暴行罪の傾向と、逮捕後の流れや対応を解説

暴行罪は他の罪種と比べて検挙率の高い犯罪です。一方、起訴率は相対的に低く、起訴猶予になりやすい特徴もあります。
この記事では、主に以下の4点について解説します。
- 暴行罪が成立する条件
- 暴行事件の傾向
- 逮捕後の刑事弁護の必要性
- 暴行事件の解決事例
今後の対応にご活用ください。

暴行事件の示談交渉をお考えの方は、無料相談でご条項をお聞かせください。
目次
暴行罪とは
刑法208条は、暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、2年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料に処すると定めています。
人の顔を殴る行為や相手を押し倒す行為などは暴行罪の具体例としてイメージしやすいですが、相手に当たらないように石を投げつけるなど、直接身体に触れない行為でも、暴行罪は成立します。
暴行罪の構成要件
まずは、暴行罪の構成要件を確認します。構成要件とは、犯罪が成立するための条件のことです。
有形力の行使
1つ目は、人の身体に対して不法な有形力が行使されることです。有形力は物理的な力のことです。人を殴ったり押し倒したりするのは、相手の身体に物理的な力を加える行為と評価できます。
有形力は人の身体に向けて行使されていればよく、相手の身体に直接触れなくても成立します。石を投げつける行為や相手に向けてバットを振り回す行為などは有形力の行使に該当します。
近年、社会問題になっているあおり運転についても、暴行罪を適用するケースがあります。事故に至らなくても、危険な接近や幅寄せなどは有形力の行使とみなされます。
結果
暴行罪が適用されるのは、人に不法な有形力を行使し、傷害するに至らなかったときです。したがって、暴行行為により相手がケガをしなくても暴行罪は成立します。相手に暴行を加えてケガを負わせた場合は、刑法204条の傷害罪が適用されます。
故意
暴行罪が成立するのは、故意に不法な有形力を行使した場合です。腕を伸ばし偶然に手が相手の顔にあたった場合などは、故意に行ったとは認められず、暴行罪は成立しません。
暴行罪の罰則
暴行罪の法定刑は2年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料です。拘留は1日以上30日未満、身柄を拘束される刑罰で、科料を命じられると1000円以上1万円未満の範囲でお金を納付しなければなりません。
暴行罪の時効
暴行罪の公訴時効は3年です。暴行を終えてから3年が経過すると、刑事上の責任は消滅します。
暴行事件の傾向
令和2年版犯罪白書の統計を使って、暴行事件の傾向を分析できます。暴行事件は刑法犯の中で検挙されやすい部類ですが、起訴率は比較的低く、起訴猶予になる可能性は相対的に高いです。
高い検挙率(84.4%)
令和2年版犯罪白書によると、令和元年の暴行の認知件数は3万276件でした。検挙件数は2万5556件で、認知件数に占める割合(検挙率)は84.4%でした。
刑法犯全体の検挙率が39.3%だったことを踏まえると、暴行事件の検挙率は高い水準です。
起訴率は29.1%
令和元年の暴行罪の起訴総数は4419人で、不起訴総数は1万758人でした。全体に占める起訴総数の割合(起訴率)は29.1%で、刑法犯の起訴率(38.2%)より低い水準でした。
起訴猶予率は68.3%
検察官は犯罪の証拠がそろわず嫌疑が不十分なときは被疑者を不起訴にしますが、証拠がそろい嫌疑が認められる場合であっても、被疑者を不起訴にすることがあります。後者の不起訴処分を起訴猶予といいます。被疑者の性格や年齢、境遇、犯罪の軽重、犯罪後の情況などを考慮して決定されます。
起訴猶予率は、以下の計算式で求められます。
起訴猶予率= 起訴猶予人員 ÷ (起訴人員 + 起訴猶予人員)× 100 |
令和元年の暴行罪の起訴猶予率は68.3%で、刑法犯全体の51.7%より高い水準でした。
