サマリー
裁判に関する報道などで「控訴」や「上告」という言葉を耳にする機会は多いものの、両者にどのような違いがあるのか詳しく把握している方は少ないかもしれません。
これらはいずれも判決に対する不服申立ての手続きですが、申立先の裁判所をはじめ、申立てが認められる理由や審理の仕組みには明確な違いがあります。
期限も判決の翌日から14日以内と厳格に定められています。
この記事では、控訴と上告の基本的な違いや申立要件、審理の流れについて分かりやすく解説します。
控訴と上告の基本的な違いとは(上訴制度の概要)
刑事裁判で言い渡された判決に不服がある場合、上級の裁判所に対して再度の審理や判断を求める手続きが用意されています。
このような、確定前の判決に対する不服申立て手続きの総称を「上訴」と呼びます。
日本の刑事裁判では、誤判を防ぎ公正な裁判を期すために「三審制」が採用されています。
この仕組みのもとで段階的に設けられている主な上訴手続きが「控訴」と「上告」です。
第一審の判決に対する不服申立てが「控訴」であり、控訴審の判決に対する不服申立てが「上告」に位置付けられます。
第一審判決に対する不服申立てである「控訴」
控訴とは、地方裁判所または簡易裁判所で行われた第一審の判決に対して不服がある際、高等裁判所に対して申し立てる不服申立て手続きを指します。
一般的な刑事事件では地方裁判所や簡易裁判所から裁判が始まるため、最初の判決に納得がいかない場合の申立先は原則として管轄の高等裁判所となります。
第一審で行われた手続きや判断に誤りがなかったかどうかを審査してもらう段階です。
第二審判決に対する不服申立てである「上告」
上告とは、高等裁判所が言い渡した第二審(控訴審)の判決に対して不服がある際、最高裁判所に対して申し立てる手続きです。
上告も上訴手続きの一種に含まれます。
上告は三審制における最終段階の審査を求める手続きとなります。
そのため、第一審の判決を見直す控訴と比べ、審理の対象や申立ての基準が法的に大きく異なっている点が特徴的です。
| 項目 | 控訴 | 上告 |
|---|---|---|
| 対象となる裁判 | 第一審の判決(地方裁判所・簡易裁判所) | 第二審(控訴審)の判決(高等裁判所) |
| 主な申立先裁判所 | 高等裁判所 | 最高裁判所 |
| 審級における位置付け | 第一審から第二審への不服申立て | 第二審から第三審(最終審)への不服申立て |
控訴の手続きと申立期間
控訴申立ての期限と書類の提出
第一審の判決に不服がある場合、上訴として控訴を行うことになりますが、申立てができる期間は法律で厳格に定められています。
具体的には、第一審の判決が言い渡された日の翌日から起算して14日以内です。
控訴を行う際は、この期間内に、判決を言い渡した第一審の裁判所(地方裁判所または簡易裁判所)に対して「控訴申立書」を提出します。
申立書が受理された後、高等裁判所から指定された期日までに、不服の具体的な根拠を記した「控訴趣意書」を提出する流れとなります。
控訴期間である14日を経過してしまうと、それ以降は原則として控訴の申立てを行うことができなくなります。
申立期間経過による判決の確定
定められた期間内に控訴の申立てがなされなかった場合、第一審の判決はそのまま確定します。
判決が確定すると、言い渡された主文に応じた法的な効力が正式に生じることになります。
実刑判決であれば刑務所に収容されて刑に服することになり、罰金刑であれば命じられた金額を納付しなければなりません。
一方で、執行猶予付き判決の場合は、判決が確定した時点から執行猶予期間の進行が始まります。
控訴申立権者と被告人の意思
刑事裁判において控訴を申し立てる権利を持つのは、主に被告人本人、被告人の弁護人、そして検察官です。
被告人側だけでなく、量刑が軽すぎるなどの理由から検察官側が控訴を行うケースもあります。
弁護人にも独立した控訴申立権が認められていますが、被告人の明示した意思に反して控訴することはできないと定められています。
