痴漢事件の示談交渉の流れと示談金相場を解説
痴漢事件を起こし被害者と示談する場合、示談金はいくら必要なのでしょうか。この記事では、以下の点を解説します。
- 痴漢事件で示談を行うメリット
- 痴漢事件の示談金の相場
- 示談交渉を弁護士に任せた方がよい理由
- 示談交渉の流れ

逮捕から起訴・不起訴の決定までは最大でも23日しかありません。この間に被害者への謝罪と、示談金のお支払いをする必要があります。示談交渉をお考えの方はお早めにご相談ください。
痴漢事件で早めに示談をした方がいい理由
痴漢事件で示談を成立させると、以下のことが期待できます。
逮捕の回避
1点目は逮捕の回避です。
被害者による被害届・告訴状の提出が、痴漢事件捜査の端緒になることは珍しくありません。警察が事件を認知する前に示談を成立させ、被害者が被害届や告訴状を提出しなければ、事件化せずに済む可能性があります。
また、被害者が被害届や告訴状を提出した後でも、速やかに示談を成立させて被害届・告訴状を取り下げてもらえれば、逮捕されるのを回避できる可能性があります。
早期釈放
警察に逮捕された後、示談の成立によって早期に釈放されることがあります。示談が成立し、被害者が事件化を望んでいないとわかれば、警察が被疑者の早期釈放を判断することがあります。

不起訴の獲得
示談の成立は、不起訴を獲得する上でも有利です。
検察官は被疑者を起訴するか不起訴にするかの判断に際して、被害者の処罰感情を考慮します。被害者が犯人の処罰を強く求めていれば検察官は起訴に傾きやすく、処罰感情が和らいでいると判断できれば不起訴になりやすいです。
示談によって、被害者が加害者を許す意思を示していれば、不起訴獲得の可能性は高まるでしょう。
前科の回避
不起訴を獲得できれば、前科がつくことはありません。反対に、一度起訴されると高い確率で前科が付きます。
日本では、起訴された場合の有罪率が99%を超えると指摘されます。これには執行猶予付きの有罪判決が含まれ、執行猶予が付いても前科になることに変わりありません。
前科を付けないためには起訴されないことが肝要で、起訴されないために重要なのが被害者との示談です。検察官が事件を起訴する割合は37%(起訴人員÷(起訴人員+不起訴人員))ほどで、示談の成立が前科の回避につながります。
刑の減軽・執行猶予
痴漢事件で起訴された場合でも、示談の成立が重要なことに変わりありません。
痴漢の被疑事実を認めている場合、刑事裁判では刑の減軽や執行猶予付きの判決を求めていきます。
量刑にあたっては、裁判官も検察官と同様、被害者の処罰感情を考慮します。示談が成立していれば、刑の減軽や執行猶予の獲得に有利です。
痴漢事件の示談金相場
痴漢事件の示談金の相場はいくらなのでしょうか。
痴漢が迷惑防止条例違反にあたる場合
痴漢行為は、各都道府県の迷惑防止条例に抵触する場合と、刑法の強制わいせつ罪に該当する場合があります。罪によって、示談金の相場は異なります。
迷惑防止条例違反とは
迷惑防止条例は痴漢行為を禁止しています。東京都の場合、同条例第5条で、公共の場所または公共の乗物において、衣服その他の身に着ける物の上から、または直接に人の身体に触れることを禁止しています。
この規定に違反した場合の法定刑は6月以下の懲役または50万円以下の罰金です。同条例には常習者に対して刑を加重する規定があり、痴漢の常習とみなされた場合、法定刑は1年以下の懲役または100万円以下の罰金になります。

20~40万円が相場
痴漢行為が迷惑防止条例違反に該当する場合の示談金の相場は、20~40万円です。迷惑防止条例違反の法定刑の上限が罰金50万円のため、この金額が1つの目安と考えられています。
痴漢事件の初犯で刑事手続きが進んだ場合、略式起訴され罰金が科されるケースが多いです。その際の罰金額がおおむね20~40万円で、示談交渉ではこの金額が意識されます。
もっとも、示談金の額に法定の上限はありません。被害者が未成年のケースなど、場合によっては50万円を超えることも想定されます。
強制わいせつにあたる場合
痴漢行為が強制わいせつ罪に該当する場合、示談金の相場は迷惑防止条例違反より高くなります。
