不貞裁判の第一審判決に納得がいかない場合、控訴が可能です。
控訴とは、どのような手続きなのでしょう?
この記事では、不貞裁判の控訴に関する基本的な知識(費用・期間・流れなど)を解説しています。
ぜひ参考にしてください。
目次
不貞裁判における控訴とは
控訴とは、第一審裁判所の判決の内容に納得がいかない場合の不服申し立て手続きです。
日本では、三審制が採用されており、第一審の判決に不服がある場合は控訴が、控訴審の判決に不服がある場合は上告ができます。
三審制が採用されている理由は、判断の誤りや手続き違反の可能性がある場合に、裁判の結論に不満をもつ当事者に再審理の機会を与え、別の裁判所が再度審理することで、裁判の適正を図り、裁判を受ける権利を実効的に保障するためです。
三審制により、当事者の救済と裁判の正当性を保障しています。
不貞裁判で第一審判決が控訴審で覆される確率はどのくらい?
裁判所が公表している司法統計年報によると、高等裁判所における控訴審で、第一審判決が取り消される確率は約2割です。これは判決まで行った場合の割合であり、和解や取り下げで終了するケースも含めると、さらに確率は下がります。
第一審判決が控訴審で覆るケースは少なく、控訴審で争うことは簡単ではありません。
不貞裁判で控訴を考えるあなたへ|基本の3ルール
不貞裁判で控訴を考える方が知っておくべき基本の3ルールをご紹介します。
- 控訴の提起期間は判決書等の送達を受けた日から2週間以内
- 控訴状の提出先は第一審裁判所
- 控訴提起後50日以内に控訴理由書の提出が必要
以下、詳しく見ていきましょう。
①控訴の提起期間は判決書の送達を受けた日から2週間以内
控訴の提起期間は、判決書の送達を受けた日から2週間以内です。
判決書の送達を受けた日から2週間を経過すると、控訴はできません。
この2週間は裁判所の裁量で伸長・短縮ができない不変期間であり、1日でも過ぎると控訴ができませんから、期間は必ず確認しましょう。
なお、判決書の送達を受けた日とは、判決が言い渡された日ではなく、判決正本を受け取った日です。
②控訴状の提出先は第一審裁判所
控訴状の提出先は、第一審裁判所です。
第一審裁判所とは、今まで裁判を行っていた裁判所です。
第一審が地方裁判所の場合には地方裁判所に、簡易裁判所の場合には簡易裁判所に提出します。
③控訴提起後50日以内に控訴理由書の提出が必要
控訴状に原判決に対する不服の理由を記載しなかった場合は、控訴提起後50日以内に控訴理由書の提出が必要です。
この50日という期間の定めは訓示規定と解されているため、一日でも過ぎたら即控訴が却下されるわけではありませんが、できる限り期間内に提出するようにしましょう。
控訴理由書とは、第一審判決のどこがどのように間違っているかを端的に記載した書面です。
控訴審は、裁判のやり直しを求める手続きではありますが、一からやり直すのではなく、第一審の続きの立ち位置です。控訴審の裁判官は、第一審の裁判記録を見て、裁判を行います。
したがって、第一審と同じ主張を繰り返すだけでは、裁判の必要性なしと判断される可能性があります。
実際に、控訴審の多くのケースが第一回期日のみで審理終了しています。
したがって、控訴理由書は重要な書面であると共に、ご自身で作成するには難しい部分もあります。
不貞裁判の控訴にかかる費用
不貞裁判の控訴にかかる主な費用は、次の2つです。
- 裁判所に納める手数料
- 弁護士に依頼する場合の費用
裁判所に納める手数料
裁判所に納める手数料は、原則として、第一審の訴え提起手数料の1.5倍です。
一部敗訴の場合は、不服を申し立てる金額が控訴審の訴額となり、手数料はその訴額に対する第一審の額の1.5倍です。手数料は、控訴状とともに収入印紙で納めます。
以下、次の2つのケースにおける手数料を見てみましょう。
【例①:第一審裁判の請求額が300万円で300万円の支払いを命じられた場合】
被告が納める手数料は、3万円です。
訴え手数料のベースとなる額は300万円のため、300万円の訴え手数料の1.5倍である3万円を納める必要があります。
【例②:第一審裁判の請求額が300万円で100万円の支払いを命じられた場合】
▼原告が控訴する場合
訴え手数料のベースとなる額は100万円のため、100万円の訴え手数料の1.5倍である1万5,000円を納める必要があります。
原告が納める手数料は、2万2,500円です。
▼被告が控訴する場合
訴え手数料のベースとなる額は200万円のため、200万円の訴え手数料の1.5倍である2万5,000円を納める必要があります。
被告が納める手数料は、1万5,000円です。
※訴え手数料については、事前に第一審裁判所に問い合わせることをおすすめします。
弁護士に依頼する場合の費用
第一審を依頼した弁護士に、引き続き控訴審も依頼する場合は、追加の着手金がかかることが一般的です。
不貞裁判の第一審判決から控訴審までの流れ
不貞裁判の第一審判決から控訴審までの流れは、おおむね次の下表のとおりです。
不貞裁判の控訴に関するよくあるQ&A4選
不貞裁判の控訴に関するよくある疑問についてお答えします。
和解をしたが納得できない場合は控訴できる?
