【弁護士解説】独禁法とフランチャイズ契約の関係について

昨今、飲食店をはじめ、コンビニエンスストア・クリーニング店・小売業等多店舗での事業展開を検討している企業において、フランチャイザーとフランチャイジーとの契約からなるフランチャイズ・システムを利用して店舗を運営する形態が増えています。

筆者が以前勤務していた会社でも、直営での店舗運営に加え、フランチャイズ形態での店舗運営を行っており、筆者はそれらの契約書の作成等の業務を行っており、また、フランチャイジーサイドからの契約書レビューも多く経験してきました。
フランチャイズ契約では、後述のとおりの性質を有することから、いわゆる独占禁止法(以下「独禁法」と言います。)に違反しないか、という視点で内容を検討することが不可欠です。

本稿では、筆者の経験を踏まえつつ、独禁法とフランチャイズ契約の関係について概説していきます。

目次

概説

フランチャイズ・システムは、フランチャイザーにとっては、他者の資本や人材を活用して迅速な事業展開が可能となり、また、フランチャイジーにとっては、フランチャイザーが提供するブランドや商標、経営ノウハウ等を活用できるため、安心して独立・開業ができるというメリットがあります。

今後も、様々な分野において、フランチャイズ・システムが活用されていくと思われます。

他方、フランチャイズはフランチャイザーありきで展開されるものであり、その性質上、フランチャイザーに広い裁量があると言えます。そのため、フランチャイズ契約においては、フランチャイザーが有利な内容が定められることもあり、フランチャイザーとフランチャイジーとの間で擦れ違いが生じることも多いです。

一般的にフランチャイザーに有利な内容が定められる傾向にあるため、独禁法との関係が問題になります。

フランチャイズ契約は、上記のようにフランチャイザー・フランチャイジーの両サイドにメリットがあります。

そのようなフランチャイズ契約ですが、いったいどのような契約なのでしょうか?

フランチャイズ契約とは?

一般社団法人日本フランチャイズチェーン協会によれば、フランチャイズは以下のように定義されます。

フランチャイズとは、事業者(「フランチャイザー」と呼ぶ)が他の事業者(「フランチャイジー」と呼ぶ)との間に契約を結び、自己の商標、サービスマーク、トレード・ネームその他の営業の象徴となる標識、および経営のノウハウを用いて、同一のイメージのもとに商品の販売その他の事業を行う権利を与え、一方、フランチャイジーはその見返りとして一定の対価を支払い、事業に必要な資金を投下してフランチャイザーの指導および援助のもとに事業を行う両者の継続的関係をいう。

一般社団法人日本フランチャイズチェーン協会

フランチャイザーは、フランチャイジーに対し、自己の商標等の標識を利用させたり、経営ノウハウを提供したりして事業支援を行います。対して、フランチャイジーはそれらの提供を受ける代わりに、加盟金・ロイヤリティーを支払い、自ら資本を投下して対象の店舗を運営します。また、フランチャイジーは、フランチャイザーの標識等を用いたとしても、あくまでフランチャイザーとは独立の事業者ですから、フランチャイザーとフランチャイジー間の取引関係については独禁法が適用されます。

フランチャイズ契約は、以下のような内容が定められる継続的・複合的な契約です。

  • フランチャイザーがフランチャイジーに対して提供する事業支援の内容(以下「フランチャイズ・パッケージ」と言います。)
  • 加盟金やロイヤリティーの金額
  • 支払条件
  • 契約期間
  • 中途解約
  • 解除事由
  • 期間中及び期間後の競業避止義務
  • 契約上の地位の移転の禁止
  • 仕入先等の取引先の指定
  • 商品、販売方法販売価格等の制限
  • 契約終了後の処理
  • 連帯保証人
  • 契約違反があった際の違約金
  • 商圏の制限

※業種によって契約内容は様々なので、あくまで一般的事項の一部です。

フランチャイズ契約においては、フランチャイジーがフランチャイザーの確立した方針やシステムを利用することができます。そのため、比較的規模が小さいフランチャイジーでも利益を上げやすいと言えるでしょう。

反面、フランチャイジーは、フランチャイザーの包括的なシステムに組み込まれるため、加盟に当たって契約内容の是非の判断が非常に重要になります。独禁法との関係でいえば、フランチャイザーがフランチャイジーを募集に際しては、加盟希望者に対して、十分な情報提供することが望ましく、また、契約内容において、フランチャイジーに一方的に不利益を与えないようにする必要があります。

