詐欺罪再犯|逮捕されたら実刑になる?
平成15年頃に急増した特殊詐欺は近年でも引き続き大きな社会問題となっています。詐欺罪には狭義の詐欺罪、詐欺利得罪、準詐欺罪、電子計算機使用詐欺罪等、変化する社会情勢に応じて様々な法律が制定されていますが、犯罪白書の資料としてはすべてひっくるめて詐欺として扱っています。
この記事では、詐欺罪再犯で逮捕された場合の刑罰について解説します。
目次
詐欺罪の再犯率
令和3年版犯罪白書によると、令和2年において詐欺罪検挙人員中の再犯者率は58.1%です。再犯者の人員は平成21年まで増加傾向でした。その後はほぼ横ばいでしたが令和元年に大きく減少し、令和2年も減少しています。
一般詐欺と特殊詐欺
詐欺罪には狭義の詐欺罪、詐欺利得罪、準詐欺罪、電子計算機使用詐欺罪等、変化する社会情勢に応じた様々な法律が制定されています。
平成15年頃に急増した特殊詐欺は近年でも引き続き大きな社会問題となっています。
犯罪白書の資料としては特に分類して扱っていない限り全て詐欺として扱っています。この記事でも特殊詐欺も含めて詐欺として解説します。
詐欺
詐欺の認知件数は平成15年及び16年に大きく増加しましたが、これは特殊詐欺が平成15年夏頃から始まり、16年に一気に2万5700件に達したことによる影響です。詐欺罪全体の認知件数も増加しました。
特殊詐欺
特殊詐欺は平成平成15年夏頃から始まり、16年に一気に2万5700件に達したのち、平成19年まで減少、平成20年に一旦増加した後平成21年に一気に減少しました。その後は増加傾向にありましたが、平成30年以降はまた減少傾向にあります。
備考 再犯の定義について
刑法第56条に再犯とはどのようなものか規定されています。
刑法第56条 懲役に処せられた者がその執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から5年以内に更に罪を犯した場合において、その者を有期懲役に処するときは、再犯とする。
引用:e-GOV法令検索
これによると、刑法上の再犯の要件は以下3つです。
- 懲役に処せられた者
- 刑の執行を終わった日または刑の執行の免除を得た日から5年以内であること
- 更に罪を犯した
一方、犯罪白書では、再犯とは刑法犯により検挙された者のうち、前に道路交通法違反を除く犯罪により検挙されたことがあり、再び検挙された者とされています。
この記事は、前科(罰金を含む)がある人が再び犯行をしてしまった場合、どう対応するのかを伝える目的で執筆しています。そのため、記事内での再犯の定義を「以前罰金を含む何らかの罪で検挙されたことがあり再び検挙された者」とします。
刑法での再犯の定義(懲役に処せられた者が更に罪を犯した場合において、その者を有期懲役に処するとき、再犯とする)とは意味が異なる点をご了承ください。
再犯者に対する刑の加重(刑法第57条)
刑法では再犯者に対しては刑を加重できると規定しています。
刑法第57条 再犯の刑は、その罪について定めた懲役の長期の2倍以下とする。
引用:e-GOV法令検索
再犯加重は、最低は法定刑のままで、最高は法定刑の2倍以下とすると規定されています。
詐欺罪は10年以下の懲役が最高限のため、再犯は20年以下の懲役の範囲内で刑罰を科せます。
刑法第246条第1項 人を欺いて財物を交付させた者は、10年以下の懲役に処する。
引用:e-GOV法令検索
詐欺で検挙された成人のうち、有前科者率は36.7%
令和3年犯罪白書によると、詐欺で検挙された成人のうち、有前科者率は36.7%です。その中で、同一罪名有前科者率は13.5%です。前科が詐欺罪で再度詐欺罪をした者の率は低いですが、詐欺罪に関しては前科5犯以上の者の率が高いという特徴があります。
詐欺罪再犯の罰則
詐欺罪再犯の罰則は上述のとおり、20年以下の懲役となり、裁判所がその範囲内で罰則を言い渡します。
詐欺罪再犯の時期による違い
詐欺罪再犯の罰則は、いつ再犯を行ったかにより変わります。以下、解説します。
執行猶予中の詐欺罪再犯
前の罪の執行猶予期間中に更に詐欺罪を犯した場合について解説します。
執行猶予期間中の詐欺罪に、再び執行猶予がつくこともありますが、その要件は厳しいです。
具体的には以下3つの要件を満たさなければなりません。
- 言い渡される刑が1年以下の懲役・禁錮であること
- 特に酌量すべき情状があること
- 前科について保護観察がつけられ、その期間中の再犯ではないこと
上記要件を満たさない場合には、執行猶予が付かず、実刑判決が言い渡されます。一般的に、執行猶予中の再犯の場合には厳しい判決が予想されます。詐欺罪についての実刑判決が言い渡されると前の罪の執行猶予が取り消され、前の刑罰と合わせた期間刑務所に収容されます。
詐欺罪の被害額が少額で被害者との間で示談が成立した場合等では、再度の執行猶予が付けられる可能性もあります。
執行猶予期間終了から5年以内の再犯
前の罪の執行猶予期間が終了すると、刑務所に入ることなく事件が終了します。前の罪に関しては終了していますが、執行猶予期間終了後すぐの再犯の場合には、起訴されて正式裁判になる可能性が高くなります。
再犯で実刑判決が言い渡された場合、前の罪の刑罰は終了しているので、再犯で言い渡された期間だけ刑務所に収容されます。被害額が少額である場合や、被害者との間で示談が成立した場合等では、再度の執行猶予が付けられる可能性もあります。
執行猶予期間終了から数年~10年後の再犯
前の罪の執行猶予期間が終了してから数年以上経過した後の再犯の場合には、前の罪についてあまり考慮されません。場合によっては詐欺罪再犯も不起訴で終了する可能性があります。
実刑判決を受け、その執行を終わった日から5年以内の詐欺罪再犯
前の罪で実刑判決を言い渡された場合、刑の執行の終了とともに前の罪も終了します。再犯で実刑判決を言い渡されると、言い渡された期間だけ再度刑務所に収容されます。被害者との間で示談が成立した場合には執行猶予が付けられる可能性もありますが、被害額が大きい場合や犯行態様が重い場合にはより重い刑罰を言い渡され、実刑になる可能性が高いです。
略式命令後5年以内の再犯
略式命令も有罪であるため前科となります。略式命令で科される刑は罰金刑のみです。略式命令は罰金を納めるとその場で終了となります。略式命令後の再犯の場合も、前の刑終了後の再犯となるため、詐欺の被害額が少額な場合や被害者との間で示談が成立した場合等では、執行猶予が付けられる可能性もあります。詐欺の被害額が高額な場合や被害者が多数いる場合には、実刑判決を言い渡される可能性が高いです。
執行猶予については以下の記事をご参照ください。
詐欺罪再犯で在宅事件になる?
ポイント 詐欺罪再犯で在宅事件になるかどうかのポイントは、身柄拘束の必要性の有無です。 |

