強盗とは|強盗と窃盗の違い・罪の重さや執行猶予はつく?
強盗とは、暴行や脅迫をして人から金銭を奪う犯罪です。物を盗む点では窃盗と共通しますが、両者には明確な違いがあります。
たとえば、コンビニなどで万引きをした場合は、通常窃盗罪となりますが、場合によっては強盗罪が成立し、より重い処罰が科されることもあります。
この記事では、強盗とは何か、窃盗罪との違いについて、以下の点をわかりやすく解説します。
- 強盗とは?強盗罪の概要や逮捕のリスク
- 強盗と窃盗の違い
- 窃盗が強盗になるケース
目次
強盗とは
強盗とは、人に対して暴力や脅迫を行い、財物を強奪する行為のことです。このような行為をすれば、強盗罪が成立します。
ここでは、強盗の罰則と時効について解説します。
強盗罪の罰則
強盗罪の罰則は、5年以上の有期懲役です。
(強盗)
第二百三十六条暴行又は脅迫を用いて他人の財物を強取した者は、強盗の罪とし、五年以上の有期懲役に処する。
懲役刑の上限は以下の通り、20年ですが、他の犯罪の罪が加重される場合には、最長で30年となります。そのため、強盗罪の懲役は5年以上30年以下です。
(懲役)
第十二条懲役は、無期及び有期とし、有期懲役は、一月以上二十年以下とする。
強盗罪の時効
強盗罪の公訴時効は10年です。10年経過すれば、強盗の罪で刑事裁判にかけられて裁かれることはありません。
しかし、2022年の強盗罪の検挙率は95.8%であり、逃げ続けることは極めて難しいでしょう
参考:令和5年版 犯罪白書 第1編 犯罪の動向 認知件数と発生率 – 法務省
強盗罪の構成要件にある暴行と脅迫とは
構成要件とは、犯罪が成立するための条件のことです。強盗罪の場合は、暴行や脅迫を用いて、他人の財物を奪うことが要件となります。
ここでは、暴行と脅迫の具体的な内容を解説します。
強盗罪の暴行と脅迫とは
強盗罪が成立する暴行と脅迫の具体的な行為は以下の通りです。
暴行 | 殴る、蹴る、髪をつかむ、武器で殴打する、縛り上げるなどの人の身体に対する不法な有形力の行使 |
脅迫 | 殺すぞ、痛めつけるぞなど、自分や親族の生命や身体などに対して危害を加えると告げること |
有形力の行使とは、簡単に言えば、物理的な攻撃を加えることです。
暴行と脅迫の程度
さらに、法律ではどの程度の暴行や脅迫によるものなのかも定められています。
強盗罪の暴行と脅迫の程度は、判例上、被害者の反抗を抑圧する程度のものとされています(最判昭和24年2月8日)。
一 他人に暴行又は脅迫を加えて財物を奪取した場合に、それが恐喝罪となるか強盜罪となるかは、その暴行又は脅迫が、社會通念上一般に被害者の反抗を抑壓するに足る程度のものであるかどうかと云う客観的基準によつて決せられるのであつて、具體的事案の被害者の主観を基準としてその被害者の反抗を抑壓する程度であつたかどうかと云うことによつて決せられるものではない。
引用:最高裁判例
この被害者の反抗を抑圧する程度に強い暴行や脅迫は、実際に被害者が反抗できなかったかどうかは問題になりません。
被害者の反抗を抑圧する程度に強い暴行や脅迫であったかどうかは、以下のような強盗時の状況から客観的、総合的に判断されます。
- 犯行時刻(夜間なのか日中なのか)
- 犯行状況(人通りが多く周囲に助けを求められたか、夜間誰もいない場所だったのか)
- 凶器使用の有無、使用された凶器
- 犯人と被害者の年齢、体格差、性別 など
これらの条件を総合的に判断し、被害者の反抗を抑圧する程度であれば、強盗罪が成立します。
一方で、反抗を抑圧しない程度の暴行や脅迫にとどまる場合、恐喝罪が適用されます。
強盗と窃盗の違い
強盗と窃盗は、どちらも他人の財産を盗むという点では共通していますが、実際には明確な違いがあります。それぞれの特徴を以下に解説します。
暴行の有無
強盗と窃盗の大きな違いは、暴行や脅迫の有無です。
強盗は、殴ったり、被害者を縛ったり、刃物を突き付けて脅したりして、金銭を奪った場合に成立します。
一方、窃盗は、人に気づかれずに物を盗み取ったような場合に成立します。
(窃盗)
第二百三十五条他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
罪の重さ
強盗と窃盗では罪の重さも違いがあります。
強盗罪 | 5年以上の有期懲役 |
窃盗罪 | 10年以下の懲役または50万円以下の罰金 |
窃盗罪には罰金刑が適用されることもありますが、強盗罪は懲役刑のみが定められており、より厳しい処罰が科されます。
対象となる財産
強盗と窃盗では、どちらも金銭や金銭的価値のある財物を対象とする点では共通しています。
ただし、強盗罪は暴行や脅迫を用いて財産上不法の利益を得たり、他人に利益を得させたりする場合にも適用されます。
