債務不履行とは?定義や不履行のリスクをわかりやすく解説
債務不履行とは、契約や法律に基づいて定められた義務(債務)が履行されない状態を指します。
個人間や企業間の取引で多く見られ、履行されなかった場合、債権者に経済的・精神的損害を与える可能性があります。
そのため、債務不履行が発生すると、損害賠償請求や契約解除など、法的手段が取られるケースが一般的です。
たとえば、住宅の賃貸契約で借主が家賃を滞納することや、企業が取引相手に対して約束した期日までに商品を納品しないことが債務不履行に該当します。
ここでは、債務不履行の基本的な理解を深め、民法上の分類や具体例、そして債務者が被る可能性のあるリスクについて詳しく解説します。
目次
債務不履行とは
まず、債務不履行とは何なのか、概要を理解しましょう。
債務者が債務を履行しないこと
債務不履行とは、その言葉の通り債務者が債務を履行しないことを指します。もう少しかみ砕いていうと、何かしらの契約をしたのに、発生した義務を果たさないこととなります。
注意が必要なのは、債務不履行は、必ずしも債務者の怠慢や不注意で発生するわけではない点です。債務者にとって不可抗力な事情で発生することもあります。
そのようなケースでも、債務者は法的な責任を問われる可能性がある点は覚えておきましょう。
債務と債権の違い
債務と似た言葉に債権があります。債務と債権は、基本的にセットになっています。
- 債務:特定の人に対して一定の行為を請求できる権利
- 債権:特定の人に対して一定の行為をしなければならない義務
たとえば、貸主が借主にお金を貸した場合、借主(債務者)は返済する義務(債務)を負い、貸主(債権者)は返済を求める権利(債権)を持ちます。両者の関係が成立することで、契約の信頼性が保たれます。
債務不履行と不法行為の民法上の違い
債務不履行と混同されやすい言葉に、不法行為があります。どちらも、他人に損害を与えるという点では同じですが、それぞれ法的な根拠が異なります。
・債務不履行:債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。(民法415条)
・不法行為:故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。(民法709条)
わかりやすくいうと、債務不履行は、契約に基づいた義務を守らないことで相手に損害を与えます。不法行為は、契約とは無関係に他者の権利を侵害する行為です。
例えば、交通事故で相手の車を破損させてしまうのは、過失によって相手の権利を侵害する行為なので、不法行為となります。
債務不履行の種類とそれぞれの具体例
ひとことに債務不履行といってもいくつかの種類があります。
履行遅滞
履行遅滞とは、契約の期限を守らずに履行が遅れる状態です。これは契約違反の一つであり、履行を遅延したことで債権者に損害が発生した場合、遅延損害金が請求される可能性があります。
履行遅滞の具体例
- 家賃の支払いが間に合わない
- 通販で購入したものが指定した納期までに届かない
- システムエンジニアが指定の日時までに完成品を納品しない
システムエンジニアの例ですが、エンジニア目線でいうと、納期までに完成させるのが債務です。依頼者目線で言うと、完成後、約束した日時までに報酬を支払うのが債務です。
エンジニアが納品した後、依頼者が支払いに間に合わなければ、それも債務不履行となります。
履行不能
履行不能とは、何らかの理由で契約内容を履行できなくなる状態です。履行が不可能な原因が債務者にある場合、責任を免れません。
履行不能の具体例
- 製造工場が火災で全焼し、製品の提供ができなくなった
- 旅行ガイドが急病で契約通りにサービスを提供できない
- 歌手が体調不良で指定の日時にコンサートを開催できない
歌手の例の場合、コンサートができないことで、その日にかかっていた会場のレンタル代やスタッフの人件費などで赤字が出ます。
これにより発生した損害について、責任を問われる可能性があります。
不完全履行
不完全履行とは、履行自体は行われたものの、約束された品質や条件を満たしていない場合を指します。
不完全履行の具体例
- 家のリフォーム工事で一部に手抜きがあり、欠陥が残った
- 商品に欠陥があり、正常に機能しなかった
- ライターの納品した記事が、依頼者の求める品質に達していなかった
不完全履行も契約違反の一つとして損害賠償請求の対象となります。
債務不履行でよくあるケース
債務不履行でよくあるケース、日常的に発生しやすいケースについて紹介します。
家賃の滞納
