弁護士なしで示談する5つのリスクと弁護士に依頼すべき理由
示談とは、当事者間の話し合いでトラブルを解決する方法です。
示談成立により被害者の被害が回復し、加害者の刑罰が軽減されるメリットがあり、刑事事件でも非常に重要なポイントになります。
加害者と被害者が直接示談交渉を行うことも可能です。
ただし、弁護士なしの示談では加害者が不利になったりさまざまなリスクが生じたりするため、おすすめできません。
例えば、示談金の適正な金額が判断できないこと、刑事処分までに示談が成立しない可能性、示談が失敗した場合の対応などが挙げられます。
この記事は、以下の人に向けて、弁護士なしで示談するリスクや弁護士に依頼すべき理由を解説します。
- 弁護士費用が負担できないため、弁護士なしで示談できないか
- 被害者から示談交渉を持ちかけられている
- 示談の過程や示談交渉後に被害者とトラブルになっている
目次
刑事事件の示談は弁護士なしでもできる?
刑事事件の示談は、弁護士なしで加害者と被害者の間で行うこと自体は可能です。
ただし、以下のような場合には、直接交渉が難しくなります。
- 加害者と被害者で面識がなく、被害者の連絡先がわからない
- 加害者が逮捕や勾留されていて、留置場から出られない
被害者との直接交渉では、脅迫と受け取られないよう十分な注意が必要です。
さらに、被害者が加害者との接触を拒否することもあるため、示談の申し入れや手紙を受け取ってもらえない状況では、直接交渉は避けた方がよいでしょう。
弁護士なしで示談交渉をする5つのリスク
弁護士なしで示談交渉を試みる場合、以下のリスクがあります。
- 被害者と接触できない
- 刑事処分までに示談が成立できない
- 別のトラブルに発展するおそれがある
- 適切な示談書が作成できない
- 示談が成立しなかった場合の適切な対処ができない
それぞれについて詳しく解説します。
被害者と接触できない
前述のとおり、被害者と面識がある場合を除いて、加害者は被害者と接触できないことが多いです。
加害者は被害者の連絡先を知る術がなく、警察や検察からも被害者の許可がなければ連絡先を教えてもらえません。
さらに、被害者やその家族は加害者に対して怒りや恐怖心を抱いていることが多いです。
加害者に個人情報を知られたくないのはもちろん、会って示談交渉などしたくないと考えていることがほとんどです。
仮に、連絡先を知ることができても、直接示談を申し入れることで被害者が警戒し、交渉が一層困難になることもあります。
無理に示談を迫ると、被害者が恐怖を感じ警察に通報するリスクもあります。
警察や検察から、被害者に対して脅迫や強要をしたのではないかと疑われかねません。
刑事処分までに示談が成立できない
逮捕されてそのまま勾留が行われる事件では、検察が起訴か不起訴を判断するまでの勾留期間は10~20日間しかありません。
たとえ加害者の家族や関係者などが、被害者と示談を行おうとしても、被害者と接触できない、もしくは、示談交渉を拒否される可能性があります。
さらに、法的知識や示談の経験がない状況では、10~20日間の短期間で被害者の許しを得ることは難しいです。
刑事処分までに示談を成立させられないことも考えられます。
特に被害者が複数人いる場合は、弁護士なしで示談交渉を進めるのは一層難しいでしょう。
別のトラブルに発展するおそれがある
加害者が直接被害者と接触して示談交渉ができたとしても、別のトラブルに発展するおそれもあります。
例えば、以下のようなケースが考えられます。
- 適正以上の示談金を支払ってしまう
- 示談交渉で被害者から脅迫だと受け取られる
- 加害者と被害者で別のトラブルに発展する など
特に、弁護士なしで示談を進める場合、適切な示談金の判断が難しく、適正な金額以上で示談をしてしまう可能性があります。
示談金の金額は、法律で明確に定められているわけではありません。
ネット上ではある程度の相場が紹介されています。しかし、犯罪の種類や、過去の事例、被害の程度などによって適正な金額は大きく異なります。
適正な示談金を判断できないばかりか、刑事処分を受ける可能性がある加害者は、不当な示談内容であっても強く交渉することが難しいです。
