示手続や情報取得手続を裁判所に申し立てることで、財産の内容を把握することができます。
強制執行にかかる費用は?
債権執行や動産執行などの強制執行の種類により、かかる費用は大きく異なります。例えば、債権執行にかかる費用としては、収入印紙代4,000円程度と郵便切手代3,000円程度です。その他、弁護士に依頼した場合は弁護士費用がかかります。
まとめ
強制執行は、債権を回収するための最終手段です。強制執行をされると、財産は差し押さえられ、日常生活にも大きな影響を及ぼす可能性があります。また、家族や会社を巻き込んだ問題にも発展してしまうかもしれません。
大事なことは、強制執行をされる前に今後の対応を具体的に検討することです。現実的に借金を返済できない状況であれば、債務整理するのも選択肢のひとつです。当事務所でも債務整理のご相談を受け付けていますので、借金にお悩みの方は電話か問い合わせフォームからご相談ください。初回30分は無料で相談ができます。