過失運転致死傷罪とは|刑事・行政処分や初犯の判決を簡単に解説
過失運転致死傷罪とは、自動車運転中の不注意により人をケガさせたり死亡させたりする犯罪です。
過失による事故は軽い罪だと思うかもしれませんが、状況によっては危険運転致死傷罪が適用され、より重い処分が科されることがあります。
過失の程度や被害者のケガの重さ、交通違反の常習性などによっては、初犯でも実刑判決が下される場合があります。
本記事では、過失運転致死傷罪における責任や刑事処分について詳しく解説し、重い処分を回避するためのポイントも紹介します。
目次
過失運転致死傷罪とは
過失運転致死傷罪は、自動車運転に必要な注意を怠り、人を死傷させた場合に成立する犯罪です。
過失とは、事故を回避できたにもかかわらず注意を怠ったことを指します。具体的な過失の例には以下のものがあります。
- わき見運転(前方注視義務違反)
- スピード超過(速度制限遵守義務)
- 信号無視(信号指示遵守義務)
- 居眠り運転
- 運転中の携帯電話・スマホの操作
- 飲酒運転
これらの行為が原因で他者をケガや死亡させた場合、過失運転致死傷罪に問われます。
過失運転致死傷罪で問われる責任
交通事故を起こした場合は、刑事責任・行政処分・民事責任の3つの責任が問われます。
刑事上の刑罰
過失運転致死傷罪の刑罰は、7年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金です。
(過失運転致死傷)
第五条 自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、七年以下の懲役若しくは禁錮又は百万円以下の罰金に処する。ただし、その傷害が軽いときは、情状により、その刑を免除することができる。
行政上の処分
過失運転致死傷を犯した場合、行政上のペナルティも課されます。
交通事故や違反などをした場合、違反の重さに応じて一定の点数をつけ、過去3年分の累積点数に応じて免許の取り消しや停止をおこなう点数制度がとられています。
加算される点数は、被害者のケガの程度や過失によって異なりますが、まとめると下表のようになります。
治療期間 | 専ら運転手の不注意による | 被害者にも非がある | |
重傷事故 | 3か月以上、または後遺障害がある | 13点 | 9点 |
30日以上3ヵ月未満 | 9点 | 6点 | |
軽傷事故 | 15日以上30日未満 | 6点 | 4点 |
15日未満 | 3点 | 2点 |
通常、上の表の点数に基礎点数の2点が加算されるため、過失運転致死傷を犯した場合は4〜15点の点数が加算されることとなります。
前歴の回数および違反点数に応じて、免許が停止または取消となる可能性があります。
点数/前歴 | 0回 | 1回 | 2回 | 3回 | 4回以上 |
1 | |||||
2 | 停止90日 | 停止120日 | 停止150日 | ||
3 | 停止120日 | 停止150日 | 停止180日 | ||
4 | 停止60日 | 停止150日 | 取消1年(3年) | 取消1年(3年) | |
5 | 停止60日 | 取消1年(3年) | 取消1年(3年) | 取消1年(3年) | |
6 | 停止30日 | 停止90日 | 取消1年(3年) | 取消1年(3年) | 取消1年(3年) |
7 | 停止30日 | 停止90日 | 取消1年(3年) | 取消1年(3年) | 取消1年(3年) |
8 | 停止30日 | 停止120日 | 取消1年(3年) | 取消1年(3年) | 取消1年(3年) |
9 | 停止60日 | 停止120日 | 取消1年(3年) | 取消1年(3年) | 取消1年(3年) |
10-11 | 停止60日 | 取消1年(3年) | 取消1年(3年) | 取消2年(4年) | 取消2年(4年) |
12-14 | 停止90日 | 取消1年(3年) | 取消1年(3年) | 取消2年(4年) | 取消2年(4年) |
15-19 | 取消1年(3年) | 取消1年(3年) | 取消2年(4年) | 取消2年(4年) | 取消2年(4年) |
20-24 | 取消1年(3年) | 取消2年(4年) | 取消2年(4年) | 取消3年(5年) | 取消3年(5年) |
25-29 | 取消2年(4年) | 取消2年(4年) | 取消3年(5年) | 取消4年(5年) | 取消4年(5年) |
30-34 | 取消2年(4年) | 取消3年(5年) | 取消4年(5年) | 取消5年 | 取消5年 |
