懲役刑とは|禁固刑との違いや懲役刑が科される犯罪
裁判で有罪となり、懲役または禁錮の実刑判決が確定すると、呼び名が被告人から受刑者に変わります。
受刑者は刑期の長さや犯罪の性質、共犯者の有無などにより、どこの刑務所に収容されるかが決められます。元々生活していた場所から遠く離れた刑務所に収容されることもあります。
この記事では、懲役刑とはどのような刑罰なのか、懲役刑を言い渡された場合の刑務所での生活などを禁錮刑と比較しながら解説します。
目次
懲役刑とは
刑罰には以下の種類があります。
- 死刑
- 懲役
- 禁錮
- 罰金
- 拘留
- 科料
- 没収(付加刑)
懲役、禁錮および拘留は、身体を拘束して自由を奪う自由刑で、受刑者を刑事施設に収容する刑です。
懲役刑の目的や種類等について解説します。
懲役刑の目的
懲役刑は受刑者を刑事施設に収容し、強制的に労働につかせる自由刑です。禁錮刑および拘留は同じ自由刑ですが、強制的な労働はありません。
懲役刑の目的は、主に4つあります。
- 犯罪者を社会から隔離する
- 犯罪の抑止効果を期待
- 犯罪者の矯正
- 犯罪者の職業訓練
それぞれ解説します。
犯罪者を社会から隔離する
犯罪者をそのまま野放しにしておくと、再度犯罪を行う可能性があり、犯罪の被害者が増える可能性が高くなります。
これ以上被害者を増やさないため、犯罪者を社会から隔離して刑事施設に収容することによって、社会の安全を守る目的があります。
犯罪の抑止効果を期待
犯罪を行うと、刑事施設に収容されて数年間身体の自由が奪われる状態が続く可能性があります。長期にわたり身体の自由が奪われるならば、犯罪はやめておこう、と考えるにちがいないという効果を期待して懲役刑が規定されています。
犯罪者の矯正
犯罪を行う人は、生活が乱れている場合も多く、環境が悪い人もいます。刑事施設では毎日規則正しく生活し、1日に必要なカロリーが計算された健康的な食生活を送ります。酒・たばこの嗜好品も許可されません。また、強制的に労働をさせられるため、毎日労働する習慣が身に付きます。
犯罪者の職業訓練
犯罪者の中には、社会に戻っても仕事に就けず、罪を犯して生きていくしかない人もいます。
毎日8時間刑務作業を学び、手に職が付けば社会に出た後も自力で生活出来ます。
懲役刑には罰としての労働という側面に加え、犯罪者が社会に戻ったときに自活できるための職業訓練の側面もあります。
なお、禁錮刑の場合、強制的な労働はありませんが、自ら希望して刑務作業をする者が多いです。
有期懲役と無期懲役がある
懲役刑・禁錮刑ともに、期間の定めのある有期刑と、期間の定めのない無期刑があります。それぞれ解説します。
有期刑とは
有期刑とは、刑の期間が〇年と決まっている刑をいいます。刑の言い渡しのときに、懲役〇年、禁錮〇年と言い渡されるものが有期刑です。有期刑の上限は20年です。
複数の事件が併合されて罪を加重する場合や、死刑又は無期刑の罪を減刑して有期刑にする場合は、刑期を最長30年までにできます。
有期懲役刑の場合、宣告された年数に達するまで刑務所で所定の刑務作業をし続けます。
無期刑とは
無期刑とは、刑期の定めがないということです。期限が決まっていないので、いつ出所できるか不明ですが、最低でも有期懲役刑の上限である20年以上は収監されると考えられます。
20年以上の長期であるため、刑務所の中で残りの一生を過ごすことになる受刑者も居て、終身刑と何ら変わらないという批判もあります。
また、刑期が定められていないため、出所できるかできないかわからないという状態におかれます。受刑者にとっては終身刑を言い渡されるよりも精神的に辛いという批判もあります。
補足|終身刑とは
日本の法律にはありませんが、諸外国には終身刑が存在する国もあります。終身刑とは残り一生を刑事施設で過ごす、死ぬまで刑務所で過ごすという刑です。
終身刑以外にも、犯した罪全ての刑期を合算し、例えば懲役120年という有期刑(実質終身刑と変わらない)を宣告する国もあります。
懲役刑と禁錮刑の違い
