刑事裁判の費用は誰が払う?弁護士費用の相場と払えない場合の対処法
刑事裁判になった場合、費用はどのくらいかかり、誰が負担するのでしょうか。
刑事裁判の費用は、有罪になった場合に、被告人の収入などに応じて負担を命じられることになりますが、実務上命じられるケースは少ないです。
また、負担できないような場合は、免除を申請することができます。
この記事では次の点を解説しています。
- 刑事裁判にかかる費用や内訳
- 刑事裁判の費用を負担する人や支払えない場合の対処法
- 国選弁護人と私選弁護人の費用や費用の負担者 など
目次
刑事裁判にかかる費用の内訳
刑事裁判で発生する費用は次のとおりです。
- 証人費用
- 鑑定料・通訳や翻訳料
- 弁護士費用
(訴訟費用の範囲)
第二条 刑事の手続における訴訟費用は、次に掲げるものとする。
一 公判期日若しくは公判準備につき出頭させ、又は公判期日若しくは公判準備において取り調べた証人等に支給すべき旅費、日当及び宿泊料
二 公判期日又は公判準備において鑑定、通訳又は翻訳をさせた鑑定人、通訳人又は翻訳人に支給すべき鑑定料、通訳料又は翻訳料及び支払い、又は償還すべき費用
三 刑事訴訟法(昭和二十三年法律第百三十一号)第三十八条第二項の規定により弁護人に支給すべき旅費、日当、宿泊料及び報酬
引用:刑事訴訟費用等に関する法律 – e-Gov
ここでは、刑事裁判にかかる費用の内訳を紹介します。
証人費用
被告人の刑が少しでも軽くなるように、裁判に出廷して、被告人の人となりや生活状況、今後更生のためにどう監督するのか話すのが証人(情状証人)です。
裁判で証人が出廷した場合は、次の費用が発生することになります。
内訳 | 費用 |
交通費 | 実費(実際にかかった金額) |
宿泊費 | 1泊7,800円以内、大都市圏は1泊8,700円以内 |
日当 | 1日あたり8,100円以内 |
参考:証人等日当及び宿泊(止宿)料 – 裁判所
※2024年4月時点
裁判当日の出廷はもちろん、裁判前に打ち合わせをした場合も含まれます。
上記の金額の範囲内で裁判所が決定します。
鑑定料、通訳料、翻訳料
刑事裁判では次の費用がかかるケースもあります。
かかる費用 | 具体例 |
鑑定 | 精神鑑定、DNA鑑定、法医学、筆跡など |
通訳や翻訳 | 被告人が外国人の場合に必要となる |
例えば、検察側とは反対の精神鑑定を提示するような場合、精神鑑定などを行うケースがあります。
被告人が外国人の場合は、通訳や翻訳が必要となるでしょう。
発生する費用の内訳は次のとおりです。
内訳 | 費用 | |
鑑定や通訳 | 鑑定料 | 鑑定に発生した費用 |
通訳料 | 30分以内:8,380円
延長料金:1,047円/10分ごと 待機時間1,047円(上限4,188円)/20分ごと |
|
鑑定人や翻訳人の宿泊費 | 1泊7,800円以内、大都市圏は1泊8,700円以内 | |
鑑定人や翻訳人の日当 | 7,700円以内 |
※2024年4月時点
弁護士費用
刑事裁判で弁護士がついた場合は、弁護士費用が必要になります。
弁護士費用も私選弁護人なのか、国選弁護人なのかによって異なります。
弁護士 | 費用の内訳 |
私選弁護人 | 相談料
接見費用 着手金 報酬金 実費 日当やタイムチャージ など |
国選弁護人 | 接見費用
釈放 示談の成立 など |
本人やその家族の依頼を受けて活動する弁護士が私選弁護人です。
弁護士に依頼する費用が負担できない場合は、国が選任した国選弁護人がつくことになります。
国選弁護人の費用は、法テラスによって定められており、選任されたタイミングから弁護活動の内容によって左右されます。
刑事裁判の費用は誰が払う?
