押し付け痴漢とは|故意でなくても疑われる?逮捕事例や冤罪対処法
痴漢というと、手で触れたり、撫で回したり、揉むといった行為を連想するかもしれません。
しかし、中には下半身や手を押し付ける押し付け痴漢と呼ばれる行為もあります。
混雑した電車内などでは誤って手や下半身がぶつかってしまうこともありますが、場合によっては痴漢行為だと判断される可能性があるため、注意が必要です。
この記事では、押し付け痴漢について以下の点を解説します。
- 押し付け痴漢の概要と罪名や罰則
- 押し付け痴漢で逮捕されるケースや逮捕例
- 押し付け痴漢を疑われた場合の対処法や冤罪回避法
目次
押し付け痴漢とは
押し付け痴漢とは、電車などの空間で、自分の下半身や手の甲を被害者の下半身や胸に押しつけて、性的欲求を満たす痴漢行為のことです。
例えば次のような行為を継続的に行うことは、押し付け痴漢に該当すると考えられます。
- 自分の下半身を被害者の臀部に押しつける
- 自分の手の甲を被害者の臀部や胸部に押し付ける
- 被害者の背後に立ち、体を密着させる
被害者としても、偶然当たっているのか、故意なのか、痴漢に該当するのか判断が難しく、声を上げにくい要因となっています。
しかし、こうした押し付け痴漢も、痴漢行為にあたり処罰の対象となる可能性があります。
押し付け痴漢の罪名と罰則
痴漢行為をした場合に適用される罪名は、痴漢行為の内容や悪質性、行為が行われた時間の長さ、被害者の年齢、痴漢が行われた場所などによって、迷惑防止条例違反か、不同意わいせつか異なります。
ここでは、押し付け痴漢をした場合に適用される罪名と罰則を解説します。
迷惑防止条例違反
押し付け痴漢をした際に適用される可能性が高いのが迷惑防止条例違反です。
東京都の場合
第五条 何人も、正当な理由なく、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような行為であつて、次に掲げるものをしてはならない。
一 公共の場所又は公共の乗物において、衣服その他の身に着ける物の上から又は直接に人の身体に触れること。
大阪の場合
(卑わいな行為の禁止)
第六条 何人も、次に掲げる行為をしてはならない。
2 何人も、公共の場所又は公共の乗物において、次に掲げる行為をしてはならない。
一 人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような方法で、衣服等の上から、又は直接人の身体に触れること。
二 前号に掲げるもののほか、人に対し、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような卑わいな言動をすること(前項又は第四項の規定に違反する行為を除く。)。
どちらの条例でも、痴漢行為について揉むことや撫でまわすことを要件としていません。
下半身や手の甲を押し付ける痴漢行為でも、迷惑防止条例に違反することとなります。
なお、東京と大阪の場合、罰則は6か月以下の懲役、または50万円以下の罰金です。
常習的に痴漢行為をしている場合、1年以下の懲役、または100万円以下の罰金が科され、さらに重い処分となります。

不同意わいせつ(旧強制わいせつ)
押し付け痴漢が悪質な場合は、不同意わいせつ(旧強制わいせつ)罪に問われる可能性があります。
不同意わいせつ罪とは、被害者の同意なく、もしくは、次に挙げる意思の表明が困難な状態で、わいせつな行為をした場合に成立する犯罪です。
- 暴行や脅迫によるものや、その影響が生じている時
- 心身の障害によるものや、その影響が生じている時
- アルコールや薬物窃取による状態や、その影響が生じている時
- 睡眠中や意識がはっきりしていない時
- 同意しない意思の形成や表明をする隙がなく行うこと
