当て逃げの罪の重さや違反点数は?気づかなかった場合でも罪になる?
自動車を運転していると、うっかり他の車やガードレールに接触することがあるかもしれません。
交通事故には、人と接触する人身事故と、物に接触する物損事故があります。
どのように軽微な損壊でも、物損事故を起こしてそのまま立ち去ると当て逃げとなります。当て逃げをすると以下のような罪に問われたり、責任を負ったりします。
責任 | 内容 | 罰則 |
刑事責任 | 道交法に違反したことによる刑事罰 | 1年以下の懲役または10万円以下の罰金など |
行政責任 | 交通事故に対する罰・違反点数の加算や免許停止 | 安全運転義務違反:2点
危険防止等措置義務違反:5点 免許停止:合計6点以上 |
民事責任 | 民法上の被害者に対する賠償義務 | 破損した物の賠償金 |
仮に当て逃げに気づかなかった場合でも、車両の損壊や状況によっては当て逃げを認識していたとして罪に問われることがあります。
事故を起こしても、その場で被害者に謝罪し、賠償を行えば、刑事責任を負わずに済むケースもあります。そのため、その場を立ち去らずに適切な対応を取ることが重要です。
この記事では当て逃げの罪について以下の点を解説します。
- 当て逃げの罪の重さ・加算される点数
- 当て逃げに気付かなかった場合はどうなる?
- 当て逃げで警察が行う捜査や発覚する確率
- 当て逃げに気づかなかった人がとるべき対応
目次
当て逃げの罪の重さ
運転者は、事故を起こしてしまった場合に、車を停止させ、危険防止措置、警察への事故の報告義務を負っています(道路交通法第72条)。
物損事故を起こしたにもかかわらず、この義務を怠り、その場から立ち去ると道路交通法違反となり、刑事罰の対象となります。
報告義務違反 | 3か月以下の懲役または5万円以下の罰金 |
危険防止等措置義務違反 | 1年以下の懲役または10万円以下の罰金 |
救護義務違反 | 10年以下の懲役または100万円以下の罰金 |
以下では、当て逃げにより問われる罪を解説します。
報告義務違反|3か月以下の懲役または5万円以下の罰金
道路交通法72条1項には、交通事故を起こした際に警察へ報告する義務が定められています。
物損事故を起こして警察に報告せずその場から立ち去れば、報告義務違反となり、3か月以下の懲役または5万円以下の罰金が科されます。
第百十九条 次の各号のいずれかに該当する者は、三月以下の懲役又は五万円以下の罰金に処する。
十七 第七十二条(交通事故の場合の措置)第一項後段に規定する報告をしなかつた者
被害が軽い場合や軽微な事故であっても、必ず警察に通報してください。
危険防止等措置義務違反|1年以下の懲役または10万円以下の罰金
同様に、物損事故を起こした場合、運転者は車を停止させ、道路の危険を防止する義務があります。
これを怠り、その場から立ち去れば、危険等措置義務違反として、1年以下の懲役または10万円以下の罰金が科される可能性があります。
第百十七条の五 次の各号のいずれかに該当する者は、一年以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。
一 第七十二条(交通事故の場合の措置)第一項前段の規定に違反した者(第百十七条第一項又は第二項に該当する者を除く。)
物損事故を起こした場合は、道路から破損物を片付け、後続車が安全に走行できるよう誘導するなど、安全確保に努める必要があります。
交通違反があった場合、本来は刑事手続きで処分を決定します。
しかし、軽微な違反まで全て処理すると裁判所や行政、運転者の負担が大きいため、比較的軽微な違反は例外的に交通違反通告制度により反則金で処分しています。