強制わいせつ罪とは
強制わいせつ罪は刑法第176条の規定で、13歳以上の者に対し、暴行または脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、6月以上10年以下の懲役に処すると定めています。
迷惑防止条例違反との違いは、暴行または脅迫を用いたかどうかで、暴行・脅迫があったと認められる基準は、相手の意思に反してわいせつな行為をするに足りる程度と考えられています。
例えば、路上で無理やり抱きついたり相手の口を手でふさいだりして抵抗できない状態にすれば、暴行を用いたとみなされます。
また、わいせつ行為そのものによって、被害者が抵抗できない状態になっていたと評価されれば、強制わいせつ罪は成立します。例えば、電車内での痴漢で、相手の下着の中に手を入れて身体を触った場合、強制わいせつ罪に問われる可能性があります。
わいせつ行為をした相手が13歳未満のときは、暴行・脅迫の有無にかかわらず、強制わいせつ罪が成立します。
50~100万円が相場
痴漢行為が強制わいせつ罪に該当するときの示談金は、50~100万円が相場です。
強制わいせつ罪には罰金刑がなく、迷惑防止条例違反のように意識される金額がありません。法定刑は迷惑防止条例違反より重い6月以上10年以下の懲役で、示談金の相場も迷惑防止条例違反より高いです。
相手にケガを負わせれば、強制わいせつ致傷罪に該当する可能性があり、その法定刑は無期または3年以上の懲役です。治療費や休業損害などがかかれば、示談金は高額になるおそれがあります。
被害者が未成年の場合
痴漢行為の被害者が未成年の場合も、示談金が高額になる可能性があります。
被害者が未成年の場合、示談交渉に臨むのは通常、被害者の親です。被害者が未成年のケースでは、そもそも示談交渉に応じてもらえないことも珍しくありません。
自身の子に対する犯罪行為については、親の処罰感情が厳しくなるのが普通で、被害者が成人の場合よりも高い示談金を支払うケースが多いです。
痴漢事件の示談交渉は弁護士に任せた方がよい理由
痴漢事件の示談交渉は弁護士に任せた方がよいでしょう。以下、その理由を説明します。
被害者の連絡先を教えてもらいやすい
痴漢事件の被害者の連絡先がわからなければ、示談交渉を申し入れることすらできません。連絡先がわからない場合は通常、捜査機関から被害者の連絡先を教えてもらいます。
ただし、弁護士以外が捜査機関に被害者の連絡先を尋ねても、捜査機関が教えることはないでしょう。捜査機関は弁護士から示談の意向が示されると、被害者の意思を確認し、被害者の承諾を得た上で、弁護士に連絡先を伝えます。
被害者の気持ちに配慮しながら交渉できる
痴漢事件に遭った被害者には、加害者に対する恐怖心や怒りの感情が残っています。示談交渉で被害者のこうした感情への配慮を欠いては、示談の成立は見込めません。
示談交渉に精通した弁護士は被害者の気持ちに配慮しながら交渉し、示談を円滑に進められます。
時間をかけずに和解を得られる
逮捕の回避や早期釈放などを実現するには、交渉に迅速さも求められます。弁護士は被害者への連絡から示談金額の提示、示談書の作成といった一連の手続きに精通しており、時間をかけずに被害者と和解できます。
示談金の高騰を防ぐ
弁護士が示談交渉すれば、示談金の額が高騰するのを防げます。
事件に応じた示談金の相場を知らなければ、示談金が高騰するリスクがあります。示談交渉では適正な金額で合意を得ることも重要で、弁護士は事件の内容に照らして相応な示談金の額を提示し、不相応に金額がつり上がるのを防止します。
示談成立後のトラブル回避
弁護士が示談交渉すれば、示談成立後に当事者間でトラブルが起きるのを回避できます。
示談交渉では、加害者が被害者に支払う示談金の額を決めるだけではなく、被害届・告訴状の扱いなどについても話し合います。
示談交渉で合意したことは書面にし、示談書を作成します。
弁護士を介さず、当事者同士で示談交渉すれば、後になって合意事項に対する認識に齟齬が生じたり、示談書の記載内容に不備があったりするおそれがあります。