結果的に被害者に有利な条件で示談が成立する場合があります。
さらに、加害者と被害者が直接交渉を行うことで、金銭の問題など別のトラブルに発展するリスクもあります。
このような事態は、加害者にとって不利な状況を招くだけでなく、当事者だけでの解決を一層困難にする可能性があります。
適切な示談書が作成できない
示談交渉が成立した場合、必ず示談書を作成する必要があります。示談書を作成することで、示談内容を明確化し、証拠として残すことで、後のトラブルを防ぐことができます。
示談書には、以下のような事項を盛り込むことが重要です。
- 被害届や刑事告訴をしないこと
- 加害者を許す・刑事処分を望まないこと(宥恕条項)
- 示談以外に支払いの義務が生じないこと(清算条項) など
これらの内容が含まれていない場合、示談成立後に以下のようなトラブルが生じることがあります。
- 示談が成立したのに被害届の提出や刑事告訴をされた
- 宥恕条項がないため、弁済は認められたが、被害者が加害者を許したと判断されなかった
- 清算条項がないため、法的に解決したと判断されず、追加で賠償金を請求された など
示談交渉は、示談金を支払うだけでは成立しません。示談内容を法的に有効な示談書にまとめて、検察官や裁判所に提出することが重要です。
示談不成立の場合の適切な対処ができない
加害者と被害者で示談交渉を行ったとしても、加害者を許して示談内容に合意できない場合、示談は成立しません。
弁護士なしで示談を進め、結果として示談が不成立に終わった場合、加害者は刑事処分が下されることを覚悟するほかありません。
一方、弁護士であれば、示談が不成立となっても、他の方法で検察や裁判官に減軽を訴えかけることができます。
示談交渉が成立しないとどうなる?
ここでは、示談が成立しない場合にどうなるのかについて解説します。
被害届や刑事告訴を取り下げてもらえない
示談交渉が成立しない場合、被害者に被害届や刑事告訴を取り下げてもらうことができません。
被害届や刑事告訴が受理された状態では、警察も捜査を進めるため、逮捕や起訴される可能性があります。
一方で、示談が成立し、被害届や刑事告訴が取り下げられれば、事件によっては警察が捜査を打ち切ることもあり、逮捕や事件化を回避できる可能性があります。
起訴される可能性がある
示談交渉が成立しない場合、検察が刑事裁判で審理すべきと判断すれば、起訴される可能性があります。
よく知られているように、刑事事件の有罪率は99.8%(2023年統計)と非常に高く、裁判となれば有罪判決を受ける可能性が極めて高いです。
さらに、公開の裁判で裁かれるため、事件を他の人に知られるリスクも避けられません。
刑事裁判で有罪・前科となる
示談が成立しない場合、刑事裁判で有罪となり、重い処分を受ける可能性があります。
例えば、罰金刑が懲役刑となったり、執行猶予がつかずに実刑判決が下されたりすることがあります。
有罪判決が下れば罰金刑や執行猶予であっても、前科がつきます。
前科や一定の刑罰が科されることで、失職、資格喪失、海外渡航の制限など生活に大きな影響を及ぼす可能性があります。
賠償義務が残る
民法では、他人に故意や過失により他人の権利を侵害した場合には、不法行為に該当し、生じた損害の賠償責任を負います(民法第709条)。
民法は生活のトラブルについてまとめた法律で、刑事事件とは別ですが、刑事事件で示談交渉が成立すれば、民法上の賠償義務も果たしたことになります。
そのため、示談交渉が成立しない場合は、民法上の賠償義務も残ったままとなり、被害者から賠償を求められる可能性があります。
示談交渉を弁護士に依頼すべき理由
前述のとおり、弁護士なしで示談をすると、さまざまなリスクが生じる可能性があります。
自分での示談交渉はおすすめできませんし、弁護士に依頼すべきです。
ここでは、示談交渉を弁護士に依頼すべき具体的な理由を解説します。
被害者が示談交渉に応じる可能性がある
示談交渉を弁護士に依頼することで、被害者が示談交渉に応じてくれる可能性が高まります。
弁護士なしで示談交渉を試みても、加害者が被害者の連絡先を知る方法はありません。
