背任罪とは|背任行為や成立要件・時効をわかりやすく解説
背任罪とは、他人のためにその事務を処理する者が、自分や第三者の利益を図り、または委託した本人に損害を与える目的で、その任務に背き、任務の委託者に財産上の損害を与えた場合に成立する犯罪です。
背任罪は、会社などで一定の権限を持つ人が組織に損害を与える場合に問われることが多く、ホワイトカラーの犯罪だとされています。
背任行為がいつ発覚するかは予測が難しく、損害の大きさによっては民事訴訟による高額な損害賠償請求に加え、刑事処分を受ける可能性もあります
この記事では、背任罪について以下の点を解説します。
- 背任罪の概要や成立要件
- 背任罪と横領罪・特別背任罪との違い
- 背任罪の事例と発覚した際のリスク
背任罪とは
背任罪とは、会社の従業員などが自分や第三者の利益のために、もしくは会社に損害を与える目的で、任務に背く行為をして、会社などの委託者に損害を与える犯罪です。
背任罪と聞くと難しく感じるかもしれませんが、例えば、家族や友人のために会社の商品を勝手に値引きして売ったような場合も背信行為に該当する可能性があります。
法律には、その法律を定めることで守るべき利益(保護法益)があります。
背任罪の保護法益は、財産だけでなく、委託や信頼関係といった社会的な信用も含まれます。以下では、背任罪の罰則や時効について解説します。
背任罪の罰則
背任罪の罰則は、5年以下の懲役、または50万円以下の罰金です。
(背任)
第二百四十七条 他人のためにその事務を処理する者が、自己若しくは第三者の利益を図り又は本人に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、本人に財産上の損害を加えたときは、五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
背任罪の時効
背任罪の公訴時効は5年です。公訴時効とは、検察が被疑者を刑事裁判で訴えられる(起訴できる)期限を指します。
犯罪の時効は、刑事訴訟法第250条に定められています。人を死亡させた罪で禁錮以上の刑に当たるもの以外で、懲役刑や禁錮刑が長期10年未満の犯罪の時効は5年です。
公訴時効は、犯罪行為が終わった時から起算されます。さらに、犯人が国外にいる間や、共犯者が起訴された場合、公訴時効は一時的に停止します。
背任罪の成立要件
背任罪は、例えば、銀行の融資担当者が、審査を行わず、回収見込みのない相手に融資を行ったり、取引先へ実態のない架空取引を計上して会社に損害を与えるようなケースが考えられます。
こうした背任罪が成立するには、刑法で定められた4つの条件を満たす必要があります。
(背任)
第二百四十七条 他人のためにその事務を処理する者が、自己若しくは第三者の利益を図り又は本人に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、本人に財産上の損害を加えたときは、五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
以下では、銀行の融資担当者が融資をした事例に基づいて、成立する要件を解説します。
他人のために事務を処理する者
背任罪の成立要件の一つは、背任を行った人が他人のために事務を処理する者であることです。
他人のために事務を処理する者とは、委託や信任関係に基づいて、他人の事務をその委託者の利益のために処理する立場の人を指します。
わかりやすい例としては、会社と雇用契約を結んでいる従業員や、業務委託を受けて業務を行っている者などが該当します。
この他人とは、会社などの法人のほかに、地方公共団体なども含まれます。
銀行の融資担当者の例で言えば、融資担当者は銀行から雇用され、融資判断を任されているため、委託を受けて事務を処理している者に該当します。
自己・第三者の利益を図る・損害を与える目的
委託や信任関係により事務を処理している者が、自分や第三者の利益を図る、もしくは委託者に対して損害を与える目的で背任行為をすることも、要件の一つです。
こうした自分や第三者の不正な利益を得る目的や、他者に損害を与える行為を図利加害目的(とりかがいもくてき)と言います。
銀行の融資担当の例で言えば、自分や貸し付け相手の利益を図って融資をした場合や、銀行に損害を与える目的で融資をした場合に該当します。
