性加害とは|意味や法律の定義は?加害者と被害者のすべきこと

性に関する社会の考え方は大きく変化しています。

2019年には、性犯罪の裁判で暴行や脅迫の要件を満たしていないとして無罪判決が相次ぎ、それに対する法改正を求めるデモが全国で行われました。

こうした背景を受け、2023年7月には不同意性交等罪が新設されたことで、双方の性的同意がない性的な行為は犯罪が成立する可能性があります。

これまでは犯罪行為として立件できなかった被害も性犯罪と判断される可能性が広がり、著名人による性暴力が報道されるなど大きな話題となっています。

このような社会的な変化の中で、性加害という言葉を耳にする機会が増えていますが、どのような意味なのでしょうか。

この記事では、性加害について以下の点を解説します。

  • 性加害の意味と概要
  • 性加害で犯罪が成立するケース
  • 性加害のリスク
  • 加害者と被害者が行うべきこと

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性加害とは

性加害の意味

性加害(せいかがい)とは、性的な加害行為を意味する言葉であり、主に同意のない性的な行為を指します

この言葉は、週刊誌やテレビ、新聞などのマスメディアが使用することが多いです。

よく似た言葉に性的暴力や性暴力があります。

性暴力は従来、暴力や脅迫を伴う性行為を指す用語として使われていましたが、近年では同意のない性的行為全般を含む意味で用いられることが増えています。

なお、性加害や性暴力によって被害を受けることを性被害と言います。

法的な定義

性加害は法律用語ではありません。性犯罪に該当する行為かどうかは、それぞれの犯罪の要件を満たしているかによって判断されます。

同意のない性行為やわいせつ行為は性犯罪に該当する可能性が高く、その場合は性加害行為であると言えるでしょう。

一方、刑事裁判で無罪となる場合には、以下のようなケースが考えられます。

  • 実際に性犯罪が行われなかった
  • 刑法にもとづく犯罪行為ではなかった
  • 検察が犯罪行為を立証できなかった

刑事事件で無罪判決が出た場合でも、民事事件において賠償が命じられることもあります。そのため、一概に性加害の有無を断定することはできません。

性加害・性被害の対象者

性加害の被害者は女性だけに限りません。男性に対して行われる同意のない性的行為も性加害に該当します

性加害・性暴力の具体例

性加害や性暴力の具体例としては以下の行為が挙げられます。

  • 同意のない性行為を行う
  • 相手が拒否できない状況に乗じて性交を行う
  • 相手が同意していないのに、明確な拒否がないから同意があったと思い込んで性交を行う
  • 同意なくプライベートゾーン(水着で隠れる箇所、性器や胸、臀部など)を触る
  • 卑わいな言動をしたり、卑わいな話を強要したりする(性生活や性的嗜好について質問するなど)
  • 相手が隠しているプライベートゾーンを覗き見たり、盗撮したりする
  • 裸など性的な写真を見せたり、送りつけたりする

性加害をする人の特徴

性加害をする人には、自己の行った行為に対する正当化、性加害行為を矮小化する特徴があると指摘されています。以下に具体例を挙げます。

性加害の考え方の特徴
自己の行為の正当化 誘ってきたのは相手だ、嫌がっていたら拒否しているはず、拒否していないから同意があった、自宅に来た相手が悪い

酔っていたから覚えていない

男性の性欲は抑えられないから仕方がない

お互いに好意があるから悪いことだとは思わない

性行為や痴漢は皆やっているので悪いことではない

相手が自分に親切にするのは性行為をしたいからだ

自分がしたことはバレなければ問題ないし、やってないのと同じだ

行為の矮小化 嫌だと言っていたがそれほど嫌だと思っていないはず

子どもには意味がわからないから傷つかない

ちょっと触ったくらいで大げさだ、大げさに訴えているに違いない

こうした考え方の歪み(認知の歪み)に加えて、以下の特徴も指摘されています。

  • 障がいがあることで、相手の気持ちを理解するのが苦手・誤って受け取っている
  • 劣等感や自己評価の低さ、攻撃的な性格、過去の性被害体験の復讐
  • 性的な依存があり、ストレス解消や攻撃性により性加害を行う など