暴行事件で逮捕された後の流れ
暴行事件で逮捕された後は、以下の流れで刑事手続きが進みます。
- 逮捕から48時間以内に検察官に身柄を送致
- 検察官は送致から24時間以内に裁判所に勾留を請求
- 勾留が認められると原則10日間、最長で20日間、身体拘束が続く(勾留請求が却下されれば釈放)
- 起訴または不起訴
- 起訴後勾留が認められると、原則2か月間、身体拘束が続く(以後、1か月ごとに更新可能)
- 刑事裁判
詳細は、以下の記事をご参照ください。
暴行事件逮捕後の刑事弁護の内容
暴行事件で逮捕された場合、弁護士に刑事弁護を依頼することをおすすめします。暴行罪は起訴猶予率の高い犯罪なだけに、刑事弁護によって刑事処分を軽くできる可能性が高まります。
接見・助言
暴行事件で逮捕された被疑者は警察官や検察官から取調べを受けます。取調べで供述した内容は供述調書にまとめられ、被疑者が署名または押印すると後の刑事裁判で証拠として採用されます。
供述調書の内容と刑事裁判での供述が異なる場合、裁判官が前者の信用性が高いと判断すれば、刑事裁判で不利な状況に陥りかねません。取調べで何を供述するかは慎重に考えなければならないのです。一方、逮捕から勾留の可否が決まるまでの72時間は、弁護士以外は原則、被疑者に面会できません。したがって、弁護士と早期に接見し、取調べへの対応方法につき助言を受けましょう。
示談交渉
刑事弁護を依頼された弁護士は、被疑者に代わり被害者と示談交渉できます。
示談を成立させるためには示談金を被害者に支払う必要があり、和解できれば提出した被害届や告訴状を取り下げてもらえる可能性があります。
被害者の処罰感情の程度は、検察官が起訴・不起訴を判断する際や裁判官が判決を言い渡す際に考慮されるため、重要です。
示談が成立していれば、被害者の処罰感情は和らいでいるとみなされ、不起訴になったり執行猶予が付いたりする可能性が上がります。
暴行事件の解決事例
最後に、ネクスパート法律事務所が解決した暴行事件の事例をご紹介します。
電車内で唾を吐きかけて逮捕
事件当時、男子大学生だった被疑者は深夜の帰宅途中、電車内の長椅子の端で座って寝ていた女子高生に唾を吐きかけました。
被害者の女子高生は後日、被害届を提出し、被疑者は警察に呼び出され逮捕されました。
逮捕後、被疑者の両親が当事務所に刑事弁護を依頼し、弁護人は被疑者が大学生で、身体拘束が長引き欠席が続くと留年するおそれがあったことから、速やかに誓約書、身元引受書、準抗告申立書を作成し、裁判所に提出しました。
準抗告は、勾留決定など裁判所の判断に不服があるときに、決定の取り消しなどを求める手続きです。被疑者は勾留に際しての質問で犯行の記憶がないと主張していたため、証拠隠滅の疑いがあるとして勾留が認められていました。
被疑者は被害者の氏名・住所を知らず、誓約書、身元引受書が提出されたことから、準抗告で勾留の必要性はなくなったと判断され、勾留決定の翌日に釈放されました。
クラブで知り合った男性を殴打
被疑者の男性と被害者の男性はクラブで知り合い、一緒にナンパをしていました。ナンパがうまくいかなかったことで2人は口論となり、被害者が被疑者を挑発したこともあって、被疑者は被害者の顔面を3回殴打しました。
後日、2人は同じクラブで鉢合わせ、被害者が110番通報して被疑者は警察署に行きました。被疑者が示談を希望し、当事務所に弁護を依頼しました。
被疑者男性は適切な金額での早期示談を希望しましたが、被害者の被害感情が強く、示談交渉の長期化や高額示談金の提示も想定されました。
被害者の被害感情を和らげるため、弁護人は謝罪文の作成をサポートするなど対応し、依頼日から6日で示談が成立しました。示談が成立したこともあり、被疑者は不起訴になりました。
まとめ
暴行罪は検挙率こそ高いものの、令和元年の起訴率は3割以下で、適切な刑事弁護を行えば不起訴になる可能性があります。暴行事件を起こしてしまった場合は、ネクスパート法律事務所にご相談ください。