窃盗罪の刑罰は懲役?初犯はどうなる?懲役の年数や執行猶予は?
窃盗罪は、人の物を盗むことで成立する犯罪で、法務省によると、2022年に検挙した人員の46.8%が窃盗犯でした。
窃盗は軽微な犯罪だと思われがちですが、初犯であっても懲役になる可能性があります。
ただし、被害者と示談が成立している場合などは、不起訴処分となり、刑事裁判が行われずに事件が終了することもあります。
そのため、窃盗行為をした場合はその後の対応が重要です。
この記事では窃盗罪について次の点を解説します。
- 窃盗罪や懲役や罰金などの量刑相場や量刑の判断基準
- 窃盗罪の初犯で実刑になるケースや処分が重くなるケース
- 窃盗罪で実刑になった事例
- 窃盗罪で懲役にならないために重要なこと
窃盗行為で逮捕されると、場合によっては重い処分が下される可能性があります。
ご家族が逮捕されている人は、すぐに弁護士に相談してください。
目次
窃盗罪の法定刑は懲役と罰金
窃盗罪は人の物を盗むことで成立し、法定刑は10年以下の懲役または50万円以下の罰金が科される重い犯罪です。
(窃盗)
第二百三十五条 他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
裁判で有罪となったとしても、10年以下の懲役がそのまま科されるわけではありません。
懲役の一番短い期間は1か月です(刑法第12条)。
懲役の判決が下される場合は、個々のさまざまな事情を照らし合わせて、1か月から10年以下の範囲で量刑(裁判所が言い渡す刑期)が決定します。
窃盗罪の量刑相場
ここでは、窃盗罪の量刑の相場を解説します。
懲役の相場は1~2年
司法統計によると2022年に窃盗罪で懲役や禁固の判決が下されたのは、1万79件中9749件、96.7%に及びます。
窃盗罪の懲役の量刑は、1~2年が最多です。
刑期 | 人数 | 割合 | |
15年以下 | 2 | 0.02% | |
10年以下 | 5 | 0.05% | |
7年以下 | 34 | 0.35% | |
5年以下 | 594 | 6.09% | |
3年 | 執行猶予 | 355 | 3.64% |
実刑 | 375 | 3.85% | |
2年以上 | 執行猶予 | 1135 | 11.64% |
実刑 | 1346 | 13.81% | |
1年以上 | 執行猶予 | 2701 | 27.71% |
実刑 | 1863 | 19.11% | |
1年未満 | 執行猶予 | 475 | 4.87% |
実刑 | 864 | 8.86% |
参考:司法統計 – 裁判所
再犯や悪質なケースであれば、これよりも重い処分が下されることがあります。
罰金刑の相場は20~30万円
同様に、司法統計によると2022年に窃盗罪で罰金刑が下されたのは、1万79件中330件、3.27%で、その多くは懲役が科されています。
窃盗罪の罰金刑は20~30万円が最多です。
金額 | 人数 | 割合 |
50万円以上 | 13 | 3.94% |
30万円以上 | 128 | 38.79% |
20万円以上 | 174 | 52.73% |
10万円以上 | 15 | 4.55% |
10万円以下 | 0 | 0.00% |
参考:司法統計 – 裁判所
被害額や被害者との示談の有無によって、罰金の金額も異なります。
執行猶予がつく割合は約47%
窃盗罪で執行猶予がついた件数は4666件、割合にして約47%に執行猶予がついています。
ただし、執行猶予がつくには次の条件を満たさなければなりません。
対象者 | 前に禁固以上の刑に処されたことがない |
以前に禁固以上の刑に処されたが、執行猶予や服役から5年以上経過している | |
条件 | 言い渡された量刑が3年以下の懲役か禁錮、または50万円以下の罰金 |
以前に禁固以上の刑に処されていても、その刑の執行猶予中に犯した罪について、言い渡された量刑が1年以内の懲役や禁錮で、汲むべき事情があるような場合も、執行猶予がつきます。
また、上記の条件を満たしていても、執行猶予をつけるかどうかは裁判所の判断になります。
窃盗罪は初犯でも懲役になる?
