傷害罪で逮捕された後の傾向と対応を解説

他人に暴力を振るい、相手が怪我をしてしまうと傷害罪が成立します。傷害事件を起こすと逮捕・起訴されてしまうのでしょうか?有罪になると刑務所に行かなければならないのでしょうか?
ふとしたきっかけで傷害事件を起こしてしまった場合にどうなるのか、何をすべきか等、文末には暴行罪との違いも簡単に解説します。
傷害罪の傾向|逮捕・起訴される確率は?
傷害事件を起こしてしまった場合に逮捕・起訴される確率はどのくらいでしょう?犯罪白書を元にお伝えします。
高い検挙率(84.9%)
令和元年の傷害罪の検挙率は84.9%です。これは、刑法犯総数の検挙率が39.3%であることに比べると高い数字です。身体に対する罪である殺人罪99.5%、暴行罪84.4%、強制性交等罪93.3%、強制わいせつ罪81.6%等と同じくらいの高さの検挙率です。
起訴率は40.8%(起訴猶予率は59.2%)
令和元年の傷害罪の起訴率は40.8%です。刑法犯全体の起訴率が48.3%であることに比べると起訴率は若干低いです。
執行猶予率は68.1%
3年以下の懲役刑が言い渡されると、執行猶予が付く可能性があります。令和元年の科刑状況によると傷害罪による起訴で3年以下の懲役刑を言い渡され、全部執行猶予が付いたのは68.1%です。
引用:令和3年版犯罪白書
懲役刑が下される確率・懲役期間
令和元年の科刑状況によると、3年を超え15年以下の刑を言い渡されたのは5.5%にとどまります。
罰金の相場はどのくらい?
以上の事から、傷害事件を起こしてしまった場合は、高い確率で検挙されますが、不起訴で終わる可能性が約60%あります。起訴されても執行猶予を得られる可能性が68%あります。
傷害罪で逮捕された!どうすればいい?
傷害罪は、被害者に怪我をさせたことで成立する犯罪です。その場で逮捕される(現行犯逮捕)か、あるいは後日逮捕令状を持参した警察官に逮捕されます(通常逮捕)。
弁護士に刑事弁護を依頼する
現行犯逮捕されそうな場合には、すぐに弁護士に連絡し、来てもらいましょう。すぐに連絡できる弁護士がわからない場合には、家族や友人に連絡し、弁護士を探してもらってください。
現行犯逮捕されない場合には、事件を起こしてしまった後すぐに弁護士に相談し、刑事事件に強い弁護士に依頼しましょう。今後の流れや、何をすべきか等のアドバイスがもらえます。
取り調べへの対応方法を相談する
逮捕されると警察官から取り調べを受けます。取り調べに対してどのように対応するか、弁護士からアドバイスをもらいましょう。取り調べで話す内容が、その後の流れに影響を与えます。すぐに来てくれる弁護士が見つかった場合には、弁護士に相談するまで何も話さずに待つという選択肢もあります。
被害者と示談する
被害者と示談が成立した場合には、早期に身柄解放される可能性が高くなります。弁護士に示談を依頼しましょう。
被害者に謝罪し示談交渉をする
傷害罪は怪我を負った被害者に真摯に謝罪し、被害者との示談成立が重要です。
示談の必要性・重要性
傷害罪の量刑は15年以下の懲役または50万円以下の懲役です。
刑法第204条 人の身体を傷害した者は、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
引用:e-GOV法令検索
傷害罪で逮捕された場合でも、被害者と示談ができれば、勾留前に身柄が解放される可能性や、勾留されても不起訴になる可能性があります。起訴された場合でも、執行猶予が付く可能性が高くなります。
示談が成立することで、前科が付くことを避ける、あるいは刑務所に行かなくて済む可能性が高くなります。
示談を弁護士に任せるべき理由
示談するためには被害者と交渉をしなければなりません。被害者も悪かったのに何故自分だけが謝罪しなければならないのかという態度で被害者に示談交渉を持ちかけた場合には、被害者の感情が悪化し、示談交渉が決裂することも考えられます。
被害者が顔見知りだった場合には加害者本人による直接の示談交渉も可能です。しかし、法外な金額を請求される可能性、あるいは当事者が作成した示談書に不備があり後日また請求される可能性等があります。
傷害事件の被害者は、加害者からの連絡に対して、再度怪我をさせられるのではないかと恐怖心を抱くことが多く、加害者本人からの連絡を拒む傾向にあります。