ただし、当て逃げは交通違反通告制度が適用されないため、違反した場合は刑事手続きによる処分を受けることになります。
救護義務違反|10年以下の懲役または100万円以下の罰金
物損事故ではなく人身事故を起こして、ケガ人の救護をせずにその場を立ち去ると、ひき逃げとなり、救護義務違反が成立します。
救護義務違反の罰則は10年以下の懲役または100万円以下の罰金です(道交法第117条)。さらに過失運転致死傷罪、報告義務違反も成立し、さらに重い処分が下される可能性があります。
ひき逃げと聞くと、道路で歩行者をはねるようなイメージがあるかもしれません。
しかし、車に追突して物損事故だと思っていても、後日、被害者のケガが発覚すれば、ひき逃げとして捜査されることになります。
当て逃げで問われる責任
当て逃げをすると、刑事責任だけでなく、行政責任や民事責任も問われます。
交通違反としての違反点数が加算され、免許停止や取消処分を受ける可能性があるほか、被害者への損害賠償責任も発生します。
違反点数の加算|行政責任
当て逃げをした場合、刑事処分以外に行政処分として違反点数が加算されます。
- 危険防止等措置義務違反:5点
- 安全運転義務違反:2点
なお、ひき逃げで救護義務違反となった場合は35点が加算されます。
さらに、前歴なしの場合は、累積違反点数が6点以上になると免許停止処分(30日間)が科され、15点以上になると免許取消処分となります。
参考:交通違反の点数一覧表 – 警視庁
行政処分基準点数 – 警視庁
賠償義務を負う|民事責任
故意や過失により相手に損害を与えた場合、民法709条(不法行為による損害賠償)に基づき、損害賠償責任を負うことになります。損害賠償の主な内訳としては、以下のような項目が挙げられます。
- 車両の修理費用
- レッカー代
- 代車費用 など
当て逃げによって被害者に与えた損害を賠償する必要があります。
これがひき逃げや人身事故だと、入通院費用などの治療費や休業補償、精神的苦痛に対する慰謝料などが含まれるため、賠償金が高額になる可能性があります。
当て逃げに気づかなかった場合は罪になる?
当て逃げの罪が成立するには、当て逃げをしたという認識が必要です。車などで物を損壊したという認識がない場合、当て逃げは罪になりません。
ただし、損壊の状態に限らず軽微な損壊であっても、物を壊したかもしれない程度の認識があれば、当て逃げとして刑事処分や行政処分の対象となります。
さらに、実際の事故では、以下の事情を総合的に考慮して、当て逃げの認識があったかどうか判断されます。
- 事故発生時の衝撃や音の有無
- 自動車の損傷の程度
- 事故現場の状況や事故の発生状況、周辺の状況
- 運転者の心身の状態 など
そのため、いくら当て逃げに気づかなかったと主張しても、状況から認識があったと判断されて罪になる可能性もあります。
当て逃げで警察はどこまで調べる?
当て逃げがあった場合、被害者が警察に被害を訴えれば、捜査を行い加害者を特定する可能性はあります。
特に、被害者が通報した場合、現場の証拠や目撃証言をもとに加害者を特定するための調査が進められます。
被害者のドラレコ・防犯カメラの解析
近年では、多くの車にドライブレコーダーが搭載されており、当て逃げの重要な証拠となっています。
他にも、商業施設や住宅街の防犯カメラの映像も活用され、事故の瞬間が記録されていれば、警察はそこから車両のナンバーや特徴を特定します。
目撃証言
目撃者がいた場合は、目撃者から事情聴取を行い、捜査を進めることもあります。
特に、歩行者や近くにいたドライバーからの証言は、車の色や形状、ナンバープレートの一部などを特定する重要な手がかりとなります。
さらに、目撃証言から逃走経路がわかれば、そこから防犯カメラの映像で加害者を特定する可能性もあるでしょう。
当て逃げが見つかる確率は?
