覚せい剤再犯で逮捕されたら|実刑になるか?刑罰はどうなる?
覚せい剤に関する犯罪は暴力団などが関係していることが多く、覚せい剤の依存性も高いため、再犯防止は重要な課題です。令和3年版犯罪白書によると覚醒剤取締法違反の成人検挙人員中の同一罪名再犯者の割合は近年上昇傾向にあり、令和2年には70.1%になりました。
この記事では覚醒剤取締法違反の再犯(覚せい剤再犯)で逮捕された場合の罰則や量刑などについて解説します。
目次
覚せい剤の再犯率
令和3年版犯罪白書によると令和2年における覚醒剤取締法違反の同一罪名再犯者率は70.1%です。この数字は同一罪名再犯者の中でもずば抜けて高い数字です。一方、覚醒剤取締法違反の同一罪名再犯者数自体は近年減少傾向にあります。
備考 再犯の定義について
刑法第56条に再犯とはどのようなものか規定されています。
刑法第56条 懲役に処せられた者がその執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から5年以内に更に罪を犯した場合において、その者を有期懲役に処するときは、再犯とする。
引用:e-GOV法令検索
これによると、刑法上の再犯の要件は以下3つです。
- 懲役に処せられた者
- 刑の執行を終わった日または刑の執行の免除を得た日から5年以内
- 更に罪を犯した
一方、犯罪白書では、再犯とは、刑法犯により検挙された者のうち、前に道路交通法違反を除く犯罪により検挙されたことがあり、再び検挙された者とされています。
この記事は、前科(罰金を含む)がある人が再び犯行をしてしまった場合、どう対応するのかを伝える目的で執筆されています。そのため、記事内での再犯の定義を「以前罰金を含む何らかの罪で検挙されたことがあり再び検挙された者」とします。
刑法での再犯の定義(懲役に処せられた者が更に罪を犯した場合において、その者を有期懲役に処するとき、再犯とする)とは意味が異なる点をご了承ください。
再犯者に対する刑の加重(刑法第57条)
刑法では再犯者に対しては刑を加重できると規定しています。
刑法第57条 再犯の刑は、その罪について定めた懲役の長期の2倍以下とする。
引用:e-GOV法令検索
再犯加重は、最低限は法定刑のままで、最高限は法定刑の2倍以下とすると規定されています。
覚醒剤取締法は覚醒剤に関するさまざまな行為を禁止しており、それぞれに違反した場合の罰則が定められています。
覚醒剤取締法第41条 覚醒剤を、みだりに、本邦若しくは外国に輸入し、本邦若しくは外国から輸出し、又は製造した者(第41条の5第1項第2号に該当する者を除く。)は、1年以上の有期懲役に処する。
2 営利の目的で前項の罪を犯した者は、無期若しくは3年以上の懲役に処し、又は情状により無期若しくは3年以上の懲役及び1000万円以下の罰金に処する。
同法第41条の2乃至13(省略)
引用:e-GOV法令検索
覚醒剤取締法違反初犯については以下の記事をご参照ください。
覚せい剤再犯の罰則
覚せい剤再犯の罰則は上述のとおり、その行為態様によって異なります。各行為態様のうち、長期の定めがあるものは非営利目的での所持/譲受/譲渡および使用の10年以下であり、再犯の場合には20年以下になります。
覚せい剤再犯の時期による違い
覚せい剤再犯の罰則は、いつ再犯を行ったかにより変わります。以下、解説します。
執行猶予中の覚せい剤再犯
前の罪の執行猶予期間中に更に覚醒剤取締法違反を犯した場合について解説します。
執行猶予期間中の覚せい剤再犯に、再び執行猶予がつくこともありますが、その要件は厳しいです。
具体的には以下3つの要件を満たさなければなりません。
- 言い渡される刑が1年以下の懲役・禁錮であること
- 特に酌量すべき情状があること
- 前科について保護観察がつけられ、その期間中の再犯ではないこと
上記要件を満たさない場合には、執行猶予が付かず、実刑判決が言い渡されます。一般的に、執行猶予中の再犯の場合には厳しい判決が予想されます。執行猶予中に覚せい剤再犯を起こした場合には、1年以下の懲役・禁錮を言い渡される可能性はほぼありません。実刑判決が言い渡されると前の罪の執行猶予が取り消され、前の刑罰と合わせた期間刑務所に収容されます。
執行猶予期間終了から5年以内の再犯
前の罪の執行猶予期間が終了すると、刑務所に入ることなく事件が終了します。前の罪に関しては終了していますが、執行猶予期間終了後すぐの再犯の場合には、正式裁判になる可能性が高くなります。
再犯で実刑判決が言い渡された場合、前の罪の刑罰は終了しているので、再犯で言い渡された期間だけ刑務所に収容されます。覚せい剤再犯の場合には今後も繰り返す可能性が高いと判断され、実刑判決となる可能性が高いですが、行為態様によっては再度の執行猶予が付く可能性もあります。
執行猶予期間終了から数年~10年後の再犯
前の罪の執行猶予期間が終了してから数年以上経過した後の再犯の場合には、前の罪についてあまり考慮されません。場合によっては覚せい剤再犯も不起訴で終了する可能性があります。
実刑判決を受け、その執行を終わった日から5年以内の覚せい剤再犯
前の罪で実刑判決を言い渡された場合、刑の執行の終了とともに前の罪も終了します。再犯で実刑判決を言い渡されると、言い渡された期間だけ再度刑務所に収容されます。覚せい剤再犯の行為態様によっては、執行猶予が付けられる可能性もありますが、より重い刑罰を言い渡される可能性が高いです。
略式命令後5年以内の再犯
略式命令も有罪であるため前科となります。略式命令で科される刑は罰金刑のみです。略式命令は罰金を納めるとその場で終了となります。
覚醒剤取締法違反の場合には略式命令になることは無いため、前科は全く別の罪です。略式命令後の覚せい剤再犯の場合、覚せい剤自体は初犯であり、前の刑終了後の再犯です。覚せい剤再犯の行為態様によっては、執行猶予が付けられる可能性もありますが、実刑判決を言い渡される可能性もあります。
執行猶予については以下の記事をご参照ください。
覚せい剤再犯で在宅事件になる?
ポイント 覚せい剤再犯で逮捕されると身柄拘束される可能性が高いです。 |


