実刑とは|懲役や執行猶予との違いや実刑になる罪をわかりやすく解説

実刑とは、刑事事件の裁判で、すぐに刑務所に収容される判決(決定)を受けることです。

実刑判決を受けてしまうと、裁判官に言い渡された期間、刑務所に収容されなければならず、今後の人生に大きな影響を与えることになります。

ただし、執行猶予がつけば、一定期間は刑の執行を待ってもらうことができます。

司法統計によると、2022年に執行猶予がついた割合は64.2%です。つまり、35.8%は実刑判決が下されていることになります。

参考:令和5年版 犯罪白書 第3節 第一審

この記事では実刑について下記の点を解説します。

  • 実刑とは?懲役や執行猶予との違い
  • 実刑となる要因や執行猶予の条件
  • 実刑になった場合どうなる?

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実刑とは

ここでは、実刑についてわかりやすく解説します。

刑務所に収容される判決のこと

実刑とは、刑事裁判ですぐに刑務所に収容される判決が下されることです。

裁判の有罪判決には、実刑判決と執行猶予判決があります。

実刑判決 今すぐ刑務所で罪を償うべきとする判決
執行猶予判決 すぐに刑を執行せず、一定の猶予期間を設ける判決

刑の執行の猶予は、罰金刑にも適用されますが、実務上罰金刑に執行猶予がつくケースはほとんどありません。

そのため、実刑といった場合は、刑務所に収容される懲役や禁錮刑が科されたと考えるのが一般的です。

執行猶予については、後ほどわかりやすく解説します。

実刑となる刑罰の種類

刑罰にもさまざまな種類があります。実刑判決と呼ばれるのは、身柄を拘束して自由を奪う自由刑のことです。

分類 刑罰 内容
生命刑 死刑 命をもって償う刑罰

極刑とも呼ばれる

自由刑 懲役 受刑者を刑務所に収容して一定期間労働を強いる刑罰

期限が決まっている有期懲役と、期限が決まっていない無期懲役がある

禁錮 受刑者を一定期間刑務所に収容する刑罰

懲役と違い労働を強いられない

懲役と同様に期限が決まっている禁錮と、期限のない無期禁錮がある

拘留 1日以上30日未満で刑務所に収容される刑罰

労働は科されない

財産刑 罰金 金銭の支払いを強いる刑罰

1万円以上で金額の上限はない

納付できない場合は、刑務作業を科される

科料 1000円以上1万円未満の罰金を科す刑罰

また、2025年からは、懲役と禁錮を一本化した拘禁刑という新しい刑罰が導入されます。

拘禁刑は、労働だけでなく更生プログラムを受けられるなど、受刑者にあわせて柔軟な処分ができる刑罰で、懲役と禁錮は廃止されることになります。

死刑の場合は、拘置所で刑の執行を待つことになります。

参考:拘禁刑を25年6月導入 懲役と禁錮を一本化、更生を重視 – 日経新聞

実刑になる罪

罪を犯しても、その罪が初犯であり、しっかり反省をして、被害者と示談が成立しているようなケースであれば、執行猶予がつき、実刑にならないこともあります。

ただし、執行猶予がつくのは、言い渡された量刑が懲役3年以下であることが前提となります。

そのため、下記の犯罪では、執行猶予がつかなければ、初犯でも実刑になる可能性があります。

例:

殺人罪(刑法第199条) 死刑または無期懲役もしくは5年以上の懲役
強盗殺人罪(刑法第240条) 死刑または無期懲役
強盗致傷罪、強盗致死罪(刑法第240条) 無期懲役または6年以上の懲役
不同意性交致傷罪(刑法第181条)
建造物等放火罪(刑法第108条) 死刑または無期懲役もしくは5年以上の懲役
強盗罪(刑法第236条)、事後強盗罪(刑法第238条) 5年以上の懲役
不同意性交等罪(刑法第177条)
危険運転致傷罪(刑法第208条) 15年以下の懲役
詐欺罪(刑法第246条) 10年以下の懲役
恐喝罪(刑法第249条)
横領罪(刑法第252条) 5年以下の懲役