家賃の滞納は、身近で起こる債務不履行の中でも典型的なものです。3か月~半年程度滞納が続くと、賃貸契約が解除され、家から追い出される可能性が高くなります。
契約が解除されたからといって、家賃の支払いがなくなるわけではありません。遅延損害金を加算した金額を支払わなければならない可能性もあります。
家主の意向次第ですが、最終的に法的措置を取られる可能性もあるでしょう。
借金などの支払い遅れ
借金をはじめとした、支払い遅れも立派な債務不履行です。
- 借金の返済が遅れる
- クレジットカードの支払いが遅れる
- スマホ、インターネットの利用料の支払いが遅れる
- 業務委託の報酬の支払いが遅れる など
例えば借金の支払いをしないまま一定期間が経過すると、債務者は分割払いをする権利を失います(期限の利益の喪失)。それによって、債権者から一括払いを求められたり、法的措置を取られる可能性がでてきます。
他には、クレジットカードを滞納し続けると、契約解除となりカードが使えなくなるなどのリスクがあります。
商品の未納・サービスの不履行
商品やサービスの提供を約束したにもかかわらず、それが履行されない場合も、債務不履行に該当します。これは企業間取引だけでなく、消費者契約でもよく見られる問題です。
商品が納品されない、あるいは依頼したサービスが提供されないといった状況は、契約相手に不利益を与えることになります。
- 通販サイトで購入した商品が納期を大幅に過ぎても届かない
- 引っ越し業者に頼んだ引っ越し作業が約束した日に実施されない
- 電化製品の修理を依頼したが、修理が完了しないまま長期間放置された
- 製造業者が必要な原材料を納期までに納品できなかった など
サービスの不履行は、時間や費用の損失を伴うだけでなく、顧客との信頼関係を破壊し、クレームや訴訟に発展するリスクもあります。
納期に間に合わない・不備がある
納期の遅延や商品の品質に問題があることも、債務不履行に該当します。
納期はビジネスの信頼性を支える重要な要素です。納期を守れないことで、取引先や顧客に損害を与える可能性があるでしょう。
仮に、納期に間に合っても商品やサービスに不備があると、契約の目的が果たされないため、追加の修正対応や補償を求められることがあります。
納期遅れや不備の具体例は以下の通りです。
- メーカーが生産トラブルで納期に間に合わず、顧客が商品を他社から調達しなければならなくなった
- 建設会社が約束の完成期日までにプロジェクトを完了できず、テナントが予定通りにオープンできなかった場合
- 製品の一部に欠陥があり、顧客が使用できない状態で納品された場合。再生産や返品・交換の対応が求められる
- 契約に基づいて納品されたシステムに致命的なバグがあり、正常に稼働しなかったため、顧客の業務に支障が出た など
不備のある履行をすると、取引先から再履行(修正・交換など)を要求されたり、契約解除・損害賠償請求を受けたりすることがあります。
労働契約の不履行
労働契約の不履行とは、雇用契約に基づく義務が守られない状態を指します。
労働契約は、雇用者(企業)と労働者の双方に権利と義務を課すものであり、どちらか一方がこれを履行しない場合、相手方に損害が発生する可能性があります。
労働者側と雇用者側で起こりうる債務不履行をそれぞれ紹介します。
債務不履行の責任者 | 起こりうる債務不履行 |
雇用者 | ・賃金の未払い ・残業代の不払い ・安全配慮義務違反 |
従業員 | ・無断欠勤、遅刻 ・業務命令の拒否 ・守秘義務の違反 |
企業側の不履行は、従業員の経済的な損失や精神的ストレスを引き起こし、場合によっては労働訴訟や労働基準監督署への告発に発展します。
特に賃金未払いの問題は深刻で、企業の社会的信用も失われる危険があります。
労働者の不履行は、業務の停滞や会社の信用低下を招くリスクがあります。悪質な場合、懲戒解雇や損害賠償請求が行われることもあります。
債務不履行をした場合のリスク
債務不履行が発生した場合、契約相手からさまざまな法的措置や経済的な制裁を受ける可能性があります。ここでは、具体的なリスクを一つずつ解説します。
一括での返済を求められる
ローンや分割払い契約において支払いが遅れた場合、分割払いの権利が失われ、残債全額の一括返済を求められるケースがあります。
以下具体例です。
- クレジットカードのリボ払いで延滞が発生した場合、カード会社が契約を打ち切り、未払い分を一括で請求する
- 自動車ローンの返済が遅れた場合、残金全額を一括で支払うよう求められ、支払いができなければ車両の回収(差し押さえ)が行われることも
こうしたケースでは、突然大きな金額の支払いを迫られ、困り果てることになります。
損害賠償請求を受ける