懲役刑と禁錮刑の大きな違いは、強制的な労務作業が義務付けられているか否かです。以下、解説します。
刑務作業の有無
懲役刑の場合、刑務作業が義務付けられていますが、禁錮刑には刑務作業が義務付けられていません。
刑法第12条第2項 懲役は、刑事施設に拘置して所定の作業を行わせる。
刑法第12条第2項 禁錮は、刑事施設に拘置する。
引用:e-Gov法令検索
懲役刑と禁錮刑の重さ
刑罰の重さの順は、以下のとおりです。
ただし、無期の禁錮と有期の懲役では、無期の禁錮の方が重いです。どちらも有期の場合に、禁錮の期間が懲役の期間の2倍を超える場合にも、禁錮が重い刑となります。
刑法第9条 死刑、懲役、禁錮、罰金、拘留及び科料を主刑とし、没収を付加刑とする。
刑法第10条 主刑の軽重は、前条に規定する順序による。ただし、無期の禁錮と有期の懲役とでは禁錮を重い刑とし、有期の禁錮の長期が有期の懲役の長期の二倍を超えるときも、禁錮を重い刑とする。
引用:e-Gov法令検索
懲役刑と禁錮刑になる割合
司法統計によると2023年に懲役刑が科された人の割合は93.3%に上り、禁錮刑が科された人の割合はわずか6.7%でした。
なお、禁錮刑が適用されている犯罪は、過失運転致死傷罪などの過失犯、内乱罪などの国家利益に対する罪が多いため、禁錮刑となるケースも限定的だと言えます。
参考:司法統計 第34表 通常第一審事件の有罪(懲役・禁錮)人員―罪名別刑期区分別―全地方裁判所 – 裁判所
懲役刑が科される犯罪
懲役刑が設けられている犯罪はどのようなものか、無期・有期にわけて見ていきます。
無期懲役刑が規定されている犯罪
刑法で無期懲役刑が規定されていて、しかも罰金刑の規定が無い犯罪は、重大で悪質です。具体的には次のようなものがあげられます。
- 現住建造物等放火罪(第108条)
- 強制わいせつ等致傷罪(第181条)
- 殺人罪(第199条)
- 強盗致傷罪(第240条)
- 身代金目的略取等罪(第225条の2) など
有期懲役刑が規定されている犯罪
無期懲役刑の規定は無いけれど、有期懲役刑が規定されていて、罰金刑の規定が無い犯罪も重大な犯罪が多いです。具体的には次のようなものがあげられます。
- 強盗罪(第236条)
- 公務員職権濫用罪(第193条)
- 特別公務員職権濫用罪(第194条)
- 特別公務員暴行陵虐罪(第195条) など
有期懲役刑とともに罰金刑も規定されている犯罪もあります。無期刑が規定されている罪と比較すると重大とは言えない犯罪が多いです。具体的には次のようなものがあげられます。
- 傷害罪(第204条)
- 暴行罪(第208条)
- 名誉棄損罪(第230条)
- 窃盗罪(第235条) など
懲役中の生活
懲役刑を言い渡されると刑務所に収容されます。ここでは、刑務所内での生活はどのようなものか、解説します。
刑務作業
懲役刑を言い渡されると、刑務作業が義務付けられます。刑務作業は、改善更生および円滑な社会復帰を図るための重要な受刑者処遇の一つです。
刑務作業は、木工、印刷、洋裁、金属及び革工などの業種から、各人の適性等に応じて指定され、就業します。
刑務作業は次の4つの種類があります。
- 生産作業
- 社会貢献作業
- 職業訓練
- 自営作業
以下、簡単に解説します。
生産作業とは
物品を制作する作業及び労務を提供する作業です。これは刑務所内で毎日行う作業です。
社会貢献作業とは
労務を提供する作業で、例えば通学路等の除雪作業や公園等の除草作業等を行います。これは、仮釈放や釈放が近い、行動の良い受刑者が刑務所の外で行う作業です。
職業訓練とは
溶接科、建設機械科、フォークリフト運転科、情報処理技術科等現在約50種目が実施されています。手に職を持って社会に復帰することにより、二度と罪を犯さなくても生活できるようにするための訓練です。
自営作業とは
受刑者が矯正施設で生活するにあたり必要な、受刑者全員分の炊事洗濯等の作業をいいます。刑務所内での行動がよいと自営作業に就けます。施設によっては、建物の簡単な修繕や畳の張替え等も行っています。
面会について
