「不倫相手に慰謝料を請求して後悔した」
そんな声があることが気になり、この記事にたどり着いたのではないでしょうか。
慰謝料請求に限らず、法的な手続きは、心の傷を一瞬で癒す万能薬ではありません。
身体に刺さった刃物を急いで引き抜くと大出血を起こすように、適切なサポートや準備を欠いたまま行動に移すと、思いがけないダメージを負うことがあります。
この記事では、慰謝料請求にまつわる後悔の背景やよくある落とし穴を解説します。
正当な権利の行使を後悔に結び付けないためのヒントも紹介しますので、ぜひ最後までお目通しください。
慰謝料請求を後悔した人たちに共通する意外な落とし穴とは?
不倫相手に慰謝料を請求すれば、気持ちが必ず晴れるとは限りません。
実は、請求の過程で思わぬストレスや葛藤を感じる方もいらっしゃいます。
「こんなはずじゃなかった」と後悔する背景には、事前に知っていれば避けられた落とし穴が潜んでいることが多いです。
この章では、慰謝料請求の過程で後悔を招く意外な落とし穴を紹介します。
不倫相手からの生々しい反論に心がえぐられた
慰謝料請求を受けた不倫相手が、「あなたの配偶者から、『夫婦関係は既に冷めきっている』と聞いていた」と主張することがよくあります。
これは、不倫が始まる前から夫婦関係は壊れていたのだから、夫婦関係が破壊されたことに起因する精神的損害を賠償する義務はないという理屈からくる主張です。
ときに、この主張が感情的な方向に逸れ、「あなたより私の方が愛されていた」「あなたの配偶者の愛情や関心はすべて自分に向いていた」という内容に転じていくこともあります。
そして、自分を優位に見せるために、次のようなやり取りを証拠として提示してくることもあります。
- 配偶者が不倫相手にかけた甘い言葉の数々
- 性的な関係を匂わせる生々しいメッセージ
- あなたに対する否定的な評価や夫婦関係への愚痴
これらは、不倫相手が自分の行動を正当化したい気持ちや、配偶者を独占できない寂しさから生まれる、どこか痛ましい主張ともいえます。
とはいえ、こうした言葉や証拠を突きつけられた側は、単なる理屈として割り切れず、屈辱を感じることも少なくありません。
反省の色もなく余裕を見せる不倫相手の態度に屈辱を感じた
慰謝料を請求しても、不倫相手が悪びれる様子もなく、平然とした態度を取ることがあります。
例えば、既婚者との交際を最初から“未来のないもの”と割り切っている相手の場合、面倒を避けたい思いから、示談に応じて早々に慰謝料を支払う場合があります。一見スムーズな解決に見えるかもしれませんが、そこに謝罪や反省が見られなければ、「ただ踏みにじられた」という虚しさが残るかもしれません。
「悪いのは私だけじゃない、責めるなら自分の配偶者が先でしょう」と、責任を転嫁するタイプもいます。こうした言動は、不倫相手なりの自己防衛かもしれません。
しかし、謝罪や反省を期待していた側には、その態度が無神経に映ることが多いです。
期待していたほどの慰謝料が取れず労力や時間が無駄に感じた
不倫によって深く傷ついた心は、簡単に癒えるものではありません。つらい経験をしたからこそ、できるだけ高い慰謝料を求めたくなるのは、ごく自然な感情です。
しかし、精神的苦痛に見合う慰謝料としてあなたが求める額と、実務上の相場にはギャップがあるかもしれません。
これは、裁判で原告が求める額(請求額)と裁判所が認める額(認容額)でも顕著に表れています。
[不貞行為に関する裁判例の分析-慰謝料算定上の諸問題―](大塚正之著・日本加除出版)によると、2015年10月から2016年9月までの1年間に、東京地方裁判所で慰謝料を認める判決が言い渡された裁判例(95件)のうち、認容額が請求額の半分以下とされた事例は全体の約7割(67件)でした。
請求額としては300万円台が最も多く、次いで500万円台、1,000万円台と続きます。
認容額は150~199万円が最多で、次に100~149万円が多く、300万円以上が認められたケースは全体の1割にも満たないのが現状です。