35-39 | 取消3年(5年) | 取消4年(5年) | 取消5年 | ||
40-44 | 取消4年(5年) | 取消5年 | |||
45以上 | 取消5年 |
( )内の年数は、免許取消歴等保有者が一定期間内に再び免許の拒否・取消し又は、6月を超える運転禁止処分を受けた場合の年数を表します。
民事事件上の賠償責任
民法上、故意や過失によって人に損害を与えた場合、加害者は賠償する責任を負っています(民法第709条)。これは過失運転致死傷においても例外ではありません。
交通事故において考えられる損害とは、具体的に以下のようなものです。
- 積極損害:車や物の修理費用、治療費・通院交通費、入院の諸雑費等、死亡の場合は葬儀費用など
- 消極損害:休業損害・後遺症の逸失利益、死亡による逸失利益などの消極損害
- 精神的損害:事故により受けた精神的苦痛に対する慰謝料
被害者への賠償金は、保険会社を通じて支払われます。
しかし、加害者が自賠責保険にしか加入していない場合や、任意保険の賠償額を超過した場合は、加害者が賠償しなければなりません。
過失運転致死傷罪と危険運転致死傷罪の違い
過失運転致死傷罪とよく混同される犯罪として、危険運転致死傷罪があります(自動車運転死傷処罰法第2条)。
危険運転致死傷罪は、通常の過失を超えた著しく危険な運転によって人を死傷させた場合に適用されます。
この罪は、単なる注意不足ではなく、運転者が自らの行為の危険性を認識しながらも危険な運転を行った結果、人を負傷または死亡させた場合に成立します。
以下に、過失運転致死傷罪と危険運転致死傷罪の違いをまとめました。
過失運転致死傷罪 | 危険運転致死傷罪 | |
概要 | 運転上必要な注意を怠り、人を負傷または死亡させた場合の罪 | 単なる注意不足を超えた著しく危険な運転によって人を負傷または死亡させた場合の罪 |
具体例 | わき見運転
スピード超過 スマホ操作などのながら運転 信号無視 など |
アルコールや薬物で正常な運転困難な状態での運転
制御困難なほどのスピードでの走行 運転技能が未熟な状態での走行 人や他人の車の通行妨害目的での急接近や、重大な事故を生じさせる速度での走行 信号を無視し、重大な交通の危険を生じさせる速度での走行 通行禁止道路へ進入し、重大な交通の危険を生じさせる速度での走行 |
罰則 | 7年以下の懲役もしくは禁錮、または100万円以下の罰金 | 20年以下の懲役 |
過失運転致死傷罪の刑事処分の傾向
過失運転致死傷罪で逮捕される確率
過失運転致死傷罪で逮捕される確率について具体的な統計はありませんが、逮捕・勾留される可能性は高くありません。
逮捕は逃亡や証拠隠滅を防ぐために行われる身柄の拘束であり、過失運転致死傷罪以外の理由、例えば救護義務を怠った場合などでは逮捕される可能性が高まります。
交通犯罪の前科がある場合も逮捕されることが考えられます。
過失運転致死傷罪の起訴率
犯罪白書によると、2022年の過失運転致死傷罪による起訴率は以下のとおりです。
起訴率 | 13.5% |
正式起訴 | 4,016件(10.8%) |
略式起訴 | 3万3,143件(89.2%) |
正式起訴は公開裁判にかけられる手続きであり、略式起訴は書面審理のみで罰金や科料を言い渡す方式です。
過失運転致死傷罪で起訴された場合、略式起訴で罰金を科せられるケースが多いです。
しかし、被害者が死亡している場合や過去に道路交通法違反の前歴がある場合は正式起訴される可能性があります。
このように、過失運転致死傷罪でも前歴や被害の重さを総合的に考慮し、実刑判決が下されることがあります。
参考:令和5年版 犯罪白書 第4編 第2節 犯罪の動向 2 過失運転致死傷等・危険運転致死傷 – 法務省
過失運転致死傷罪の罰金の相場
前述の犯罪白書によると、2022年に略式起訴された過失運転致死傷罪の罰金は以下のとおりとなっています。
金額 | 件数 |
100万円 | 66 |
50〜100万円 | 6,275 |
30〜50万円 | 1万2,509 |
20〜30万円 | 6,529 |
10〜20万円 | 7,938 |
5〜10万円 | 13 |
5万円未満 | 6 |
以上の表のとおり、過失運転致死傷罪による罰金は30〜50万円が最も多いです。
過失運転致死傷罪の科刑状況
前述の統計によると、2022年に過失運転致死傷罪によって懲役または禁錮を言い渡された人員は以下のとおりです。
過失運転致傷罪 | 過失運転致死罪 | |
7年以下 | — | 1人 |
5年以下 | 2人 | 2人 |