参考:刑法 – e-Gov

刑罰には懲役と罰金が定められているものもあります。

しかし、罰金刑の定めがない犯罪は、執行猶予がつかなければ、実刑が科されることになります。

実刑と懲役とその他の言葉の違い

実刑の他にも懲役や執行猶予、求刑など刑事事件では聞きなれない言葉がたくさんあります。

ここでは、実刑とその他の言葉の違いを解説します。

懲役は刑務所に収容される刑罰

先述したとおり、懲役刑は、言い渡された期間刑務所に収容され、労働を強いられる刑罰のことです。

実刑は、裁判官が執行猶予をつけずに、懲役や禁錮刑を科す判決のことです。

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執行猶予とは刑の執行を猶予する制度

執行猶予とは、裁判所が定める一定期間、刑の執行を猶予し、再び罪を犯さなければ、その刑の執行を免除する制度のことです(刑法第25条)。

例えば、懲役3年、執行猶予5年という判決が下された場合は、下記の内容を意味します。

  • 懲役3年の刑に処す
  • ただし今後5年間刑の執行を猶予する
  • この5年の間に罪を犯さなければ、懲役は執行しない

執行猶予は、再犯や加害者の更生をうながすためにある制度です。

長期間刑務所に収容されてしまうと、社会復帰は困難となり、社会から孤立すると再犯のおそれが生じます。

そのため、比較的罪が軽い人が、社会復帰をする機会を奪わないために、社会で更生を目指すのが執行猶予制度なのです。

2016年からは、刑の一部の執行猶予制度というものが新設されました(刑法第27条の2)。

執行猶予(全部執行猶予) 言い渡された期間内に再犯をしなければ、刑は執行しない
刑の一部の執行猶予 言い渡された期間の一部だけ執行を猶予する

懲役3年、刑の一部である懲役6か月を2年間猶予するという判決が下された場合、刑は懲役3年ですが、2年6か月まで刑の執行を受け、2年間再犯しなければ、残りの刑期6か月を免除するという意味になります。

刑の一部の執行猶予も、判決後に刑務所に収容されることになるため、実質実刑だと言えるでしょう。

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求刑は検察が処分を求めること

求刑は、検察がこのくらいの刑罰を科してくださいと、裁判官に処分を求めることです。

裁判官は、検察の求刑や弁護士の反論を聞いた上で、実刑か執行猶予か、どのくらいの量刑(裁判官が言い渡す刑罰)にするのか判断します。

実刑判決が下される要因

実刑判決は、こういう場合に実刑を下しますと法律で明確に定められているわけではありません。

もともと法定刑(法律で定められている刑罰)から、さまざまな事情を考慮して、罪を軽くしたり、重くしたりすることで、公平に処分を決定しています。

例えば法定刑が懲役5年であっても、一律に5年を科すわけではなく、懲役5年を上限として、さまざまな事情を考慮して、どのくらいの刑を言い渡すのか決めているのです。

ここでは実刑判決が下される要因について解説します。

減軽される事情がない

先述したとおり、量刑は法定刑をベースとして、理由があれば刑を軽くすることができます。

実刑判決が下されるケースでは、減軽理由がないことで、執行猶予がつかなったことが考えられるでしょう。

減軽とは、言い渡す刑を軽くすることです。減軽にも種類があります。

必要的減軽 条文が定めるよりも軽い刑を適用しなければならない

例:心神喪失、自ら犯行を中止した場合

任意的減軽 事情を考慮して、裁判官の判断で軽い刑を適用することができる

例:情状酌量、自首、未遂犯など

責任能力がないから通常よりも軽い処分が下されるケースは、ニュースの報道で知っている人も多いでしょう。

法律では心神喪失の状態の人の罪は処分しない、もしくは減軽すると決められています(刑法第39条)。

他にも、被害者を殺害した動機が、気に食わないから殺害した場合と、日常的に暴力を受けていてやむなく殺害した場合とでは、量刑が異なります。

個々の事情に応じて罪を重くしたり、軽くしたりすることができるのです(情状酌量)。

執行猶予の条件を満たしていない

執行猶予がつかなった場合は、罰金刑でない限り、実刑が決定します。

執行猶予がつく条件は、下記のとおりです。

対象者 前に禁固以上の刑に処されたことがない
禁固以上の刑に処されていても、刑の執行が終わった日、もしくは免除から5年以内に禁固以上の刑に処されていない
条件 言い渡される量刑が3年以下の懲役か禁錮(罰金は50万円以下)