前述のとおり、当て逃げは被害者が被害を訴えれば、警察が捜査を行う可能性があります。
実際当て逃げはどの程度の確率で加害者が特定されるのでしょうか。
犯罪の検挙率や処分の傾向を公表している犯罪白書には、当て逃げの検挙率は集計されておらず、実際の認知件数や検挙数はわかりません。
しかし、2023年のひき逃げの検挙率は72.1%と7割は加害者の特定に至っています。これらの数字から、当て逃げが見つかる確率は高いとも考えられます。
被害の程度や警察の捜査次第で逮捕される可能性も
犯罪の疑いがあってもすべての事件で逮捕が行われているわけではありません。
逮捕には要件があり、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由、逃亡や証拠隠滅のおそれがある場合に行われます(刑事訴訟法第199条、刑事訴訟規則143条の3)。
例えば、以下のようなケースが挙げられます。
- 当て逃げだけでなく飲酒や無免許の疑いがある
- 当て逃げの証拠隠滅をする可能性がある(車両の損傷やドラレコの記録など)
- 住所不定・無職・職業不詳などで逃亡の可能性がある など
当て逃げの場合は、事故を起こした段階で現場から逃走しているため、逮捕されることも考えられます。
当て逃げで逮捕された事例
実際に、当て逃げを行い逮捕された事例は多数存在します。2025年1月には、当て逃げ事故を起こした男性が道路交通法の報告義務違反で逮捕されています。
男性は、運転中住宅の堀や外壁に衝突し、警察に連絡せずに立ち去りました。
その後家族に付き添われて出頭した男性は、酔ってないと思い運転したと供述しているため、飲酒状況なども調べる方針だということです。
参考:自称消防職員の20歳男を逮捕 住宅に車を当て逃げ容疑、飲酒の状況も捜査 – 産経新聞
当て逃げの時効は3年
当て逃げの時効は以下のとおりです。
時効の種類 | 内容 | 当て逃げの時効 |
公訴時効 | 刑事事件で検察が事件を刑事裁判で訴えることができる期限(刑事訴訟法第250条) | 当て逃げを起こしてから3年 |
民事の消滅時効 | 民事訴訟で被害者が加害者を訴えられる期限(民法第724条) | 損害及び加害者を知った時から3年 |
加害者がわからない場合は当て逃げから20年 | ||
行政処分の時効 | 行政処分が課されなくなる時効はない |
民法上の時効は、加害者がわからない場合の時効は当て逃げから20年です。さらに、当て逃げ後に被害者がケガを負っていた場合はひき逃げとなり、公訴時効は5~20年になります。
当て逃げは処分なしで終わる?
当て逃げをしても、被害が軽微なら処分なしで終わるのではないかと思っている人もいるかもしれません。
逮捕や警察の捜査を受けた場合、検察が刑事裁判で訴えるべきだと判断すれば起訴されます。一方、さまざまな理由から訴えないと判断した場合は不起訴処分となります。
当て逃げが不起訴処分で終わるケース
刑事事件が不起訴処分で終わるケースにはさまざまなものがあります。
不起訴処分の種類 | 内容 |
起訴猶予 | 犯罪の疑いは十分だが、被疑者の年齢や境遇、罪の重さ、被害者との示談成立などを考慮して起訴しないこと |
嫌疑不十分 | 犯罪の疑いはあるが、犯人だとする証拠が不十分であるために起訴しないこと |
その他 | 被害者の刑事告訴取りやめ、被疑者の心神喪失など |
被害者に謝罪と示談を行えば、当事者間で事件が解決したと判断され、起訴猶予となる可能性があります。
他にも、当て逃げの犯人である証拠が不十分な場合や、当て逃げの被害が非常に軽微な場合などは不起訴処分となることがあります。
なお、当て逃げの不起訴率は公表されていませんが、2023年の道路交通法違反の不起訴率は50.6%、一般的な事件の不起訴率は54.5%でした。
参考:令和6年版 犯罪白書 第4編 各種犯罪の動向と各種犯罪者の処遇 第3節 検察 – 法務省
当て逃げで起訴されるケース
一方で、当て逃げは以下のようなケースで起訴される可能性があります。
- 当て逃げ以外に飲酒や薬物の使用が疑われ悪質だと判断された
- 過去にも交通違反の前科があり、常習性が高い
- 当て逃げ後に被害者のケガが発覚してひき逃げになった
- 被害者と示談をせず反省をしていない など
なお、刑事事件の起訴には2種類あります。
起訴の種類 | 内容 |
正式起訴・通常起訴 | 公開の刑事裁判で審理を行うように訴えること |
略式起訴 | 書面のみの簡易的な審理で罰金刑が決定する起訴の方法 |
前述の統計によると、道路交通法違反で略式起訴された割合は41.3%、正式起訴は3.1%でした。
当て逃げが初犯で比較的軽微な被害などの場合、略式起訴で罰金刑となる可能性があります。