正確な統計は難しいものの、交渉による場合も、300万円を超える慰謝料を獲得できるケースはそれほど多くありません。
もしあなたが、ご自身の受けた損害に対する慰謝料として1000万円が妥当だと考えている場合、たとえ300万円という比較的高額な慰謝料を得られても、それまでの労力や時間に見合わないと感じるかもしれません。
現実的な金額の目安を知らずにいると、納得のいかない結果に「自分の苦しみが軽んじられた」と感じることがあります。
詳しく知りたい方は、「慰謝料300万円請求されて認められたケースは約6%しかない」もご参照ください。
配偶者に悪者扱いされる理不尽な展開に苦しんだ
不倫相手に慰謝料を請求したことで、夫婦関係がぎくしゃくするケースもあります。
「もう二度としないから、相手に請求するのはやめてほしい」
「慰謝料はすべて自分が払うから、大ごとにはしないで」
一見、反省の表れのようにも聞こえますが、不倫相手をかばっているのではないかと不信感を抱く方もいるでしょう。
自分を本当に愛しているなら許してくれるはずだと、あなたの優しさに甘え、応じなければ「冷たい」「愛がない」と、まるであなたを悪者であるかのように扱うことがあるかもしれません。
そうした態度が続くと、裏切りによって揺らいだ自信や自尊心がさらに傷つき、「不倫されたのは自分にも原因があったのかもしれない」と、自分を責める気持ちが湧いてくることがあります。
「裏切られたのは私なのに、なぜ私が悪者のように扱われるのか」という悔しさが重なると、気持ちの整理がいっそう難しくなる場面もあるでしょう。
なお、慰謝料請求を後悔する背景には、本章で述べた感情面の葛藤以外にも、さまざまな事情があります。
慰謝料請求を慎重に検討すべきケースについては、別記事の「慰謝料を請求しない方がいい?慎重に検討すべきケースを紹介 」をご参照ください。
慰謝料請求で後悔しないために|落とし穴を避ける4つのヒント
慰謝料請求は、不倫相手に対する法的措置であると同時に、あなた自身の感情と向き合い、心の整理を進める機会でもあります。
前章で触れた慰謝料請求に伴う感情の葛藤や心の負担に焦点をあて、心を守りながら慰謝料請求を進めるためのヒントをお伝えします。気持ちの整理や負担を和らげる一助となれば幸いです。
配偶者の甘い言葉は不倫でお決まりのテンプレート
不倫相手からの反論によって、あなたの知らなかった配偶者の一面を見せられても、心を乱す必要はありません。
「本気で愛しているのは君だけ」「夫婦関係は冷めきっている」
こうしたフレーズは、不倫関係でお決まりのテンプレートです。
不倫関係は、基本的に秘密と非現実の上に成り立っています。日常の責任や義務から逃れた場所で交わされる言葉は、現実味がなく、相手の気を引くための演出であることが多いです。
不倫相手と配偶者の間にこのようなやりとりがあっても、それだけで夫婦関係の破綻が認められるわけではありません。婚姻が破綻していたと判断されるには、長期間の別居など夫婦としての実体が失われていたことがわかる客観的事実が必要です。
心をえぐられるような言葉を目にしても、それに振り回される必要はありません。
あなたの価値やこれまで築いてきた夫婦関係の歩みは、そうした一方的な言葉で否定されるものではありません。そのことを、どうか忘れないでください。
不倫相手を頭の中から追放することがあなたの心を解放する
不倫相手が反省の色も見せず、何事もなかったかのように日常を過ごしていると、「どうして自分ばかりが苦しんでいるのか」と、やり場のない怒りがこみ上げてくるかもしれません。
しかし、「不倫をしたことを一生後悔させたい」「自分が苦しんだ分、相手にも同じくらい苦しんでほしい」という願いは、残念ながら法律では叶えられません。
法律にできるのは、不倫という不法行為に対して、慰謝料という形で責任を取らせることです。
この基本を忘れると、あなた自身が感情に振り回され、苦しみを長引かせるおそれがあります。相手が期待したような反応を見せないことに対する苛立ちや悔しさにとらわれている間は、不倫相手があなたの思考の中心に居座り続けるからです。