また、以前禁固以上の刑に処され、その刑の執行を猶予された人が、再び1年以内の懲役や禁錮の言い渡しを受けても、汲むべき事情があれば、執行猶予がつくことになります。

殺人罪は軽くても5年以上の懲役です。

しかし、減軽が認められた上、量刑が3年以下の懲役になれば、裁判官の判断で執行猶予がつく可能性があります。

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法定刑が重い犯罪

もとの法定刑が重ければ、減軽されても執行猶予がつかない可能性があります。

先述したとおり、殺人罪の法定刑は死刑または無期懲役もしくは5年以上の懲役です。

最低でも5年以上の懲役が科される可能性があり、減軽理由により減軽されなければ、執行猶予はつきません

複数の罪がある

裁判で判決が確定していない罪が複数ある場合は、併合罪として処理されるため、量刑が重くなり、実刑になる可能性があります(刑法第45条)。

併合罪は、裁判で判決が確定していない2つ以上の罪のことです。

併合罪の場合、下記のルールで量刑が決定します。

  • 刑罰の上限は、複数の罪からもっとも重い罪の上限を1.5倍として計算される
  • それぞれの罪の合計した刑罰の上限は超えられない
  • 併合罪の場合の懲役の上限は30年

例えば、加害者が、Aさんに対する傷害行為とBさんに対する暴行を行った場合を例に考えてみます。

傷害罪 15年以下の懲役または50万円以下の罰金
暴行罪 2年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金、または拘留もしくは科料

併合罪の刑の上限は、法定刑が重い傷害罪の刑期を1.5倍にして計算されるため、上限は22年5か月になります。

しかし、傷害罪と暴行罪の懲役の合計は17年ですので、この合計を超えることはできません。

したがって、17年の懲役を上限として、量刑が決定されることになります。

複数の罪がある場合は加重され、実刑になる可能性があります。

その他罪が重くなるケースがある

先述したとおり、裁判官は下記のような事情を考慮して、刑を軽くするか重くするか判断します。

  • 犯行に至る経緯や動機、目的
  • 犯行の計画性や手段、凶器の有無、単独か共犯か
  • 結果の重大性、被害者に与えた損害の程度
  • 犯行直後の加害者の言動や自首の有無、反省の程度
  • 加害者の生い立ちや家庭環境、性格、家族関係、経歴
  • 被害者に対する謝罪や被害回復、示談の有無、被害者の感情
  • 加害者の前科前歴や常習性、再犯の可能性、更生の有無 など

こうした事情の中で、下記のようなものがあると、刑が重くなる傾向があります。

  • 罪が重い、犯行が悪質である
  • 前科や余罪が多数ある、再犯のおそれがある
  • 反省をしていない、被害者と示談をしていない
  • 執行猶予期間中の犯行だった など

実刑になるまでの流れ

警察が犯人を特定した場合、検察が刑事裁判で起訴(刑事裁判で訴えること)するかどうか判断します。

実刑になるまでの流れは、逮捕されているかどうかによって異なります。

身柄事件 警察が加害者を逮捕して、身柄を拘束する事件のこと
在宅事件 逃亡や証拠隠滅のおそれがない場合に、逮捕をせず事情聴取などを行う事件のこと

ここでは身柄事件と在宅事件それぞれで実刑になるまでの流れを解説します。

身柄事件の場合

身柄事件から実刑になるまでの流れは下記のとおりです。

  1. 逮捕される
  2. 勾留される
  3. 10~20日以内に起訴か不起訴が判断
  4. 刑事裁判が行われる
  5. 複数回審理した上で、実刑判決が下される
  6. 判決の翌日から14日間は異議申し立ての期間
  7. 異議申し立て期間が終わると、判決が確定する
  8. 移送先の刑務所を決めるための調査が行われる
  9. 移送先の刑務所が決まったら、収容される

逮捕や、留置場に一定期間身柄拘束をする勾留は、逃亡や証拠隠滅のおそれがある場合に、裁判所の許可を得て行われます。

起訴後も勾留が必要だと判断されると、被告人の身柄は拘置所に移送されます。

保釈が認められない限りは勾留が続くことになります。

その後判決が確定して、移送先の刑務所が決定すれば、収容されます。

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在宅事件の場合

逃亡や証拠隠滅のおそれがないと判断されれば、逮捕や勾留は行われず、在宅事件として捜査が継続されます。

在宅事件となった場合の流れは下記のとおりです。

  1. 定期的に警察や検察から呼び出されて、取り調べを受ける
  2. 起訴されると自宅に訴状が届く
  3. 指定の期日に裁判に出席する
  4. 複数回審理した上で、実刑判決が下される
  5. 判決の翌日から14日間は異議申し立ての期間
  6. 異議申し立て期間が終わると、判決が確定する
  7. 判決確定後は検察から呼び出されて、身柄を拘束されて、刑務所に収容される

また、裁判に欠席したり、呼び出しに応じたりしないと、警察などにより強制的に連行されることになります。

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実刑になるとどうなる?