参考:性犯罪加害者の理解と対策 – 法務省

性加害が法律に違反して刑事事件となるケース

性加害行為を矮小化し、大したことがないと考えて性的行為を行うと、犯罪行為に該当する可能性があります。

ここでは、性犯罪に該当する行為を具体的に紹介します。

同意なくわいせつな行為をする

同意なくわいせつ行為をすると、不同意わいせつ罪が成立する可能性があります。

不同意わいせつ罪は、2023年7月13日に施行された改正刑法によって新設された犯罪です。

犯罪の成立要件は、旧強制わいせつ罪から以下のように変更されました。

罪名 成立要件
強制わいせつ罪 暴行・脅迫を用いてわいせつな行為を行うこと

13歳未満に対しては暴行・脅迫の有無は問われない

不同意わいせつ罪 同意しない意思を形成し、表明し、もしくは全うすることが困難な状態にさせる、またはその状態に乗じてわいせつな行為を行うこと

以下の行為や事由により相手が同意していない、自分の意思を示すことができない状況で、わいせつ行為をした場合、不同意わいせつ罪が成立します。

  • 暴行や脅迫を行うこと、またはそれらを受けたこと
  • 心身の障害を生じさせること、またはそれらがあること
  • アルコールや薬物を摂取させること、またはその状態にあること
  • 睡眠その他の意識が明瞭でない状態にさせる、またはその状態にあること
  • 同意しない意思を形成したり表明したりする時間を与えないこと
  • 予想と異なる事態に直面させて恐怖させ、もしくは驚愕させ抵抗できない状態を利用すること
  • 虐待に起因する心理的反応を生じさせること、またはそれがあること
  • 経済的または社会的関係の地位にもとづく影響力によって受ける不利益を憂慮させること、それを憂慮していること
  • 行為がわいせつなものではないと誤信させ、もしくは行為者について人違いさせる、それらに乗じて行うこと

参考:刑法第176条 – e-Gov

わいせつな行為の具体例は以下のとおりです。

  • 無理やりキスをする
  • 相手の胸や尻を触る
  • 衣服を脱がす
  • 相手の陰部を触る など

不同意わいせつ罪の罰則と時効は以下のとおりです。

罰則 6ヶ月以上10年以下の拘禁刑
時効 2023年の法改正により12年

参考:刑事訴訟法第250条第3項

被害者が未成年者の場合は、被害者が成人してから時効のカウントが開始されます。

やや古い統計ですが、不同意わいせつ罪が施行される前の2022年の強制わいせつ罪の検挙率は82.9%でした。

警察が認知した事件の8割で加害者が特定されています。

参考:「共同参画」2023年9月号 – 男女共同参画局

参考:令和5年版 犯罪白書 第1編 犯罪の動向 第1章 刑法犯 第1節 主な統計データ 1認知件数と発生率 – 法務省

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同意なく性行為をする

同意のない性行為を行うと、不同意性交等罪が成立する可能性があります。

不同意性交等罪も、不同意わいせつ罪と同様に2023年7月13日から施行されています。

相手が同意していない、もしくは同意を表明できない状態を利用して性交、肛門性交、口腔性交、膣や肛門に身体の一部や物を挿入すると成立します(刑法第177条)。

不同意性交等罪の罰則と時効は以下のとおりです。

罰則 5年以上の拘禁刑
時効 15年

拘禁刑は5年から20年の範囲で科され、減軽されない限り執行猶予はつきません

法改正前は、被害者の陰部に触れる痴漢行為には強制わいせつ罪が適用されていましたが、体の一部などを挿入する場合は不同意性交等罪が成立する可能性があります。

前述した統計によると、2022年の強制性交等罪の検挙率は84.7%であり、認知された事件の約8割で加害者が特定されています。

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性的な姿を盗撮する

盗撮行為も性加害の一種であり、犯罪です。盗撮行為はこれまで各都道府県の条例で規制されていました。

しかし、盗撮場所を特定できずに犯罪行為として立件できないケースがあったため、法改正により2023年7月13日から撮影罪が施行されました。

撮影罪は場所を問わず以下の条件を満たした場合に成立します。

  • 正当な理由なく人の性的姿態をひそかに撮影すること
  • 対象者が盗撮を拒否できない状態にすること、またはその状態を利用して性的な姿態を撮影すること
  • 対象者に性的なものではないと誤解させる、特定の人以外には見られることはないと信じ込ませる、もしくは信じ込んでいることを利用して性的な姿態を撮影すること

