傷害罪再犯で逮捕された|その後の手続きや刑罰はどうなる?
前科があるのにふとしたはずみで他人に怪我をさせてしまった場合、傷害罪再犯で逮捕されます。再犯の場合この後一体どうなってしまうのだろう?刑務所に行かなければならないのか?と、不安に駆られると思います。
傷害罪再犯で逮捕された場合、どのような手続きになるか、刑罰がどうなるか等について解説します。
目次
傷害罪の再犯率
平成30年版および令和2年版犯罪白書の再犯・再非行についてのデータ等をもとに再犯について解説します。令和2年版白書によると令和元年における刑法犯の成人検挙人員の有前科者率は傷害・暴行合わせて25.8%です。
備考 再犯の定義について
刑法第56条に再犯とはどのようなものか規定されています。
刑法第56条 懲役に処せられた者がその執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から5年以内に更に罪を犯した場合において、その者を有期懲役に処するときは、再犯とする。
引用:e-GOV法令検索
これによると、刑法上の再犯の要件は以下3つです。
- 懲役に処せられた者
- 刑の執行を終わった日または刑の執行の免除を得た日から5年以内であること
- 更に罪を犯した
一方、犯罪白書では、再犯とは、刑法犯により検挙された者のうち、前に道路交通法違反を除く犯罪により検挙されたことがあり、再び検挙された者とされています。
この記事は、前科(罰金を含む)がある人が再び犯行をしてしまった場合、どう対応するのかを伝える目的で執筆しています。そのため、記事内での再犯の定義を「以前罰金を含む何らかの罪で検挙されたことがあり再び検挙された者」とします。
刑法での再犯の定義(懲役に処せられた者が更に罪を犯した場合において、その者を有期懲役に処するとき、再犯とする)とは意味が異なる点をご了承ください。
再犯者に対する刑の加重(刑法第57条)
刑法では再犯者に対しては刑を加重できると規定しています。
刑法第57条 再犯の刑は、その罪について定めた懲役の長期の2倍以下とする。
引用:e-GOV法令検索
再犯加重は、最低は法定刑のままで、最高は法定刑の2倍以下とすると規定されています。
傷害罪は15年以下の懲役が最高限のため、再犯は30年以下の懲役の範囲内で刑罰を科すことができます。
刑法第204条 人の身体を傷害した者は、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
引用:e-GOV法令検索
令和元年の傷害罪の起訴人員の中の有前科者率は41.7%
令和元年の傷害罪の起訴人員中の有前科者率は41.7%で、傷害罪を犯した者の約4割を再犯者が占めています。そのうち実刑判決を受けた者の率は35.8%、一部執行猶予を含む執行猶予付き判決を受けた者の率は29.5%、罰金刑を受けた者の率は34.7%です。
このことから、傷害罪の再犯者は起訴されると3割以上が実刑判決を受ける可能性があることがわかります。
傷害罪再犯の罰則
傷害罪再犯の罰則は上述のとおり、30年以下の懲役又は50万円以下の罰金となり、裁判所がその範囲内で刑罰を言い渡します。傷害罪の場合は、罰金刑もあるため、略式起訴になる可能性もあります。
傷害罪再犯の時期による違い
傷害罪再犯の罰則は、いつ再犯を行ったかにより変わります。以下、解説します。
執行猶予中の傷害罪再犯
前の罪の執行猶予期間中に更に傷害罪を犯した場合について解説します。
執行猶予期間中の傷害罪に、再び執行猶予がつくこともありますが、その要件は厳しいです。
具体的には以下3つの要件を満たさなければなりません。
- 言い渡される刑が1年以下の懲役・禁錮であること
- 特に酌量すべき情状があること
- 前科について保護観察がつけられ、その期間中の再犯ではないこと
上記要件を満たさない場合には、執行猶予が付かず、実刑判決が言い渡されます。一般的に、執行猶予中の再犯の場合には厳しい判決が予想されます。傷害罪についての実刑判決が言い渡されると前の罪の執行猶予が取り消され、前の刑罰と合わせた期間刑務所に収容されます。
傷害罪の中でも犯行態様や怪我の程度が軽い場合や、被害者との間で示談が成立した場合等では、再度の執行猶予が付けられる可能性もあります。
執行猶予期間終了から5年以内の再犯
前の罪の執行猶予期間が終了すると、刑務所に入ることなく事件が終了します。前の罪に関しては終了していますが、執行猶予期間終了後すぐの再犯の場合には、起訴されて正式裁判になる可能性が高くなります。
再犯で実刑判決が言い渡された場合、前の罪の刑罰は終了しているので、再犯で言い渡された期間だけ刑務所に収容されます。犯行態様や怪我の程度が軽微な場合、被害者との間で示談が成立した場合等では、再度の執行猶予が付けられる可能性もあります。
執行猶予期間終了から数年~10年後の再犯
前の罪の執行猶予期間が終了してから数年以上経過した後の再犯の場合には、前の罪についてあまり考慮されません。場合によっては傷害罪再犯も不起訴で終了する可能性があります。
実刑判決を受け、その執行を終わった日から5年以内の傷害罪再犯
前の罪で実刑判決を言い渡された場合、刑の執行の終了とともに前の罪も終了します。再犯で実刑判決を言い渡されると、言い渡された期間だけ再度刑務所に収容されます。被害者との間で示談が成立した場合には、執行猶予が付けられる可能性もありますが、傷害罪の犯行態様が重い場合や被害者の怪我の程度が重い場合等ではより重い刑罰を言い渡される可能性が高いです。
略式命令後5年以内の再犯
略式命令も有罪であるため前科となります。略式命令で科される刑は罰金刑のみです。略式命令は罰金を納めるとその場で終了となります。略式命令後の再犯の場合も、前の刑終了後の再犯となるため、傷害罪の犯行態様が軽微な場合、怪我の程度が軽い場合や被害者との間で示談が成立した場合等では、執行猶予が付けられる可能性もあります。傷害罪の犯行態様が重い場合や被害者の怪我の程度が重い場合等では、実刑判決を言い渡される可能性もあります。
執行猶予については以下の記事をご参照ください。
傷害罪再犯で在宅事件になる?
ポイント 傷害罪再犯で在宅事件になるかどうかのポイントは、身柄拘束の必要性の有無です。 |