3年以下 | 2人(18人) | 3人(92人) |
2年以上 | 7人(114人) | 22人(249人) |
1年以上 | 13人(1,359人) | 11人(615人) |
1年以下 | 15人(605人) | 7人 |
※( )内は執行猶予つき
以上のように、過失運転致死傷でも、前歴の有無や被害の重さなどを総合的に考慮し、実刑判決が下るケースもあります。
過失運転致死傷罪初犯の判決
過失運転致死傷罪で有罪となると、法律に基づき7年以下の懲役または禁錮、または100万円以下の罰金が科せられます。
初犯の場合、多くは執行猶予付きの禁錮刑または罰金刑が言い渡されます。
ただし、被害者の人数やケガの程度、過失の度合いが重く反省が見られない場合は、初犯でも実刑判決が下される可能性があります。
実際に、神戸地方裁判所尼崎支部2021年11月22日判決では、スマホで電話をしていて赤信号を無視し、常習的に「ながら運転」をしていたなど加害者の過失が重いとされ、初犯であったにもかかわらず、禁錮3年半の実刑判決となっています。
参考:交通事故で命奪われた娘は、亡き妻の忘れ形見… 「ながらスマホ」で信号無視がなぜ過失なのか – Yahoo!ニュース
過失運転致死傷罪の刑事処分が重くなるケース
過失運転致死傷罪は初犯の場合、罰金刑や執行猶予がつくことが多いですが、以下のようなケースでは起訴されたり、刑事処分が重くなる可能性があります。
- 被害者が重傷や死亡した・被害者数が多い
- 過失の程度が大きい
- 同種の前科前歴がある
- 被害者と示談が成立していない
- 被害者を救護せずその場から立ち去った
被害者が重傷や死亡した・被害者数が多い
過失運転致死傷罪の刑事処分は、被害者の負傷の程度や被害者数によって大きく左右されます。
特に、被害者が後遺症を残すほどの重傷を負った場合や死亡した場合は、重大な結果を招いたとして初犯でも重い処分が科される傾向にあります。
横断歩道で複数人をはねたり、歩道に突っ込んで多くの歩行者を負傷させた場合など、一度の事故で複数の被害者が出た場合も処分が重くなる可能性があります。
過失の程度が大きい
過失運転致死傷罪では、運転者の過失の程度が刑事処分に大きな影響を与えます。
具体的には、著しい速度超過や酒気帯び運転、スマホ操作による脇見運転、極端な車間距離不足などは過失の程度が大きいと判断される要因となります。
常習的に運転中のスマホ操作をしていたなどの証拠があった場合なども、過失が大きいと判断されやすいでしょう。
同種の前科前歴がある
過去に過失運転致死傷罪や交通違反の前歴がある場合、刑事処分がより厳しくなる可能性があります。
特に、同様の事故を起こした場合や交通違反の累積がある場合、運転者の注意義務違反が常習的とみなされ、厳罰が科されることがあります。
たとえば、過去に飲酒運転や衝突事故の履歴があり、その後も不注意から過失運転致死傷罪に問われた場合、反省の色が見られないとして厳しく処分されることがあります。
再犯の場合は、執行猶予がつかずに実刑となる可能性が高まります。
被害者と示談が成立していない
過失運転致死傷罪の処分において、被害者との示談の有無は非常に重要な要素です。
刑事事件では、示談が成立している場合、加害者が被害者に対して誠実な謝罪を行い、被害の弁済がなされていると、刑事処分が軽減されることが多いです。
一方、示談が成立していない場合は、被害者側の感情が考慮され、厳しい処分が科される可能性があります。
被害者を救護せずその場から立ち去った
事故後に救急車を呼ぶなどの適切な対応をせずに現場から立ち去った場合、道路交通法第72条の救護義務違反(ひき逃げ)に該当し、厳しい処分が下されます。
仮に被害者が軽傷であったとしても、救護義務を果たさずに逃走した場合、救護義務違反の刑が加重されます。
事故後に飲酒を隠すために逃げたと判断されると、危険運転致死傷罪に問われる可能性もあります。
特にひき逃げは人命に関わる重大な犯罪であり、懲役10年以上の重い判決が下された例が多数存在します。
参考:元バス運転手、飲酒ひき逃げで懲役10年 さいたま地裁 – 産経新聞
参考: 名古屋・熱田ひき逃げ、運転手の男に懲役23年 地裁判決 – 日本経済新聞
過失運転致死傷罪の刑事手続きの流れ
過失運転致死傷罪の刑事手続きは、以下の流れで進んでいきます。
- 逮捕もしくは在宅で捜査が行われる
- 検察が起訴・不起訴を判断する
- 刑事裁判で処分が決定する
刑事事件では、最終的に有罪か無罪か、量刑はどの程度かが判断されますが、事件を起訴する権限は検察にあります。