被告人の権利を保護するための規定であるため、本人の意向を無視した申立ては認められません。
したがって、被告人自身が「控訴を希望しない」と明確に意思表示している場合には、弁護人が控訴を申し立てることはできません。
また、仮に弁護人が先に申立てを行っていたとしても、後から被告人が取り下げを希望した場合は、その意思に従って申立てを取り下げる必要があります。
控訴申立てが認められる主な理由と控訴審の審理
刑事訴訟法に規定された控訴申立ての主な理由
第一審の判決に対する控訴は、単に結論に納得がいかないという主観的な理由だけで行えるものではなく、刑事訴訟法に定められた具体的な理由に基づいて申立てを行う必要があります。
法律上の主な控訴申立理由としては、裁判の手続きに誤りがあった「訴訟手続の法令違反」や、認定された事実に対する条文の当てはめを誤った「法令適用の誤り」が挙げられます。
さらに、言い渡された刑の重さが事件の経緯や同種事案と比較して不相応である「量刑不当」、証拠の評価を誤って事実認定を間違えた「事実誤認」、無罪を証明する新証拠の発見などの「再審事由」や刑の廃止も規定されています。
実際の裁判実務においては、事実誤認や量刑不当を理由として不服が申し立てられるケースが多く見られます。
また、第一審の弁論終結後に生じた示談の成立など、新たな事情を理由として主張する場合もあります。
控訴審の原則である「事後審」の仕組み
日本の刑事裁判における控訴審は、第一審をゼロからやり直すのではなく、第一審裁判所で取り調べられた証拠などを基に、第一審判決の判断に誤りがないかを審査する「事後審」が原則とされています。
控訴審は第一審の証拠関係を基礎として判断の妥当性を審査する事後審であり、原則として証人尋問や証拠調べを全面的にやり直す場ではありません。
そのため、控訴審では書類審査や書面による主張が中心となり、証人尋問などの証拠調べは原則として行われません。
ただし、第一審の段階では提出できなかったやむを得ない新証拠がある場合などには、例外的に証拠調べが認められることがあります。
控訴審における裁判の種類(控訴棄却と原判決破棄)
控訴審で高等裁判所が下す終局的な判断には、大きく分けて「控訴棄却」と「原判決破棄」の2種類が存在します。
控訴棄却には、申立期間を経過した後に申立てがなされた場合など形式的な不備を理由とする決定による棄却と、申立ての理由自体が認められない場合の判決による棄却があります。
棄却された場合、第一審の判決が維持されます。
一方、控訴理由に正当性があると認められた場合は、第一審判決の効力を失わせる「原判決破棄」の判断が下されます。
原判決が破棄された場合、高等裁判所自らが改めて無罪や減軽などの判決を言い渡す「破棄自判」のほか、審理をやり直させるために事件を第一審裁判所に戻す「破棄差戻し」や、同等の別裁判所に送る「破棄移送」の措置がとられます。
上告の手続きと申立理由の制限
控訴審である高等裁判所の判決に対して不服がある場合、さらに上級の裁判所である最高裁判所へ不服を申し立てる手続きが「上告」です。
上告の申立てを行う際は、直接最高裁判所へ書類を持ち込むのではなく、判決を言い渡した控訴裁判所(高等裁判所)に対して、最高裁判所宛てとなる上告申立書を提出します。
上告申立書の提出期限は、控訴審判決の言渡しがあった日の翌日から起算して14日以内と法律で定められています。
この期間内に適法な申立てを行わなければ判決が確定してしまうため、限られた期間の中で上告を行うかどうかの慎重な判断が求められます。
上告申立書を高等裁判所へ提出した後は、裁判所から指定された期日までに、申立ての具体的な法的根拠を記載した「上告趣意書」を提出する必要があります。
上告を申し立てるにあたっては、申立理由が法律上きわめて厳格に制限されている点に留意が必要です。