被害者が通りすがりの人だった場合には、被害者の連絡先はわかりません。加害者本人が捜査機関に被害者の連絡先を教えて欲しいと頼んでも、加害者本人には教えてくれません。
弁護士に依頼すると、弁護士が捜査機関に連絡、捜査機関は被害者に連絡先を教えて良いか確認、被害者の同意が得られたら捜査機関は弁護士に連絡先を開示してくれます。加害者本人からの連絡を拒む被害者も、弁護士からの連絡なら対応してくれる方は多いです。
加害者が逮捕・勾留されている場合にも、加害者本人による示談交渉は不可能です。
これらの理由により、示談交渉は弁護士に任せましょう。
傷害罪で弁護士に依頼するメリット
傷害事件を起こしてしまった場合に弁護士に依頼するメリットはどこにあるか、解説します。
逮捕されない可能性
事件後すぐに弁護士に依頼し、警察に逮捕される前に被害者と示談が成立すれば、そのまま刑事事件にならず事件が終了する可能性があります。
早期に示談が成立しなかった場合でも、弁護士が付いているため、逮捕の必要性が無いと判断され在宅事件で進む可能性もあります。
いずれにしても弁護士に被害者との示談交渉を依頼し、後日追加請求や刑事事件化を防ぐためには示談成立が重要です。
早期の釈放の可能性
逮捕・勾留されている場合には、被害者と示談が成立すると身柄が解放される可能性が高くなります。
被害者との間で示談が成立した場合には、今後被害者に危害を加える可能性が無くなり、捜査機関は被疑者の身柄を拘束しておく必要性が無くなったと判断するため、身柄が解放される可能性が高くなります。
不起訴になる可能性
被害者との間で示談が成立した場合には、被害者への謝罪・被害弁償がなされたこと、それによって被害者の処罰感情が無くなった事が推認されます。被害者との間で示談が成立し、被害者が被害届の取り下げに協力してくれた場合には、処罰の必要性が無いとして不起訴になる可能性が高くなります。
量刑が軽くなる可能性
被害者との間で示談が成立し、減刑嘆願書に被害者の署名押印をもらえた場合には、量刑が軽くなる可能性があります。減刑嘆願書に署名押印をもらえなかった場合でも、被告が真摯に反省していること、被害を弁償し示談が成立したことを主張することで、量刑が軽くなる可能性があります。
傷害罪で逮捕|その後の流れ
傷害罪で逮捕された場合、その後の流れはどのようになるのでしょうか?
逮捕された場合の流れ
逮捕された場合の流れを簡単に解説します。
逮捕
現行犯逮捕と通常逮捕のいずれの場合も逮捕後48時間身柄を拘束され、捜査機関から取り調べを受けます。
逮捕期間中は通常、家族や友人等と面会はできませんが、弁護士とはいつでも、何度でも接見できます。
勾留
逮捕後48時間以内に、警察から検察官へ事件が送致されます。検察官は事件を受け取ってから24時間以内に、勾留請求するか身柄を解放するか決定します。
身柄が解放された場合には、在宅事件として捜査が続けられます。勾留決定された場合には通常10日間、延長されると更に10日間、最長で20日間勾留されます。
勾留に移行すると家族は接見可能になりますが、勾留決定と共に接見禁止決定がでると、弁護人以外は接見できなくなります。
起訴
勾留期間満期前に、検察官は被疑者を起訴するか不起訴にするか決定します。不起訴になれば身柄が解放され事件は終了します。起訴されてしまうと、公開の刑事裁判にかけられます。
なお、起訴するほどでもないけれど、不起訴にもできないと検察官が判断した場合には、略式起訴にされることがあります。略式起訴にするには被疑者の同意が必要です。略式起訴は通常の起訴とは違い、裁判官が書面の審査のみで罰金刑の言い渡しをする簡易な手続きです。公開の法廷が開かれないため短期間で終了し、罰金刑になるため収容施設に行かずに終了しますが、前科が付きます。
無実である場合には、略式起訴に同意してはなりません。弁護士が示談交渉している場合にも、示談が成立すれば不起訴で終了する可能性があるので、弁護士に相談無く略式起訴に同意しないようにしましょう。
判決
公開の刑事裁判で、検察官が証拠に基づいて訴追します。弁護人は無実の主張あるいは刑の減軽事由を述べます。検察官・弁護人双方の主張が出尽くすと、裁判官が判決を下します。無罪、あるいは執行猶予が付くとその場で身柄を解放されます。実刑判決がでると、在宅事件の被告人は判決確定後に収監され、保釈中の被告人は直ちに収監されます。