懲役中に、受刑者と一定の関係にある人からの申し出があれば、原則として面会が可能ですが、その条件や方法については様々なルールが厳しく定められています。
面会できる一定の関係にある人とは、以下の人です。
- 受刑者の親族
- 受刑者の会社の関係者や弁護士など、重要な仕事や業務に関して面会が必要である人
- 更生保護に関係がある、または改善更生に資すると認められる人
上記に該当しない人は、原則として面会できません。
具体的にどのような事情があれば面会が許可されるかは、各刑務所の個別の判断によります。刑務所に確認し、面会申請をするとよいでしょう。
執行猶予が得られれば、刑務所に入らずに済む
判決で懲役刑を宣告されるときに、同時に「○年間執行を猶予する」と言い渡されることがあります。執行猶予について解説します。
執行猶予とは
執行猶予〇年とは、懲役刑の執行を〇年猶予します、ということです。〇年間、罪を犯ささなければ、実際の刑罰の執行が免除されます。
懲役刑や禁錮刑が言い渡されると、基本的に刑務所に収容されますが、執行猶予がついた場合には、刑務所には行きません。
ある程度軽い罪で、犯行後の情状が比較的よく、現実に刑を執行する必要性がそれ程大きくないと判断されると執行猶予が付きます。
執行猶予の対象となる刑とは、具体的には3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金刑のときのみです。
刑法第25条 次に掲げる者が3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金の言渡しを受けたときは、情状により、裁判が確定した日から1年以上5年以下の期間、その刑の全部の執行を猶予することができる。
引用:e-Gov法令検索
執行猶予になると
執行猶予には、刑の全部の執行猶予と、刑の一部の執行猶予があります。以下、簡単に解説します。
刑の全部執行猶予
全部の執行猶予とは、言い渡された刑の全部の執行を猶予することです。
懲役〇年執行猶予△年と言い渡された場合、△年間何事もなく経過した場合には、懲役〇年全てが無かったことになります。
刑の一部執行猶予
刑の一部の執行猶予とは、言い渡された刑の一部だけ、執行を猶予することです。
懲役〇年、その刑の一部である懲役□月の執行を△年間猶予すると言い渡された場合、まずは執行を猶予されなかった期間(〇年―□月)、刑務所に収容されます。刑の服役期間終了後に猶予された□月の執行猶予期間△年がスタートし、△年何事もなく経過した場合には、懲役□月が無かったことになります。
執行猶予を目指す|懲役刑を執行されないために
懲役刑の実刑判決が下されてしまうと、刑務所に収容され一般社会から隔離されてしまいますが、執行猶予がつくと刑務所に行かなくて済みます。
執行猶予期間中に再度罪を犯さず、執行猶予期間を満了できれば、刑が免除されます。実刑判決が下される可能性が高い場合には、執行猶予の獲得を目指しましょう。
執行猶予に必要な条件
全ての刑で執行猶予になるわけではありません。
3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金の刑罰を判決で言い渡される場合で、以下の条件を満たす場合に執行猶予が認められる可能性があります。
- 前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
- 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から5年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
- 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあってもその執行を猶予された者が1年以下の懲役又は禁錮の言い渡しを受け、情状に特に酌量すべきものがあるときで、前の判決で保護観察が付けられ、その期間内にさらに罪を犯していない者
刑事弁護を依頼
執行猶予を獲得できる条件を満たしている場合には、なるべく早く弁護士に相談しましょう。