参考:性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律 – e-Gov

盗撮行為の他、盗撮記録の提供、提供や公開目的の保管、不特定多数への配信、盗撮記録の保存も処罰対象です。

撮影罪の罰則と時効は以下のとおりです。

罰則 盗撮行為の場合3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金
時効 3年
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性加害をするリスク

性加害を行うとさまざまなリスクが生じます。ここでは、性加害を行うリスクを解説します。

警察に逮捕される

性加害を行い、被害者やその親族、目撃者などが通報すると、警察の捜査対象となります。

場合によっては逮捕される可能性があります。

強制わいせつ罪や強制性交等罪は親告罪であり、被害者が刑事告訴しなければ検察が刑事裁判を行うよう求める(起訴)ことができませんでした。

しかし、いずれも2017年7月の法改正により、これらの罪は非親告罪となり、被害者の刑事告訴がなくても検察の判断で起訴できるようになりました。

検察が起訴すべきだと判断すれば、公開の刑事裁判で裁かれることになります。

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実名報道される

性加害を行った場合、実名報道される可能性があります。

メディアが実名報道をする基準は公表されていませんが、加害者が著名人、公務員、医師、大企業勤務など社会的地位が高い場合、実名報道される傾向にあります。

実名報道されると、会社や学校にも事件が知られることになり、転職などの際にも影響が出る可能性があります。

ネット上で報道されると、その記録が残り続けるおそれもあります。

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10~20日間勾留される

逮捕された場合、逃亡や証拠隠滅のおそれがあると判断されれば、10~20日間留置場に身柄を拘束(勾留)される可能性があります。

勾留期間中は出勤や登校ができないため、実名報道がされなくても、会社や学校に隠し通すのは難しくなります。

勾留期間満了までに起訴か不起訴(事件終了)の判断がされますが、起訴された場合、起訴後も勾留が継続する可能性があります。

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刑事裁判で実刑となる可能性がある

起訴されると、公開の刑事裁判で裁かれます。日本の刑事裁判の有罪率が99.9%であることはよく知られた事実です。

起訴されると有罪となる可能性が高く、特に不同意性交等罪の場合は、減軽されなければ執行猶予はつきません。

実刑となった場合、そのまま刑務所に収容されます。仮に執行猶予がついたとしても、有罪となった時点で前科がつきます。

被害者から損害賠償請求を受ける

刑事事件とは別に、性加害を行うと被害者から民事訴訟を起こされ、損害賠償請求を受ける可能性があります。

裁判所から賠償命令が下されれば、賠償金を支払わなければなりません。

支払いができない場合は、給料や預貯金、不動産などが差し押さえられるおそれがあります。

【加害者側】性犯罪を疑われた場合の対処法

性加害を疑われた場合、できることは以下の3つです。それぞれについて解説します。

  • 弁護士に相談する
  • 専門のクリニックで治療を受ける
  • 冤罪の場合も弁護士に相談して適切なサポートを受ける

弁護士に相談する

性加害を行った場合は、弁護士に相談することが重要です。性犯罪の検挙率は80%以上であるため、逃げ切ることはできません。

起訴や前科を回避するには、弁護士を通じて被害者に謝罪することが不可欠です。

真摯に謝罪を行い、示談をして許しを得ることで、不起訴や執行猶予が得られる可能性があります。

ただし、加害者が直接被害者と接触することは難しいため、弁護士を通じて謝罪を伝えるのが一般的です。

示談が成立しなかった場合でも、早期釈放や刑事処分の軽減に向けたサポートを受けられます。犯罪の事実は消せませんが、真摯に反省し、再犯を防ぐことが重要です。

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専門のクリニックで治療を受ける