身柄拘束の必要性
身柄を拘束するためには身柄拘束の必要性、逃亡のおそれや証拠隠滅のおそれという要件が必要です。これらの要件が無い場合には身柄を拘束できないため、在宅事件となります。
刑事訴訟法第60条第1項 裁判所は、被告人が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある場合で、左の各号の1にあたるときは、これを勾留することができる。
1 被告人が定まった住居を有しないとき。
2 被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
3 被告人が逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
引用:e-GOV法令検索
傷害事件では、例えば酔った勢いで喧嘩をして相手を殴ってしまったけれど被害者が軽い怪我で済んだ場合等では、警察署での取り調べ後、家族が迎えに行くとすぐに帰宅できる可能性が高いです。
勾留の要件については以下の記事をご参照ください。
傷害罪再犯で起訴される?
ポイント 傷害罪再犯で起訴されるかどうかは、被害者との間の示談成立の有無、犯行態様の程度および被害者の怪我の程度がポイントです。 |


被害者の怪我の程度が重い場合には、被害者との間で示談が成立している場合でも、起訴される可能性があります。
傷害罪の場合、事前に犯行共用物を準備していた場合や共犯者と共謀して犯行に及んだ場合には、犯行態様が重いと判断され、起訴される可能性が高くなります。
起訴については以下の記事をご参照ください。
傷害罪再犯で実刑になる?
ポイント 傷害罪再犯で実刑になるかどうかのポイントは、被害者との示談成立の有無、被害者の怪我の程度、および加害者の反省の程度です。 |


令和元年の起訴人員中の有前科者のうち傷害罪の実刑率は35.8%です。犯罪共用物を準備するなど犯行態様が悪い場合や、被害者の怪我の程度が重い場合等では実刑になる可能性が高いです。
被害者の怪我の程度が軽い場合や、被害者との間で示談が成立した場合でも、加害者の反省が見られない場合や再犯の可能性が高いと判断された場合には実刑になる可能性があります。
傷害罪再犯で執行猶予は得られる?
ポイント 傷害罪再犯で執行猶予を得られるかどうかのポイントは、被告人の反省の程度、被害者の怪我の程度、被害者との間で示談が成立しているか否かです。 |