窃盗罪の初犯の割合
やや古い統計ですが、1996年から2015年のうち、窃盗罪で前科がある者が起訴(刑事裁判にかけられること)された割合は次のとおりです。
男性 | 60.3% |
女性 | 48.7% |
裏を返せば、前科がないものの起訴された割合が男性は39.7%、女性は51.3%であることがわかります。
しかし、統計を見る限りでは、初犯であるから罪が軽くなったというデータは存在しません。
一般的には、初犯で、かつ、被害者と示談が成立しており、しっかりと反省を示していれば、不起訴や執行猶予がつく傾向が多いです。
しかし、悪質性が高い場合は起訴されて重い処分が科されることもあります。
窃盗罪の量刑判断の基準
窃盗罪の量刑は、次のような事情を考慮して判断されます。
- 窃盗の被害額
- 被害者が受けた経済的な損失を弁済しているかどうか
- 被害者の処罰感情
- 窃盗の動機や目的、計画性
- 窃盗が組織的な犯行かどうか、どういう役割をしたか
- 前科や前歴の有無、再犯の可能性
- 反省の有無 など
窃盗罪の量刑判断で特に重視されるのが被害額と、被害の回復です。
被害額が高額であるようなケースや、被害者に謝罪や示談も行わずに、被害の回復に努めていないようなケースでは、重い刑罰を受ける可能性があります。
また、窃盗の動機や計画性、組織的な犯行かどうかや、担った役割なども量刑に関係します。
例えば、生活が苦しく、やむを得ずして行った万引きと、転売目的で商品を盗んだケースでは、転売目的の方が悪質だと判断されることも考えられるでしょう。
窃盗罪の処分が重くなるケース
初犯でも実刑になる場合
初犯でも実刑になる場合は、次のようなケースが考えられます。
- 転売目的、組織的に窃盗を行っていた
- 窃盗だけではなく、詐欺などの罪もある
- 前科はないが、常習的に窃盗行為をしていたなど
また、次のような事情があれば、情状酌量として処分が軽くなることがあります。
- 被害者に謝罪をして示談が成立している
- 反省の態度を示している
- 常習性がない
- 家族などが監督を行い、更生の可能性がある など
複数の窃盗行為があった場合
複数の窃盗行為があった場合は、処分がさらに重くなる可能性があります。
併合罪(刑法第45条) | 複数の窃盗行為や他の犯罪行為があった場合
複数の罪がある場合に、一番重い法定刑の長期に、その2分の1を加えたものが、量刑の上限になる。 |
常習累犯窃盗(盗犯等の防止及び処分に関する法律) | 前科や、過去10年以内に窃盗などで懲役6か月以上の刑を3回以上受けているなど、窃盗を複数回繰り返している場合に適用される可能性がある。 |
併合罪は、例えば判決が確定していない2件の窃盗行為があった場合、刑期の上限が1.5倍になるため、量刑の上限は15年になる可能性があります。
ただし、懲役15年が言い渡されるわけではなく、1か月から15年の範囲で量刑が決定するということです。
常習累犯窃盗に問われた場合の法定刑は、3年以上の懲役です。
窃盗罪で実刑になった事例
腕時計の窃盗で懲役2年
2024年に時計店に侵入して高級腕時計34点、総額3100万円相当を盗んだ被告人に懲役2年の実刑判決が言い渡されました。
被害額が大きい他、盗み出す前にネットで侵入方法や陳列情報など下調べをした上で犯行に及んでいることや、警備員が来るまでに盗み出す行為は大胆で悪質だとしました。
被害者は、時計だけでなく、壊されたシャッターなどの交換や清掃の出費も負担しています。
加えて、動機は浪費による借金返済や、交際相手のプレゼント代で、身勝手なもので情状酌量の余地はないとして実刑判決が下されたということです。
参考:高級腕時計34点盗んだ罪 22歳被告に実刑判決 岡山地裁 – NHK
金貨の窃盗で懲役3年6か月
知人の自宅から金貨を盗んだ被告人に懲役3年6か月の実刑判決が下されました。
被告人は身の回りの世話をしていた知人の自宅から、金貨105個2650万円相当を盗んだ疑いがありました。
裁判では、被害者の信頼を踏みにじる悪質な行為で、盗んだ金貨の売却などで複数の知人を巻き込むなどしており、犯行後も悪質であるとして、上記の判決を言い渡したということです。
参考:金貨105個(2650万円相当)盗む 窃盗などの罪に問われた女に懲役3年6か月の判決 – TBS NEWS DIG
常習的な窃盗行為で懲役4年6か月
2024年には、空き巣に入りネックレスを盗んだり、知人に嘘の金属取引を持ちかけ金銭をだまし取ったりした元プロ野球選手に懲役4年6か月の実刑判決が下されました。
空き巣でネックレス10点(40万円相当)の窃盗や、知人から約1260万円を騙し取ったと報道されています。
裁判では、短期間で立て続けに空き巣に入り窃盗の常習は明らかで、動機はギャンブルによる借金返済で身勝手であること、詐欺行為は悪質で被害額も高額であるとして、実刑を言い渡しています。
このように、短期間で複数回窃盗を行い常習性がある、あるいは他の犯罪にも関与していると重い処分が下される可能性があります。
参考:ソフトバンク元選手に懲役4年6月の実刑判決 侵入盗や詐欺罪で – 産経新聞
窃盗罪の初犯で逮捕された場合の流れ
窃盗罪の初犯で逮捕された場合の流れを解説します。
逮捕後の流れは、どの犯罪でも次のとおりです。
- 逮捕後48時間以内に事件と身柄が検察に引き継がれる