ここでは、刑事裁判の費用は誰が払うのか、払えない場合について解説します。
有罪なら被告人が訴訟費用を負担する
刑事裁判にかかる費用は、被告人が有罪となった場合に、全部または一部を負担すると、法律で決められています(刑事訴訟法第181条)。
費用は、判決の際に裁判官から訴訟費用は被告人の負担とすると言い渡されます(刑事訴訟法第185条)。
もっとも、証人は、被告人に対して費用を請求する権利を持っていますが、証人が請求を放棄すれば、費用は請求されません。
証人に選ばれるのは、家族や勤務先の上司、友人などで、被告人に費用を請求しないケースがほとんどです。
また、鑑定人や通訳人の旅費、通訳料などに関しても国が立て替え、判決の際に裁判官の判断によって負担を命じられることになります。
証人の出廷や、鑑定や通訳などが発生しなければ、必要になるのは国選弁護人の報酬くらいになります。
費用の負担を命じられるケースは、執行猶予がついたケースが多いですが、実刑判決でも支払いが命じられる可能性があります。
訴訟費用を払えない場合は免除申請ができる
有罪で費用の支払いを命じられても払えない場合は、免除を申請することができます。
第百八十一条 刑の言渡をしたときは、被告人に訴訟費用の全部又は一部を負担させなければならない。但し、被告人が貧困のため訴訟費用を納付することのできないことが明らかであるときは、この限りでない。
引用:刑事訴訟法第181条 – e-Gov
免除申請は、判決確定後の20日以内に、判決を言い渡した裁判所に申請します。
免除の手続きには、費用を負担できない理由や、それを証明できる給与明細や源泉徴収票、預貯金の通帳の写しなど、財産の状況がわかる資料が必要です。
もっとも、被告人に財産がなくとも、同居家族にある程度の収入や財産があるような場合は、費用の負担を求める判決が下されることがあり、免除申請が認められないことも考えられます。
国選弁護人に依頼する場合
ここでは、国選弁護人に依頼する場合の条件や費用について解説します。
国選弁護人制度を利用できる条件
国選弁護人制度には、起訴前(刑事裁判前)の被疑者(容疑者)の段階と、起訴後の被告人の段階で二種類あり、それによって選任される条件が異なります。
内容 | 条件 |
被疑者国選弁護制度 | 被疑者が勾留されている場合
貧困などにより私選弁護人を選任する費用がない場合 当番弁護士に依頼を断られたなど他に弁護士がついていない場合 |
被告人国選弁護制度 | 起訴されて被告となった場合
貧困などにより私選弁護人を選任する費用がない場合 必要的弁護事件の場合 |
被疑者国選も被告人国選も、法律上は、財産状況(資力要件)が50万円未満の場合、選任してもらうことができます(刑事訴訟法第37条の2、第36条)。
被告人国選弁護制度の場合は、仮に財産が50万円あっても、次のような必要的弁護事件に該当すると、裁判所が国選弁護人を選任することになります。
- 法定刑に死刑や無期懲役、長期3年を超える懲役もしくは禁固がある事件
- 公判前整理手続や期日間整理手続きを行う場合
- 即決裁判にかかる公判期日を開く場合 など
上記のような事件は、弁護士がいなければ裁判が行えないため、財産や本人の希望にかかわらず、裁判所の職権で国選弁護人が選任されます(刑事訴訟法第36条)。
また、身柄拘束が行われていない在宅事件の場合は、起訴(刑事裁判になること)されるまで国選弁護人を選任してもらうことはできません。
国選弁護人の費用は原則国が負担する
先述したとおり、刑事裁判の費用は、裁判所の判断により、有罪となった被告人に対して、費用の全部または一部の負担が命じられることになります。
しかし、国選弁護人の費用は原則国が負担するケースがほとんどです。
やや古いデータになりますが、産経新聞によると、2010~2014年で費用の支払いを求められた件数は約3万1,600件でした。
法務省の犯罪白書によると、2022年に刑事裁判で起訴された人員は6万9,066名でしたので、支払いが命じられるケースは極めて少ないことがわかります。