執行猶予を獲得できる条件を満たしていれば、必ず執行猶予が付くわけではありません。執行猶予を付けるか否かは裁判官が決めます。
執行猶予を獲得するためには、執行猶予を付ける前提条件を満たしていて、かつ、執行猶予とすべき事情があること、刑務所に行かずに社会生活を送る中で更生できる可能性が高いことを裁判官に対して主張しなければなりません。
裁判官を納得させる判断基準としては、以下のようなものがあります。
- 被害の程度や犯行の態様
- 被害者との示談成立の有無
- 反省の有無
- 更生の余地の有無
- 被告人が社会に戻ったときの環境 など
これらを主張立証するために、弁護士がどのようなことをするかを解説します。
逮捕後すぐ
逮捕後すぐに弁護士に相談できれば、弁護士は逮捕後の流れや取り調べへの対応を教えてくれます。
被害者が居る犯罪の場合には、被害者の情報を捜査機関に確認し、被害者と示談するための活動をします。
被疑者が心から反省し、被害者への謝罪と被害の弁償をすることで示談に応じてもらえれば、勾留請求前に釈放してもらえる可能性も高くなります。
示談が成立すれば、例え起訴されても執行猶予を獲得できる可能性が高くなります。
勾留期間中
逮捕後勾留されてしまった後に弁護士に相談した場合にも、弁護士は示談の成立を目指します。
示談が成立すれば勾留期間中に釈放される可能性も高くなり、その後起訴されてしまっても執行猶予を獲得できる可能性が高くなります。
起訴されたら
起訴されてしまったら、主に以下の内容を裁判官に主張します。
- 計画的な犯行ではなかったこと
- 被害が軽かったこと
- 被告人が反省していること
- 被告人には監督してくれる家族がいること
- 仕事をしていること など
起訴後でも被害者との示談が成立すれば、被害者の処罰感情が無くなったと主張できます。
心から反省し、今後は罪を犯さないで生活していくということを示すことにより、更生の可能性があると判断してもらえる可能性が高くなります。
2025年には懲役刑と禁錮刑が拘禁刑に一本化される
2025年6月1日から、懲役刑と禁錮刑が一本化され、拘禁刑という新たな刑罰に統一されます。
拘禁刑とは、改善更生のために、受刑者に必要な作業や指導を行える刑罰です。
(拘禁刑)
第十二条拘禁刑は、無期及び有期とし、有期拘禁刑は、一月以上二十年以下とする。
2拘禁刑は、刑事施設に拘置する。
3拘禁刑に処せられた者には、改善更生を図るため、必要な作業を行わせ、又は必要な指導を行うことができる
参考:刑法等の一部を改正する法律案 – 法務省
この必要な作業や指導は、具体的に以下のようなものが挙げられます。
- 被害者感情の理解や社会復帰のスキルを身に着けるための一般改善指導
- スムーズな社会復帰のために国語や算数などを教える教科指導
- 性犯罪や薬物犯罪防止のための更正プログラム
- 高齢受刑者向けの運動や認知症予防トレーニング など
従来の懲役刑と比較すると、懲罰から社会復帰や再犯防止を重視する内容に変更されました。背景には以下の問題があるからです。
- 刑務所の高齢者率の増加(2003年4.3%から2022年には14%)
- 体力や認知機能の衰えにより、刑務作業の実地が困難な高齢受刑者の増加
- 受刑者の再入所率の増加により、社会復帰や矯正や課題(2003年48.1%から2022年には56.6%)
- 禁錮刑の8割が刑務作業を希望し禁錮刑の必要性がない
- 懲役刑だと刑務作業が主で、更正プログラムの十分な実施が難しい など
これからは社会復帰や矯正を重視する拘禁刑が施行されるため、再犯防止が期待できます。ニュースなどで耳にする機会も増えるでしょう。
まとめ
懲役刑の実刑判決が言い渡されてしまうと刑務所に収容されます。実刑判決が言い渡されそうな犯罪を行ってしまった場合には、なるべく早く弁護士に相談しましょう。
依頼された弁護士は、執行猶予が付く犯罪の場合には執行猶予を獲得するための弁護活動を、執行猶予が付かない重大事件の場合には、なるべく軽い刑を言い渡してもらえるような弁護活動をします。