令和元年の起訴人員中の有前科者のうち傷害罪の執行猶予率は29.5%です。被告人が真摯に反省し、被害者との間で示談が成立していて、被害者の怪我の程度が軽い場合には傷害罪再犯でも執行猶予が得られる可能性があります。
傷害罪再犯で懲役刑になる?
ポイント 傷害罪再犯で懲役刑になるかどうかは、被害者との間で示談が成立しているか否か、被害者の怪我の程度等がポイントです。 |


傷害罪再犯で懲役刑になるかどうかの判断基準
- 被害者との間で示談が成立
- 被害者の怪我の程度
- 加害行為の行為態様
- 被告人の反省の程度
- 再犯防止対策の有無 など
被害者の処罰感情が大きく、示談が成立しなかった場合には懲役刑になる可能性が高くなります。
被害者の怪我の程度が重い場合や犯行態様が悪質な場合等も、懲役刑になる可能性があります。
被害者に怪我を負わせたにも関わらず自分の行為を反省せず、(例えば、相手が悪いから殴った等の言い訳をする)再犯の可能性が高いと判断される場合には懲役刑になる可能性があります。
傷害罪の再犯を防止するには
ポイント 傷害罪再犯防止は、傷害罪を起こす原因を突き止め、原因を除去するために治療を受けることがポイントです。 |
再犯防止対策例
再犯防止対策を立てるには、どういう状況下で傷害事件を起こしたのかを確認しましょう。
飲酒しない
飲酒をすることで感情のコントロールができなくなり喧嘩をしてしまう場合には飲酒をしないことが一番の対策です。しかし、会社の付き合い等で飲まねばならない場面もでてくると思います。そのような時の対策が重要です。例えば上司に同席してもらい、1軒だけ出席して帰宅する、帰宅時には家族に迎えに来てもらうなどの対策を取りましょう。
治療のため定期的に通院する
人に怪我をさせるのは、感情のコントロールができていない可能性があります。感情のコントロールができない理由をみつけ、治療する必要があります。心療内科等を受診し、定期的に通院しましょう。
凶器になりそうなものを持たない
人に怪我をさせる恐れのあるものを持ち歩かないことも防止策の一つです。
家族と同居する
家族と同居することで精神的にも安定し、再犯防止になります。また、家族が日々の行いを監督もできます。
転職する
会社の人間関係によるストレスが原因だった場合には、思い切って転職も検討しましょう。
傷害罪再犯の刑事弁護の方針とサポート内容
ポイント 傷害罪再犯は、被害者と示談すること、再犯防止対策をしっかりと立てることがポイントです。 |
被害者と示談交渉をする
傷害罪再犯で不起訴の獲得は簡単ではありません。しかし、被害者との間で示談が成立し、被害者が被害届の取下げに同意してくれた場合には、不起訴で終わる可能性があります。
もしも起訴されてしまったとしても、示談が成立していれば執行猶予付き判決になる可能性があります。実刑になった場合でも、刑が軽減される可能性があります。
傷害罪再犯で逮捕されてしまった場合には早期に弁護士に依頼し、被害者と示談交渉をしてもらいましょう。
示談については以下の記事をご参照ください。
再犯防止対策のアドバイスをする
傷害罪再犯で逮捕された場合には、今後二度と罪を犯さないことが不起訴の獲得に必要です。
再犯防止対策と言われても、何をすれば良いかわからないという方が多くいらっしゃいます。刑事事件を多数手掛けている弁護士ならば、どのような対策があるか、何をすべきか等のアドバイスができます。
まとめ
傷害罪再犯で逮捕されてしまった場合には、今後どうなるか、刑務所に入ることになるか等不安になると思います。
刑事事件を多数手掛けている弁護士に早期に相談し、被害者と示談交渉をしてもらい、再犯防止のためのアドバイスをもう等のサポートをしてもらいましょう。