しかし、加害者に連絡先を教えない条件で、弁護士から接触を図れば、警察や検察が被害者の許可を得て連絡先を開示してくれます。
弁護士から示談を申し入れることで、被害者の警戒心が和らぎ、示談に応じる可能性があります。
早期に適切な内容で示談できる
弁護士が示談交渉を行うことで、限られた時間の中でも被害者と適切な内容で示談が成立できる可能性があります。
弁護士は、犯罪の傾向や被害の程度、過去の事案、判例などから適切な金額で交渉を進めることができます。
法的に有効な示談書を作成し、清算条項や宥恕条項を漏れなく盛り込むことで、刑事処分への反映や、成立後のトラブル防止にも繋がります。
さらに、被害者の希望に応じて、加害者が被害者と接触しないこと(接触禁止)や、口外禁止などを示談条件に含めることも可能です。
示談成立により逮捕や前科が回避できる
弁護士が示談交渉をすることで、逮捕や前科が回避できる可能性が高まります。
示談交渉は、被害者が受けた損害が金銭的、身体的、精神的なものであるかによって進め方が異なります。
事案に応じて被害者の心情にも十分配慮しながら交渉を進め、謝罪を尽くすことで被害者が示談に応じてくれることがあります。
さらに、示談書に被害届や刑事告訴の取り下げを盛り込むことで、警察の捜査を回避し、家族の前で逮捕されるといった事態を防ぐことができます。
不起訴となり前科がつかずに済めば、失職や資格はく奪などのリスクも避けられます。
当事務所では、示談成立による不起訴処分の獲得や事件化の回避に成功した事例が多数あります。
解決事例 | 内容 |
盗撮 | 侵入盗撮による逮捕。被害者と示談が成立しなかったものの、経緯を検察官に報告することで盗撮は不起訴処分を獲得 |
未成年者に対する強制わいせつ | 被害者の親権者は依頼者に対して強い怒りを覚えていたが、その後も粘り強く交渉を継続。被害者側の娘と接触しないでほしいとの意向を受け、①謝罪文の提出、②犯行現場となった路線を利用しないこと、③実家のある県への引っ越しを提示し、弁護士の真摯な交渉により示談が成立。不起訴処分を獲得 |
盗撮 | 通勤電車の中で未成年者のスカート内を盗撮した事案。被害者の親権者は強い怒りを覚えており、すぐに示談に応じてもらえなかった。その後時間をおいてから示談交渉を進めて交渉が成立。しかし、過去にも盗撮事件を起こしていたため、起訴の可能性を考慮して、依存症のクリニックにて治療受けることで、再犯可能性が低いと判断され、不起訴処分を獲得 |
横領 | 事務員として働いている会社のお金を5年に渡り数百万横領した事案。横領を知らない勤務先に、弁護士から接触を図り、代表者に経緯を説明して、経理の資料を見直して、被害金額を算定。勤務先が警察に被害届を提出する前に示談が成立。 |
示談不成立の場合の対応を任せられる
示談交渉は被害者との合意が必要であるため、弁護士が介入したからといって、必ずしも示談が成立するとは限りません。
しかし、示談が不成立に終わった場合でも、弁護士であれば刑事処分を軽減するための対策を講じてもらえます。
例えば、以下のような対応をしてもらうことができます。
- 示談に努めたことがわかる報告書を検察に提出してもらえる
- 供託制度を利用して、示談が成立したように扱ってもらえる
- 贖罪寄付を行い、反省を示す など
示談交渉の弁護士費用の相場
ここでは、弁護士に示談交渉を依頼した場合の費用の相場について解説します。
私選弁護人の場合
私選弁護人とは、加害者や親族などが選んで依頼する弁護士のことです。
私選弁護人に示談交渉を依頼した場合の費用の相場は以下のとおりです。
内容 | 相場(税別) | |
相談料 | 法律相談の費用 | 30分5,000~ |
着手金 | 依頼時に支払う弁護士費用 | 30万円~ |
報酬金 | 事件終了時に支払う報酬金 | 30~50万円程度
※事案による |
上記の費用は、簡易な事件であるかどうかや、逮捕されている場合、逮捕されていない場合によって異なります。
報酬金は、事件終了まで含めた金額である場合や、示談成立は別途報酬が発生するケースなどさまざまです。