- 24時間以内に勾留か釈放が判断される
- 10~20日間身柄拘束を受け、その間に刑事裁判か否かが決定する
- 刑事裁判で処分が決定する
逮捕から検察へ送致
刑事事件は、警察が疑わしい人物を逮捕した後、最終的に刑事裁判で、無罪か、有罪か、有罪なら量刑はどのくらいになるか、判断されます。
刑事裁判にかける権限を持っているのは検察だけなので、警察は逮捕から48時間以内に、容疑者(被疑者)の身柄と事件を、検察に引き継ぎます(送致)。
ちなみに、法務省のデータによると、2022年に窃盗罪で逮捕された割合は31.6%でした。
ただし、逮捕されずに捜査が行われるケースもあります。
参考:令和5年版 犯罪白書 第3節 被疑者の逮捕と勾留 – 法務省
比較的軽微な窃盗事件であれば、警察の判断で微罪処分になるケースもあります。
(微罪処分ができる場合)
第198条 捜査した事件について、犯罪事実が極めて軽微であり、かつ、検察官から送致の手続をとる必要がないとあらかじめ指定されたものについては、送致しないことができる。
引用:犯罪捜査規範第198条
次のようなケースだと微罪処分として処理されることがあります。
- 軽微な窃盗、詐欺、横領、暴行 など
- 被害額が2万円以下であること
- 軽微で衝動的な犯行であること
- 被害回復がなされていること
- 被害者の処罰感情が厳しくないこと
- 前科や前歴がないこと
例えば、数百円の万引きで、身元引受人が支払いを行っており、店の責任者も重い処分を望んでいないようなケースが考えられるでしょう。
微罪処分の場合は、そもそも警察に逮捕されずに、簡単な取り調べで釈放されることになるため、逮捕の前歴もつきません。
勾留か釈放
窃盗が微罪処分とならない場合は、逮捕から48時間後に、身柄と事件が検察に送致されます。
検察はそこから24時間以内に、身柄拘束の要否を判断することになります(勾留)。
勾留が必要だと判断されれば、裁判所の許可のもと10~20日間、警察の留置場に入れられることになります。
法務省の統計によると、2022年に窃盗罪で逮捕後に勾留された人の割合は97.3%と、逮捕されると高確率で勾留されるおそれがあります。
検察はこの勾留の満期までに、起訴か不起訴かを判断します。
もし、勾留が不要である、不起訴であると判断されれば、身柄が解放されます。
不起訴でない限りは、釈放されても、事件の捜査が続き、起訴される可能性が残されていることになります。
起訴か不起訴
もし、起訴された場合は、刑事裁判で処分が決定することになります。
法務省によると、2022年の窃盗罪の起訴率は43.4%でした。
刑法に定められている犯罪の起訴率が36.2%であることを考えると、高い数字だと言えます。
起訴された場合の公判請求と略式命令請求の割合は次のとおりです。
公判請求 | 81.4% |
略式命令請求 | 18.5% |
公判請求とは、公開の裁判を求めることです。
略式命令請求とは、被疑者の承諾を得た上で、書面のみの簡易的な手続きで、罰金刑を科す手続きのことです。
窃盗罪の場合は、高確率で公開の裁判が行われることになります。
一方で、不起訴率は56.5%であるため、被害弁済に努めるなどすることで不起訴になる可能性があります。
参考:令和5年版 犯罪白書 第4節 被疑事件の処理 – 法務省
窃盗罪で懲役にならないために
ここでは、窃盗罪で懲役にならないために重要なことを解説します。
被害者と示談をする
窃盗罪で重要なのは、被害者と示談をすることです。
示談の成立は、被害者の許しを得られた、被害の回復を図ったと判断され、刑事処分に有利な事情として扱われます。
示談が成立すれば、不起訴や執行猶予がつく可能性も高まります。
窃盗罪の場合は、被害者も金銭的な損失を補填してくれればいいと考える場合が多く、真摯に対応すれば示談が成立するケースも多いです。
ただし、店舗での万引きでは、店の対応として示談に応じないこともあります。
空き巣などの場合は、自宅に侵入されたことから、加害者に恐怖を覚えるケースもあります。
そのため、加害者が直接被害者と示談を行うよりも、第三者である弁護士に依頼するのが一番です。
弁護士に依頼することで、示談の成功率が高まるだけでなく、適切な示談額での交渉や、法的に有効な示談書の作成が可能です。
再犯防止を示す
窃盗は、再犯を繰り返すケースがあります。
何度も窃盗を繰り返すような場合は、クレプトマニア(窃盗症)であるケースもあるため、次のような再犯防止策を示し、実践することが大切です。
- 専門クリニックで、クレプトマニアなど依存症の治療を受ける
- 自助グループに参加する
- 家族が一緒に出掛けるなどして監督を行う など
弁護士に依頼することで、具体的な再犯防止策を提案してもらえるほか、検察や裁判官にも訴えてもらうことができます。
まとめ
窃盗の懲役の相場は、1年以上から2年以上、執行猶予がつく割合は47%です。
初犯であれば、被害者にしっかり謝罪を行い、示談をすることで、不起訴や執行猶予がつくケースが多いです。
しかし、犯行が悪質であると判断されれば、実刑判決を受ける可能性も考えられます。
特に、ご家族が逮捕されている場合や、窃盗の前科前歴があるような場合は、弁護士に相談してサポートを受けるようにしてください。
弁護士は、今後窃盗と無縁の生活がおくれるように、あなたやあなたの家族の味方となってくれるでしょう。