逮捕されなかった場合の流れ
傷害事件が発生し、現行犯逮捕されなかった場合、あるいは通常逮捕されない場合の流れについて解説します。
逮捕されないケース
傷害事件の現場に警察が到着したけれど、誰も逮捕せずに帰ることがあります。逮捕するためには逮捕の必要性、つまり逃亡のおそれや罪証隠滅のおそれがあることが必要です。逮捕の必要性が無いと判断されると、逮捕されません。
例えば怪我をしているけれど怪我の程度が低く、加害者が自分の行為を認めていてそれ以上被害者に危害を加える可能性が極めて低い場合や、怪我をしている被害者が加害者を逮捕しないでくれと頼んだ場合等です。
逮捕されなかった場合でも、事件が終了せずに、在宅事件として捜査が続けられる可能性はあります。
流れ
在宅事件として捜査が続けられる場合には、被疑者は通常の社会生活を送れます。会社や学校に通い、行動制限もありませんが、警察からの呼び出しがあれば応じなければなりません。呼び出しに応じないと、逃亡のおそれありとみなされて逮捕される可能性があります。
在宅事件の場合には、捜査機関側に逮捕・勾留時のような期限がありません。そのため、事件発生から起訴・不起訴の判断が決定するまで数か月かかることもあります。
警察・検察からの呼び出しがすぐに無くても、安心はできません。捜査機関の捜査の結果によっては起訴されます。日本の刑事裁判では起訴されると99.9%が有罪になります。起訴されてしまう前に、弁護士に依頼して被害者と示談を成立させましょう。

未成年が傷害罪を起こした場合の流れ
未成年者の扱いは年齢によって3つに分かれます。それぞれ簡単に解説します。
14歳未満の場合
14歳未満の場合は、刑法で罰しないとされているため、刑罰を受けません。
刑法第41条 14歳に満たない者の行為は、罰しない。
引用:e-GOV法令検索
14歳未満の少年が傷害事件を起こした場合には逮捕勾留はされませんが、児童相談所の一時保護として、身体拘束を受ける場合があります。(児童福祉法第33条)
児童福祉法第33条 児童相談所長は、必要があると認めるときは、第26条第1項の措置を採るに至るまで、児童の安全を迅速に確保し適切な保護を図るため、又は児童の心身の状況、そのおかれている環境その他の状況を把握するため、児童の一時保護を行い、又は適当な者に委託して、当該一時保護を行わせることができる。
引用:e-GOV法令検索
14歳未満の少年が事件を起こすと、警察から児童相談所に通告され、事実の調査・少年の調査を経て指導や児童養護施設への入所等が決まります。少年の行動の自由を制限し、またはその自由を奪うような強制的措置を必要とするときは家庭裁判所に送致しなければなりません(少年法第6条の7)。
少年法第6条の7 都道府県知事又は児童相談所長は、前条第1項(第1号に係る部分に限る。)の規定により送致を受けた事件については、児童福祉法第27条第1項第4号の措置をとらなければならない。ただし、調査の結果、その必要がないと認められるときは、この限りでない。
2 都道府県知事又は児童相談所長は、児童福祉法の適用がある少年について、たまたま、その行動の自由を制限し、又はその自由を奪うような強制的措置を必要とするときは、同法第33条、第33条の2及び第47条の規定により認められる場合を除き、これを家庭裁判所に送致しなければならない。
引用:e-GOV法令検索
児童福祉法第27条第1項第4号 家庭裁判所の審判に付することが適当であると認める児童は、これを家庭裁判所に送致すること。
引用:e-GOV法令検索
家庭裁判所の判断で少年審判が開かれると、処分が決定されます。傷害の程度によっては12歳以上であれば、少年院送致もあります。
14歳以上18歳未満の場合
令和4年4月1日から改正少年法が施行されました。それにより、少年事件は全件家庭裁判所に送られ、家庭裁判所が処分を決定します。
家庭裁判所が決定する処分には、検察官送致(逆送)、保護処分などがあります。逆送されると逮捕される可能性があります。
保護処分には、少年院に収容する少年院送致と、社会内で保護観察官や保護司の指導を受ける保護観察があります。保護処分の場合には少年院に入っても前科はつきません。