この背任罪における利益とは、財産的、金銭的な利益に限られず、社会的信用や地位、身分など、その他自己にとって利益となるものが含まれます(大審院判決大正3年10月26日)。
ただし、行為者が会社の利益になると信じて行った結果、損害が発生してしまったような場合には、図利加害目的が認められず、背任罪は成立しません。
行為者が図利加害目的でその行為をしたかどうかは、争いになることがあります。
任務に背く行為
背任罪のもう一つの要件は、「任務に背く行為」があったことです。
背任に背く行為とは、委託者から与えられた任務に反する行為、または信任関係にもとづいて期待される行為をしないことです。
銀行の融資担当者の例でいえば、融資の審査にあたっては、貸付先の返済能力や回収の見込みを慎重に調査し、銀行の利益を守るよう努める必要があります。
そのような職責があるにもかかわらず、審査を行わずに融資を決定した場合は、任務に背く行為、すなわち背信行為にあたると考えられます。
このほかにも、たとえば従業員が取引先からキックバックを受け取る行為や、企業情報を第三者に漏洩させる行為なども、任務に背く行為の一例として挙げられます。
財産上の損害を与える
最後に、前述した行為によって財産上の損害が発生した場合、背任罪が成立します。
ここでいう損害には、実際の財産的損失だけでなく、本来得られるはずだった利益を得られなかった場合も含まれます。
たとえば、銀行の融資担当者が適切な審査を行わず、担保も設定せずに融資を実行し、最終的に貸付金が回収できなかったようなケースでは、銀行に財産上の損害を与えたことになり、背任罪が成立する可能性があります。
なお、財産上の損害が実際に発生していない場合でも、背任未遂罪として処罰の対象になります。
背任罪と横領罪の違い
背任罪とよく混同されるのが横領罪です。ここでは、横領罪との違いを具体的に解説します。
横領罪とは
横領罪とは、自分が占有状態である他人のものを、所有者の承諾なしに勝手に処分した場合に成立する犯罪です。横領罪には以下のようにいくつか種類があります。
単純横領罪 | 個人的に預かり管理を任されている他人の物を、勝手に処分した場合に成立する |
業務上横領罪 | 業務上の信頼にもとづいて、預かっていた物を、自分の物として使用・処分する行為 |
遺失物等横領罪(占有離脱物横領罪) | 落とし物や拾得物を警察などに届け出ず、自分の物にしてしまう行為 |
行為の違い
背任罪と横領罪は、犯罪として成立する行為に違いがあります。
横領罪は、他人から預かった財物や管理を任されている物を、自分の物として使用したり、無断で処分した場合に成立します。
一方、背任罪は、他人から与えられた権限に反して背任行為を行い、財産上の損害を与えた場合に成立します。
背任罪の方が、成立する条件が広く、勝手に処分せずとも、背任行為により損害が生じれば、背任罪に問われる可能性があります。
目的の違い
横領罪は、他人の財物を自分のものにしようと考える不法領得の意思が必要です。一方で、背任罪の目的は、自分や第三者の利益を図ること、あるいは委託者に損害を与えることです。
背任罪の場合は、自己だけでなく、第三者に利益を与える行為でも成立します。
罰則の違い
そして、両者は罰則にも大きな違いがあります。
罪名 | 罰則 |
背任罪 | 5年以下の懲役または50万円以下の罰金 |
単純横領罪(刑法第252条) | 5年以下の懲役 |
業務上横領罪(刑法第253条) | 10年以下の懲役 |
遺失物横領罪(刑法第254条) | 1年以下の懲役または10万円以下の罰金もしくは科料 |
背任罪には罰金刑が定められていますが、単純横領罪や業務上横領罪には、懲役刑しか定められておらず、背任罪よりも重い処分だと考えられます。
背任罪と似た犯罪の違い
背任罪には、他にも似た犯罪があります。以下では、背任罪に似た特別背任罪、詐欺罪、贈収賄罪との違いを解説します。
特別背任罪との違い
特別背任罪とは、取締役などが、自分や第三者の利益を図り、会社に損害を与える目的で、任務に背く行為をし、会社に財産上の損害を与えた場合に成立する犯罪です。
背任罪との違いは、行為者が取締役や発起人に限定されている点です。
罰則も重く、10年以下の懲役または1,000万円以下の罰金、あるいはその両方が科される可能性があります。
(取締役等の特別背任罪)