慰謝料請求は相手を懲らしめるためのものではありません。あなたが前を向き、気持ちに区切りをつけるための手段です。そう捉えることで、結果的にあなたの心を守ることにつながります。
不倫相手への苛立ちや執着に心が渦巻くときは、その頭の中を占領している人物が、本来、あなたが自分の人生から一秒でも早く追い出したいと願っていた相手だったことを思い出してください。
慰謝料はあなたの苦しみを見逃さなかった小さくても確かな証
不倫慰謝料の相場が30〜300万円程度であることは、慰謝料請求を検討している方であれば、すでにご存じかもしれません。
この金額を高いと感じるか、低いと感じるかは人それぞれですが、「思ったより少ない」と感じる方のほうが多いのではないでしょうか。期待していたよりも金額が低く感じられたとき、「相場としては妥当です」と言われても、簡単に気持ちが収らないかもしれません。
とはいえ、あなたが感じた痛みや苦しみは目に見えるものではなく、その度合いを数値で示せないのも事実です。
慰謝料の金額は、最終的には裁判官の自由な裁量によって決められるため、明確な算定式や金額表があるわけではありません。裁判官はその金額の根拠を逐一示す義務も負っていません。
しかし、基準があいまいなままだと、同じようなケースでも慰謝料に差が生じ、被害者間の公平が損なわれます。
そうした不公平を避けるために、実務では、外から確認できる客観的な事情をもとに、慰謝料の額を決定しています。
【慰謝料を算定する要素】 ・婚姻期間の長さ ・不倫の期間や回数 ・不倫によって生じた婚姻共同生活の破綻の程度 ・夫婦間の未成熟子の有無 ・不倫による妊娠・出産の有無 など |
同じ被害が発生したとしても、痛みの感じ方は一人ひとり異なります。
しかし、法律の世界では、こうした客観的な要素をもとに算定した相場を基準とすることで、同種同程度の事案における被害者間の公平を保っています。
そのため、あなたが望む金額と、実際に示される金額に差があったとしても、決してあなたの気持ちを軽視されたわけではないことを覚えておいてください。
慰謝料を獲得できたことは、あなたの苦しみを社会が見過ごさなかったという、小さくても確かな証です。その事実が、少しでもあなたの心の支えになるのであれば、慰謝料請求には十分な意義があるはずです。
あなたの心の傷を癒すのはあなた自身
慰謝料請求は、不倫によって被った精神的損害を回復する手段です。
しかし、修理代をもらっただけで壊れたものが自動的に直るわけではないように、夫婦関係もあなたの心の傷も、慰謝料を受け取るだけで癒えるものではありません。
最終的にあなたの心を癒し、夫婦関係を修復するために前に進む力を与えるのは、他ならぬあなた自身です。
だからこそ、「どうすれば前を向けるのか」を軸に、感情や状況としっかり向き合うことが大切です。
そうすることで、慰謝料請求が自分の人生を立て直すきっかけになっていくはずです。
さいごに|慰謝料請求で後悔したくないあなたへのメッセージ
例えば、あなたが道を歩いているときに、通行人から突然理不尽な言葉をかけられたとします。
そんなとき、そばに誰もいなければ、「怖かった」と伝えられず、「腹が立つ!」と怒りを共有することもできません。
しかし、そばに親しい人がいれば、恐怖や怒りを分かち合え、トラブルが起きてもなんとか対応できるのだろうという安心感が得られるでしょう。
これと同じように、不倫相手との対応をあなた一人で抱え込むのは、相応の負担になります。相手の反論を正面から受け止めなければならず、ときには心ない言葉に深く傷つくこともあるでしょう。
相手の言葉を代わりに受け止めてくれて、あなたの心情に寄り添う言葉をかけてくれる存在がいれば、心理的な負担はずいぶんと軽くなるはずです。
本記事で紹介した後悔につながる落とし穴の多くは、弁護士があなたと伴走することで回避できると考えています。
慰謝料請求に不安を感じる方は、弁護士への依頼を積極的に検討してみてください。