私人逮捕系YouTuberの行為は違法?私人逮捕の要件と法的リスクを解説

私人逮捕とは、警察官や検察官などの捜査機関に属しない一般の方(私人)による逮捕のことです。

現行犯人および準現行犯人については、警察官や検察官などの捜査機関のみならず、私人も無令状で逮捕できます。

近年、電車内や駅構内で痴漢や盗撮などが疑われる不審な行為をしたとして、YouTuberが乗客を私人逮捕と称して取り押さえ、その様子を撮影した動画を投稿するケースが相次いでいます。当初は賛同の声も上がっていましたが、最近は行き過ぎた行為も見られ、鉄道会社やメディア、警察も問題視しています。

YouTubeの運営会社も、YouTube ポリシーに違反すると判断した場合は、アカウントを停止する等の措置をとっているようです。

このような私人による逮捕行為やその様子を撮影した動画の投稿には、どのような法的リスクが伴うのでしょうか。この記事では、私人逮捕系YouTube動画の法律上の問題点について解説します。

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私人逮捕の様子を撮影してYouTubeに投稿することの法的リスク

私人逮捕の様子を撮影してYouTubeに投稿する行為には、以下のようなリスクが伴います。

  • 名誉棄損にあたるおそれがある
  • 逮捕罪・監禁罪に問われる可能性がある

以下で詳しく解説します。

名誉棄損にあたるおそれがある

私人逮捕が適法に行われたか否かに関わらず、被逮捕者(捕まえられた人)の顔をモザイクもかけずに(本人が特定できるような状態で)YouTubeに投稿すると、名誉棄損にあたるおそれがあり、刑事上・民事上の責任を追及される可能性があります。

刑事上の責任

撮影した動画に写っている人が仮に真犯人だとしても、その人の顔にモザイクもかけずに映像を公開すると、名誉棄損罪(刑法230条)に該当する可能性があります。

不特定多数の人が情報を見られる状態で情報発信を行った場合、それが事実かそうでないかに関わらず、名誉を毀損する情報であれば、名誉毀損罪が成立するのが原則だからです。

(名誉毀き損)

第二百三十条 公然と事実を摘示し、人の名誉を毀き損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。

2 死者の名誉を毀損した者は、虚偽の事実を摘示することによってした場合でなければ、罰しない。

引用:刑法 | e-Gov法令検索

公然と示されたその具体的な事実に、①公共性が認められ、②公益を図る目的があり、③それが真実であれば、名誉毀損罪は成立しないとされています(刑法230条の2)。

被逮捕者が真犯人である場合は、公開した情報に公共性が認められるかもしれませんが、その動画を公開した目的が、特定個人を貶めるような個人的な動機であれば、公益が図る目的があるとは言えません。
私人逮捕の様子をYouTubeに投稿する目的が、「動画の視聴回数をのばしたい」、「登録者数を増やしたい」、「広告収入を得て有名になりたい」といった動機であれば、公益性は認められないでしょう。

私人逮捕の様子を撮影した動画をYouTubeに投稿する行為に、このような個人的な目的が強ければ、名誉棄損行為とみなされる可能性が高いでしょう。相手が告訴をして、捜査機関が動き出すと起訴される可能性も否定できません。

民事上の責任

私人による逮捕行為を撮影し、その撮影した映像をYouTubeに投稿・配信する行為は、名誉権侵害プライバシー権侵害にあたるとして、被逮捕者から損害賠償請求を求められる可能性もあります。

民事上の名誉毀損については、事実の摘示だけではなく、意見や評論であっても、社会的評価を低下させれば名誉毀損による不法行為が成立すると考えられています。

民事上の責任と刑事上の責任とは、それぞれ別個の責任です。警察に逮捕されなかったとしても、被逮捕者から損害請求を受ける可能性があります。

逮捕罪・監禁罪に問われる可能性がある

現行犯逮捕・準現行犯逮捕の要件を満たさない状況で逮捕行為に及べば、逮捕罪監禁罪に問われる可能性があります。逮捕行為によって相手に怪我をさせれば、逮捕致傷罪傷害罪に問われる可能性もあるでしょう。

盗撮の現場を取り押さえて、被逮捕者のスマホなどを無理やり取り上げる行為は、強盗罪にあたる可能性もあります。私人には、捜索差押権限がないからです。

そもそも私人逮捕ができるのはどんなとき?