ただし、略式起訴されて罰金刑となっても、有罪であることに変わりがないため、前科がつきます。
さらに、飲酒や薬物の使用、同種の前科がある場合は、正式起訴をされて公開の裁判で裁かれることがあります。
仮に重い処分とならなくても、逮捕されること自体が大きな不利益をもたらします。
逮捕されると、10~20日間の身柄拘束を受けるため、会社や学校に通えず、私生活に大きな影響が出るほか、場合によっては実名報道されることもあります。
当て逃げに気づかなかった人がとるべき対応
運転中に何かにぶつかった感触があったものの、そのまま走行を続けた場合、後になって当て逃げと判断されることがあります。
心当たりがある人や、当て逃げとわかっていたけど怖くて逃げてしまった人は、早急に適切な対応を取ることが重要です。
弁護士に相談する
当て逃げに心当たりがある場合は、弁護士への相談を検討するとよいでしょう。
刑事事件の経験が豊富な弁護士に相談することで、被害の程度や状況から今後の見通しや逮捕の有無、そして今後どのように対処すべきなのか具体的なアドバイスが得られます。
さらに、刑事事件に発展する前に、民事事件として被害者と示談を行ってもらえます。
被害者と示談する
当て逃げをした場合は、被害者に謝罪を申し入れて示談を行うことが重要です。
示談は刑事事件においても、当事者間でのトラブル解決や、被害者が加害者を許したと評価される可能性があります。
示談が成立すれば、刑事事件に発展している場合でも、不起訴処分となることが期待できます。
交通事故だから賠償は保険会社がするのではと考える人もいるでしょう。確かに賠償金の支払い自体は保険会社が行いますが、それだけでは不十分です。
不起訴処分を得るには、被害者が加害者を許した(宥恕)と認めた示談書を検察に提出する必要があります。
被害の弁済に加えて、被害者の許しを得ることが重要です。
しかし、保険会社はそこまでの対応は行っておりません。さらに、当事者間で示談交渉を試みると、被害者と接触ができなかったり、別のトラブルに発展したりするリスクがあります。
示談交渉は弁護士を通じて行うことが望ましいです。
警察に出頭する
逮捕を回避するには、警察への出頭も検討するとよいでしょう。
警察に出頭したらそのまま逮捕されるのではないかと感じるかもしれませんが、逃亡や証拠隠滅のおそれがないと判断されれば、逮捕を回避できる可能性があります。
特に、被害者が当て逃げに気づいておらず警察が被害を把握していない場合は、警察に自首して被害弁済の意思を示すことで、逮捕が避けられることもあります。
被害者が被害に気付かず相談などもなされなければ、事件とならずそのまま終了することもあります。
仮に刑事事件に発展した場合でも、自ら罪を申告して自首することで、法律上の減軽の対象となることがあります(刑法第42条)。
出頭や自首を検討している場合は、弁護士に相談し、対応を進めるのが望ましいでしょう。
当て逃げの罪でよくある質問
当て逃げで加算される点数は何点?
当て逃げをした場合に加算される点数は以下のとおりです。
- 危険防止等措置義務違反:5点
- 安全運転義務違反:2点
すでに違反点数がある場合、累積点数が6点以上となると免許停止処分となります。
当て逃げに気づかなかった人はその後どうなる?
当て逃げに気づかなかった場合でも、その後警察の捜査によって特定され、刑事事件となることがあります。
実際に当て逃げに気づいていたかどうかは、ドラレコの記録や車両の損壊状況などから客観的に判断されることになります。
当て逃げで刑事事件に発展するケースは少ないですが、逮捕される可能性はゼロではありません。不安を感じる場合は、弁護士を通じて被害者に示談を申し入れることが重要です。
当て逃げは器物損壊罪にならない?
他人の物を壊した場合は、器物損壊罪が成立します(刑法第261条)。しかし、当て逃げでは器物損壊罪に問われません。
器物損壊罪は故意犯とされており、わざと物を壊した場合に成立する犯罪だからです。ただし、わざと当て逃げをしたような場合は、器物損壊罪にも問われる可能性があります。
まとめ
当て逃げに気づいていない場合でも、状況によっては当て逃げの認識があったと判断されて罪に問われる可能性があります。
他にも、当て逃げを行うと、以下のようなリスクが生じます。
- 刑事処分・行政処分、被害者への賠償義務などを負う
- 逮捕後の勾留により、10~20日間身柄を拘束され、私生活に不利益が生じる
- 当て逃げからひき逃げに発展すると重い処分を受ける可能性がある
もし当て逃げや飲酒・無免許運転などに心当たりがある場合は、弁護士に今後の対応を相談して早めに対応することが重要です。