ここでは、実刑となった後どうなるのか解説します。

刑務所で刑務作業が行われる

実刑となった場合、懲役か禁錮が科されることになります。

懲役の場合は、言い渡された期間、刑務所で刑務作業を行うことになります。

刑務作業には、木工や金属加工、洋裁、印刷、革細工などがあります。

こうした刑務作業のほかに、刑事施設の炊事や洗濯、更生を目的とした職業訓練や、ボランティアなどがあります。

禁錮刑の場合は、刑務作業が科されず、監視されている房内で過ごすことになりますが、やることがないため、希望して刑務作業を行うケースが多いようです。

長期間服役しないと仮釈放が認められない

実刑を受けて、刑務所に収容されたとしても、仮釈放の条件を満たしていれば、刑務所から釈放されます(刑法第28条)。

仮釈放とは、反省をしている受刑者に限り、仮で出所を認め、社会で更生を目指すことができる制度です。

長期間刑務所に収容されてしまうと、社会復帰が困難となり、再び罪を犯す可能性があるため、仮釈放制度が設けられています。

仮釈放の条件の1つは、下記のとおり、一定期間刑の執行を受けることです。

有期懲役 言い渡された量刑の3分の1
無期懲役 10年以上

ただし、実務上では刑の執行が80~90%程度でなければ、仮釈放されません

参考:令和5年版 犯罪白書 第2節 仮釈放等と生活環境の調整 – 法務省

社会復帰が難しくなる

仮釈放が認められない場合は、刑の執行が終わらない限り、刑務所から出所できません。

長期間収容されると、社会復帰が難しくなってしまいます。

関東地方更生保護委員会によると、仮釈放者の再犯率は29.8%に対し、刑の執行を受けて満期に出所した者の再犯率は47.9%と高い割合でした。

また、法務省によると満期で出所した者の再犯時の生活状況は、ホームレスが30.8%、ネットカフェで生活する人が22%です。

仮釈放が認められず、長期間収容されてしまうと、空白の期間ができてしまい、就職なども難しくなることが考えられます。

参考:刑務所出所者等の居住支援の必要性について – 関東地方更生保護委員会
犯罪をした者等の住居の確保等の現状と課題について – 法務省

実刑を取り消すことはできる?

一度実刑を受けてしまった場合は、実刑を取り消すことはできないのでしょうか?

実刑を取り消すには、控訴をするか、再審を請求することになります。

控訴をする

実刑が不当だと感じた場合は、判決の翌日から14日以内であれば、上級裁判所に異議申し立てができます。

日本では三審制を導入しているため、1つの事件に対して3回まで審理が可能です。

三審制引用:「裁判所」の仕事を見に行こう! 公平な裁判を通じて国民の権利と自由を守ります。|政府広報オンライン

刑事裁判では、被告人が控訴した場合、第一審よりも重い処分が下されないという「不利益変更禁止の原則」があります。

被告人が控訴したにも関わらず、第一審よりも重い処分が下された場合、重い処分をおそれて、異議申し立てをしなくなるのを防ぐために設けられた原則です。

控訴審では、一審の判決が見直されるため、場合によっては実刑よりも罪が軽くなる可能性があります。

ただし、控訴すると再度審理が行われるため、釈放されるまでの期間が延びたり、費用がかかったりすることになります。

原審の判決が支持されて実刑が取り消されない可能性もあるため、弁護士と相談した方がよいでしょう。

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再審をする

再審とは、判決が確定した事件に、無罪や減刑を認めるべき新たな証拠が発見された場合に、裁判をやり直す救済手続きです。

2023年には約60年前に起きた袴田事件の再審が行われ、話題になりました。

ただし、再審をするには、新たな証拠が発見されるなどの条件が必要であり、死刑判決から再審が行われ無罪になったのはわずか4件です。

再審によって無罪が確定すれば実刑は取り消されますが、そのハードルは非常に高いと言えます。

参考:死刑再審、過去4件は全て無罪 – 産経新聞

まとめ

実刑が下されてしまうと、ただちに刑務所に収容されて、一定期間釈放してもらうことができません。

実刑を回避するには、早い段階で弁護士に相談することが重要です。

弁護士のサポートを得て、被害者に謝罪をして示談を行ったり、再犯防止策や更生を示したりすることで、不起訴や執行猶予が得られる可能性があります。

実刑判決は個人の自由を大きく制限するため、その回避に向けた適切な対応が求められます。

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