現行犯人および準現行犯人については、捜査機関のみならず私人も無令状で逮捕できます。

現行犯人、準現行犯人の定義は、以下のとおりです。

・現行犯人:現に罪を行い、または現に罪を行い終わった者(刑事訴訟法212条1項)

・準現行犯人:次の各号の一つに該当する者で、罪を行い終わってから間もないと明らかに認められる者(刑事訴訟法212条2項)

①   犯人として追呼されているとき

②   贓物または明らかに犯罪の用に供したと思われる凶器その他の物を所持しているとき

③   身体又は被服に犯罪の顕著な証跡があるとき

④   誰何されて逃走しようとするとき

※刑事訴訟法212条2項は、一定の条件に当てはまる者が罪を行い終わってから間がないと明らかに認められる場合に定める場合には現行犯人とみなすとしていますが、同条1項の現行犯と区別するために準現行犯人と呼ばれています。

現行犯逮捕が令状主義の例外とされるのは、犯罪の実行が明白で、司法判断を経なくても誤認逮捕のおそれがないからです。そのため、犯罪の嫌疑とその犯人であることが明白でない場合や、明らかに逮捕の必要がないときは、現行犯逮捕は許されません。

現行犯逮捕および準現行犯逮捕が適法とされるのは以下の要件を満たす場合です。

現行犯逮捕の要件

現行犯逮捕は、次の要件を満たす場合に適法とされます。

  • 犯罪の嫌疑と被逮捕者がその犯人であることが明白なこと
  • 犯罪と逮捕とが時間的・場所的に接着していること
  • 逮捕の必要性があること

現行犯逮捕が適法とされるためには、逮捕行為時における現場の状況等から、被逮捕者が現行犯人と認められる十分な理由がなければなりません。すなわち、逮捕者が被逮捕者である犯人によって、特定の犯罪が行われたことを直接覚知したことが必要です。

逮捕できるのは、犯罪を現認した人か、またはその代行とみなせる人に限られ、逮捕は犯行現場およびその延長とみられる場所で行われる必要があります。つまり、その犯罪が逮捕者の目前で現在の事件として行われているか、犯行後きわめて接着した段階であることが逮捕者に明らかな状況でなければなりません。

現行犯は時間的概念ですので、犯罪を明認していても、犯行後数時間を経過し、犯行現場から数百メートル離れた場所(自宅など)で犯人を逮捕した場合は、違法となります。

もっとも、犯行中に逮捕行為があればよいので、逮捕に着手したのち犯人の追跡が継続してれば、数時間経過後でも適法な現行犯逮捕といえます。

現行犯逮捕についてさらに詳しく知りたい方は、「現行犯逮捕とは?現行犯が多い犯罪や特徴を解説」をご参照ください。

準現行犯逮捕の要件

準現行犯逮捕は、次の要件を満たす場合に適法とされます。

  • 被逮捕者が準現行犯人(先に述べた刑事訴訟法212条2項各号)に該当すること
  • 犯罪の嫌疑と被逮捕者がその犯人であることが明白なこと
  • 犯罪と逮捕とが時間的・場所的に接着していること(罪を行い終ってから間がないと明らかに認められること)
  • 逮捕の必要性があること

準現行犯の場合は、犯罪と逮捕の時間的・場所的な接着性が「罪を行い終ってから間がない」という文言から導かれ、犯行の直後である必要はないという点で、現行犯逮捕の場合よりも緩和されています。

なお、現行犯罪・準現行犯罪が軽微犯罪(30万円以下の罰金・拘留・科料に当たる罪)の場合は、上記の要件に加え、現行犯人(準現行犯人)が、住居不定・氏名不詳または逃亡のおそれがあることも要件として追加されます。

私人逮捕が違法になるのはどんなとき?