債務不履行によって相手方に損害が発生した場合、損害賠償請求を受けるリスクがあります。
契約不履行によって直接的・間接的な損害が発生することが多く、場合によっては高額な賠償金が請求されることもあります。
以下具体例です。
- 建設工事の納期遅延により、テナントが予定日に開店できず、売上機会を失った損害を請求される
- イベント業者が予定日に機材を届けなかったため、イベントが中止になり、主催者から損害賠償を求められる
損害賠償の金額は、相手方が被った損害の内容や規模により変わりますが、企業間の契約では数千万円以上の請求になることもあります。
契約が解除される
債務不履行が発生した場合、相手方から契約の解除を求められる可能性があります。以下契約解除の具体例です。
- 不動産の売買契約で、買主が支払期限までに代金を用意できず、売主が契約を解除する
- 業務委託契約で、受託者がプロジェクトを途中で放棄したため、委託者が契約を解除し、別の業者に再依頼する
契約解除により、予定していた売上を得られなくなったり、信用を失ったりします。
代金を減額される
不完全履行の場合、相手方は代金の減額請求を行うことができます。これは、契約通りの成果が得られなかったため、代金をその分だけ引き下げるという措置です。
以下具体例です。
- 新築マンションに不具合があり、住民が修繕費の一部を引いた金額での契約を求める
- オンライン講座の一部が提供されなかったため、受講者が支払金額を減額するよう主張する
代金の減額請求が認められると、債権者側の利益が減少するだけでなく、再発防止のための内部改善も必要になります。
強制執行を受ける
債務不履行が続き、相手方が裁判を経て判決を得た場合、強制執行が行われることがあります。
これは、債務者が自ら支払いをしない場合に、裁判所を通じて資産や給与を差し押さえられる措置です。
以下強制執行の具体例です。
- 家賃の滞納が続き、大家が裁判で勝訴し、債務者の給与口座を差し押さえる
- 銀行ローンの返済が滞り、不動産が差し押さえられて競売にかけられる
強制執行は債務者にとって非常に大きなダメージとなり、生活に支障をきたすこともあります。
差し押さえられた資産や給与がすべて返済に充てられるため、経済的な余裕がなくなり、生活の再建が難しくなることが多いです。
債務不履行の時効は5年
債務の不履行があると、依頼者や契約相手から損害賠償請求を求められる可能性があります。
しかし、損害賠償できる期間にも限りがあり、それを超えると権利を失います。これを、時効と呼びます。
具体的には、権利を行使できる日を起算日として、5年経過すると、時効を迎えます。権利を行使できる日とは、契約で定められた支払日の翌日を指すことが多いです。
債務者が途中で一部でも返済や履行を行った場合、その時点で時効の進行がリセットされることがあります(これを「時効の更新」と言います)。
債務者が支払いを行わず、債権者が支払いを求めずの状態で5年経過している場合、時効を迎えている可能性が高いです。
時効は、手続き(時効の援用)を踏まないと効力を発揮しないため、債権者に連絡することなく、弁護士に相談することをおすすめします。
債務不履行で借金を返済できないときは弁護士に相談
借金が返済できなかったり、債務不履行により損害賠償請求を受けたりしている場合には、弁護士に相談しましょう。
これらは放置していると、最終的に強制執行などの法的措置を取られるリスクがあります。
弁護士に相談・依頼すると以下のようなメリットがあります。
- 返済計画を見直し、債権者と支払いについて交渉してくれる
- 債務整理をすることで、借金の減額や返済の免除ができる
- 債権者からの取り立てを止めることができる
- 債権者の差押え手続きを防止できる
- 条件を満たせば時効の援用ができる など
一番良くないのは、支払いや返済もしないし、弁護士にも相談しないまま放置することです。
遅延損害金が膨らむなどのデメリットもありますので、現状、支払いが難しい人は弁護士に相談することをおすすめします。
まとめ
債務不履行は、借金の返済や契約上の義務が果たせない状況を指し、家賃滞納や商品の未納、労働契約の不履行など、身近な場面で発生します。
不履行に陥ると、損害賠償請求や契約解除、強制執行といったリスクがあり、適切な対応を取らなければ大きな損失を招く可能性があります。
債務不履行により法的トラブルが発生した場合には、放置することなく、早めに弁護士に相談することをおすすめします。
遅延損害金などが発生している場合、時間が経てば経つほど自分が不利になっていきます。
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