情報提供や契約内容に関し、独禁法との関係で以下のような留意事項があげられます。もっとも、あくまで一般的な事項であり、個別具体的な判断が必要になります。

フランチャイザーのフランチャイジー募集について

(1) フランチャイザーは、事業拡大のため、フランチャイジーを募る必要がありますが、募集に当たり、加盟希望者の適正な判断に資するため、十分な情報提供が必要です。

 逆に、加盟希望者においても、当該フランチャイズの事業内容について慎重に検討する必要があるでしょう。

(2) 現在、小売商業におけるフランチャイズ・システムについては、中小小売商業振興法により、一定の事項について情報開示・説明義務が課されています。また、独占禁止法違反行為の未然防止の観点からも、加盟希望者の適正な判断に資するよう以下の事項について説明することが望ましいでしょう。

  • 加盟後の商品等の供給条件に関する事項
  • フランチャイジーに対する事業活動上の指導の内容、方法、回数、費用負担に関する事項
  • 加盟に際して徴収する金銭の性質、金額、その返還の有無及び返還の条件
  • 加盟後、フランチャイザーの商標、商号等の使用、経営指導等の対価としてフランチャイジーがフランチャイザーに定期的に支払う金銭(ロイヤリティ)の額、算定方法、徴収の時期、徴収の方法
  • フランチャイザーとフランチャイジーの間の決済方法の仕組み・条件、フランチャイザーによるフランチャイジーへの融資の利率等に関する事項
  • 事業活動上の損失に対する補償の有無及びその内容並びに経営不振となった場合のフランチャイザーによる経営支援の有無及びその内容
  • 契約の期間並びに契約の更新、解除及び中途解約の条件・手続に関する事項
  • 加盟後、フランチャイジーの店舗の周辺の地域に、同一又はそれに類似した業種を営む店舗をフランチャイザーが自ら営業すること又は他のフランチャイジーに営業させること(以下「ドミナント出店」という。)ができるか否かに関する契約上の条項の有無及びその内容並びにこのような営業が実施される計画の有無及びその内容

予想売上等を加盟希望者に示す場合には、既存店舗の実績等、合理的な算定方法等に基づくことが必要で、同時にこれらの根拠となる事実、算定方法等を示す必要があります。フランチャイジーが売上げを向上させることは、フランチャイザーにとっても利益につながるため、売上予測などの重要な情報は、客観的な根拠をもとに適切にフランチャイジーに共有することが双方にとって有利になると言えます。

フランチャイジー募集に際して、その時点で明らかになっている経営に悪影響を与えるネガティブな情報については、加盟希望者に提示することが望ましいでしょう。ネガティブな情報を知りながら隠した場合、独禁法のみならず、民法等他の法律にも抵触する可能性があります。

対して、加盟希望者側においては、フランチャイズ・システムに加盟するには、あくまでフランチャイザーから独立の事業者として店舗の運営を行うのですから、相当額の投資が必要ということは忘れてはいけませんし、フランチャイザーが提示する売上予測等をそのまま鵜呑みにするのではなく、自らシミュレートし、不明点等があれば積極的に情報開示を求める必要があります。それらに加え、以下の事情も踏まえるべきでしょう。

  • 事業を継続して行うことが前提となっていること
  • 加盟後の事業活動は、一般的な経済動向、市場環境等フランチャイジー自らにおいて相当程度考慮しなければならないこと

(3) フランチャイザーが、フランチャイジーの募集に当たり、上記のような重要事項について、十分な開示を行わず、または、虚偽や誇大な事実を開示することによって、実際のフランチャイズ・システムの内容よりも著しく優良又は有利であると誤認させ、競争者の顧客を自己と取引するように不当に誘引する場合には、独禁法2条9項による不公正な取引方法の一般指定の第8項(ぎまん的顧客誘引)に該当する可能性があります。