- 恐怖や驚愕によるものや、その影響が生じている時
- 虐待に起因する心理的反応がある時、またはその影響が生じている時
- 経済的、社会的関係の影響力により受ける不利益を憂慮させること、その影響が生じている時
旧強制わいせつ罪は、暴行や脅迫を用いて被害者の意思に反してわいせつな行為を行うことが要件とされており、悪質な痴漢に対して適用されていました。
しかし、2023年7月に改正された不同意わいせつ罪では、暴行や脅迫を用いずとも、同意なくわいせつな行為をすれば成立する場合があります。
不同意わいせつ罪が成立した場合の罰則は、6か月以上10年以下の拘禁刑です。
罰金刑はありませんし、起訴されれば公開の刑事裁判で裁かれることになります。
公然わいせつ
押し付け痴漢の際に、陰部を露出した場合は、公然わいせつ罪が成立します。
(公然わいせつ)
第百七十四条公然とわいせつな行為をした者は、六月以下の懲役若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。
公然とは、不特定多数が目撃可能な状態のことです。陰部の露出はわいせつな行為と判断されます。
公然わいせつの罰則は6か月以下の懲役もしくは30万円以下の罰金です。
ただし、痴漢行為で、迷惑防止条例違反や不同意わいせつ罪とは別に公然わいせつに問われた場合は、重い罪名の罰則が適用されます。
押し付け痴漢が故意でない場合も罪に問われる?
迷惑防止条例違反や不同意わいせつ罪は、故意に痴漢行為をした場合に成立する犯罪であるため、過失や不可抗力の場合、処罰の対象にはなりません。
例えば、誤って手が当たってしまった、あるいは、電車が混雑していて、どうしても体を動かすことができなかったような場合は、罪に問われないと考えられます。
ただし、被害者が意図的に触られたと感じた場合は、被害の訴えによって捜査対象となるおそれがあります。
体に触れたまま離れようとしないなどの行動を取った場合、押し付け痴漢であると判断される可能性があります。
こうした押し付け痴漢の疑いをかけられないためにも、後述する自衛方法を参考にしてください。
実際に押し付け痴漢で逮捕された事例
ここでは、実際に押し付け痴漢で逮捕された事例を紹介します。
押し付け痴漢の男性を迷惑防止条例違反で現行犯逮捕
電車内で、痴漢行為をした男性が、迷惑防止条例違反で現行犯逮捕されました。
男性は走行中の電車内で、被害女性に下半身を押し付けるなどした疑いが持たれています。
事件は、被害女性の近くにいた女性が不審に思い、被害者に声をかけて発覚したとのことです。
押し付け痴漢などの痴漢行為でよくあるのが、被害者や駅員により行われる私人逮捕です。私人が逮捕できるのは、下記の現行犯だけです。
第二百十二条現に罪を行い、又は現に罪を行い終つた者を現行犯人とする。
②左の各号の一にあたる者が、罪を行い終つてから間がないと明らかに認められるときは、これを現行犯人とみなす。
一犯人として追呼されているとき。
二贓物又は明らかに犯罪の用に供したと思われる兇器その他の物を所持しているとき。
三身体又は被服に犯罪の顕著な証跡があるとき。
四誰何されて逃走しようとするとき。
第二百十三条現行犯人は、何人でも、逮捕状なくしてこれを逮捕することができる。
私人逮捕された場合、その後通報で駆け付けた警察に引き渡されることになります。
このように痴漢行為をしていると、周囲の乗客から不審に思われて逮捕につながるケースがあります。
参考:不審に思った女性乗客、スマホ画面で「大丈夫?」…男に下半身押しつけられた女性に|読売新聞オンライン
下半身を押し付けた医師を現行犯逮捕
電車内で下半身を押し付けた男性が、迷惑防止条例違反で鉄道警察隊に現行犯逮捕されました。
男性は、約2分に渡り女子高生の腰部分に、下半身を押し付けた疑いが持たれています。