こうした認識の齟齬や手続き上のミスは、合意事項の不履行といったトラブルに発展しかねません。弁護士は示談成立後にトラブルが起きないよう、綿密に示談交渉を進めます。
痴漢事件の示談交渉の流れ
痴漢事件の示談交渉は、以下の流れで進みます。
刑事弁護を依頼する
まずは、弁護士に刑事弁護を依頼しましょう。弁護士は被害者との示談交渉だけでなく、被疑者が取調べに臨むにあたっての助言や早期釈放に向けた活動も可能です。
警察に被害者の連絡先を教えてもらう
刑事弁護の依頼を受けた弁護士は、捜査機関に示談の意向があることを伝え、被害者の連絡先を照会します。警察が加害者本人に被害者の連絡先を教えることはなく、被害者が承諾した場合に捜査機関から弁護士に伝わります。
示談交渉をする
連絡先を教えてもらった弁護士はすぐに被害者に連絡し、示談交渉を開始します。痴漢事件の示談で合意する内容としては、以下のものが考えられます。
示談金
1つ目は示談金です。一般に、示談金には以下の項目が含まれます。
- 治療費(被害者がケガをした場合)
- 休業損害(被害者が事件によって仕事を休んだ場合)
- 精神的苦痛に対する慰謝料
電車で服の上から女性の身体を触る痴漢事件では、相手がケガをせず、治療費や休業損害が生じない可能性はありますが、路上痴漢で女性を押し倒すなどし、相手にケガを負わせれば、治療費や休業損害がかかる可能性があります。
被害届・告訴状の扱い
2つ目は被害届・告訴状の扱いです。これは、被害者がすでに被害届や告訴状を警察に提出しているかどうかで異なります。
被害届も告訴状も、犯罪被害に遭った事実を捜査機関に申告する点は同じですが、告訴状は犯人の処罰を求める意思を示す点が、被害届とは異なります。警察は告訴状を受理すると、速やかにこれに関する書類および証拠物を検察官に送付しなければならない(刑事訴訟法第242条)と定められています。
痴漢事件の被害者が被害届・告訴状をまだ警察に提出していない段階での示談では、被害届・告訴状を今後も提出しないことで合意できるかがポイントです。
一方、すでに被害届・告訴状が提出されている場合は、被害届・告訴状を取り下げてもらえるかが示談交渉のポイントになります。
宥恕(ゆうじょ)
示談金の額や被害届・告訴状の扱いを決めた上で、宥恕(ゆうじょ)条項を入れられるかも重要です。宥恕には「許す」という意味があり、この条項で被害者が加害者を許す意思を示してもらいます。
示談書の作成
示談交渉によって被害者・加害者双方が納得できる内容が決まれば、合意事項を書面にし、示談書を作成します。示談は口頭でも成立しますが、認識の齟齬が生じないようにするためにも、示談書を作成した方がよいでしょう。
示談書に署名・押印
示談書が作成できれば、最後に双方が署名・押印し、示談書は完成です。痴漢事件の示談で被害者と加害者が直接会うことは原則ありません。通常、加害者側の署名・押印は代理人を務める弁護士が行います。
示談金支払い
示談書を取り交わした後は、双方が合意事項を履行します。加害者側は実際に示談金を支払う必要があり、金額や支払い方法、支払い先、支払い期限などは通常、示談書に記載されています。期日を守って、合意事項を履行することが重要です。
示談書のコピーを捜査機関に提出
最後に、示談書のコピーを捜査機関に提出します。
示談書の中で、被害者が加害者を許す意思を示していれば、加害者に有利な情状となります。示談書は刑事裁判になった場合に証拠にもなり得るため、大切に保管しておきましょう。
まとめ
痴漢事件の示談金の相場は、痴漢行為が迷惑防止条例違反にあたる場合、20~40万円程度、強制わいせつ罪に該当する場合は50~100万円程度です。もっとも、被害者が未成年のケースなどでは示談金額が相場よりも高くなる可能性があり、個別の事例に応じて示談金の額は異なります。
示談金が高騰したり示談後にトラブルが生じたりするのを防ぐには、示談交渉を弁護士に任せた方がよいでしょう。弁護士を立てた方が被害者も示談に応じやすく、交渉が円滑に進みます。痴漢事件で被害者と示談したい方は、ネクスパート法律事務所にご相談ください。