身柄拘束の必要性
身柄を拘束するためには身柄拘束の必要性、逃亡のおそれや証拠隠滅のおそれという要件が必要です。これらの要件が無い場合には身柄を拘束できないため、在宅事件となります。
刑事訴訟法第60条第1項 裁判所は、被告人が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある場合で、左の各号の1にあたるときは、これを勾留することができる。
1 被告人が定まった住居を有しないとき。
2 被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
3 被告人が逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
引用:e-GOV法令検索
詐欺の被害金額が少額で、被害者に謝罪および弁償をして自首した場合等では、逃亡のおそれや証拠隠滅のおそれが無いと判断され、在宅事件になる可能性があります。
共犯者がいる場合には、逃亡のおそれや証拠隠滅のおそれがあるとされ、身柄拘束される可能性が高いです。
勾留の要件については以下の記事をご参照ください。
詐欺罪再犯で起訴される?
ポイント 詐欺罪再犯で起訴されるかどうかは、損害の回復および被害者との間の示談成立の有無がポイントです。 |

詐欺罪再犯の示談について
詐欺罪は被害者を騙して財物を交付させているため、被害者の被害感情や処罰感情が大きい傾向にあります。被害者の処罰感情が大きい場合には起訴される可能性が高いです。
詐欺の再犯をした場合には被害を回復し、被害者に真摯に謝罪し赦してもらうことで不起訴になる可能性がでてきます。弁護士に依頼し、被害者と示談交渉をしてもらいましょう。
起訴については以下の記事をご参照ください。
示談については以下の記事をご参照ください。
詐欺罪再犯で実刑になる?
ポイント 詐欺罪再犯で実刑になるかどうかのポイントは、詐欺の結果の重大性、犯行の悪質性、損害の回復および被害者との間の示談成立の有無です。 |

詐欺罪再犯は以下の場合には実刑になる可能性が非常に高くなります。
- 被害金額が高額である
- 犯行が組織的である
- 被害者の人数が多い
- 被害者の処罰感情が強く示談に応じてくれない など
被害回復ができず、被害者と示談ができなかった場合には実刑になる可能性が高いです。
被害金額が少額で、被害者数が少なかった場合であっても、被告人に反省の様子がみられない場合には再犯のおそれがあるとみなされ実刑になる可能性が高いです。
詐欺罪再犯で執行猶予は得られる?
ポイント 詐欺罪再犯で執行猶予が得られるかどうかのポイントは、被疑者の反省の程度、再犯防止のための取り組み、損害の回復、被害者への謝罪および被害者との間の示談成立の有無等です。 |
執行猶予を得るためには被告人が心から反省し二度と詐欺をしないための再犯防止対策に取り組んでいるか、損害を回復したか、被害者に真摯に謝罪し赦しを得たか、などが考慮されます。