第一審の判決に対する控訴では事実誤認や量刑不当など比較的広い理由が対象となりますが、最高裁判所への上告では原則として、原判決における憲法違反や判例違反の存在が要件とされています。
したがって、単に証拠に対する評価や事実認定に納得がいかないという主張や、刑が重すぎる・軽すぎるといった量刑への不服だけでは、原則として適法な上告理由にはあたりません。
最高裁判所は憲法解釈や法令適用の統一を担う役割を持つため、控訴審と比べて審理を受けられる枠組みが大きく限定されています。
裁判の判決に不服がある場合の弁護士への相談

第一審や控訴審の判決言渡しを受けた後、その判断に納得がいかない場合には上訴の手続きを検討することになります。
しかし、控訴および上告を行うための申立期間は、判決宣告の翌日から起算して14日以内と非常に短期間に定められています。
この14日という期間を経過してしまうと判決は確定し、上級の裁判所で再度審理を求める法的な機会は失われてしまいます。
法的な申立理由の検討と書面作成の難しさ
上訴の手続きにおいては、期限内に申立書を提出するだけでなく、その後に裁判所から指定される提出期限までに理由を詳述した趣意書を提出しなければなりません。
控訴や上告の審理を開いてもらうためには、単に判決への不満を述べるだけでは足りません。
刑事訴訟法に定められている事実誤認や量刑不当、法令適用の誤り、あるいは上告の場合における憲法違反や判例違反といった具体的な要件に照らし、原判決のどの点に誤りがあるのかを証拠記録に基づいて法的に論証することが求められます。
早期の相談と客観的な見通しの確認
限られた日数の中で第一審や原審の訴訟記録および判決文を詳細に精査し、上級審において実質的な争点となり得る理由を見出す作業には、刑事手続きに関する知識と冷静な分析が不可欠です。
また、弁護人が控訴を行う場合であっても被告人本人の意思に反して行うことはできず、上訴を申し立てることによる手続きの流れや身柄拘束への影響などについても十分に把握したうえで方針を決める必要があります。
そのため、判決内容に不服や疑問がある場合には、早い段階で弁護士に状況を確認し、上訴を申し立てる理由が存在するのかや今後の進め方について客観的な助言を受けることが望ましいといえます。
コラム監修者
佐藤 塁
所属:代表(東京オフィス)
東京都杉並区出身。明治大学付属中野高校、明治大学法学部を経て、明治大学法科大学院を修了。2011年に新司法試験に合格し、最高裁判所司法研修所を修了(65期)。2012年12月に弁護士登録(東京弁護士会)し、都内の法律事務所での勤務を経て、2016年1月に寺垣俊介とともにネクスパート法律事務所を創業。代表弁護士として一般民事から企業法務まで幅広い分野を手がけるとともに、全国に拠点を持つ事務所の経営にあたる。
早くからテクノロジーと法務の融合に取り組み、2021年にはAIを利用した法律文書作成サービスを開発するLegal AI株式会社の代表取締役に就任(現在は退任)。当時はAI技術が発展途上で技術的な壁に直面したが、この挑戦を通じて「法務業務こそAIの力を借りれば飛躍的に変わる」という確信を得る。以来そのビジョンを持ち続け、生成AIが広く普及した現在は事務所の業務全体でAIの活用を進めている。2026年には日本弁護士連合会「弁護士業務改革シンポジウム」にパネリストとして登壇した。ブロックチェーン・Web3分野の法務や海外法人の設立支援にも取り組み、公益法人主催のセミナー等で講師を務める。
公正取引委員会・中小企業庁「適正取引推進講習会」講師、日本弁護士連合会代議員、東京弁護士会常議員を歴任。弁護士業務のかたわら、2014年に東京青年会議所に入会して以来、10年以上にわたりボランティア活動に取り組む。2017年からは国際的な社会奉仕団体であるライオンズクラブに所属し、2022年には東京数寄屋橋ライオンズクラブ第57代会長を務めた。献血の呼びかけ、障がい者スポーツ大会の支援、保護犬活動のほか、弁護士として小中学生への法教育や薬物乱用防止教育にも携わっている。