痴漢の時効は何年?公訴時効と民事の違い・時効前の対処法
痴漢行為を行った場合、一定期間が経過すると公訴時効が成立し、処罰されなくなります。ただし、痴漢行為が不同意わいせつ罪に該当する場合、公訴時効は12年となります。
痴漢の時効成立を狙うのは難しく、長期間にわたり逮捕の不安に怯えながら生活することになります。
その間に逮捕されれば、長期間の勾留や社会的信用の失墜、家族の信頼を失うなど多くのリスクが生じます。
もし痴漢をした場合は、時効を狙うことを考えず、早急に弁護士に相談して適切な対応をとることをおすすめします。
本記事では、痴漢の時効と、痴漢をしてしまった人に向けて時効前にすべきことを解説します。
痴漢の時効とは
時効とは、法的責任を追求できる期間を指します。痴漢における時効には刑事事件上の公訴時効と民事事件上の消滅時効の2種類があり、それぞれ以下のように異なります。
公訴時効(刑事上の時効) | 裁判で審理するよう検察が訴える(起訴)ことができる期限
公訴時効が過ぎると、処罰されない |
消滅時効(民事上の時効) | 被害者が慰謝料を請求できる民事上の請求権の期限
消滅時効が過ぎると、被害者から民事訴訟を起こされなくなる |
痴漢の時効について考える場合は、これら2つの時効を区別する必要があります。
痴漢における刑事上の公訴時効および民事上の消滅時効について、それぞれ簡単に解説します。
公訴時効とは
公訴時効とは、検察が起訴できる期限を指します。逮捕された容疑者(被疑者)は、最終的に裁判にかけられ、無罪か有罪かが判断されます。
この刑事裁判で被疑者を訴えることができる期限が公訴時効です。公訴時効を過ぎると、検察は起訴できなくなり、逮捕や処罰できなくなります。
多くの人が持つ犯罪の時効に関するイメージは、公訴時効に近いと言えるでしょう。
公訴時効の期間は、刑事訴訟法第250条により定められ、痴漢行為に適用される罪によって時効の期間は異なります。
公訴時効が成立するまでのカウントは、犯罪行為が終了した日から始まります。したがって、痴漢の起算日は実際に痴漢行為を行った日となります。
被疑者が起訴された場合や国外に逃亡している場合など、特定のケースでは公訴時効のカウントが停止されます。
民事上の消滅時効とは
消滅時効とは、民法上の不法行為に対して損害賠償を請求できる期限を指します。
痴漢は犯罪であると同時に、民法第709条で規定された不法行為に該当するため、被害者は加害者に対して訴訟を起こし、損害賠償を請求する権利を持っています。
痴漢の時効は状況によって異なります。
- 損害および加害者を知った時から3年
- 不法行為の時から20年
ただし、2020年4月から民法が改正され、人の生命または身体を害する不法行為については時効が5年に延長されました。
そのため、痴漢行為が生命や身体を害する不法行為と判断されれば、5年の時効が適用されます。
なお、消滅時効の起算日は損害および加害者を知った時であり、公訴時効の起算日である痴漢行為があった日とは異なる点に注意が必要です。
被害者が痴漢に関する被害届を出したが犯人が特定できていない場合、痴漢から20年経過しなければ時効にはなりません。
痴漢の公訴時効
痴漢は実際に行った行為の内容によって問われる罪が異なります。
ここでは、痴漢で適用される可能性がある罪について、それぞれの具体的な行為や罰則、公訴時効が成立するまでの期間を紹介します。
不同意わいせつ罪|時効12年
痴漢行為が不同意わいせつ罪に該当する場合は、公訴時効は基本的に12年です(刑法第176条)。
不同意わいせつ罪とは、相手が同意していない状態、または不同意の意思表示が困難な状況で、被害者に対してわいせつな行為を働いた際に成立します。
電車内で相手の体に触れる行為や、突然抱きついたり身体を触ったりキスをしたりする行為が不同意わいせつ罪に該当します。
不同意わいせつ罪の罰則は、6か月以上10年以下の拘禁刑です。相手にケガさせた場合は、不同意わいせつ致傷罪が成立し、公訴時効は20年となります。
不同意性交等罪|時効15年
痴漢が不同意性交等罪に該当する場合、公訴時効は15年です(刑法第177条)。不同意性交等罪は、同意のない性行為が該当します。
不同意性交等罪の罰則は5年以上の拘禁刑です。
身体に触れる痴漢行為でも不同意性交等罪が成立することがあり、実際に陰部に指を挿入したことにより不同意性交罪で逮捕され、実刑判決が下された事例があります。
不同意わいせつ罪と同様に、不同意性交等によって被害者がケガを負った場合は不同意性交致傷罪が成立し、公訴時効は20年となります。
迷惑防止条例違反|時効3年
痴漢を犯した場合、各自治体の迷惑防止条例違反で逮捕されることがあります。
迷惑防止条例は各都道府県によって取り締まりが異なりますが、東京都の迷惑防止条例では以下のとおり痴漢が禁止されています。
(粗暴行為(ぐれん隊行為等)の禁止)