京都府警によると、事件があった路線では痴漢被害が寄せられており、鉄道警察隊が警戒している最中でした。
鉄道警察隊とは、各都道府県警察の地域部などに所属する警察官で構成されており、鉄道事故の防止、痴漢や暴力などの犯罪防止や捜査、救助などを主に活動しています。
痴漢被害の捜査のため私服で巡回することもあるため、現行犯逮捕されることも考えられるでしょう。
この事件では、容疑者が降車後、女子高生の後ろについて再度乗車し、犯行に及んだことを確認して、鉄道警察隊が現行犯逮捕したということです。
痴漢被害を受けて、捜査が行われれば、警察が防犯カメラの映像から被疑者を特定して、後日逮捕されるケースもあります。
参考:JR車内で女子高生に下半身押しつける 42歳医師を逮捕|産経新聞
押し付け痴漢で逮捕されそうな場合
もし、押し付け痴漢で被害者や駅員などに捕まり、警察に引き渡されそうな場合は、すぐに弁護士に連絡してください。
逮捕された場合、10~20日間身柄を拘束されたり、実名報道されたり、前科や解雇のリスクがあります。
だからといって、そのまま逃走するのはやめましょう。線路上を逃走するのは、事故につながる可能性があり危険です。
また、鉄道営業法違反や威力業務妨害罪などの罪に問われることが考えられます。
逃亡や証拠隠滅のおそれがある場合は、一層逮捕される可能性が高まります。
そのまま逃走できたとしても、防犯カメラや交通系ICカードから特定されることもあるでしょう。
そのため、逮捕されそうな段階で弁護士を呼ぶか、逮捕後に黙秘をして当番弁護士を呼び、取り調べに関するアドバイスを受けるようにしてください。
押し付け痴漢で冤罪を疑われた場合の対処法
押し付け痴漢は、立派な犯罪です。ただし、電車が混雑している場合など、意図せず他人に触れてしまうこともあるでしょう。
不安なのは押し付け痴漢を疑われた場合です。
名刺を渡して立ち去れば問題ないとする意見もありますが、名刺を渡しても、その場から立ち去らせてもらえないのが現実です。
無理にその場から離れようとすれば、逃走をしたと判断され、一層逮捕される可能性が高まります。
ここでは、冤罪を疑われた場合の対処法について解説します。
痴漢をしていないことを伝える
もし相手から痴漢を疑われた場合は、冷静に痴漢をしていないことを伝えましょう。
実際に痴漢行為をしていないのに、謝ってしまうと、取り調べの際に痴漢行為をしたから謝罪をしたと判断されるおそれがあります。
疑われた段階から、否定をしておくことで、供述に一貫性を与えることも重要です。
被害者も感情的になっていることが考えられますが、被害者や駅員と口論したり、暴力的な行為をしたりするのは避けてください。
まずは痴漢行為をしていないと冷静に、かつ、しっかり否定し、それ以外は答えられないと伝えて、黙秘するのが安全です。
弁護士に連絡をする
痴漢行為を否定したとしても、被害者や駅員はその場で解放はしてくれないでしょう。
しかし、その場から立ち去ろうとすれば、前述したとおり逃走したと判断されるおそれがあります。
そのため、その場で弁護士に連絡をするのが最善です。
弁護士に連絡をすることで、すぐに駆けつけてもらえたり、その後の対応についてアドバイスを受けられたりすることが期待できます。
法律事務所が近くにない限り、警察の方が早く到着する可能性が高いですが、弁護士に相談をするのは無駄ではありません。
今後の見通しや注意点などのアドバイスを受けておけば、不利な状況を防ぎ、早期釈放に向けて対応してもらうことができます。

勤務先と家族に電話をする
痴漢を疑われた場合に、警察が到着する前に、勤務先と家族に連絡をしておくことも重要です。
もしその後逮捕されてしまうと、外部と連絡が取れなくなってしまいます。