 一般指定の第8項(ぎまん的顧客誘引)に該当するかどうかは、次のような事項を総合勘案して判断されます。

  • 予想売上げ又は予想収益の額を提示する場合、その額の算定根拠又は算定方法が合理性を欠くものでないか。また、実際には達成できない額又は達成困難である額を予想額として示していないか。
  • ロイヤリティの算定方法に関し、必要な説明を行わないことにより、ロイヤリティが実際よりも低い金額であるかのように開示していないか。
  • 自らのフランチャイズ・システムの内容と他フランチャイザーのシステムの内容を、客観的でない基準により比較することにより、自らのシステムが競争者に比べて優良又は有利であるかのように開示をしていないか。
  • フランチャイズ契約を中途解約する場合、実際には高額な違約金をフランチャイザーに徴収されることについて十分な開示を行っているか、又はそのような違約金は徴収されないかのように開示していないか。

フランチャイズ契約締結後の取引について

フランチャイズ契約においては、フランチャイザーのブランドや経営ノウハウをがフランチャイジーが利用するため、フランチャイザーはブランドに対する信用や経営ノウハウが外部に流出することを防がなければなりません。そこでフランチャイジーに対し、商品、原材料等の注文先や店舗の内外装工事等の依頼先について特定の業者を指定したり、販売方法、営業時間、営業地域、販売価格等に関して制限したりすることが多くあります。

これらの条件は、フランチャイザーがフランチャイジーに対して営業の秘密を守り、また、フランチャイザーのブランド等について統一したイメージを確保する目的であることがほとんどでしょうから、フランチャイズの性質を考慮すると、このような条件が直ちに独占禁止法上問題となるものではありません。

しかしながら、フランチャイズ契約の内容、または、フランチャイザーの行為が、フランチャイズ・システムによる営業を的確に実施する限度を超え、フランチャイジーに対して正常な商慣習に照らして不当に不利益を与える場合には、独占禁止法第2条第9項第5号(優越的地位の濫用)に、また、フランチャイジーを不当に拘束するものである場合には、一般指定の第10項(抱き合わせ販売等)又は第12項(拘束条件付取引)等に該当する可能性があります。

(1) 優越的地位の濫用について

フランチャイジーに対して取引上優越した地位にあるフランチャイザーが、フランチャイジーに対して、フランチャイズ・システムによる営業を的確に実施する限度を超えて、正常な商慣習に照らして不当にフランチャイジーに不利益となるように取引の条件を設定し、若しくは変更し、又は取引を実施する場合には、フランチャイズ契約又はフランチャイザーの行為が独占禁止法第2条第9項第5号(優越的地位の濫用)に該当する可能性があります。

※フランチャイズ・システムにおけるフランチャイザーとフランチャイジーとの取引において、フランチャイザーが取引上優越した地位にあるかどうかは、フランチャイジーのフランチャイザーに対する取引依存度、フランチャイザーの市場における地位、フランチャイジーの取引先の変更可能性、フランチャイザー及びフランチャイジー間の事業規模の格差等を総合的に考慮して判断します。

フランチャイズ契約におけるフランチャイザーとフランチャイジーとの取引において、個別の契約条項やフランチャイザーの行為が、独占禁止法上の優越的地位の濫用に該当するか否かは、個別具体的なフランチャイズ契約ごとに判断されることになります。取引上優越した地位にあるフランチャイザーがフランチャイジーに対して、フランチャイズ・システムによる営業を的確に実施するために必要な限度を超え、正常な商慣習に照らして不当に不利益を与える場合には、フランチャイザーの取引方法が独占禁止法第2条第9項第5号(優越的地位の濫用)に該当します。例えば、以下のような例が挙げられます。

取引先の制限

フランチャイザーがフランチャイジーに対して、商品、原材料等の注文先やフランチャイジーの店舗の清掃、内外装工事等の依頼先について、正当な理由がないのに、フランチャイザー又はフランチャイザーの指定する事業者とのみ取引させることにより、良質廉価で商品又は役務を提供する他の事業者と取引させないようにすること。

仕入数量の強制

フランチャイザーがフランチャイジーに対して、フランチャイジーの販売する商品又は使用する原材料について、返品が認められないにもかかわらず、実際の販売に必要な範囲を超えて、フランチャイザーが仕入数量を指示すること又はフランチャイジーの意思に反してフランチャイジーになり代わってフランチャイジー名で仕入発注することにより、当該数量を仕入れることを余儀なくさせること。