和解で終了した場合は控訴ができません。
和解には、控訴等の不服申し立ての手続きが認められていません。
和解は、判決とは異なり、当事者双方の合意の下でその内容を決めるからです。
したがって、和解が成立した時点で確定し、控訴はできません。
原告・被告双方が控訴することはある?
原告・被告双方が控訴することはあります。
不貞裁判の判決は、基本的に次の3パターンに分かれます。
- 全部認容判決
- 全部棄却判決
- 一部認容判決
それぞれ、誰が控訴できるかを見ていきましょう。
①全部認容判決
全部認容判決とは、例えば請求額が300万円なのに対し、300万円全額の支払いが命じられた場合です。
全部認容判決では、被告のみ控訴が可能です。
②全部棄却判決
全部棄却判決とは、例えば請求額が300万円なのに対し、支払いが1円も命じられなかった場合です。
全部棄却判決では、原告のみ控訴が可能です。
③一部認容判決
一部認容判決とは、例えば請求額が300万円なのに対し、その一部の150万円の支払いが命じられた場合です。
一部認容判決では、原告・被告双方が控訴可能です。
したがって、一部認容判決の場合には、原告・被告双方が控訴することがあります。
被告が複数の場合1名だけが控訴するのは可能?
被告が複数の場合でも、そのうちの1名だけが控訴できます。
不貞裁判の場合、不貞配偶者と不貞相手の2名が被告となるケースも多いです。
この場合、そのどちらか1名のみが控訴することもあります。
控訴審で当事者尋問・証人尋問が行われることはある?
控訴審で当事者尋問・証人尋問が行われることもあります。
既に第一審の中で当事者尋問・証人尋問を行っている場合でも、裁判所が必要と判断する場合には、控訴審で再度当事者尋問・証人尋問が行われることもあります。
ただし、前掲令和5年司法統計年報によると、控訴審記載事件のうち、実際に当事者尋問・証人尋問が行われた事件は、2%程度です。
したがって、控訴審で当事者尋問・証人尋問が行われる確率は低いでしょう。
不貞裁判の控訴審で判決が覆された裁判例
不貞裁判の控訴審で判決が覆された事例は多くはありませんが、実際に判決が覆された裁判例もあります(東京高裁令和4年7月27日判決)。
本件は、Aと婚姻関係にあったXが、YがAと不貞行為に及んだことにより精神的苦痛を被ったと主張して、Yに対し損害賠償を求めた事案です。第一審裁判所は、Yに対し、220万円の支払いを命じ、この判決を受けたYが控訴しました。
控訴審裁判所は、Yには、本件不貞行為について故意があったとは認められず、過失があったとも認められないとし、第一審判決を取り消し、Xの請求を棄却しました。
まとめ
不貞裁判の控訴について、お分かりいただけたでしょうか。
第一審判決の内容に不服がある場合は、控訴の申立てが可能ですが、第一審判決の内容が覆るケースはあまり多くありません。
控訴をするか否かについては、慎重な判断が必要でしょう。