次のようなケースでは、私人逮捕およびそれに伴う行為が違法となる可能性があります。

  • 逮捕の要件を満たしていないとき
  • 必要な範囲を超えて有形力を行使したとき
  • 犯人の身柄を直ちに警察官などに引き渡さないとき

以下で詳しく解説します。

逮捕の要件を満たしていないとき

現行犯逮捕および準現行犯逮捕の要件を満たさない私人逮捕は、違法です。

すなわち、次のような場合は、私人による逮捕行為が違法となる可能性があります。

  • 犯罪の嫌疑と被逮捕者がその犯人であることの明白性がない
  • 犯罪と逮捕とが時間的・場所的に接着性がない
  • 逮捕の必要性がない

私人逮捕が違法となった場合、逮捕者は、被逮捕者から損害賠償を請求される可能性があるだけでなく、逮捕罪などの罪に問われる可能性があります。

私人逮捕系YouTube動画を撮影する行為によって、警察の捜査を妨害した場合は、公務執行妨害罪などにもあたりえます。

必要な範囲を超えて有形力を行使したとき

社会通念上逮捕のために必要かつ相当な範囲を超えて有形力を行使した場合、その行為が違法となるおそれがあります。

例えば、痴漢という犯罪を現に行い、あるいは現に行い終わった加害男性を捕まえて、必要以上に殴る蹴るなどの暴行を加えた場合は、実力行使に違法性があると判断され、傷害罪や不法行為が成立する可能性があります。

逮捕にあたっての実力行使がどこまで許されるのかについて、判例は以下の通り判断しています。

「現行犯逮捕をしようとする場合において、現行犯人から抵抗を受けたときは、逮捕をしようとする者は、警察官であると私人であるとをとわず、その際の状況からみて社会通念上逮捕のために必要かつ相当であると認められる限度内の実力を行使することが許され、たとえその実力の行使が刑罰法令に触れることがあるとしても、刑法三五条により罰せられないものと解すべきである。」

引用:最高裁判例昭和50年4月3

実行行使に社会通念上の必要性かつ相当性が認められるかどうかの判断は、逮捕者の身分被逮捕者の挙動その他における具体的状況などが考慮されます。

痴漢をした犯人の腕を掴む行為のみに終始していたということであれば、社会通念上逮捕のために必要かつ相当な限度内の実力行使として、違法性が阻却される結果、傷害罪も不法行為も成立しない可能性が高いと考えられます。

抵抗して暴れた被逮捕者と揉みあいになった結果、相手が転倒して怪我をした場合でも、逮捕者と被逮捕者の体格差その場の状況からして、一般市民が期待する節度の範囲内の行為であれば違法性はないと判断される可能性があるでしょう。

逮捕の際に実力行使ができるといっても無制限に許されるわけではありません。逮捕のために必要かつ相当な範囲を超えて有形力を行使すると違法な行為となりえますので、注意しましょう。

犯人の身柄を直ちに警察官などに引き渡さないとき

捕まえた犯人の身柄をすぐに警察官に引き渡さずに、長時間拘束したり、問いただしたりすると逮捕罪監禁罪が成立する可能性があります。

現行犯人・準現行犯人を私人逮捕したら、直ちに警察官などに引き渡さなければなりません。

私人による現行犯逮捕は、その私人による捜査を許容するものではないからです。

私人逮捕系YouTube動画の撮影・投稿等で逮捕されたらどうなる?

最近の私人逮捕系YouTuberが、名誉棄損の疑いで逮捕されましたが、逮捕されるとどのような流れで刑事手続きがおこなわれるのでしょうか。

逮捕された場合、次のような流れで事件は進行します。

警察官による取り調べ・検察官への送致

警察に逮捕された場合、取り調べが行われた後、48時間以内に検察官に送致されます。

検査官による取り調べ・勾留請求

送致後、検察官による取り調べが行われ、24時間以内に勾留請求をするかどうかの判断を行います。勾留請求がされない場合には直ちに釈放されますが、検察官が勾留請求をした場合、裁判官による勾留質問が行われ、裁判官が勾留するべきであると判断すれば、10日間勾留されます。

10日間の捜査で起訴が可能となれば、起訴され、不起訴が相当と判断されれば釈放されます。ただし、10日間の捜査では足りない場合には、さらに最大10日間勾留が延長されることがあります。