今後どのような処分となるのかまだわかりませんが、逮捕の段階で弁護士に相談すれば、2~3日で身柄を釈放してもらえる可能性があります。
ひとまず無断欠勤を防ぐため、勤務先には体調不良のため2~3日休む旨を伝えます。
なお、正直に痴漢冤罪について伝えてもよいですが、職場で風評被害を受ける可能性もありますので、体調不良にしておいた方がよいでしょう。
また、家族には、痴漢の冤罪に巻き込まれたことと、今いる駅について伝えます。
もし自分が弁護士を呼ぶことができない場合は、家族に伝えておくことで、管轄の警察署に弁護士を呼んでもらうことも可能です。
スマホで会話を録音しておく
連絡が終わったら、被害者や駅員とのやり取りをスマホで録音しておきましょう。
自分の発言だけでなく、相手の発言などに矛盾がないかどうかの証明にもなります。
警察に聞かれたら個人情報を開示する
駆け付けた警察官に氏名や住所、勤務先などを聞かれた場合は、素直に個人情報を開示しましょう。
何もしてないのになぜ言う必要があるのかと、個人情報を伝えることを拒否する人がいますが、これは逆効果です。
警察は、痴漢の疑いがある人の個人情報を確認しなければ、逃亡のおそれがあるため、身柄を釈放することはできませんし、かえって逮捕される可能性が高まります。
警察が勤務先に連絡をすることはないので、氏名など確認された際は素直に応じるようにしましょう。
逮捕されたら当番弁護士に連絡する
もし痴漢の冤罪で逮捕されて警察署に連れていかれた場合は、当番弁護士を呼んでもらうのも1つの方法です。
当番弁護士とは、逮捕された人が一度だけ無料で呼べる弁護士のことです。
もし家族と連絡がつかずに、弁護士を呼べない場合は、警察官に当番弁護士を呼んでほしいと伝えることで、弁護士会から派遣してもらえます。
逮捕されてしまった場合は、弁護士が来てから取り調べに応じると伝えてください。
取り調べの際に作成される供述調書についても、不利な状況に陥らないために、弁護士と相談の上で、署名や押印をするようにしてください。
押し付け痴漢の冤罪を回避する方法
最後に、押し付け痴漢の冤罪を回避する方法について紹介します。
女性に近づかないようにする
押し付け痴漢の冤罪を回避するのに一番安全な方法は、女性に近づかないようにすることです。
混雑している満員電車などでは避けようがないので仕方ないですが、空いている電車で何気なく女性のそばに寄る人もいます。
しかし女性からすると、用事もないのに過剰に近寄ってくる人は何かしようとしているのではないかと警戒します。
何かあればあらぬ疑いをかけられる可能性もあるため、電車などの空間では極力近づかないようにすることが安全です。
混雑しない時間や路線を選ぶ
痴漢の冤罪を回避する数少ない方法は、やはり混雑しない時間の電車や路線を選ぶことです。
少し早めの電車に乗ったり、遠くても混雑しない路線を選んだりすることで、冤罪に巻き込まれる確率を下げられるでしょう。
勤務先が近い場合は、思い切って電車通勤をやめるのも一つの手です。
疑われたらすぐに弁護士に連絡する
冤罪の疑いをかけられた場合は、やはり弁護士に連絡するのが最善です。
日頃から万が一に備えて、法律事務所の連絡先をメモして控えておくことや、弁護士保険に加入しておくこともおすすめです。
弁護士保険に加入しておけば、弁護士に依頼する際の費用を抑えることができます。
まとめ
押し付け痴漢は、迷惑防止条例違反や不同意わいせつ罪に問われる可能性がある重大な犯罪です。
逮捕されると、長期の勾留や実名報道、前科がつくこと、解雇などさまざまなリスクがあります。
日頃から自衛をすること、そして、疑われた場合の対処法を理解し、備えておくことが大切です。
もし痴漢行為をしてしまったり、疑われたりした場合は、痴漢や痴漢冤罪について豊富な実績があるネクスパート法律事務所にご相談ください。