身柄拘束の必要性
身柄を拘束するためには身柄拘束の必要性である逃亡のおそれや証拠隠滅のおそれという要件が必要です。
刑事訴訟法第60条第1項 裁判所は、被告人が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある場合で、左の各号の1にあたるときは、これを勾留することができる。
1 被告人が定まった住居を有しないとき。
2 被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
3 被告人が逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
引用:e-GOV法令検索
覚醒剤事件の場合には、他に隠している覚せい剤等の薬物がないか、覚せい剤の密売人に連絡をしないか、密売人等の手引きで逃亡しないかなど、罪証隠滅のおそれや逃亡のおそれが高いため、身柄拘束される可能性が高いです。
捜査機関は覚せい剤の入手経路や暴力団との関係の有無も取り調べます。そのため起訴されるまで、あるいは起訴後も身柄拘束が続く可能性が高いです。
覚せい剤再犯で起訴される?
ポイント 尿検査で陽性反応がでれば、起訴されます。 |


薬物犯罪の中でも覚せい剤に関する犯罪は重大な犯罪です。令和2年版犯罪白書によると令和元年における覚せい剤事件の起訴人員中の有前科者率は75.4%で、前科がある者の起訴率は高いです。覚せい剤再犯で逮捕され尿検査で陽性反応が出ればほぼ確実に起訴されます。
尿検査で陰性だった場合、覚せい剤と無関係であるという事情が判明すれば起訴されません。例えば数年前の使用薬物の残りがそのまま放置されていたが現在は使用していない場合や、同居人が使用していたが自身は何も気が付いていなかった場合などでは不起訴で終わります。
起訴については以下の記事をご参照ください。
覚せい剤再犯で実刑になる?
ポイント 覚せい剤は依存性の強い薬物で、薬物の中でも厳しく規制されているため有罪判決で実刑が言い渡されるケースが多いです。 |


令和2年版犯罪白書によると令和元年の覚醒剤取締法違反による実刑判決率は44.9%でした。再犯の場合の資料はありませんが、再犯の場合にはより重い罪が科される可能性が高く、2回目3回目だと懲役2年前後が多いようです。回を増すごとに6月ずつ刑期が増える傾向にあります。
覚せい剤再犯で執行猶予は得られる?
ポイント 前科の罪の内容によって異なります。覚せい剤の同一罪名再犯の場合には執行猶予が得られる可能性は低いです。 |