性加害を繰り返す人の中には、加害行為をやめられないケースもあります。

自分の力だけでやめられない場合は、性依存治療を行う専門のクリニックや性犯罪更生プログラムを受けることも検討しましょう。

刑事事件では、反省や被害者への謝罪だけでなく、更生の可能性も重視されます。

性加害を繰り返していては、これまで積み上げてきたものを失ってしまいます。

同様の被害者を増やさないためにも、弁護士のサポートを受けながら性加害と縁を切ることが重要です。

冤罪の場合も弁護士に相談して適切なサポートを受ける

冤罪で性加害の疑いをかけられた場合も、迷わず弁護士に相談してください。

例えば、駅での痴漢行為や、交際相手とのトラブルなどが挙げられます。

現行犯逮捕されそうな場合は、弁護士に連絡をし、適切な対応についてアドバイスを受けましょう。

刑事事件を取り扱った実績のある弁護士の連絡先を控えておくのも有効です。

交際相手などとのトラブルで、警察から連絡があった場合も、刑事事件が得意な弁護士に相談してください。

逮捕の可能性や今後の見通し、逮捕後の取調べに関するアドバイスなどを受けられます。

冤罪の場合は、逮捕されても黙秘をした方がよい可能性があります。

逮捕された場合は、警察に伝えて、弁護士か当番弁護士を呼んでもらうようにしてください。

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【被害者側】性加害の被害を受けた人ができること

もし性加害の被害を受けた場合は、以下の対応を検討してください。

  • 被害直後は警察や病院へ相談する
  • 刑事事件で加害者を刑事告訴する
  • 民事事件で加害者に対して損害賠償請求をする

被害直後は警察や病院へ相談する

もし性加害の被害を受けた場合、まずは安全な場所へ移動してください。

加害者に位置を把握されるなど危険がある場合や不安な場合、どうすべきかわからない場合は、以下の相談窓口に相談してください。

警察や病院に行く場合は、以下の証拠の持参することで、証拠を集めることができ、役立ちます。

  • 被害に遭った際に着ていた衣類・下着を持参する
  • 被害直前に飲んだものや食べた物の残りを持っていく(薬物の有無を確認可能)
  • 相談時は体を洗わずに行く

被害から72時間以内であれば、妊娠を防ぐことができます。すぐに対応が難しい場合は、まず相談窓口に連絡し、対応を相談することをおすすめします。

上記の相談窓口は男性が被害に遭った場合も利用できます。いずれのケースでも被害者に落ち度はありませんので、まずは身の安全を最優先に行動してください。

参考:性犯罪・性暴力とは – 男女共同参画局

刑事事件で加害者を刑事告訴する

被害者が性加害を法的に解決できる方法は2つあります。

その一つは、刑事事件で加害者を裁いてもらい、刑事処分を受けさせることです。

加害者から弁護士経由で示談の申し入れがあるかもしれません。

示談に応じれば、加害者の処分が軽くなる可能性がありますが、自分が受けた被害の慰謝料を裁判などの手続きを行わずに受け取ることができます。

加えて、加害者が二度と接触しないよう示談書にまとめて約束させることも可能です。

示談に応じるかどうかは、被害者に選択する権利があります

応じるべきか迷った場合は、刑事事件の被害者側に詳しい弁護士や法テラスに相談することをおすすめします。

民事事件で加害者に対して損害賠償請求をする

刑事事件で示談しなかった場合、民事裁判を起こして加害者に対し、損害賠償請求ができます

示談で受け取れる示談金はある程度柔軟に決定できる一方、裁判の場合は過去の事例をもとにある程度の相場があります。

裁判で勝訴した場合、相手が支払いに応じない場合は差し押さえを行うことも可能です。

示談と裁判のどちらが自分にとって負担が少ないのか判断に迷ったら、弁護士に相談することをおすすめします。

まとめ

刑法の改正により、かつては法的に犯罪行為が成立しなかった事例も明確に立件されるようになりました。

価値観が変わったとも言えますが、人とのコミュニケーションが重要であるということは変わりません。

この厳罰化の流れや社会の価値観の変化に合わせて、人との接し方を見直すことが、よりよい社会を築く礎となるでしょう。

性加害をして被害者に謝罪をしたい場合や、冤罪で警察から疑われている場合は、刑事事件の実績がある弁護士に相談してください。

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