検察官送致となり逮捕された場合、逮捕後の手続きは成人の場合とほぼ同じですが、未成年者の場合には勾留が少年鑑別所で行われる可能性が高いです。逮捕後は、原則として検察官により起訴され、通常の裁判と同じように有罪になると懲役や罰金などの刑が科されます。有罪判決になると前科がつきます。
18歳以上20歳未満の場合
18歳・19歳も特定少年として引き続き少年法が適用され、全件家庭裁判所に送致され、家庭裁判所が処分を決定します。
ただし、検察官送致対象事件の拡大や検察官送致決定後は20歳以上の者と原則として同様に扱われるなど、18歳未満の者とは異なる取り扱いがされます。特定少年のときに犯した事件について起訴された場合には、実名報道される可能性があります。
特定少年の保護処分は、少年院送致、2年の保護観察(ただし、遵守事項に違反した場合には少年院に収容することが可能)、あるいは6月の保護観察があります。
傷害罪とは
傷害罪とは何か?について解説します。
傷害罪の概要
傷害罪とは人の身体に怪我等の傷害を負わせたときに成立する犯罪です。
傷害罪の条文
傷害罪は刑法第204条に規定されています。
刑法第204条 人の身体を傷害した者は、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
引用:e-GOV法令検索
傷害罪になる要件
傷害罪が成立するための要件は以下4つです。
- 人の身体に対する暴行
- 人の身体に傷害を負わせる
- 暴行行為と傷害の結果との間の因果関係
- 暴行行為の故意
参考
刑法第208条 暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、2年以下の懲役・・・に処する。
引用:e-GOV法令検索
傷害罪は、暴行の結果人を傷害するに至ったときに成立すると考えられています。傷害とは、人の身体の生理的機能を害することと解されており、骨折等怪我を負わせただけではなく、精神的に追い込み被害者がうつ病を発症した場合等も傷害罪になります。
傷害罪の罰則
傷害罪の罰則は15年以下の懲役又は50万円以下の罰金です。
傷害罪の時効
罪を犯したとしても、一定期間が経過すれば処罰されなくなる期間のことを公訴時効といいます。公訴時効が成立すると、検察官は起訴できなくなります。
傷害罪の公訴時効は10年です。
刑事訴訟法第250条 時効は、人を死亡させた罪であって禁錮以上の刑に当たるもの(死刑に当たるものを除く。)については、次に掲げる期間を経過することによって完成する。
1 無期の懲役又は禁錮に当たる罪については30年
2 長期20年の懲役又は禁錮に当たる罪については20年
3 前2号に掲げる罪以外の罪については10年
引用:e-GOV法令検索
暴行罪との違い
傷害罪と暴行罪の違いはどこにあるのでしょう?
暴行罪の条文
暴行罪は刑法第208条に規定されています。
刑法第208条 暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。
引用:e-GOV法令検索
暴行罪は、暴行の結果人を傷害するに至らなかったときに成立します。
刑罰の違い
傷害罪よりかなり短い懲役刑あるいは拘留、低い罰金あるいは科料が規定されています。拘留及び科料は刑罰の一種で、拘留は1日以上30日未満刑事施設に収監されます。科料は1000円以上1万円未満の金銭の納付を命じらます。
刑法第16条 拘留は、1日以上30日未満とし、刑事施設に拘置する。
刑法第17条 科料は、千円以上1万円未満とする。
引用:e-GOV法令検索
暴行罪と傷害罪の分かれ目は?
暴行罪も傷害罪も人の身体に対して暴行を加えたという行為があり、その結果傷害に至らなかった場合には暴行罪となり、傷害に至ると傷害罪となります。
まとめ
傷害罪で有罪になると、15年以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられる可能性があります。被害者が負ったケガの程度や犯行態様によっては、初犯であろうと実刑が下る可能性があります。
刑事処分を軽くするには、被害者との示談成立が重要です。加害者本人がする示談交渉にはさまざまなリスクや困難があります。示談交渉は弁護士に任せた方がよいでしょう。
傷害事件に関してお悩みのことがあれば、ネクスパート法律事務所にお気軽にご相談ください。