飲食店を経営するにあたっては、食中毒などのリスクが伴うため、衛生管理を徹底しなければなりません。それでは、衛生管理に関する法律上の規制はどのようなものがあるのでしょうか。本稿では衛生管理に関する規制について概説していきます。

衛生管理に関する法律
①食品衛生法
人が身体に摂取する食品を取り扱う以上、食中毒等のリスクが常に伴います。そのため、衛生管理を徹底し、安全な食品を提供することは飲食店経営者の義務と言えます。
食品衛生法は、飲食店経営者の衛生管理の基本的な事項を定めています。
飲食店を営業するにあたり、食品衛生法上の都道府県知事の許可が必要です。そして、都道府県は条例で許可基準を定めることとされています(同法54条、55条)。
また、行政指導・行政処分等も食品衛生法で定められています。
②食品安全基本法
食品安全基本法は、飲食店経営者の業務に必要な許可等を定めている法律ではありません。しかし、同法には食品関連事業者の義務(食品の安全性確保のために必要な措置を適切に講ずること、食品等に関する正確かつ適切な情報の提供、国または地方公共団体が実施する食品の安全性確保に関する施策に協力すること)を明確にしており(同法8条)、飲食店経営者もこの義務を負うと言えます。
③食品表示法
食品表示法に基づく食品表示基準については、別の記事で詳細に記載します。

食中毒について
農林水産省によれば、食中毒は「食品に起因する下痢、腹痛、発熱、嘔吐などの症状の総称」と定義しています。
また、厚生労働省は、食中毒病因物質を次の6種類に分類しています。即ち、①細菌、②ウイルス、③動物性自然毒、④植物性自然毒、⑤化学物質、⑥寄生虫、この6種類です。
ここには、異物混入による物理的障害は含まれないことになります。
食中毒の発生状況等については、厚生労働省の統計が参考になります。(厚生労働省:食中毒統計資料)
食中毒が発生した場合の飲食店への影響
食中毒が発生した場合、飲食店にはどのような影響が出るのでしょうか?
営業停止処分
まず、食中毒が生じると、当該飲食店は食品衛生法6条で販売が禁止される食品を販売した等の理由で営業停止処分等の行政処分を受ける可能性があります。
被害者や被害者遺族への損害賠償
次に、食中毒の病因を提供した場合、お客様との関係では債務不履行または不法行為責任を負うことになり、飲食店はお客様に対し損害賠償をしなければなりません。被害者が死亡した場合や重度の障害が残った場合には、損害額が数千万円にも及ぶ可能性があります。
裁判例の一つには、飲食店に責任が認められ、被害者遺族に1億9000万円の支払いが命じられたものもあります(東京地判平成30年3月13日)。
刑事処分・刑法上の業務上過失致死傷罪
更に、飲食店で食中毒が生じた場合、食品衛生法に基づく刑事処分を受ける可能性もあります。また、場合によっては刑法上の業務上過失致死傷罪として処罰されることもあり得るでしょう。
そして、現在社会においては、食中毒を発生させた店として社会から認知され、社会的信用も失う可能性が高いです。
このように、食中毒を生じさせた場合には様々な法律上・事実上のリスクが生じます。
終わりに
本稿では飲食店の衛生管理に関する規制についてまとめました。
衛生管理を怠り、食中毒等を生じさせてしまった場合には、行政法・民法・刑法等種々の法律による制裁が加えられるとともに、社会的信用という飲食店を経営するうえで極めて重要な要素を失いかねません。
お客様に対して安全なものを提供するためにも、各種法規制は確り確認し、履践したいところです。