第五条 何人も、正当な理由なく、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような行為であつて、次に掲げるものをしてはならない。
一 公共の場所又は公共の乗物において、衣服その他の身に着ける物の上から又は直接に人の身体に触れること。
迷惑防止条例違反の公訴時効は、各自治体の条例に定められた刑罰によって異なります。例えば、東京都の場合、公訴時効は3年です。
刑法改正により2023年から不同意わいせつ罪が施行されるまでは、被害者の体に触れる比較的軽微な痴漢行為は迷惑防止条例違反で取り締まりが行われていました。
今後は痴漢は迷惑防止条例違反ではなく不同意わいせつ罪が適用され、時効までの期間も長くなる可能性があります。

撮影罪|時効3年
盗撮行為は、2023年から施行された撮影罪(性的姿態撮影等処罰法)が適用されます。撮影罪の公訴時効は3年です。
刑法改正以前は、盗撮行為は迷惑防止条例などで取り締まられていましたが、撮影場所が特定できず条例が適用できない問題があったため、2023年から撮影罪が新設されました。
撮影罪の罰則は、3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金です。
被害者が未成年者の場合の痴漢の時効
2023年には、被害者が18歳未満の未成年であった場合に性犯罪の時効が延長されました。
痴漢の被害者が未成年者であった場合、公訴時効のカウントは被害者が成人に達してから始まります。
たとえば、未成年者に対して不同意わいせつ罪に問われた場合、被害者が成人してから公訴時効12年のカウントが開始され、被害者が30歳になるまで時効は成立しません。
痴漢の時効で逃げ切るのが難しい理由
痴漢行為の公訴時効は、多くのケースで12年以上と長く、時効まで逃げ切るのは非常に難しいと考えられます。
特に、時効まで逃げ切るのが難しい理由として以下の2つが挙げられます。
防犯カメラなどから後日逮捕の可能性があるため
痴漢行為を働いた際に現場から逃げられたとしても、防犯カメラなどの映像から後日逮捕される可能性があります。
近年、防犯カメラの普及および技術の進化により、痴漢事件の捜査が飛躍的に進歩しています。
犯行当日に特定されなくても、後日映像を解析されることで身元が判明し、逮捕に至るケースも考えられます。
スマートフォンの普及により、被害者や目撃者が直接動画や写真を撮影することもあります。
仮に逮捕されないとしても、防犯カメラなどの映像から容疑をかけられ、捜査対象になる可能性もあります。
痴漢を繰り返せば逮捕のリスクが上がるため
一般的に性犯罪は再犯率が高いとされており、2015年の犯罪白書によると痴漢の再犯率は44.7%に達します。
痴漢行為で検挙された人の約4割が再犯であることから、捕まらなかった人が痴漢を繰り返すことも考えられます。
しかし、痴漢を繰り返すことで逮捕のリスクは増加します。
通勤路線の電車などで痴漢を繰り返している場合、被害者の証言などによって私服警官や駅員の捜査が強化され、現行犯逮捕の可能性が高まります。
痴漢で逮捕された際に被害者が複数いる場合や、常習的な行為と判断された場合は、より重い罪に問われることになります。
痴漢が発覚した場合のリスク
痴漢の時効成立までに後日逮捕される可能性があります。痴漢が発覚した場合は、以下のようにさまざまなリスクがあります。
- 逮捕されて10~20日間拘束される
- 実名報道で社会的信用を失う
- 仕事を失う可能性がある
- 家族から見放される可能性がある
逮捕されて10~20日間拘束される
痴漢で逮捕されると、場合によっては警察の留置場に身柄を拘束(勾留)され、最大で20日間も自由を奪われる可能性があります。
この間、外部との連絡が制限されるため、仕事や私生活に大きな影響を及ぼします。警察や検察の厳しい取り調べを受けることになり、精神的な負担も大きくなります。
勾留されると欠勤が続き、職場からの信用を失い、解雇されるリスクも高まります。
実名報道で社会的信用を失う
痴漢事件で逮捕されると、実名で報道される可能性があります。
特に会社員や公務員、教育関係者など社会的立場のある人物が逮捕された場合、新聞やテレビ、インターネットニュースに名前や職業が掲載され、瞬く間に世間に広まります。
一度実名が報道されると、ネット上に記事が残り続けるため、たとえ不起訴になったとしても社会的信用を失った影響は大きくなります。
実名が公表されれば、会社や取引先、知人に知られ、社会復帰が難しくなったり、家族や友人関係にも影響が出たりするおそれがあります。

仕事を失う可能性がある
痴漢容疑で逮捕されると、職場への影響は避けられません。
逮捕後は長期間勾留されることもあり、その間は無断欠勤となるため、会社に痴漢や逮捕の事実が知られる可能性があります。
国家公務員や弁護士、医師などは、罰金または禁錮以上の有罪判決が法律に基づく欠格事由に該当し、免許取消や失職の可能性が高いです。