検察官による起訴または不起訴の判断・刑事裁判の開始

検察官が起訴すべきであると判断し、裁判所に対して起訴(在宅起訴・略式起訴・公判請求)した場合は、刑事裁判が開始されます。

検察官が当該事件を起訴するべきでないと判断し、不起訴処分(起訴猶予・嫌疑不十分)にした場合には、刑事裁判は開始されず事件は終了します。

逮捕される前後の流れの詳細は、「逮捕される前後の流れを詳しく解説」をご参照ください。

私人逮捕により逆に法的責任を問われた際に弁護士に相談・依頼するメリット

私人逮捕系動画の撮影・投稿およびこれに伴う行為が原因で法的責任を問われた場合に、弁護士に相談・依頼する主なメリットは、以下のとおりです。

  • 取り調べへの対応方法を助言してもらえる
  • 日常生活への影響を最小限に抑えられる
  • 民亊上の損害賠償請求についても対応を委ねられる

取り調べへの対応方法を助言してもらえる

逮捕された方は、外部との連絡が遮断されるため、取り調べに対してどのような対応をとるべきか、今後どのような手続きがあるのか分からない状態にあります。

弁護士に依頼すれば、逮捕後すぐにご本人と面会して、取り調べへの対応方法等を助言できます。逮捕された方に認められる黙秘権供述内容についてアドバイスすることで、不利な供述を取られる可能性を低くできます。

取り調べへの対応方法については、「取り調べとは?実態や対応方法を弁護士が解説」をご参照ください。

日常生活への影響を最小限に抑えられる

刑事事件の被疑者は、最大で23日間の身柄拘束を受ける可能性があります。会社にお勤めの方や学校に通学している方にとって、逮捕勾留による身柄拘束は、ご自身だけでなくご家族の家庭生活・社会生活に悪影響を及ぼすことになりかねません。

加害者ご自身やご家族の家庭生活・社会生活のダメージを最小限に留めるためには、早期の身柄解放を目指した活動が必要です。

被害者がいる事件では、早期に被害者と示談を成立させることで、早期釈放が期待できます。被害者から許しを得て告訴を取り下げてもらえれば、勾留や起訴を避けられる可能性があるからです。

弁護士は、被害者との示談交渉に加え、ご家族の監督を誓約する旨の書面を取り付けるなどして、逃亡や証拠隠滅のおそれがないことを検察官に主張します。

起訴されて刑事裁判になった場合、裁判官が執行猶予を付けるかどうかは、犯罪の内容や前科前歴の有無のほか、被害弁償や再犯可能性等のさまざまな事情を考慮して決められます。

弁護士は、執行猶予付き判決を得るために、被害者との示談のほか、再び罪を犯さないような対策を構築するサポートをします。裁判では、ご本人の反省状況や再犯の可能性がないこと示し、有利な事情を裁判官にアピールします。

弁護士が、検察官や裁判官にこのような働きかけをすることで、早期に身柄の解放が実現される場合があり、それによりご本人やご家族の日常生活への影響を最小限に抑えられます。

民事上の損害賠償についても対応を委ねられる

私人逮捕やその様子を撮影して投稿した態様に違法性が認められれば、民事上も不法行為責任を負い、被逮捕者に対して損害賠償義務を負うことがあります。

私人逮捕が誤認逮捕であった場合や相手に大けがをさせてしまった場合は、損害賠償額が高くなる可能性もあります。

弁護士に依頼すれば、民事上の不法行為に基づく損害賠償についても示談交渉や訴訟手続きなどの対応を委ねられます。

まとめ

行き過ぎた私人逮捕行為は、逮捕罪や暴行罪・傷害罪などにあたり刑事責任を問われる可能性があるほか、罪のない人を誤認逮捕し、その様子を動画などでYouTube等にアップロードした場合、名誉権やプライバシー権を侵害する行為として民事責任を問われる可能性もあります。

いわゆる私人逮捕系YouTuberの中には、「冤罪だったとしても、その動画で炎上して注目を集めたら、広告収入が増えるかもしれない。」など軽い気持ちで考えている人がいるかもしれませんが、逆に逮捕者自身が罪に問われたり、損害賠償を請求されたりするおそれがあります。

日常生活の中で偶然犯罪を目撃し、その犯人をその場で取り押さえて逮捕する行為は、正義感のある行為といえますが、YouTubeに投稿する目的でパトロールして、個人を特定できるような状態で動画を公開すると、瞬く間に拡散されることで、その動画に写る人に甚大な被害を与える可能性もあります。

注目を浴びて有名になりたい、広告収入を得たいという目的で、安易に私人逮捕に及んだり、その様子を撮影してYouTubeに投稿したりする行為は、非常にリスクの高い行為ですので、やめておくべきでしょう。

私人逮捕やその動画を投稿した行為について罪に問われた場合は、ネクスパート法律事務所にご相談ください。具体的な事実関係について法的検討を行った上で方針決定する必要がありますので、まずは早い段階でご相談いただくことをおすすめします。

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