そのため、警察が行った捜査は検察に引き継がれ、起訴・不起訴の判断が行われます。
逮捕もしくは在宅で捜査が行われる
過失運転致死傷罪の被疑者となった場合、警察および検察によって捜査が行われます。
この場合、警察官による逮捕など身柄の拘束は行われず、被疑者(加害者)は在宅の状態で捜査が進められることが多いです。
ただし、過失が重大で被害者が重傷を負ったり死亡したりしている場合や、証拠隠滅や逃亡のおそれがある場合には逮捕されることもあります。
過失運転致死傷罪で逮捕された場合、逮捕の期限は72時間ですが、警察署での勾留が行われると10~20日間にわたり身柄が拘束されることが多いです。

検察が起訴・不起訴を判断する
勾留がされた場合は、勾留期間が満了までに起訴または不起訴が決まります。前述のとおり、起訴には正式起訴と略式起訴があります。
正式起訴(公判請求) | 公開の刑事裁判による審理がおこなわれる |
略式起訴(略式命令請求) | 書面上の簡易的な手続きにより量刑を言い渡す |
正式起訴されると、起訴後も勾留が続く可能性が高いです。略式起訴または不起訴となった場合は、判決が告知された時点で拘留が終了し、身柄が解放されます。
刑事裁判で処分が決定する
過失運転致死傷罪で起訴された後は、刑事裁判によって処分が決まります。
多くの場合、略式起訴となり、簡易裁判所で手続きが行われ、100万円以下の罰金が科せられます。
正式起訴となった場合は、裁判所の公開法廷で刑事裁判が実施され、懲役・禁錮または罰金が科せられます。
正式起訴で有罪となった場合や、略式起訴された場合は前科がつくことになります。
企業によっては、就業規則に基づき懲戒処分や解雇が行われることもあります。
判決に至る前に事故の報告が職場に知られた場合、自主退職を勧められることもあります。
過失運転致死傷罪で重い処分を回避するポイント
刑事事件が得意な弁護士に相談する
過失運転致死傷罪で重い処分を回避するためには、早期に刑事事件に強い弁護士に相談することがもっとも重要です。
過失運転致死傷罪は、刑事事件の経験が豊富な弁護士による適切な弁護が行われれば不起訴を得られる可能性があります。
刑事事件の担当実績が豊富な弁護士であれば、事故の状況を踏まえて、被疑者の弁護方針を立てたうえで、さまざまな面から解決をサポートしてくれます。
具体的には、被害者との示談交渉のサポートや、過失割合の精査による量刑軽減の主張などを行います。
交通事故の加害者となった場合は、できるだけ早い段階で弁護士に相談しましょう。
被害者に謝罪して示談を行う
過失運転致死傷罪において、被害者やその遺族に謝罪し、示談を成立させることは、刑事処分の軽減に大きく影響します。
示談とは、被害者に対して適切な賠償を行うことにより、加害者を許す意思を示してもらうことを指します。
検察や裁判官の量刑判断においては、被害者の処罰感情も重視されるため、示談の成立は量刑が軽くなる要因となります。
交通事故に関する損害賠償は基本的に任意保険会社が示談を代行します。
しかし、別途被害者に弁済を行うことで、被害者からの宥恕(ゆうじょ)を得られる可能性が高まり、刑事処分が軽減されることが考えられます。
反省を具体的な行動で示す
過失運転致死傷罪の起訴や量刑判断において、加害者の反省の有無は重要な要素です。
単に「反省しています」と口で述べるだけでは不十分で、具体的な行動で示すことが求められます。
たとえば、自主的に免許を返納したり、飲酒運転を起こした場合はアルコール依存症の治療を受けたりすることが挙げられます。
社会奉仕活動への参加や交通事故被害者支援団体への寄付などを行うこともあります。
無罪を主張する場合は有利な事情を示す
無罪を主張する場合、無罪と認められるための有利な事情や証拠を集める必要があります。
たとえば、被害者が突然飛び出してきて回避できなかった場合や、車両の不具合による事故で運転者に過失がなかったことが証明できれば、重い処分を回避できる可能性があります。
これらの主張を裏付けるためには、ドライブレコーダーの映像、車両の損傷部位や状況、防犯カメラの映像、目撃証言などを収集することが重要です。
取調べの際に作成される供述調書は、裁判でも有力な証拠として扱われます。
そのため、逮捕された段階で弁護士を呼び、取調べへの適切な対応について相談することが重要です。
まとめ
過失運転致死傷罪は、過失の重さや被害の大きさによっては初犯であっても実刑判決が下される可能性が十分にあります。
交通事故の加害者となってしまった場合は、できる限り早いタイミングで弁護士へ相談することがおすすめです。