第九百六十条 次に掲げる者が、自己若しくは第三者の利益を図り又は株式会社に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、当該株式会社に財産上の損害を加えたときは、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
一部引用:会社法第960条 – e-Gov
取締役などは、会社との委任契約に基づき職務を遂行する義務を負っています。
そのため、図利加害目的で任務に背き、会社に損害を与えた場合には、特別背任罪として処罰される可能性があります。
詐欺罪との違い
背任罪は、ある種委託者を騙す行為だといえますが、詐欺罪とは異なります。
詐欺罪は、人を欺いて財物を交付させた場合に成立する犯罪です(刑法第246条)。相手を騙す行為があり、相手が騙され、財産を移転させた場合に成立します。
詐欺罪では、委託や信任関係は成立要件ではありません。背任罪は信頼を裏切って損害を与えるのに対し、詐欺罪は最初から嘘で相手を騙すという点が大きな違いです。
騙された人の意思に基づいて財産の移動が起こるのが詐欺罪の特徴です。詐欺罪の罰則は、10年以下の懲役です。

背任罪の事例
以下では信任罪で起訴や実刑となった事例をいくつか紹介します。
法人契約のクレジットカードで私的決済した事例
大手自動車メーカーの従業員が、法人契約のクレジットカードを私的に使用した行為により、背任罪で起訴されました。
被告人は、配布されたクレジットカードを管理する立場にありました。
自身のクレジットカードが限度額に達すると、部署異動などで返却された他の従業員の法人カードを無断で使用し、2019年から2022年にかけて約3,200回にわたり不正利用。
ライブ配信での投げ銭や旅行費用などに使用し、約4,300万円の損害を会社に与えたとされています。被告人は2023年に懲戒解雇されました。
参考:ホンダ元社員、背任認める 法人契約クレカで私的決済 – 日本経済新聞
医大に損害を与えた元理事長を背任罪で起訴
医大の新校舎や病棟の建設工事において、実際には業務を行っていない建築士にアドバイザー報酬を支払ったとして、元理事が背任罪で起訴されました。
元理事は、業務実態のない建築士に報酬を支払い、大学に約2億8,000万円の損害を与えた疑いが持たれています。
参考:東京女子医大元理事長を背任罪で起訴 東京地検、認否を明らかにせず – 産経新聞
芸能プロダクション会社に損害を与えた元取締役に実刑
シンガーソングライターが代表を務める芸能プロダクションに約1億円の損害を与えたとして、元取締役の男性に懲役3年4か月の実刑判決が言い渡されました。
元取締役は、ツアーグッズの仕入れに際し、知人の会社を介在させて水増し請求を行い、そのうち9割の利益を不正に受け取っていたと認定されました。
このように取締役が会社に損害を与えた場合には、特別背任罪が適用されます。
参考:aikoさん所属芸能プロの元取締役に実刑 – 産経新聞
背任罪が発覚するリスク
会社から民事的責任を追及される
粉飾決算や不正融資、委託を受けた立場で任務に背き、自分や第三者に利益を得させ、会社に損害を与えた場合、いつ何時会社に背任行為が発覚するかわかりません。
業務が適切に遂行されていないと判明すれば、会社は当然不正の事実調査を行い、背任行為を行った従業員に対して、損害賠償請求を行うことが考えられます。
民法上では、他人に与えた損害は賠償する義務が生じるため、刑事事件に関係なく、会社の被害を弁済しなければなりません。
背任行為により与えた損失が大きければ、賠償が困難となるおそれがあります。
逮捕され長期間勾留される
会社が損害賠償請求を行い、被害を回復できない場合は、警察に刑事告訴を行うことが考えられます。
刑事告訴されると警察による捜査が行われ、逮捕に至ることもあります。特に、逃亡や証拠隠滅のおそれがあると判断された場合は、逮捕される可能性が高まります。
背任罪で逮捕された場合、最終的には検察が起訴か不起訴かを判断するため、逮捕から48時間以内に身柄が検察に送致されます。
検察に送致後は、24時間以内に勾留の要否が判断され、逃亡や証拠隠滅のおそれがあると判断された場合は、警察の留置場に身柄が拘束されます。
勾留が決定すると、10〜20日間にわたって身柄拘束が続き、その間は外部との連絡も制限されるため、私生活に大きな支障をきたします。
実名報道される