見切り販売の制限

実際に売れた商品のみの仕入原価を売上原価と定義し、売上高から当該売上原価を控除することにより算定したものを売上総利益と定義した上で、当該売上総利益がロリヤルティの算定の基準となる場合において、フランチャイザーがフランチャイジーに対して、正当な理由がないのに、品質が急速に低下する商品等の見切り販売を制限し、売れ残りとして廃棄することを余儀なくさせること

営業時間の短縮に係る協議拒絶

フランチャイザーが、フランチャイジーに対し、契約期間中であっても両者で合意すれば契約時等に定めた営業時間の短縮が認められるとしているにもかかわらず、24時間営業等が損益の悪化を招いていることを理由として営業時間の短縮を希望するフランチャイジーに対し、正当な理由なく協議を一方的に拒絶し、協議しないまま、従前の営業時間を受け入れさせること。

事前の取決めに反するドミナント出店等

ドミナント出店を行わないとの事前の取決めがあるにもかかわらず、ドミナント出店がフランチャイジーの損益の悪化を招く場合において、フランチャイザーが、当該取決めに反してドミナント出店を行うこと。

また、ドミナント出店を行う場合には、フランチャイザーが、損益の悪化を招くときなどにフランチャイジーに支援等を行うとの事前の取決めがあるにもかかわらず、当該取決めに反してフランチャイジーに対し一切の支援等を行わないこと。

フランチャイズ契約締結後の契約内容の変更

当初のフランチャイズ契約に規定されていない新規事業の導入によって、フランチャイジーが得られる利益の範囲を超える費用を負担することとなるにもかかわらず、フランチャイザーが、新規事業を導入しなければ不利益な取扱いをすること等を示唆し、フランチャイジーに対して新規事業の導入を余儀なくさせること。

契約終了後の競業禁止

フランチャイザーがフランチャイジーに対して、特定地域で成立しているフランチャイザーの商権の維持、フランチャイザーがフランチャイジーに対して供与したノウハウの保護等に必要な範囲を超えるような地域、期間又は内容の競業禁止義務を課すこと。

上記のように個別の契約条項やフランチャイザーの行為が独占禁止法第2条第9項第5号(優越的地位の濫用)に該当する場合があるほか、フランチャイズ契約全体としてみてフランチャイザーの取引方法が同項に該当すると認められる場合があります契約全体を踏まえ、個別具体的に判断されます。

(2) 抱き合わせ販売等・拘束条件付取引について

フランチャイズ契約に基づく営業のノウハウの供与に併せて、フランチャイザーが、フランチャイジーに対し、自己や自己の指定する事業者から商品、原材料等の供給を受けさせるようにすることは、一般指定の第10項(抱き合わせ販売等)に該当する場合があります。この該当性の判断は、行為者の地位、行為の範囲、相手方の数・規模、拘束の程度等を総合勘案して判断されます。このほか、かかる取引が一般指定の第12項(拘束条件付取引)に該当するかどうかについては、行為者の地位、拘束の相手方の事業者間の競争に及ぼす効果、指定先の事業者間の競争に及ぼす効果等を総合勘案して判断されます。

(3) 販売価格の制限について

販売価格については、統一的営業・消費者の選択基準の明示の観点から、必要に応じて希望価格の提示は許容されます。しかし、フランチャイジーが地域市場の実情に応じて販売価格を設定しなければならない場合や売れ残り商品等について値下げして販売しなければならない場合などもあることから、フランチャイジーの販売価格(再販売価格)を拘束することは、原則として独占禁止法第2条第9項第4号(再販売価格の拘束)に該当します。また、フランチャイザーがフランチャイジーに商品を直接供給していない場合であっても、フランチャイジーが供給する商品又は役務の価格を不当に拘束する場合は、一般指定の第12項(拘束条件付取引)に該当することとなり、これについては、地域市場の状況、フランチャイザーの販売価格への関与の状況等を総合勘案して判断されます。

終わりに

本稿では、フランチャイズ契約と独禁法の関係について概説しました。ここで記載した内容はあくまで一般論に過ぎず、実際は契約毎に内容が様々です。したがって、契約内容が独禁法に違反しないか、不当に不利な内容となっていないか等は個別具体的な判断が必要になります。
ネクスパート法律事務所では、専門の弁護士が、フランチャイザー・フランチャイジー双方の視点から、フランチャイズ契約の締結をサポートさせていただきます。
フランチャイズ契約の内容の策定や締結に際してお悩みの際には、是非お気軽にご相談ください。

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