詐欺罪再犯で懲役刑になる?
ポイント 詐欺罪再犯で懲役刑になるかどうかは、損害の回復および被害者との間の示談成立の有無に加えて、被告人の反省の程度および再犯防止のための取り組みの状況がポイントです。 |
なる可能性はあります。詐欺罪は罰金刑の定めのない重い罪です。詐欺罪は罰金刑の定めがありません。実刑判決を受けると懲役刑になり、刑務所に収監されます。

詐欺罪再犯で懲役刑にならないためにすべきこと
詐欺罪は被害者を騙して利益を受けています。騙された被害者の精神的被害および金銭的被害の回復は困難です。被告人が真摯に反省し被害者に謝罪し、被害回復をすることによって被害者との間で示談が成立すれば懲役刑にならない可能性がでてきます。
今後二度と詐欺をおこなわないための再発防止策も重要です。家族の協力や周囲の環境の整備、治療、再犯防止プログラム受講等により再犯防止対策をしっかり立てる必要があります。
詐欺罪の再犯を防止するには
ポイント 詐欺にあった被害者の方々の心情やその後の生活状況等を知ることで心から反省することができるかがポイントです。 |
再犯防止対策
再犯防止対策を立てるためには、詐欺を犯した加害者本人が自身の問題と向き合い、被害者の受けた被害について深く理解する必要があります。
被害者が失ったものを理解する
被害者は騙されて金員を交付しています。加害者から見ると表面上は持っているお金、余っているお金を失っただけのように見えるかもしれません。しかし、被害者が失ったものはお金だけではないことを理解しなければなりません「。
被害者に与えた精神的影響を理解する
被害者は加害者の言葉を信用し、加害者が自分達を助けてくれると信じて金銭等を渡しています。
必死に貯めた老後の資金をだまし取られ、騙された自分を責め、ときには騙されたことを知った家族から非難され、精神的に追い込まれ自殺にまで至る被害者もいます。
加害者本人がそのような状況に追いやった事を直視する必要があります。
被害者の今後の生活を想像する
老後の資金として貯めた金銭を奪われた被害者が今後どのような生活をすることになるかを想像させます。1か月の年金収入と家賃や食費等の毎月の支出を実際に計算し、今後どのような生活をすることになるかを想像させ、自分がやったことの重大性を認識させます。
加害者の生活状況等を改善する
加害者は生活が苦しく、高収入のアルバイト感覚で犯罪に加担している可能性があります。その場合には加害者の生活状況を改善しないかぎり、今後も同じような罪を犯す恐れがあります。加害者が罪を犯すことなく生活できるように改善しなければなりません。
家族や親族の監護下に置く
犯罪に加担してしまった加害者の中には、一人暮らしで生活が厳しいために高収入のアルバイトに飛びついてしまったという人もいます。そのような場合には家族や親族と共に生活し、その監護下に置くことで再犯防止になることがあります。
詐欺罪再犯の刑事弁護の方針とサポート内容
ポイント 詐欺罪は懲役刑しかないため、加害者の心から反省および再犯防止対策をたてることがポイントです。 |
詐欺罪再犯で逮捕された場合に弁護士がどのような弁護活動をするか、お伝えします。
被害者に与えた影響を理解させ、被害者に謝罪する
詐欺罪再犯をした加害者は、被害を受けた被害者のその後の生活について全く想像していない可能性があります。
弁護士は事件後の被害者の状況を加害者が理解できるように伝えます。犯罪被害にあったことで激変した被害者の状況を理解することで自らが行った行為を反省し被害者に謝罪することが再犯防止への1歩です。
被害弁償をして慰謝料を支払い、被害者と示談をする
被害者と示談するためには被を弁償が必要です。被害額が高額な場合や被害者が多数いる場合にはすべての被害者への弁償は困難ですが、できる範囲内で弁償、被害者に謝罪し示談に応じてもらえるよう交渉します。
不起訴を目指す
令和2年度版犯罪白書によると詐欺罪で起訴された者の有前科者率は37.5%です。詐欺罪再犯でも不起訴を獲得できます。
加害者が真摯に反省し、被害者との間で示談を成立させ、再犯防止対策を立て不起訴を目指します。
執行猶予付き判決の獲得を目指す
被害者数が多い場合や被害金額が高額な場合には全ての被害者との示談成立は困難です。その場合には起訴される可能性が高いです。起訴されてしまった場合には、執行猶予付き判決を目指します。
被告人が真摯に反省していること、家族等の監護下におく等の再犯防止対策を立てることで執行猶予の獲得を目指します。
刑の減軽を目指す
被害者が多数いて、被害額も高額な場合に詐欺罪再犯で起訴されると実刑になる可能性があります。その場合には刑の軽減を目指します。
被告人が真摯に反省していること、出所後家族の監護などのサポートが得られることなどを主張します。
まとめ
詐欺罪再犯で逮捕されてしまうと、起訴されて実刑になる可能性があります。詐欺罪再犯の場合には加害者の真摯な反省と再犯防止対策が不可欠です。
詐欺罪再犯で逮捕された場合には加害者が自分の責任を自覚し、被害者の苦しみを理解し、今後二度と罪を犯さないよう再犯防止対策たてるため、早期に弁護士に依頼しましょう。