背任罪で逮捕されると、事件の重大性や社会的関心の高さによっては新聞やテレビ、インターネットで実名が報道されることがあります。
特に会社役員や公的立場のある人物の場合、報道の影響は大きく、家族や職場にも深刻なダメージを与える可能性があります。
報道されるかどうかの基準は、事件の社会的影響の大きさ、被害額の規模、公益性などが考慮されます。
さらに、インターネット上の情報は半永久的に残るため、事件が終結した後も検索結果に名前が表示され続け、将来の転職活動や人間関係、信用回復に長期的な影響を及ぼすおそれもあります。

懲戒解雇される
背任罪が発覚すれば、当然ながら会社から懲戒解雇を受ける可能性があります。懲戒解雇の可否は、以下の要素を総合的に判断して決定されるのが一般的です。
- 背任行為の金額・回数・期間
- 行為の悪質さ
- 被害弁済の有無・反省の程度・これまでの懲戒歴
- 背任行為をした人の地位
- 会社が過去に行った同種事案の処分の傾向
- 業務との関連性 など
背任行為の被害額が少なく刑事罰の対象とならないようなケースでは、解雇が無効となる可能性があります。
一方で、就業規則に懲戒の定めがある場合や、被害額が大きい場合は、懲戒解雇が有効となることが考えられます。
さらに、懲戒解雇となった場合、転職活動の際に離職票や退職証明書から懲戒解雇の事実が知られるリスクもあります。
刑が加重される
背任罪以外にも、脱税や贈収賄などの行為がある場合は、それらについても刑事処分を受けるおそれがあります。
この場合、すべての罪のうちもっとも重い刑罰が適用されて刑事処分が下されることになります。
前科がつく
日本の刑事裁判における有罪率は99%と非常に高いため、背任罪で起訴された場合、有罪判決が下される可能性が極めて高いです。
有罪判決が下された場合は、執行猶予がついても前科がつくことになります。前科がついた場合、海外渡航などは制限を受ける可能性があります。
背任行為に関与した場合にすべきこと
背任行為に関与してしまった場合は、早急に適切な対応を取ることが大切です。
放置してしまうと社会的信用を大きく失う可能性があります。以下では、取るべき具体的な行動について説明します。
弁護士に相談する
背任罪に関与した場合は、早急に弁護士に相談した方がよいでしょう。弁護士に相談することで、今後の見通しや逮捕の可能性、それを踏まえた対策を講じることが可能です。
さらに、刑事告訴前の示談交渉や、逮捕の回避、仮に逮捕された場合であっても、取調べへの助言、早期の身柄釈放や不起訴処分などのサポートが期待できます。
背任罪は、会社への損害が大きい場合や、背任行為が悪質だと判断された場合に実刑となる可能性もあります。
特に起訴された場合、有罪となる確率が高いため、起訴前の段階で弁護士に依頼し、適切な対応を行うことが重要です。
会社と示談を行い被害弁済をする
弁護士に依頼することで、背任行為が会社に発覚する前に、会社と示談交渉を行うことが可能です。
示談が成立すれば、当事者間でトラブルが解決され、被害弁済が行われたと評価されます。
これにより、民事訴訟のリスクを回避できるほか、刑事処分においても逮捕を免れたり、処分が軽くなったりする可能性があります。
特に、会社が刑事告訴を行う前に示談で解決できれば、刑事告訴を行われずに済んだり、取り下げてもらったりすることで、逮捕が回避できることもあります。
多額の損害により一括弁済が困難な場合でも、分割払いを提案することで交渉の余地があります。
たとえば、分割回数を抑えたり、連帯保証人を立てたりすることで、分割払いに応じてもらえるケースもあります。
いずれにせよ、会社との示談交渉は、法的知識を有する弁護士を通じて進めた方が、適切かつ安全に解決できるでしょう。
まとめ
背任行為は、いつ会社に発覚するかわかりません。一度発覚すれば、懲戒処分にとどまらず、高額な損害賠償請求や刑事処分を受けるリスクがあります。
さらに、懲戒解雇や賠償金の支払い、刑事処分といった結果は、今後の人生に大きな影響を及ぼす可能性があります。
しかし、背任行為があった場合でも、会社としては損害の弁済がなされれば、刑事告訴を行わないケースもあります。
そのため、発覚前または発覚直後に速やかに弁護士へ相談し、適切な対応を取ることが重要です。
ネクスパート法律事務所では、背任罪や横領罪を解決した豊富な実績があります。社会的信用を失う前に、迅速かつ的確な対応を行いますので、お気軽にご相談ください。