参考:刑事裁判の訴訟費用〝踏み倒し〟過去5年で5億円超 納付義務被告の6人に1人 – 産経新聞
国選弁護人の費用相場は十数万程度
国選弁護人の費用は、弁護活動によって異なります。
被疑者から起訴後に被告人国選弁護まで担当した場合の報酬はおおよそ20万円前後です。
内訳 | 費用 |
基本報酬 | 簡易裁判所の管轄の事件:6万6,000円~7万円
地方裁判所の事件:7万7,000~10万円 ※公判整理前手続きの有無、審理する事件の数によって左右される |
接見 | 2万円/1回あたり
+6,400円
例)接見5回の場合は、10万6,400円 |
釈放 | 5万円 |
示談成立 | 3万円/被害者1名あたり |
保釈 | 1万円 |
遠方出張 | 4,000~8,000円/1回 |
このほかにも、審理の時間などによっても加算されますが、これらの費用は基本国が負担することになります。
産経新聞によると、2010~2014年で被告人に支払いが命じられた金額の平均は約11万円程度とのことでした。
参考:刑事裁判の訴訟費用〝踏み倒し〟過去5年で5億円超 納付義務被告の6人に1人 – 産経新聞
私選弁護人に依頼する場合
ここでは、私選弁護人に依頼するメリットや、費用の相場について解説します。
私選弁護人のメリット
私選弁護人は、国選弁護人と違い、本人やその家族が依頼できる弁護士です。
費用はかかりますが、次のメリットがあります。
- 刑事事件に豊富な実績のある弁護士を選べる
- 勾留前に依頼することができ、早期の身柄解放が期待できる
- 家族に事件の進捗など細かく状況報告をしてくれる
- 釈放後も重い処分が下されないようにサポートしてくれる
特に、逮捕から勾留が決まる72時間は、家族でも接見できず状況が確認できません。
また、勾留が決まってしまうと、最長10~20日間も身柄が拘束され、日常生活への影響が避けられないものとなってしまいます。
国選弁護人が選任される勾留前に、一刻も早く身柄を解放してもらいたいという人には、私選弁護人がおすすめです。
私選弁護人の費用は原則自己負担
私選弁護人は、本人や家族が依頼できるため、費用も原則自己負担です。
そのため、被告人が有罪であろうと無罪であろうと、費用を負担することになります。
私選弁護人の費用相場は60万円~
私選弁護人の費用の相場はおおよそ60~100万円程度と言われています。
内訳 | 費用 |
相談料 | 0~5,000円/30分 |
着手金 | 約20~50万円 |
報酬金 | 約20~50万円 |
接見費用 | 2~5万円/1回 |
実費 | 交通費や鑑定料など |
日当 | 1~3万円/日 |
また、被疑者が容疑を否認している否認事件や、裁判員裁判など難しい事件となると、費用も高額になる傾向があります。
刑事裁判は「弁護士なし」でも可能?
刑事事件の弁護士費用が払えないような場合、刑事裁判は「弁護士なし」でも可能なのでしょうか?
「国選弁護人制度を利用できる条件」で解説したように、必要的弁護事件に当たる場合は、被告人の財産や希望の有無に関わらず、裁判所の職権で国選弁護人が選任されることになるため、弁護士なしで裁判を行うことはできません。
ただし、必要的弁護事件に該当しない事件(任意的弁護事件)の場合は、弁護士なしで裁判を行うことも可能です。
もっとも、本人が弁護士をつけないことを希望しても、裁判所は必要と認める時に、いつでも職権で国選弁護人を選任することができます(刑事訴訟法第37条5号、第36条)。
日本弁護士連合会によると、2022年に国選弁護人が選任された割合は地方裁判所で84.2%、簡易裁判所で90.2%と高い割合で国選弁護人が選任されています。
弁護士なしで裁判を行えば、一層不利な状況となり、重い処分が科される可能性があるため、弁護士に依頼することが大切です。
刑事裁判の私選弁護士費用が払えない場合の対処法
もし刑事裁判で私選弁護人の費用が払えない場合、どうしたらいいのでしょうか?