(強盗)
2前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。
例えば、以下のような行為が挙げられます。
- タクシー運転手に刃物を突き付け、タクシー代を払わずに逃走する行為
- 飲食店で店員に暴行を加え、飲食代を支払わずに立ち去る行為 など
これらは利得強盗罪と呼ばれる強盗罪の一種で、金銭の直接的な奪取だけでなく、サービスの無償提供を強要した場合にも適用されます。
関連する罪の数
強盗と窃盗では、関連する罪の種類や罰則も異なります。特に強盗罪には、行為内容によって以下のような罪が適用される場合があります。
罪 | 内容 | 罰則 |
強盗予備罪 | 強盗を目的として計画を企てた場合 | 2年以下の懲役 |
昏睡強盗罪 | 人を昏睡させて、財物を盗んだ場合 | 5年以上の有期懲役 |
強盗致傷罪 | 強盗の際に人をケガさせた場合 | 無期懲役または6年以上の懲役 |
強盗傷人罪 | 強盗の際に意図的に人をケガさせた場合 | |
強盗致死罪 | 強盗の際に人を死亡させた場合 | 死刑または無期懲役 |
強盗殺人罪 | 強盗の際に、殺意をもって人を死亡させた場合 | |
強盗・不同意性交等罪、強盗・不同意性交等致死罪 | 強盗やその未遂犯が不同意性交等をした場合 | 不同意性交等:無期懲役または7年以上の有期懲役
被害者を死亡させた場合:死刑または無期懲役 |
窃盗が強盗になるケース
窃盗行為が強盗罪に発展する場合があります。例えば、万引きが店員に見つかり、店員を殴って逃げたような場合です。
強盗罪となると、5年以上の懲役が科される可能性があり、窃盗罪に比べて非常に重い刑罰となります。
以下では、窃盗が強盗と判断される条件について解説します。
相手が反抗できない程度の暴行や脅迫があった
窃盗か強盗かを分けるポイントは、暴行や脅迫の有無およびその程度です。
被害者が反抗できない程度の暴行や脅迫があった場合、強盗罪が成立します。
財物を奪う意思があった
強盗罪が成立するには、財物を奪う目的で暴行や脅迫を行う必要があります。
例えば、暴行後に被害者が落とした財布を拾った場合は、暴行罪および窃盗罪が成立すると考えられます。
一方で、財物を奪う目的で窃盗を試み、発覚して被害者に暴行を加えた場合には、事後強盗罪が適用されるでしょう。
このように、財物を奪うことが目的なのか、暴行や脅迫の程度などによって、強盗罪なのか、窃盗罪なのか、他の犯罪が成立するのかが異なります。
強盗や窃盗に関する他の罪
他人の財物を盗む・奪う犯罪として、強盗罪や窃盗罪以外に以下の罪があります。
恐喝罪
恐喝罪とは、人を恐喝して財物を奪った場合に成立する犯罪です。恐喝罪の罰則は10年以下の懲役です。
(恐喝)
第二百四十九条人を恐喝して財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。
恐喝とは、相手を恐怖させる程度の暴行や脅迫を加えることです。恐喝罪と強盗罪の違いは以下の通りです。
恐喝罪 | 強盗罪 | |
暴行や脅迫の程度 | 相手を恐怖させる程度 | 相手の反抗を抑圧する程度 |
財産の入手方法 | 相手に財産を交付させる | 相手から財産を奪う |
例として、拳銃を突きつけ金を出せと脅迫されれば、普通の人は抵抗しないと考えられるため、強盗罪が成立します。
一方、秘密をばらされたくなければ金銭を支払えと脅された場合、秘密の程度によってはばらされてもいいと思って支払いを拒否する人もいます。
相手の反抗を抑圧する程度の暴行や脅迫とは判断されず、恐喝罪に該当すると考えられます。
強盗未遂罪
強盗未遂罪とは、強盗行為に着手したものの、結果的に財物を奪えなかった場合に成立する犯罪です。
例えば、住居に押し入り、住人を脅迫したが金銭を奪えなかったケースが該当します。
強盗行為の着手とは、金銭を奪う目的で暴行や脅迫を開始した時点で、強盗罪に着手したと判断されます。
強盗は未遂罪でも処罰対象であり、罰則は強盗罪と同様に5年以上の懲役です。
ただし、以下のケースで、減軽または免除される可能性があります。
障害未遂 | 被害者の抵抗などにより強盗行為を遂げられなかった場合は裁判官の判断で減軽される可能性がある |
中止未遂 | 自らの意思で犯罪を中止した場合は、刑が必ず減軽または免除される |
特に、自分の意思で強盗を中止した場合は、言い渡される量刑の半分が減軽されます(刑法第68条)。
(未遂減免)
第四十三条犯罪の実行に着手してこれを遂げなかった者は、その刑を減軽することができる。ただし、自己の意思により犯罪を中止したときは、その刑を減軽し、又は免除する。
事後強盗罪