たとえ不起訴処分となっても、社内での立場が悪化し、退職せざるを得ないケースもあります。
家族から見放される可能性がある
痴漢事件で逮捕されると、家族に大きな精神的・社会的負担をかけることになります。
特に実名報道された場合、配偶者や子どもが職場や学校で好奇の目にさらされ、いじめや地域社会での孤立など、家族全体が社会的制裁を受けるかもしれません。
配偶者が離婚を決意し、痴漢事件をきっかけに家庭が崩壊することも考えられます。
痴漢をしてしまったら弁護士に相談を
痴漢行為が不同意わいせつ罪に該当する場合、痴漢の時効は12年です。痴漢をやめられずに犯行を続けると、その分罪が発覚する確率が高まります。
そして、時効を迎える日まで、突然警察に逮捕されるかもしれないという不安を抱えて生活することになります。
逮捕や痴漢の発覚に怯えて過ごすのであれば、一度弁護士に相談してみませんか。
ここでは、痴漢事件の加害者となった際に弁護士に相談すべき理由をいくつか紹介します。
不安が軽減される
痴漢を犯してしまった場合、監視カメラや目撃者の情報をもとに後日逮捕される可能性から、仕事や家庭への影響など、多くの不安を抱えることになります。
自分は今後どうなるのか、時効になるまで逃げ切れるのか、会社や家族に知られるのではないか、といった先の見えない状況に強いストレスを感じるでしょう。
誰にも話せない罪を弁護士に相談することで、精神的な負担を軽減し、逮捕などの見通しについて具体的なアドバイスを受けられます。
万が一逮捕された場合でも、早期釈放に向けて動いてくれるでしょう。
弁護士は守秘義務を負っているため、痴漢について相談しても家族や職場の人間に知られるリスクはありません。
突然の逮捕を避けられる可能性がある
場合によっては、自首や出頭することで突然の逮捕を回避できる可能性があります。自首と出頭は似た言葉ですが、以下のように異なります。
自首 | 犯行発覚前に警察に犯罪を申告すること |
出頭 | 警察に自分から出向くこと |
被害者が警察に被害を申告しているかどうかによって、自首か出頭かが異なります。
しかし、被害が申告されていない段階で自首することで、逃亡や証拠隠滅のおそれがないと判断され、逮捕されないことがあります。
さらに、自首は刑法第42条に定められており、裁判官の裁量で罪が軽減されることがあります。
そのため、早い段階で自首することで逮捕や重い処分を回避できる可能性があります。
出頭については刑法に明記されていませんが、自首同様に逃亡や証拠隠滅のおそれがないとされ、逮捕を免れたり、処分が軽くなったりすることがあります。
弁護士に相談することで、自首や出頭への動きや取調べに関するアドバイス、その後のサポートを受けることができ、安心です。
示談成立により前科が回避できる可能性がある
被害者がいる犯罪では、被害者に謝罪と被害弁済を行うことが非常に重要です。
痴漢行為が刑事事件として立件・起訴される前に被害者と示談交渉を行い、和解が成立すれば、不起訴処分となり、前科を回避できることがあります。
しかし、刑事事件の示談は当事者同士で行うのが難しいことが多いです。被害者の連絡先を知らずに接触できないだけでなく、被害者から示談を拒否されることもあります。
こうした示談交渉についても弁護士に依頼することで、被害者の警戒を解き、心情に配慮しながら粘り強く交渉してもらうことができます。
実際に、当事務所が依頼を受けた同種の前歴がある痴漢事件でも、粘り強い交渉の結果、示談が成立し、不起訴を得た実績があります。
不起訴が得られれば、身柄は釈放され、前科もつかず、生活に戻ることができます。
痴漢行為をやめられる
痴漢行為をする理由は人それぞれですが、支配欲が満たされることでストレスを発散する人もいます。
痴漢行為をやめたいと思っても、自分ではやめられず常習化している場合、性依存と診断されることも少なくありません。
しかし、痴漢を繰り返すことで、いつか発覚し、大切にしてきた家族や社会的地位を失うことになります。
弁護士は、痴漢行為のリスクや社会的影響を詳しく説明し、再犯を防ぐための具体的なアドバイスを提供してくれます。
弁護士を通じてカウンセリングや依存症治療を紹介してもらえることもあります。
早い段階で弁護士に相談し、適切な対策を講じることで、痴漢を繰り返す悪循環から抜け出せるでしょう。
まとめ
痴漢は現行犯逮捕されなかった場合でも、後日逮捕される可能性があります。
公訴時効の期間が長いため、その間は突然逮捕される恐怖に怯えながら生活することは大きな負担となります。痴漢が発覚した後で後悔しても、取り返しがつきません。
もし痴漢行為を行ってしまった場合は、早めに弁護士に相談し、解決方法を探りましょう。
当事務所では、痴漢に関する相談を多数受けており、前歴がある事案でも不起訴を得た実績があります。痴漢をやめるサポートをいたしますので、一人で抱えずにご相談ください。