令和2年版犯罪白書によると令和元年の覚醒剤取締法違反の全部執行猶予率は37.0%、一部執行猶予率は18.0%でした。
前科が覚醒剤取締法違反であった場合の覚せい剤再犯では、薬物を断てなかった、今後も再犯のおそれがあるとみなされる可能性が高いため執行猶予が得られる可能性は低いです。
前科が覚醒剤取締法違反とは全く無関係な犯罪だった場合には、覚せい剤再犯の行為態様によっては再度の執行猶予の可能性もあります。
執行猶予の条件
執行猶予については刑法第25条乃至第27条に定められています。執行猶予をつけるためには一定の条件が必要です。執行猶予には次の2つの種類があります。
- 最初の執行猶予
- 再度の執行猶予
最初の執行猶予
覚せい剤の再犯で、最初の執行猶予を得るためには、以下の条件が必要です。
- 前に禁錮以上の刑に処せられたことが無い者、あるいは処せられたことがあってもその執行を終わった日またはその免除を得た日から5年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
- 再犯で言い渡される刑が3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金であること
- 情状に酌量すべき点があること
上記3つの条件に当てはまれば執行猶予が付く可能性があります。
再度の執行猶予
判決時に執行猶予中である覚せい剤再犯者が再び判決で執行猶予を得るためには、以下の条件が必要です。
- 再犯で言い渡される刑が1年以下の懲役または禁錮であること
- 前刑の全部の執行猶予を受けたこと
- 情状に「特に」酌量すべき点があること
- 前の罪の執行猶予で保護観察に付されていなかったこと
覚せい剤再犯で再度の執行猶予を得るためには1年以下の懲役または禁錮であることのハードルのクリアが困難なため、再度の執行猶予を得る可能性はほぼありません。
それぞれの条件については別記事で詳しく解説していますので、そちらをご確認ください。
覚せい剤再犯で懲役刑になる?
ポイント 覚醒剤取締法違反の罰則は最低でも1年の懲役刑です。 |


前科が覚醒剤取締法違反で同一罪名再犯の場合には、反省していない、今後も再犯の可能性が高いとみなされ、懲役刑になる可能性が高いです。
前科が覚醒剤取締法違反とは全く無関係な犯罪だった場合でも、1年を超える懲役を言い渡される可能性が高いため、執行猶予が付与される可能性は低いです。
覚せい剤の再犯を防止するには
ポイント 覚せい剤は依存性の強い薬物です。覚せい剤の再犯を防止するためには薬物依存を完全に断ち切る必要があります。 |
ここ数年、覚せい剤事案の検挙者数のうち再犯者率が60%を超えています。これは通常の犯罪の再犯率に比べて高い割合です。覚せい剤の再犯防止は重要課題とされています。
専門のクリニックに通院する
覚せい剤の再犯率が高いのは、覚せい剤に対する精神的な依存の強さが要因の1つです。覚せい剤の薬理作用に強い快感を持つ者や自制力等に乏しい者が再犯に陥りやすい傾向にあります。
これらの傾向にある者は、専門のクリニックに通院して治療しないかぎり薬物に対する依存からの脱却は難しいです。
周囲の人の協力を得る
薬物を使用する者の居住状況は、住所不定者の割合が若干多いため、家族や親族と同居するなどの対応が考えられます。また、家族・親族と同居していても無職の者の再犯状況は安定就労者の約2倍となっているため、安定した就労先の確保も再犯防止対策として重要です。
交友関係を見直す
覚せい剤を使用するに至った端緒として、友人知人などの他人からの誘惑が多いとされます。女性の場合には、交際相手からの誘惑により使用した割合も多いです。これらの交友関係の見直しも再犯防止に役立つ可能性があります。
再犯防止のための取り組みについては以下の記事をご参照ください。
覚せい剤再犯の刑事弁護の方針とサポート内容
ポイント 再犯を防止するためのアドバイス、薬物依存から抜け出す道筋を示すためのサポートをします。 |
覚せい剤再犯の弁護活動は再犯防止対策を立て、刑の軽減を目指します。
再犯防止対策のアドバイスをする
覚せい剤は再犯率が高いため、再犯防止対策を立てることが重要です。被疑者・被告人自身で再犯防止対策を立てることは難しいため、依頼された弁護士は専門の治療機関や自助グループの情報をお伝えします。
薬物依存から抜け出すための治療計画を立てるアドバイスをする
専門の治療機関に通うだけではなく、治療のプログラムやワークへの参加も再犯防止の手助けになります。治療しながら再犯防止プログラムやワークに参加し徐々に薬物依存から抜け出せるような治療計画を立てるようアドバイスをします。
環境整備のアドバイスをする
覚せい剤を友人・知人から入手した場合には、友人・知人関係を見直すこと、今後付き合わないようにすることは、再犯防止のために重要です。
安定した仕事に就いて覚せい剤と関わることが無い生活を送れるようアドバイスをします。
専門の治療機関の受診、自助グループ等のワークや再犯防止プログラムへの参加、環境を整えること等を全て家族の協力を得ながらやることによって薬物依存からの脱却を目指していただきます。
再犯防止については以下の記事をご参照ください。
まとめ
覚せい剤再犯は、今後も再び罪を繰り返す可能性が高く、実刑になる可能性が高い犯罪です。覚せい剤依存から抜け出し、二度と薬物に手を出さないことが重要です。
覚せい剤再犯で逮捕された場合には早期に弁護士に依頼し、今後の再犯防止に向けて取り組むためのアドバイスをもらうことをお勧めします。