ここでは、刑事裁判の私選弁護人の費用が払えない場合の対処法を解説します。
分割払いで支払う
もし私選弁護人の弁護士費用が払えない場合は、分割払いに対応している弁護士を選ぶのも1つの方法です。
法律事務所によっては、分割払いに対応している所や、クレジットカードによる決済を受けている所もあります。
近年では無料相談を受けている法律事務所も多いため、無料相談で費用がいくらくらいになるのか、分割払いが可能かどうか確認してみましょう。
親族に負担してもらう
刑事事件の場合は、勾留されてしまうと長期間身柄拘束を受けることになり、生活にも大きな影響が及ぶことになります。
そのためどうしても費用が負担できない場合は、親族に負担してもらうなど、協力を仰ぐことも大切です。
自分の家族が逮捕された事実は、周囲に知られたくない人がほとんどかと思いますが、背に腹は代えられません。
今後は本人と協力して返済していくことも検討しましょう。
国選弁護制度を活用する
私選弁護人の費用が用意できず、親族も頼れないような場合は、国選弁護制度を活用しましょう。
国選弁護人は、被疑者が逮捕から72時間以降、勾留の手続きの際に、裁判所から確認されるため、被疑者が希望すれば、選任してもらえます。
もっとも、国選弁護人には家族に報告する義務はないため、連絡がない限り逮捕された人が国選弁護人を選任したかどうか知ることはできません。
事件の詳細や進捗を知りたい人には、やはり私選弁護人がおすすめです。
また、逮捕や勾留など身柄拘束を受けない在宅事件の場合は、起訴まで国選弁護人が選任されません。
早めに私選弁護人を依頼して、起訴を回避することが重要です。

刑事被疑者弁護援助制度を利用する
国選弁護人を選任してもらえるのは、勾留後になるため、逮捕から勾留が決まる72時間以内は、私選弁護人を選任しない限り、弁護士がつかないことになります。
この段階で弁護士がついていないと、取り調べで不利な供述をするおそれがあります。
逮捕から勾留前に、弁護士費用が負担できない人に向けて、日本弁護士連合会が一時的に費用を立て替えて私選弁護人を選任してくれる制度が、刑事被疑者弁護援助制度です。
これは、逮捕時に被疑者が当番弁護士(逮捕時に一度だけ無料で呼べる弁護士のこと)を呼ぶことで、刑事被疑者弁護援助制度を利用することができます。
刑事被疑者弁護援助制度の費用は、日弁連に立て替えてもらったのち、依頼者が支払うことになりますが、返済できない場合は免除してもらえる可能性があります。
刑事裁判の費用でよくある質問
ここでは、刑事裁判の費用でよくある質問に回答します。
訴訟費用はいつどうやって支払う?
刑事裁判で有罪となり、費用の支払いが命じられた場合は、判決確定後の約1か月後に、検察庁から自宅や刑事施設に届いた納付書にしたがい、指定の銀行口座に支払います。
訴訟費用の回収は裁判所ではなく検察が担当しているため、検察から納付書が届きます。
もし刑務所に収容されているような場合は、家族に支払ってもらうことになります。
国選から私選弁護人への切り替えはできる?
国選弁護人から私選弁護人に切り替えることは可能です。
切り替える際は、私選弁護人を選任することで、私選弁護人から弁護士選任届がされるため、国選弁護人は自動的に解任されることになります(刑事訴訟法第30条)。
弁護士選任届は、私選弁護人が裁判所や検察庁などに提出するため、私選弁護人に伝えましょう。
無罪になったら弁護士費用も免除になる?
私選弁護人を選任している場合は、無罪を勝ち取った結果として、弁護士費用の支払いが必要です。
一方で、国選弁護人を選任してもらった場合は、刑を言い渡される、つまり有罪とならない限り、刑事裁判の費用の支払いを命じられることはありません。
また、無罪判決を受けた場合は、国に対して次のような金銭的な補償を請求することができます。
費用補償請求 | 刑事補償請求 | |
内容 | 裁判にかかった弁護士の報酬などを求められる(刑事訴訟法第188条) | 逮捕や勾留などにより、本人が得るはずだった財産上の損失や精神的な苦痛などを求められる(刑事補償法第1条) |
補償範囲 | 弁護士の報酬
※国選弁護人の費用の規程で裁判所が認める範囲 出頭にかかる旅費や日当、宿泊料 |
実際の損失や精神的な苦痛、警察や検察や裁判所の過失の有無などをこうりょして、1日1,000~1万2,500円の範囲で金額が決定される(刑事補償法第4条2項) |
請求期限 | 無罪が確定した日から6か月以内 | 無罪が確定した日から3年以内 |
費用補償で請求した弁護士費用のうち、補償として認められるのは、国選弁護人の報酬が基準となるため、全額補償されるわけではありません。
また、刑事補償請求に関しては、精神的な苦痛を含めて、勾留1日に対して最大で1万2,500円程度しか補償されなため、身柄拘束で受けた影響に見合ってないと言えます。
まとめ
この記事では、刑事裁判にかかる費用や、誰が支払うのかについて解説しました。
もし有罪判決となり、刑事裁判の費用の支払いが命じられてしまっても、免除申請をすることが可能です。
もっとも、刑事裁判で有罪になってしまうと、前科がつき、場合によっては実刑を受けることになり、弁護士費用も負担も大きなものになってしまいます。
有罪にならないためにも、早い段階で弁護士に依頼して、起訴を回避することが重要です。
ネクスパート法律事務所では、不起訴の獲得に豊富な実績があります。費用のご不安も含めて、お気軽にご相談ください。