事後強盗罪とは、窃盗後に盗んだ物を取り返されることを防いだり、逮捕を免れたり、証拠隠滅などをするために、暴行や脅迫を行った場合に成立する犯罪です。
窃盗罪から強盗罪になる代表的な例として、この事後強盗罪が挙げられます。具体的には以下のようなケースが考えられます。
- コンビニで万引き後に店員に見つかり、逃走の際に店員を突き飛ばした場合
- 空き巣に入り、家の住人に見つかり、その場で住人を縛って逃走した場合
強盗は、最初から物を奪うこと目的で暴行や脅迫を加える犯罪です。
事後強盗罪は、当初ただの窃盗目的であった行為が、後に逃走などのために暴行や脅迫をともなう犯罪へと転じる点で異なります。
事後強盗罪の罰則は、強盗罪と同様に5年以上の有期懲役です。窃盗目的であっても重い処罰が科されることに注意が必要です。
(事後強盗)
第二百三十八条窃盗が、財物を得てこれを取り返されることを防ぎ、逮捕を免れ、又は罪跡を隠滅するために、暴行又は脅迫をしたときは、強盗として論ずる。
強盗罪で逮捕された場合のリスク
強盗罪で逮捕された後は、以下の流れで刑事手続きが進められます。
- 逮捕から48時間以内に警察が事件を検察に引き継ぐ
- 検察は24時間以内に、身柄拘束(勾留)の要否を判断する
- 裁判所の許可のもと勾留が10~20日間行われる
- 勾留期間満了までに検察が起訴(刑事裁判)か不起訴かを判断する
- 起訴後に裁判所が必要だと判断されれば起訴後も勾留が続く
- 起訴から1か月~1か月半ほどで刑事裁判が行われる
- 刑事裁判で有罪となると量刑が言い渡されて刑務所に収容される
強盗罪で逮捕された場合の傾向やリスクについて解説します。
保釈が認められず長期間勾留される
逮捕されると、起訴前と起訴後で警察署の留置場や拘置所に勾留される可能性が高いです。
法務省によると、2022年の強盗罪の勾留率は99.1%であり、ほぼ全てのケースで身柄拘束が行われています。
起訴前の勾留は最長でも20日間ですが、起訴後の勾留は基本的に2か月です。
強盗罪の場合は、短期1年以上の懲役に当たる罪であるため、勾留の必要性が認められれば、制限なく勾留される可能性があります(刑事訴訟法第60条、第89条)。
起訴後の勾留では、裁判所に保釈金を預ければ、裁判所の許可のもと一時的に身柄が釈放される保釈制度を利用できます。
ただし、2022年の強盗罪の保釈率は15.2%に過ぎません。強盗罪の場合は、長期間勾留され、裁判で有罪となるとそのまま刑務所に収容されることも考えられます。
参考:司法統計 第32表 通常第一審事件の終局総人員―罪名別処遇(勾留、保釈関係)別―地方裁判所管内全地方裁判所・全簡易裁判所別 – 裁判所
執行猶予がつかない
執行猶予には、以前に禁錮刑以上の罪に処されたことがない、あるいは、刑の執行や免除から5年以内に再度禁錮刑以上に処されたことがないなど、さまざまな条件があります(刑法第25条)。
一番わかりやすいものでいえば、言い渡される量刑が3年以下の懲役でなければ、執行猶予はつきません。
強盗罪は5年以上の有期懲役であるため、自ら強盗を中止した場合や、自首をしたなどの事情で減軽されない限り、執行猶予はつきません。
重い処分が科される可能性がある
これまで解説してきたように、強盗罪の罰則は非常に重く、5年以上の有期懲役です。
強盗の中で、万が一被害者をケガさせたり、死亡させたりすれば、強盗致死傷罪が適用され、さらに重い処分が下されることが考えられます。
人をケガさせた場合は、無期懲役または6年以上の有期懲役です。人を死亡させた場合は死刑または無期懲役です。
(強盗致死傷)
第二百四十条強盗が、人を負傷させたときは無期又は六年以上の懲役に処し、死亡させたときは死刑又は無期懲役に処する。
強盗の際に加えた暴行は、場合によっては被害者の命を奪うことも考えられます。
被害者を死亡させれば、軽率な気持ちで行った強盗の結果であっても、死刑や無期懲役が科される可能性があります。
まとめ
強盗罪は、金銭を奪う目的で人に暴行や脅迫を行う犯罪です。場合によっては、被害者の命を奪う結果となることもあります。
このような行為が広がれば社会の秩序が保てなくなるため、強盗罪には厳しい罰則が設けられています。
近年では、闇バイトに関与して強盗行為に加担し、重い処分を受けるケースが目立っています。
軽率な行動が取り返しのつかない結果を招くこともあり、注意が必要です。
さらに、窃盗や恐喝などの行為でも、場合によっては強盗罪が適用される可能性があります。
一度でも強盗行為を行い有罪となれば、長期間の懲役刑を科され、人生に大きな影響を与えます。このような行為に加担しないようにしてください。
もし強盗行為、窃盗、恐喝などに関与してしまった場合は、すぐに弁護士に相談し、適切な支援を受けることが重要です。