他にも、逮捕されている人と面会を行う接見に対して3万円ほどの費用がかかります。
示談交渉だけを受けている弁護士もいますが、その後不起訴までサポートしてもらえる方が安心です。
なお、ネクスパート法律事務所では、相談料は無料です。痴漢や盗撮などの事案で多数の示談成立による不起訴実績があります。安心してご相談ください。
国選弁護人を選任してもらった場合
国選弁護人とは、経済的に弁護士費用を負担できない人のために、国が費用を負担して選任する弁護士のことです。
国選弁護人が選任された場合、基本的に費用は発生しません。弁護士に依頼できないような場合は、国選弁護人を選任してもらいましょう。
ただし、国選弁護人にはいくつかデメリットがあります。
- 法テラスが契約してる弁護士から選ばれるため、刑事事件の実績が豊富な弁護士を選んで依頼できない
- 国選弁護人が選任されるのは、逮捕から72時間以降で対応に時間がかかる
- 逮捕されずに、警察や検察から呼び出されて捜査が行われる在宅事件では、起訴されるまで国選弁護人が選任されない
国選弁護人は費用面の負担はありませんが、対応が遅れる可能性があります。
特に在宅事件では、起訴されるまで選任されないため、示談交渉が遅れるおそれがあります。
早期の対応が必要な場合は私選弁護人を検討しましょう。
弁護士なしで自分で示談をする場合のポイント
もしどうしても弁護士に依頼できない場合や、被害者と面識があり自分で示談交渉を進める場合は、以下の点に注意して進めるようにしましょう。
まずは被害者に謝罪をする
もし自分で示談交渉を進める場合、何よりもまず被害者に謝罪をすることが先決です。
謝罪よりも示談という言葉を使うと、お金を払って事件をもみ消そうとしていると受け取られることがあります。
そのため、いきなり示談をしたいとこちらの希望を通すような説明は避けましょう。
謝罪をしたいことや、治療費や慰謝料を支払いたいと伝えるようにします。
被害者の怒りが強い場合や、事件の性質によっては、示談を受け入れてもらえないこともあるため、示談の提案時期やタイミングにも注意が必要です。
適切な示談書・謝罪文を作成する
示談内容がまとまった場合は、必ず示談書を作成してください。示談書には以下の内容を盛り込むようにしましょう。
- 事件の概要(争いの原因)
- 示談金額、示談金の支払い方法、支払い時期
- 被害者が加害者を許す旨(宥恕条項)
- 被害届、刑事告訴の取り下げ
- 被害者と接触しない旨(接触禁止)
- 第三者に口外しない(口外禁止)
- 示談書以外に、双方で金銭の発生はない、示談金以外の請求の放棄(清算条項)
- その他両者の間で約束事項があれば記載(誓約条項) など
示談書には、当事者で実際に合意できた内容のみ盛り込む必要があります。
被害者が宥恕条項や被害届や告訴の取り下げを拒否した場合は、示談書に盛り込むことはできません。
示談書は合意内容を明記する必要があります。後から見返した際に、解釈の余地が生じるような書き方をすると、トラブルに発展する可能性があります。
例えば、清算条項についても、本合意書に定める他何らの債権債務がないことを相互に確認するとした場合に、本合意書と指定を入れないことで、別の名目で追加請求を受けるといったことも考えられます。
このため、示談交渉や示談書についても、一度弁護士に相談することを強くおすすめします。
まとめ
刑事事件の示談は弁護士なしでも不可能ではありません。
ただし、自分で示談交渉を行っても、被害者が示談に応じてくれないことや別のトラブルに発展する可能性、示談不成立の場合の対処ができないなどのリスクがあります。
刑事事件は一生を左右する重大な場面です。
事件の内容によっては悪質であると判断され、初犯でも実刑になるおそれがあります。
公開の裁判で裁かれ、信用を失ったり、前科により失職したりする可能性もあります。
当事務所では、適切な示談や、起訴される可能性のある事案において、示談だけでなく他の対処を行うことで、不起訴処分獲得の豊富な実績があります。
示談交渉に不安のある場合や、被害者が示談に応じてくれない場合、同種の前科前歴があり不起訴が難しい場合などは、お気軽にご相談ください。